EP5 知られざる過去とその恨み
前書き
ついに物語が本格始動します。
鏡弥達と相対する敵とは…。
そこには何もなかった。
ただ、そこに子供達があるだけだった。
「…きょう、や…?」
1人の子供が、問いかける。
中心にいる子供…鏡弥に。
すると鏡弥は振り向き、あたりを再び見渡した。
やはりそこには何もなかった。
すべてが、消えていた。
「あ…あ、あ…うわぁぁぁぁぁぁ!!」
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「……ぐっ、また、夢か」
日が経つにつれ、鮮明になっていく過去。
あの時の、過去。
人とは違うんだと思い知らされた時の。
「もう、あの時とは違うんだ。なのに何故…」
「大変!大変だよ〜!!」
どこからか聞きなれた声がする。
「鏡弥くん!大変!軍の人たちがやられてる…!」
「軍の人たちが!?相手はあの時のドールなのか!?」
軍人がやられるような事態。いったい何が起きているのか、問いかける鏡弥。
その問いに対し、時歌は鏡弥に衝撃の事実を与えた。
「擬似スキルコード…能力は風…。
そう言ってた」
擬似、スキルコードだって…?
聞き覚えのない単語、それに同じ能力という言葉に上手く処理が追いつかない鏡弥。
しかしそれは外を見てすぐに処理されることになった。
「あれは…!」
そう言って鏡弥は制服に着替え、窓から飛び出した。
「鏡弥くん!?待って!」
鏡弥を追うように、時歌もまた飛行で彼を追う。
「瑞樹さん、応答してくれ!」
「鏡弥!?どうしたの?」
「戦況はどうなってる、擬似スキルコードとは何なんだ!?」
矢継ぎ早に質問する鏡弥に対し、瑞樹は一つ一つ丁寧に答えた。
「戦況は最悪よ。星と澪、未来が食い止めてるけど、押されてる」
「あの3人でも…」
「擬似スキルコードは今命名したの。あなたと同じような力を使うものだったから…」
擬似スキルコード…まさか俺たち以外に能力者がいたというのか…?
「とにかく、あの3人でも押されてるんだ、俺も早く向かう」
「ええ、わかったわ」
「時歌!状況は分かった。お前の飛行の力と俺の風の力で最速で辿り着く!」
時歌の飛行の力を風の力と重ね合わせることでスピードをはねあげる技。
緊急時に、と鏡弥は彼女に伝えていた。
「わかった、準備できたら言って!」
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「こいつやべぇ…」
星が辛そうに言う。目の前には仮面を被り、戦闘スーツらしきものに身を包んだ細身の少年が佇んでいる。
「私たちの攻撃が全く効いてないよ…!」
「…来る!」
少年は風の力を放出する。
それを辛うじて避ける未来たち。
その威力は、鏡弥のそれを遥かに超えるものだった。
「…………」
少年は何も言わず、未来の方にめがけて風の力をさらに放出する。
「才架っ!!避けろ!!」
「う、動かな……い」
すでに体が限界を迎えたのか、未来は動けなくなっていた。
同じく神速の力を持つ澪も限界だった。
それは星も同じことだった。
その時。
「お前が疑似スキルコード、風の使い手か!!」
風の力を3回重ね合わせ、威力を増大させた鏡弥の一撃が、少年の攻撃を遮る。
「鏡弥!!」
桐生 鏡弥がやってきた。風のスキルコードの持ち主、2人が出揃った瞬間だった。
「お前、何故こんなことをする!それに何故能力が使えるんだ!すでに能力者は全てここに確保されているはずだ!」
そう、それがこの国が少年の能力を擬似スキルコードと名付けた理由だった。
翠栄国は確認できる限り、全ての能力者を確保していた。
本来であれば、ここ以外の場所から能力者が侵入するということはありえないはずなのだ。
「答える素振りはなしか。ならば容赦はしない!」
チャージを終えた鏡弥は少年めがけて突進する。
「お前を捉えてから聞いてやる!」
風の力を二段階放出、少年に直撃させる。
強烈な一撃に誰もが倒したと思った。
しかし……。
少年は未だ立っていた。
被っていた仮面は壊れ、素顔が露わになった。
「お前は…まさか…!」
鏡弥はその顔を知っていた。そして驚愕のあまり目を見開いた。
「久々だなぁ、鏡弥。元気してたか?」
「小鳥遊…奏夢…!?」
