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六話目 高梨愛理

前回のあらすじ

前島さんLOVE!! by金山&真中

 隼人は高城の居る建物の入り口前に立っていた。

 

 「はぁはぁ、遂に…ついたね…。」


 隼人はかなり疲労していた。

 高嶋は、そんな隼人とは反対に、疲労の色が見えない。むしろ、彼に疲労という概念があるのかないのかが疑問だが。

 消沈した隼人をよそに、高嶋は入り口に取り付けられたインターホンを押しに階段を登った。

 

 〈ピンポーン〉


 なんとなくアナログな音がドア越しに、隼人達に聞こえてくる。

 そして、磨りガラスのドアに、女性らしきシルエットが浮かんだ。

 美香によれば、サディストということだ。

 しかも彼女のやることを嫌がれば拗ねる。隼人は美香の情報と、田辺の情報を思いだし、身震いした。

 しかし、そこに現れたのは黒髪のロングヘアーを携え、白衣を着用し、きつめの目付きをした美人だった。

 サディストだ、といわれて見ればその雰囲気は微かに感じられるが、一目瞭然サディストか?と質問されればそうでも無い気がする。

 だが、隼人にとって、それらはどうでもよかった。

 どうでもよかった。という表現は適切ではない。

 呆気にとられていた。それが適切だろう。

 隼人の唾を飲み込む音と、サディスト女の唾を飲み込む音が重なる。


 「愛理(あいり)……?」

 「隼人……?」


 そして気づけば、サディスト女と隼人は、互いの名前を呼びあっていた。

 その瞬間、隼人の頭に激しい頭痛が走った。


□◇□◇□


 「隼人!あそぶぞ!」


 当時十歳ちょうどであった高梨愛理(たかなしあいり)は隼人に向かって傲慢(ごうまん)な態度でそう言った。

 そんな愛理の誘いに、隼人は少々困った顔をした。

 違う人と遊んでいる途中だったのだ。

 因みに、当時の隼人も愛理と同じ、十歳である。


 「今…Dくんと遊んでるから…。」


 Dくん。Dという男の本名ではない。

 Dは隼人達とは八歳程離れているが、Dは自分をDくんと呼ぶように教えた。

 目的は不明だ。

 更に、隼人と愛理がいくら本名を聞こうとしても、決して答えてくれる事はなかった。

 何度聞いても、将来の君達に役立つ事だから、と、それの一点張りで教えてくれないのだ。

 愛理は隼人の言葉に顔をしかめた。

 

 「何!愛理と遊ぶのがそんなに嫌なの!?」


 愛理は右手に固そうな玩具を掴んだ。

 隼人はそれを見て、いち早く危険を察知する。

 隼人はDの傍を離れ、愛理の元へ行くことにした。


 「Dくん、ごめんね。」

 「いいよ、僕は君達のお兄ちゃんだからね、遊んでくれないくらいで泣いたり、怒ったりなんてしないよ。」

 「Dくん!ありがとう!」


 Dは笑顔で隼人の言葉に答えると、行ってきなよ、と言った。

 隼人は大きく頷いた後、愛理の元へと駆け足で向かった。


 「何してあそぼうか隼人!ママゴトか!?」


 隼人と何をするか話し合う愛理の目はキラキラと輝いている。

 話し合うというよりは、命令に近い気もするが。

 そして同時に、心なしか、愛理の頬は朱色に染まっている様な気もする。


 「えぇ…愛理とのママゴトは痛いからやだよぉ…。」

 「隼人!男の子でしょ!」


 愛理の言うことは基本的に理不尽だ。

 だが、愛理に逆らえば、隼人はもっと痛いことを強いられることになる。

 Dは、先生であるにも関わらず、痛いことをされてる隼人を助けないのだ。


 「Dくん……。」


 Dは隼人が助けを求めようと、ためしにDの名前を弱々しく読んでみた。

 だがDは相変わらず笑顔を崩さず、ただ見つめてるだけだ。

 時折反応してくれたかと思えば、手を降るだけ。

 先生の仕事は楽だな。この頃の隼人は幼いながらに、Dを見てそう思っていた。

 Dの助けもない隼人は、嫌々愛理のママゴトに付き合う事にした。

 勿論、隼人は愛理に痛いことをされた。

 だが、疲れてしまったのか、愛理は一時間程遊んだ後、積み木を片手に寝てしまった。

 愛理が寝てしまった以上、片付けをするのは隼人の役目だ。

 好き勝手痛いことをされて、ほとんど散らかしてない僕が片付けるなんて、愛理はひどいなぁ。隼人はそう重いながら、重い身体を動かして積み木やその他の玩具(おもちゃ)を片付け始めた。 


