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アショーカ王の聖妃  作者: 夢見るライオン
第三章 タキシラ 太守就任式典編
76/222

10  部族長会議④

 声の聞こえないミトラに部族長たちのやじが飛ぶ。

 ヴェールを取ろうか。

 思い悩んで手をかけた所で、ヒジムの手が押しとどめた。



 それと同時に背後からスシーマの声が響く。

「そこまでだ。みな、静まれ」


「女性の澄んだ声には、この広間は広すぎるようだ。

 それにヴェールが邪魔をして声が通らぬようだな。

 だが、しかしヴェールをつけるのは、この姫の意向ではなく、我らの意向だ。

 取らせる訳にはいかぬ」


 スシーマの声は、張り上げているわけでもないのに隅々までよく届いた。


「なぜなら、そなたらが思っている通り、月の女神のごとく美しさだからだ」


 スシーマが告げると、「おおっ!」と男達から歓声が沸いた。


 ミトラは大げさなスシーマの言葉に居たたまれなくなる。

 実物を見たらがっかりするだろう。

 もう怖くて絶対取れない。


「みなが女神に心を奪われ、会議に集中出来なくなると困るのでな」

 スシーマが言うと、男達からどっと笑いが漏れた。


 落ち着いた所でアショーカが次へ進める。

「……という訳で、シェイハンの部族長は若い姫ゆえ代理を立てる事になる。

 部族長代理のメルクリウス殿と地方管理官代理のクロノス殿だ。

 二人、挨拶をせよ」


 二人はそつのない挨拶をし、ミトラ達は元の場所に下がった。


 ミトラはつくづく自分の無力さを噛みしめる。

 自分は挨拶すらまともに出来ないのだ。

 みんなに守られ、助けられ、一人では何も出来ない。

 思い知った。

 アショーカもスシーマも凄い。

 それに比べて自分はなんとちっぽけなのか。

 女だから?

 それだけだろうか?

 それに甘えていていいのだろうか?

 自分の不甲斐なさに心が掻き毟られる。


「落ち込んでんの? ミトラ」

 ヒジムが小声で話しかける。


「ヒジム。そなたはここにいていいのか?

 アショーカの側近は、みな壇上に上がっているぞ」

 ずっとミトラの側に控えたままだ。


「ミトラの側につくために来たからね」


「わ、私ならもう大丈夫だ。挨拶もすんだ」


「僕もね、本来はこういう大勢の会合には出ないんだよ」

 さらりと答える。


「え? そうなのか。なぜ?」


「ミトラには分かるでしょ?

 ほら、僕ってその辺の女よりずっと美人でしょ?

 目立っちゃうんだよね」

 それはさっき一緒に歩いてみて分かった。


「この男社会ではどうしたって日陰の身なんだよ。

 剣の腕ではここにいる男達誰にも負ける気はないんだけどね」

 いつも明るいヒジムの背負う孤独を初めて見た気がする。


「まあ、だからって自分を不幸だとは思わないけどね。

 僕にしか出来ない事も、僕にしかない立ち位置もあるんだからさ」


「立ち位置……」


 ミトラから見れば立派に確立しているように見える。

 きっと悩んで苦しんだ末に見つけた自分だけの立ち位置。

 自分にもあるだろうか?

 自分にしか出来ない、自分だけの立ち位置。

 いや、見つけなければならない。


「私もがんばるよ、ヒジム。

 女だからってアショーカ達に甘えてちゃダメだな」


 決心したように言うミトラにヒジムは笑う。

「僕余計な事言っちゃったかな。

 また怒られるから、アショーカには言わないでね」


 議題は進み、次年度の貢納品の取り決めになった。

 部族国がマガダに治める税金のようなものだ。

 これは各部族長達が最も関心を持っている事だった。

 今回の反乱で本来決めるべき時期よりずいぶん遅れている。


 太守就任式を待っている時間がないゆえ、アショーカは各部族と個別に折衝していたのだ。

 逆に言うと、すでに話し合いは済み、決定事項を告げるのみだ。


 個別の呼び出しに応じなかった部族を除いては……。


次話タイトルは「部族長会議⑤」です

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