~草原を駆ける二人の足音
「ロアン。それとって」
「これ?」
「ちがう。緑の針よ」
僕は大きな裁縫箱の中から緑の針を探した。色とりどりの糸や針が入っていて、虹のようにきれいな色たちに見えた。ソシアとおばあさんの仕事がおわると、僕とソシアは買い物をするため外に出る。
「ロアン。これ、なにかわかる?」
「ん、なんだろう。果物かな」
「これはねカラナフルと言う食物なの。スープにすると、とてもおいしいのよ」
「へー、カラナフルかぁ」
僕が店先に並んだカラナフルを一つ手に取ると、白黒の猫が一匹狭い路地に入るのを見た。
「どうしたの、ロアン?」
「いや、猫がいたんだ」
「どこ?」
「そこの路地に入っていったよ」
「ロアン、そろそろ帰りましょ。おばあさんが待ってるわ」
「うん…」
僕は夕食を食べおわると部屋の窓から夜空を眺めた。満月といくつかの星がきらめいている。引き出しからディウに渡された短剣を手にした。古びた柄と曇り一つない刃。
短剣をしまうと僕はベットで眠った。
朝食を食べおえると、ソシアと僕は草原を歩いた。
「ソシア…」
「なに?」
「ディウはどうして僕に短剣をくれたんだろう…」
「わからない。なんでだろうね」
僕たちは大木まで来ると、そこに座った。
ソシアは小さな声で歌を口ずさむ。
「それ、なんの歌?」
「これ? 小さい頃におばあさんから教えてもらった歌よ」
僕は瞼を閉じると、ソシアの歌に耳を傾けた。それはやさしくて、とても心地よいメロディーだった。
「おい! いたぞ!!」
兵士が二人こっちに向かって来る。僕はソシアの手を掴むと言った。
「ソシア、走って」
僕たちは草をかき鳴らし走った。ソシアの息遣いが荒くなったと思うとそこにつまずいた。兵士たちに追いつかれると僕は腰から短剣を取って彼らに向けた。
「はぁ…はぁ…。さぁ、捕まえたぞ…」一人の兵士が言った。
「僕たちをどうするつもりだ!」
「帝国のご命令だ。ドラフの住民は皆、ザザの監獄行きだ」
ソシアが「おばあさんは?」と言うと兵士は刀を抜き「歯向かうのなら容赦はするなと、帝国のご命令でもある」言った。
兵士たちが僕らに近寄ると、一つの影が兵士の顔めがけて直撃した。影は空に舞うともう一人の兵士の顔にも当たり、空を旋回する。それは翼を広げ羽ばたく鳥だった。
「ソシア今のうちに」
「おばあさん…」
「ソシア!」
僕らはまた手を繋ぎ、走り出した。
夕陽が沈みかける頃になると、大きな岩場を見つけた。小さな洞窟になっている中へと僕らは身を隠した。
「ソシア。だいじょうぶ?」
「うん…だいじょうぶ」
ソシアのスカートの裾には赤く滲む色が付いていた。僕は短剣で自分の服の袖を切ると、彼女の膝に固く結んだ。
「ソシア、そこに横になるといいよ」
「ロアンも」
「僕はもう少し見張りをしてからにするよ」
「うん…。ありがとう」
ソシアが眠ると僕は洞窟から出て辺りを見回した。すでに夜になっていて空は少し曇っている。僕らを助けてくれた鳥は見えない。ポツリと雨が当たると僕は洞窟に引き返し、地べたについて横になった。
雨が強く音を立てはじめ、僕も瞼を閉じる。