 「眠いなぁ…。」


 隼人の口から、無意識にそんな言葉が出る。

 隼人は玩具を片付けつつ、Dの方を見た。

 Dが居れば話しかけようとしたが、そこにDの姿はなかった。

 何処に行ったんだろう。隼人は愛理が握ってる積み木を取り、箱の中へと片付けた。

 そして、玩具がいっぱいになって重くなった箱を、ロッカーにしまい、隼人はロッカーに寄りかかった。

 片付けが終わり、静かになった部屋に愛理の寝息が響く。


 「自分勝手だよ。」


 隼人は気持ち良さそうに寝ている愛理に向かって、呟いた。

 無論、愛理の耳には届かない。

 そして、隼人にも眠気が襲い、隼人はロッカーに寄りかかったまま眠りに着いた。


□◇□◇□


 目を覚ますと、隼人は椅子に固定されていた。

 隼人はその現状を理解して、特に慌てる様子は無い。

 これが、定期的に行われる検査というやつだからだ。

 定期的に行われてる事に、一々(いちいち)驚く必要はない。

 辺りを見渡すと、隼人の他にも、まだ寝息をたててる愛理と、フルフェイスのお面を被った一号という女の子が居る。


 「あ、目、覚ました?」


 声のする方を見ると、そこにはDが居た。

 相変わらずの笑顔で、寝惚けてる隼人の目を見つめる。

 

 「今日の検査はちょっと痛いよ?」

 「いつも痛いよ…今日は何するの?」

 「うーんそうだなぁ…なんて説明しようかな…。」

 「Dくんでも難しいの?」

 「そうなんだよ。僕も詳しくは説明されてないんだ。」


 Dは珍しく困った顔をしながら、頭をポリポリと掻いた。

 近くのテーブルから椅子を取ると、隼人の、前に椅子を置き、Dはおもむろにペンを胸ポケットから取り出した。

 そして、器用にペンを回し始める。

 これはDが何かに困った時の癖だ。

 Dがペン回し以外で胸ポケットのペンを使うところを、隼人は見たことがない。

 恐らくペン回し用のペンなのだろう。

 書き物をするときはいつも腰の辺りにあるポケットに入ったペンを使っている。

 Dは困った顔をしたまま、口を開いた。


 「痛いって事だけなんだよね…。」

 

 Dはペン回しをやめた。

 それはDの思考がまとまった合図だ。

 隼人はDの発言に耳を傾ける。

 疑問が晴れるかもしれない。

 だが、


 「ま、気にしないでおこう。君達が死ぬ訳じゃないしね。」


 Dは隼人の期待に反して、そう言った。

 明確な答えが分からず、落ち込む隼人をよそに、Dは一人満足気な顔で椅子を元あった場所に戻した。

 同時に、向かいで隼人と同じ様に椅子に固定された愛理が目を覚ました。

 

 「…検査?」

 「そうだよ。」


 愛理は隼人に質問し、答えが返ってくると、ため息をついた。

 

 「Sちゃん、隼人くん達の椅子の調子確認してあげて。」

 「はいはい。」


 嫌そうな愛理をよそに、DがSという女性に指示をすると、Sはめんどくさそうな返事をしながら隼人に近付いてきた。

 隼人の頭上からカチャカチャと、金属音がする。

 ふと、隼人の視線に、Sじゃない顔が映った。

 同い年くらいの身長と顔付きだ。

 その少女は隼人の顔をじっと見る。


 「お母さん、私も、この子と同じになりたい。」


 少女がSの顔を見上げ、そんなことを言い出した。

 椅子の点検を終えたSが溜め息をついた後、少女の目をじっと見ながら、やがて微笑んだ。

 