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そこには何もなかった。
自らの持て余した力を暴走させた結果、全てがなくなってしまった。
草木はもちろん、岩や川、自然のあらゆるものがすべて消し飛んでいた。
それは鏡弥の力。風の力。
保護される前に起きた、そんな出来事。
その一部始終を彼の近くで、被害を受けずに見ていた少年、彼はその力に恐怖を覚えた。
そして、鏡弥と彼はそれ以降話すことも顔を合わすこともなく、離れていった。
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「奏夢、なぜお前が能力を…!?」
「さてなぁ、力を求めたんだよ。いい思いをしているお前たちが嫌だったんだ」
そうやって力を込めて言い放つ。
曰く、翠栄国の外では暁月の赤子たちを恨む声もあったという。
特に貧困の子供達は。
奏夢や鏡弥は貧困の家庭に生まれた子供だった。
その後、鏡弥は翠栄国に保護されたものの、奏夢は当時4歳で能力に目覚めず、翠栄国に引き取られることはなかった。
「まぁ言ってもいいのか?俺たち非能力者は夜明けの空に身を明け渡した。
力を欲したんだよ」
「夜明けの空だって!?」
「夜明けの空は力をくれた。こんな風にな」
奏夢はそう言って、風の力を放出する。
鏡弥も反射的に風の力を解放するも、押される。
二段階、三段階と力を重ね、ようやく相殺することに成功する。
「すごいなぁ、暁月の赤子たちをこうも圧倒できるなんてな」
「なんてやつだ…。
奏夢、いったい何が目的だ」
「復讐だ」
「復讐?」
「たった1年2年産まれるのが早かっただけでチヤホヤされる、俺たちは将来的に期待されていない、能力を持つお前たちばかりに意識が行く」
「それは…」
「俺はお前たちが大嫌いだ、復讐してやる、思い上がるな、すべて滅ぼしてやる」
「…ざけ…な」
奏夢の目的を聞く、一言一言聞くたびに、怒りが募る。そしてそれはすぐに爆発する。
「ふざけるなっ!俺たちだって、俺たちだって!
ハァァァァッッ!!」
駆け抜ける、最早語る言葉はなかった。
鏡弥たちは鏡弥たちで、苦労していた。
だからこそ、彼は怒りに感情を任せた。
「それが良い思いしてるってんだよ」
気がついたら鏡弥は倒れていた。
そう、怒りに身を任せたのが間違いだった。
「鏡弥くん!」
時歌は鏡弥の元へと駆けつける。
「鏡弥くん、大丈夫!?」
「逃げ、ろ、時歌…!」
その言葉は届かなかった。遅かったのだ。
「きゃあ!!」
「時歌!!」
「こいつは人質だ、一週間後、この手紙の指定通りに来い。地獄を見せてやる」
そして奏夢は去っていった。
時歌を連れ去って。
「時歌!時歌ぁぁぁぁ!!」
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そして翌日、鏡弥たちは奏夢から渡された手紙を読むために集まった。
「身体は大丈夫なの!?」
瑞樹が慌てた表情でやってくる。
「俺よりも時歌の方が大事だ、あいつの気持ちを考えたら、自分なんてどうでも良いさ」
「私たちも、時歌ちゃんを助けたいよ」
「責任はあるしな、それに仲間だ」
「澪に賛同だ、俺も責任がある」
鏡弥たちは、それぞれ自分の意見を出す。
「危険よ、それでも行くの?」
「もちろんだ。それに、これは俺のせいでもある。責任を取らせてくれ。
時歌は必ず救ってみせる」
強い瞳で、鏡弥は瑞樹を見つめた。
「聞かないのね。いいわ。上には話を通しておく。その代わり、生きて戻ってきなさい」
「もちろんだ、俺たちは生きて次代を継いでいかなくてはならないからな」
そう言って、瑞樹は鏡弥たちのわがままを許した。
「さて、手紙を読んだが、指定先はそんなに遠くはない。日本の東京だ」
「東京…」
この場にいる者たちはすべて日本人。さすがに東京という存在は知っていた。
「東京に、夜明けの空のアジトがあるのかもしれないな」
澪は推測を立てる。
「とにかく、行かないことにはどうしようもない。罠だとしても、必ず時歌を救い出す」
時歌は、俺が必ず守る。
続く
後書き
諸事情により、ストーリー的に区切りの良い、次回のEP6でひとまず完結とさせていただきます。
栄光歌の内容や設定をしっかり確認した上で、いずれ再開しようと思います。