表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アショーカ王の聖妃  作者: 夢見るライオン
第三章 タキシラ 太守就任式典編
72/222

6  クロノス子爵

 

 シェイハンの面々が引き取った後、部屋にはアショーカとスシーマと、それぞれの側近だけが残った。


「明日の部族長会議は何時からだ?」

 スシーマが迷惑そうに尋ねる。


「午前の予定です。出られますか?」

 わざとらしく尋ねるアショーカをジロリと睨む。


「そのつもりでミトラの出席を許可したのだろうが。

 白々しい」


「滅相もない。

 兄上の意志なくば、一都市の部族長会議に皇太子自ら出席頂くなど畏れ多い事を頼んだり出来ません」


「嘘をつけ。

 私がそう言うと分かっているから許可したくせに。

 そもそも今日の会見も、わざと私の前で告げたのであろう。

 私が出席を申し出ざるを得ないと分かって」


「嫌なら出なくても結構ですよ」

 アショーカは勝ち誇ったように微笑む。


「私が出なければ誰がミトラを守るのだ。

 そなたはあくまで太守として中立でいなければならない。

 他に一筋縄でいかぬ荒くれの部族長達をいさめられる権力のある者などいないだろうが」


「嫌なのですか?」


 畳み掛けられ、苦渋の表情を浮かべるスシーマに、ナーガもヒジムも笑い出す。


「ミトラの頼みであれば喜んで引き受ける。

 そなたの策略に自らはまらねばならぬのが腹立たしいのだ!

 お前はここにいる間じゅう私をこき使うつもりだな」


「非常に役に立ちますよ兄上は」


 実際、中立の太守の立場でなければ自分が言いたかった事は全部スシーマが代弁してくれた。

 感心すると共に侮れぬ男だと再認する。


     ※        ※


「どうだった? 初の会見は?」

「うん。思ったより悪くないね」


 会見室から自室のある兵舎に戻りながらクロノス子爵はイスラーフィルの問いに答えた。

 シェイハンからの友人である衛兵隊長のイスラーフィルに兵舎の一室を間借りしていた。


「及第点の七十点ってところかな」

「厳しいな。七十点か。聖大師様だぞ?」

 イスラーフィルは苦笑する。


「最初は十点ぐらいだと思ってたんだ。

 ずいぶん健闘してる方だよ」

「十点か。ひどい思われ方だな」


「だってまんまと敵国の罠にかかってマガダに連れて行かれたんだよ?

 おまけにマガダの王子をタキシラの太守に迎え入れるために奔走するなんて正気の沙汰じゃないよ。

 てっきりあの太守にメロメロなのかと思ったら、どうやら逆のようだね」


「前からそう言ってるじゃないか」


「君の色事の読みはあんまりあてにならないからね。

 半信半疑だった」

「はいはい。女心なんざ分かりませんよ」

 イスラーフィルは半ばやけくそに応じた。


「しかもあの皇太子。あれも本気だね。

 あの王子二人は価値が高いよ。

 スシーマ皇太子、あれは次代の王として申し分ないね。

 九十点ってとこか。

 ビンドゥサーラ王は愚王という噂もあるが、あの王子二人を手中に持ってるというだけで安泰だ。

 当分はマガダの勢力は衰えないだろう。

 いや、むしろ拡大するか」

 クロノスは次々値付けしていく。


「九十点か。シビアなお前にしてはいい点だな。

 ではアショーカ王子はどうだ?」

 イスラーフィルに問われ、珍しくクロノスはしばし考え込む。


「七十点から九十九点ってとこか……」


「なんだそれ? ずいぶん開きがあるな」


「ちょっと見た事のないタイプだ。

 これまでも何度となく会ってシェイハンの雑事を話し合ってきたが、頭が切れるのは間違いない。

 算術に関しては僕でも足元にも及ばない。

 だが直情型でトラブルも多い。

 ビンドゥサーラ王と敵対しているのもその一つだ。

 いつ失脚するか分からぬ危うさを持ちながら、不思議なカリスマ性がある。

 あんな男は初めて見た。

 未知数だよ」


「未知数か……」

 イスラーフィルは微笑む。


 その様子を見て、クロノスは頷く。

「一番未知数なのはそれだよ」


「それ?」

 イスラーフィルは首を傾げる。


「あの王子に無性に惚れこむ男が多い。

 君などは聖大師様一筋と思っていたが、あの王子に対しては妙に好意を持ってるよね」


「好意か……」

 言われてみて初めて気付く。


 初めて会った時から何故か気に入っている。

 秘かに忠誠を誓うミトラが選ぶ相手がアショーカ王子であるなら、不思議に喜んで祝福出来る気がする。


「知ってるかい?

 歴史に名を残す稀代の王は男たらしが多いんだ。

 荒くれの男どもが命をかけて尽くしたいと思う魅力を持つ男」


「男たらしか……」

 あの年若としわかの王子に、すでに自分はたらされているのかもしれない。


「とにかくね、我が聖大師様は思ったほどバカではなかった。

 メルクリウス公爵を部族長代理に選んだ辺りは、なかなか良かった。

 ただし明日の部族長会議に出ると言い出すあたりは小娘の甘ちゃんだけどね。

 明日痛い目にあって思い知るだろうさ。

 まあそこを差し引いたとしても、あの王子二人をとりこにしているのはあっぱれだ。

 女としては百点満点だね。

 ヴェールに隠れて見えなかったけど、さぞかし妖艶な美女なんだろうさ」


「妖艶?」

 イスラーフィルはあまりにミトラに不似合いな言葉に吹き出した。


「お前の読みは逐一ちくいち見事だが、はは、ミトラ様の外見に関しては大はずれだな。

 実物を見て何点になるのか楽しみだよ」


「外見で点数は変わらないよ」

 クロノスは怪訝に顔を傾いだ。



次話タイトルは「部族長会議①」です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