 「安全って分かったらね?」

 「いつ分かるの?」

 「さぁ…Dが成功したら、かな?」

 「じゃあDくん頑張ってね!」

 「うん、任せてよ。」


 隼人の目の前でそんな会話がされる。

 

 「ねぇねぇ、君の名前は何て言うの?」

 

 隼人は少女に対して名前を聞いた。

 理由は無い。

 少女は振り返り、屈託の無い純粋な笑顔で言った。


 「私の名前はね」


□◇□◇□


 隼人は目を覚ました。

 目を覚ましたのは高嶋とここまで来て、愛理との再開を果たした隼人だ。

 まだ頭がズキズキとする。


 「初めてだ…。」

 「ええ、私もよ。」


 隣をみると、愛理も隼人と同じ様にベッドに横になっていた。

 勿論、隼人と同じベッドではない。

 愛理は隼人が言おうとしたことが分かっていたのか、隼人の言葉にそう答えた。


 「何が、初めて。」


 珍しく高嶋が食いつく。

 ここまで来て除け者にはされたくないのだろう。


 「中学校以前の記憶だよ。どうしても思い出せなかったんだ。」

 「保育所?とか幼稚園?みたいなところに居たわね。」

 「拘束されてたけど。」

 「幼児虐待でもしてたのかしらね?」


 隼人はおもむろにベッドから起き上がった。

 壁に寄りかかりながら立っていた高嶋が、右手からコップ、左手から水を出した。

 そしてそれを隼人に差し出す。

 隼人は礼を言った後、コップに注がれた水を飲み干し、ベッドから立ち上がった。


 「記憶はさておき、愛理が僕のワールドの発動条件を教えてくれるってことでここまで来たんだけど……。」

 「だれからの紹介?」

 「田辺さんだけど…。」

 「ふーん、で?隣の人は?」

 「高嶋くんっていうんだ。」

 「よく男二人で女の子に会いに来たわね。」

 「なんか問題でもあるの?」

 「別に。」


 愛理はそう言うと、隼人の横に立つ高嶋に水を要求した。

 高嶋は水を当然かの(ごと)く用意する。

 高梨は水を一気に飲み干し、高嶋にコップを渡した。

 高嶋がコップに触れた瞬間コップが消滅した。

 高嶋はどうやら自分の出した物を消滅させられるらしい。

 服を消さずにゴミ箱に捨てた辺り、消せるものと消せないものがあるのかもしれないが。

 それはさておき、愛理もベッドから立ち上がり、口許(くちもと)を拭うと、今度は冷蔵庫の中から瓶を取り出し、その中身をラッパ飲みした。

 どうやら水では満足出来なかったらしい。


 「ふーっ…………。」


 愛理は冷蔵庫を開けたまま、背を向けてしばし余韻に浸かった後、隼人達に視線を戻した。

 

 「記憶をさておけるわけないじゃない。まぁ、あんた達は別の用件で来たみたいだし、今はさておいてあげるけど。」

 「僕も愛理も、なんで忘れてたんだろうね?」

 「さぁ?幼児虐待っていうショッキングな記憶を、脳が封じ込めたのかもね。」

 「そんなことってあるの?」

 「ええ。」


 隼人が勝手に感心をして頷いていると、愛理が咳払いをした。

 隼人はその咳払いに反応し、顔を上げる。


 「それで?ワールドの発動条件は何か試したの?」

 「いや、なにも試してないんだよね。」

 「ふーん、なら長くなりそうね。痛いことすると思うけど、我慢しなさいよ。」

 「どのくらい痛いこと?」

 「さぁ?身体をミンチにしたり?」

 

 それを聞いた瞬間、隼人の顔から血の気が引く。


 「冗談よ、死んだらあなたの身体はオリジナルワールドにあるんだから出来る訳無いでしょ?」


 そう言うと、愛理は白衣をマントの様に(ひるがえ)した。

 一見はまるで、漫画でかっこいいサイエンティストが、ついてこい、といってそうなシーンのようでかっこいい。

 だが、隼人は見逃さなかった。

 まるで会社で部下を苛めてそうなゲスな目付きを。吊り上がる口角を。

 美香の言ったサディストの意味を、理解した。

こんがらがる方もいると思うので、解説します。

高城瀬名(たかぎせな)高梨愛理(たかなしあいり)です。


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