EP1 異変
2040年、地球の近くに「暁月」と名付けられた星が急接近した。
その暁月の破裂による「革命の彗星」により、地球に暁月の欠片が飛び散った。
暁月の欠片は3歳までの子どもの中に入り込み、人間が持つ潜在能力を最大限まで引き出した。
そこで明らかになったのは、人間の潜在能力は誰しもが同じわけではなく、個人差があること。そして超人的な能力を持つことであった。
しかし、まだ謎は多く残されている。
なぜ3歳までの小さな子供達だけに暁月の欠片は入り込んだのか。
なぜ暁月の欠片は人間の潜在能力を引き出したのか。
暁月という存在そのものが謎に包まれているこの世界で、潜在能力が覚醒された子供達…「暁月の赤子」は特別な施設で保護され、育てられた。
13年後…。
暁月の赤子たちが成長し、大きく変わった世界を舞台に物語が幕開ける…。
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2053年、新たに設立された小さな島国「翠栄国-すいえいこく-」では暁月の赤子の保護を行い、それぞれの持つ潜在能力…「スキルコード」の抑制を行っていた。
これは常人と比べて圧倒的な力を持つ暁月の赤子の力の暴走を防ぎ、被害を抑えるためである。
暁月の赤子でもっとも年長者である3歳の子供たちが16歳になる頃までには、ほとんどの子供たちが能力の制御に成功していた。
彼らは日々、訓練を重ね自らの力が周りの人々に迷惑を与えぬよう、そして世界の力になるように努力していた…。
「鏡弥くん!どーして君はいつもそーやって…」
どこかで名前を呼ぶ声がする。
「…お前か。スキルコード『飛行』の『緋星 時歌-ひしょう ときか-』」
「なにその他人みたいな言い方、そんなんだからいつも訓練の時怖がられちゃうんだよ?」
時歌は姉のように『鏡弥』という人物に注意をする。
「…上手い接し方がよくわからないんだよ。
それに、今回のは向こうが全力で戦って欲しいと頼まれたから本気を出したまでだ」
時歌が思った以上に正直に話したことに少し驚く。
「…スキルコード『風』の力を持ち、暁月の赤子たちの中でも高い能力を有する『桐生 鏡弥-きりゅう きょうや-』、しかしコミュニケーション能力に難あり。やや接しにくい点あり」
時歌はそれから鏡弥の特徴についてペラペラと述べ始めた。
「あんまり認めたくはないが、実際その通りだ」
「聞き分けがいいところは評価点、と」
嫌々そうに鏡弥が認めると、時歌は彼の特徴に1つ書き加えてあげた。
「あくまで訓練って能力の制御が目的なんだから本気で戦う!とかそんなこと考えなくていいんだよ?
今回は向こうが頼んだのなら仕方ないけど、気をつけてね」
「…肝に銘じておくさ」
翠栄国の訓練とは、暁月の赤子たちがお互いを切磋琢磨し、能力の成長、および制御を目的としている。
敢えて実戦形式で戦うことで、人を傷つけないように能力を行使できるようにするということだ。
「少なくとも俺は能力を制御しきれている。問題はないさ」
「油断は禁物だよ?」
「それはすでに肝に銘じている。能力の暴走としていい例が近くにいるからな」
鏡弥はいい例と言いながら時歌の方向へ目を向ける。
「うっ、あれはその、私だってまだ11歳だったし…」
時歌は11歳の頃に能力を暴走させてしまったことがある。通常は13歳を過ぎたあたりで能力を大体制御できるようになるから仕方ないこととは言え、その出来事は鏡弥が能力の制御についてより注意深くなることとなった大きな出来事だった。
「それにその時、鏡弥くんはわたしを助けてくれた。
だから私は鏡弥くんに感謝してるんだよ?」
「それは…目の前で暴走してたんだ。周りの被害も考えたら普通、助けるだろう」
時歌の能力が暴走した際、それを止めたのは鏡弥だった。以来時歌は鏡弥のことを慕っている。
「ふふっ、そーやって目を背けながら話すときは大体照れ隠しだよね」
「なっ!違っ、これは…」
その時、警報が鳴り響いた。
これは能力を人命の救出に役立てるための訓練の一環で、いついかなる時でも対応できるように唐突に始めることがある。
「救出訓練です、救出訓練です。暁月の赤子たちは早急にC区画へと向かってください」
機械的な音声が響く。
「この救出訓練ほんとーに心臓に悪いよー!」
