表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アショーカ王の聖妃  作者: 夢見るライオン
第三章 タキシラ 太守就任式典編
106/222

40 刺客

 その夜、事件が起こった。



 みんな寝静まり、ソルは侍女の部屋で眠りにつき、アッサカも隣りの仮眠室で休んでいた。

 ミトラの部屋の前には夜番の衛兵が二人、廊下には僅かな燭台の灯りが薄ぼんやりと視界を残している。


 衛兵よりも先に異変を感じたのはアッサカだった。

 深い眠りから一瞬にして目覚め、寝る時も抱えたままの剣を手に飛び起きる。


 音も無く突然前に現れたアッサカに、すっかり寛いでいた衛兵二人は驚く。

「アッサカ様! どうされたのですか?」


 アッサカは黙るようにと指を口の前に立てる。

 しかしほぼ同時に燭台の火がかき消され、視界が暗闇に包まれる。


「ああっ! 灯りが……!」

 慌てた衛兵の一人が燭台に火をつけようと持ち場を離れた。

 そしてすぐに「ぎゃあああ」という叫び声が聞こえた。


 扉前を陣取ったアッサカは剣を構えたまま気配を探る。

 すぐに「うわあああ」という声が響き、もう一人の衛兵もやられたのだと分かった。

 アッサカの額に冷や汗が垂れる。


(まずいな……。二人……いや三人か……)


 それもほとんど気配を感じさせない剣捌き。


(かなりの手練れか……)


 微かな風を読む。


 ひゅっと虚空が歪む。

 カンッと金属音が響いた。


 足元だ。


 カン、カンッ!

 二手、三手剣が重なる。


(なぜ足を狙う?)


 繰り出される剣はすべてアッサカの足元で受け止められた。


 カン!

 四手目を大きく払い返す。


 そしてすぐさま反対から繰り出された剣を受け止める。

 二人目。

 これも足元だ。


(ちいっ! こっちもかなりの使い手だ)


 最初の刺客が体勢を整え直す前に仕留めなければまずい。

 素早く攻撃に出る。


 暗闇の中でアッサカの剣を受け止める。

 巧い。


 しかし辛うじて三手目で僅かに剣に手ごたえがあった。

 うっという唸りと共に、少し引いたようだ。


 素早く最初の一人の剣を受け止める。

 しかしそこにもう一人の気配を感じてアッサカは青ざめた。

 手傷を負った二人目も脱落するほどではない。

 三人に囲まれた。


 扉前を死守したかったが、不可能と知る。


 カンッ!


 剣を重ね、刺客の間を潜り抜ける。

 広い空間に踊り出て気配を消す。

 そして扉に近付こうとする一人に背後から切りかかる。


 カンッッ!

 受け止められた。


 やはり並みの剣捌きではない。

 闇の中、三人の刺客が一斉にアッサカに切りかかった。


(ダメか……)


 初めて切られると思った。


 手練れ二人の剣を辛うじて受けたとしても、さすがにこのレベル三人を防ぐ手立てはない。


 相変わらず足を狙う刺客の剣が、肉をえぐると覚悟した瞬間、カキン! と刃音が響いた。


(味方?)


 暗闇では事態が分からない。

 しかし刺客三人が驚いて息を呑んだのが微かに伝わる。


 どうやら味方らしい。

 確信する。


 カンッ、カンッ、カンッ!


 二人に対峙するアッサカと、すぐ横で刃を重ねるもう一つの刃音が響く。

 それと同時に廊下の少し先でも刃を重ね合う音が聞こえる。


(一体何人いるのだ)


 三人だけではない。


(ミトラ様……ご無事か……)


 アッサカは剣を重ねながら、扉前ににじり寄る。

 扉が開けられた気配はない。

 ほっとすると同時に階下から大勢の足音が聞こえてきた。


「何事だ! みな出あえっ!」


 スシーマ王子の声だ。

 松明を手に階段を駆け上がって来た。

 その灯りから逃れるように、刺客の気配が消える。

 ほっとしたのも束の間、スシーマ王子のかざした松明の灯りに思いがけない人物が映し出され、息を呑んだ。


「ウソン!」


 隠密の黒服を着て、アッサカの真横に立っていた。

 スシーマ王子も目を見開く。


「ミトラの従者よ、何があったのだ。

 私の五麟が異変を感じ、知らせに来たのだが……」


 見ると松明の火を廊下中に点けて回るナーガと別に、黒服の隠密が二人付き従っている。


(五麟……)


 噂には聞いていたが姿を見るのは初めてだ。



「何事だあああ!」


 その時になって地鳴りのような声と共にアショーカが現れた。

 夜着の肌衣だけで剣を手にしたアショーカは余程慌てて飛んできたのだろう。

 後ろからヒジムが松明を手に隠密姿で付いている。


 すでに煌々と灯りの焚かれた現場を見て、アショーカは息を呑む。

 ミトラの扉前では衛兵が二人、足から血を流して呻いている。

 そしてスシーマとナーガと五麟。


 さっと見渡しウソンに目を止めると、衝撃を受けたような顔をしてミトラの部屋の扉を押し開ける。


「ミトラッ! 無事か!」


次話タイトルは「五麟」です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