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諸永の保井  作者: mp
諸永の外
3/8



二月の初めは息が白い。

外に出る度にはあ、はあと息をはくのは子供も大人も変わらないようだ。人間は寒さを実感するために五感を使う。白い息は目で実際に見て気温の低さをはかる視覚。僕も白い息の出るのを今年も確認してから、寒さに耐えかねてマスクをつけなおした。

家の周りには昨日の夜中に降ったという雪がつもっていた。まだふわふわの、誰も手をつけていない雪だった。


「マホ、おはよう」

玄関の前に座り込み雪で遊んでいると、後ろで扉の開く音がした。振り返ると、朝起きた時に隣に寝ていたのと同じ、寝癖だらけの頭をした女の子が立っていた。

「おはよう。パジャマじゃ寒いでしょ、これ着なよ」

僕は立ち上がると、半開きの目をして腕を摩っている彼女に着ていたダウンジャケットを羽織らせた。中にセーターを着ていたのでそこまで寒くない。


「にしてもすごい雪、昨日の夕方はすごく晴れてたのに」

僕から右手側の手袋を受け取ると、彼女も玄関前にしゃがみこんで雪を触った。ふわふわしていてすぐに溶けてしまう。それを見て彼女はキャッキャと楽しんでいた。


「でも雪って楽しいよね、子供の頃はたくさん遊んだな。この歳になると、そんなことしてる暇もなくなっちゃう」

「遊んでるひまに雪かきしないといけないしね」

「うわあやだ。マホが一人でやってよー」


少しの間プチ雪合戦をやったりしてから、寒さに耐えかねて家に戻った。暖房が家全体に回っているのか、外とは比べ物にならないくらい暖かい。しばらく玄関で二人して温まっていた。

リビングに行くと、テーブルの上には既に朝食が並んでいた。僕は彼女からダウンジャケットを受け取るとハンガーにかけて窓の近くに干した。


「あら、ワタルちゃんマホちゃんおはよう」

振り返ってみると、キッチンの向こう側から誰かがひょっこりと顔を出していた。

「ダイスケさんおはようございます」

「おはよう」

僕と彼女は席につくと、そこに朝食を作ってくれた彼が温かい紅茶を運んできてくれた。

「おはようもいわないで外で遊んでたの?」

「ごめんってえ、起きたらマホちゃんいなくって、窓から覗いたら一人で玄関前にいるんだもん」

「いやや、雪降ってて珍しくってさ」

三人が席につくと、皆でそろって『いただきます』と言った。


テレビを付け、いくつかチャンネルを回していると、隣に座っていた彼女がふと「ん!」と何かを思い出したように腕をパタパタさせた。

「忘れてた、今日から新しいCM放送されるんだったよ!」

回した先のチャンネルで、どうやら番組からちょうどコマーシャルに切り替わったと思えば、そこにうつしだされたのは、今まさに隣にいる彼女本人だった。有名ブランドの化粧品のコマーシャルのようだ。

何気なく見ていると、今度は目の前に座る大男がわっと声をあげた。

「これ、新作のシャドウじゃない!ずるいわ、言ってくれたら一つ貰ってきてほしかったのに!」

彼は口にスクランブルエッグを含んだまま、箸を持った手をブンと振る。危ない。

「大丈夫。そういうと思って、ちゃあんとダイちゃんとマホちゃんの分も頂いてきました」

彼女が満面の笑みでブイサインを出すと、彼は目をキラキラと輝かせた。

「もうっ、さすが天下の冴親ワタル様ね!隅に置けないわ」

「いいから、口に食べ物入れながら喋らないでくださいよ」

むう、と頬を膨らませると、彼は口にウィンナーを運んでむしゃむしゃと噛み砕く。

「でもこのシャドウ、ダイちゃんよかマホちゃんの方が似合うと思うよ?色白だからピンクは映えるし」

「私が黒いって言いたいわけえ?」

「そーじゃなくて、ダイちゃんはやっぱり色というよりはラメ系がいいよお!マットなのは違うかなあ」

化粧にあまり興味をもたないので、いつもはワタルの使わなくなったお下がりを使っている。そして仕事が遅い時はそのままワタルに髪からなにまでセットしてもらうのが日常だ。

「貰ってくるの大変だったんだよお。でも、あのダイスケさんの頼みなら仕方ないかなって社長さんが言ってくれてさあ」

「流石顔がきくね」

「ふん、こう見えても業界では有名人なのよ?その位当然でしょうって」

男は得意げに鼻をならす。家事も料理もできて仕事も出来るという高スペックの持ち主なのだから、いい加減誰かもらって欲しいものだ。親の気分になってしまう。


「ねえマホちゃんそう言えばさあ」

朝食をほぼ食べ終えたところで、僕は隣に座るモデル顔(現役モデルだが)の彼女に目を向ける。

「この間、あのメガネ男に私よりマホちゃんの方がかわいいって言われたんしょ?」

むせた。危うく味噌汁が気管に入って肺炎になるところだった。

「え、なんで知って」

「いいなあ、そんなこと言ってもらえるなんて。マホちゃん羨まし」

彼女はふふ〜っとニヤニヤしながらこっちに向かって嫌味ったらしく言ってきた。

というか、僕は誰にもその事を話していない。そのはずなのに、何故知っているのだろうか。

「どっから…どっから漏れて……」

でも大事な部分はもれていないからいいか。と思いながら箸を持ち直す。


大事?別に大事ではないけれど。


「なにマホちゃん、その、メガネ男って」

その話に誰よりも食いついたのは、朝食を食べ終え食器を片付ける途中だったダイスケさんだった。僕は思わず目をそらし、テレビの方に向いた。

「何でもないです、あんま気にしないでください」

「やだあ誰よその男!ちょっと今度紹介しなさいよ!もう!」

そっちか。僕は残りの味噌汁をかきいれ、朝食を食べ終えた。テレビにはまた、隣の寝癖モデルの顔がアップで加工してうつしだされていた。でも本当はそばにいる時の方がかわいく見えてるというのは内緒にしておいてね。





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