時歌は自らのスキルコード…飛行を駆使し鏡弥を連れて目的地へと向かっていった。
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「…ここか」
鏡弥はそう言い、時歌の飛行範囲から離れ落下していった。
「ちょっと!?鏡弥ー!」
少々びっくりしながら声を上げるものの、時歌はあまり心配してない様子で鏡弥を見ていた。
鏡弥はスキルコード…風の力で落下時の衝撃を急激に減らし、着地した。
「本当に鏡弥くんの力は便利だねー、戦闘、救出、護身といろんなことに使えるね」
着地した時歌は感心するように言う。
「とは言えまだまだだ。俺は風の力を駆使できるが、一度に使えるのは3回まで。
3回使ったあとは僅かながらもチャージ時間があるからな」
能力を持つ赤子達は、能力に目覚めてから常に能力の制御を目的として育てられている。
故に能力の発達という面ではまだまだ未発展な点があり、大抵の赤子達は能力に制限が課せられている。
……一部例外もいるが。
「あいつだけは例外だ。強力な能力にその才能、悔しいがどれを取っても俺の上だ」
あいつと言いながら鏡弥は振り向いた。
その目線の先には、ある少女がいた。
「お前ももう来ていたんだな」
「鏡弥?たまたま訓練してた場所が近かったからねー。でも今回の救出訓練は君の方が有利かも」
鏡弥が天才と認めざるを得ない実力を持つ少女…『才架 未来-さいかけ みらい-』は鏡弥の声に気付き、返答する。
「どういうことだ?」
鏡弥は自分の方が有利という理由を未来に問う。
すると未来はあるマンションに指を指す。
「あそこ、火事が起きてるでしょ?そこに人がいるんだって。私の能力じゃあまり役には立たないし、風の力を持つ鏡弥なら出来るんじゃないかな」
「…確かにそうかもしれないな。今回は手柄をもらっておくぞ」
「うん、任せたよ」
あと、と未来は言いかけたが、君ならわかるかもと何も語ることはなかった。
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「大体8階くらいか。威力を調整すれば行けるか…」
鏡弥はマンションの真下から見上げて、火元までどのくらいの距離があるかを確認する。
その後、彼の手から風が吹き、押し上げる。
続き、手の向きを変えて前方に突っ込む形で風を噴出させる。
さらに姿勢を変えてし、マンションの窓を蹴る形で突き破る形で中に入る。
「大丈夫か」
鏡弥は中にいた男に声をかける。
「あ、ああ…助けか…」
少し元気のなさそうな声に疑問を覚えるも、この空間に対する違和感からその疑問は解消される。
「おい、まさかこれは本当の火なのか?」
あまりにも煙が充満しすぎている。
さらに鏡弥が窓を突き破る前まで、ここは密室空間だった。そんな状態でいればまず間違いなく、呼吸が出来なくなり死に至るだろう。
「ああ…その通、りだ…」
男はそのまま倒れこみ、気絶してしまう。
「どうなってるんだ、普段のこの手の訓練なら炎をCGで演出するはずなのになぜ本当の火が…」
頭を巡らせるも、あたりに充満する一酸化炭素が強く、頭が上手く働かない。
「まずはこれを片付けてから、だな」
そう言い、鏡弥は制御できる限り最大の出力で能力を発動し、その強烈な風で火を消し飛ばしてしまう。
「……こんなものでいいか」
訓練が終了しました…という機械的なアナウンスが流れ、今日の訓練が終了した。
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「お疲れ!鏡弥くん!大活躍だったんだね!」
時歌は元気な声で戻ってきた鏡弥を迎える。
「俺自身は問題ない、だが不可解な点がある」
「鏡弥も気付いたんだね」
鏡弥なら気付く…そう見越していた未来は鏡弥に話しかける。
「ああ、あれは本当の炎だった。しかもあの空間に長時間いるのなら間違いなく死に至るレベルだった」
「うん、ちょっと今までの訓練よりおかしいよね。
何かあるんじゃないかなって疑っちゃうよね」
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スキルコードを持つ少年少女たち。
この異変の訓練から、彼らの波乱の日々が始まろうとしていた…。
続く