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四話目 出発

前回のあらすじ

え…高嶋くん…つ、つよいね by隼人

奈都を殺した動機はなに。    by渠音

「君のワールドについて色々考えたんだけど、高城瀬名(たかぎせな)にあってみないかい?」


 田辺は、隼人がソファに座るなり、そう言った。

 高城瀬名。この名前を聞いたとき、隼人の隣に座っている美香が露骨に嫌そうな顔をした。

 

「なんでよりによってアイツなのよ」

「なんでって…瀬名ちゃんより頼りになる人は居ないでしょ」

「私たちでなんとかすれば…」

「じゃあ、なにか案はあるのかな?」


 美香は田辺に聞かれると、顔をしかめながら、うー、と唸った。実際に唸った訳では無い。あくまで比喩だ。

 ともかく、田辺はそんな美香を見て小さくため息をついた。


「前の説明の時には説明してなかったけど、ワールドっていうのはごく稀に、発動条件というのが生じるんだ。」


 田辺はそう言いながら、指を軽くパチンと鳴らした。

 その瞬間、視界に映る景色が歪む。

 これは前にも隼人は体験したことのある感覚だ。

 景色が形を成したかと思うと、四方を白い壁で覆われた小さな正方形の部屋に隼人は居た。

 隣に居た筈の美香が居ない。


「僕のワールドには発動条件があってね、今みたいに指を鳴らさないとワールドが発動出来ないんだ」


 しばらく中指と親指を擦り合わせた後、田辺はもう一度指を鳴らした。

 景色が歪み、戻り、元居た倉庫に戻る。

 隣には美香が居た。


「美香さんと高嶋くんとかも発動条件があるんですか?」


 隼人はそう質問した。

 その質問に田辺は首を横にゆっくり振る。

 

「君は二人の戦闘をみただろう?」

「ええ」

「二人は自分の意思で発動させられる。」

「死にかけなくても大丈夫なんですか?」

「死にかける必要があるのは覚醒の時だけだよ。君も覚醒はしてる筈さ、死にかけてワールドが覚醒しなかったイレギュラーなんて見たことないからね」


 田辺はそう言うと、高嶋に向けて指をチョイチョイと動かした。

 高城はそれに反応すると、右手からティーカップを生成し、左手から珈琲をだした。

 隼人はそれを見て、高嶋のワールドは便利だな。と、感心した。


「高城くんのワールドはなんですか?」

「彼のワールドかい?渠音くんのワールドは目で見たものを生成するワールドだよ。でも、渠音くんの体重より重い物は生成出来ない。あと人もね」

「美香さんは?」

「美香は任意の物、又は自分を透明にするワールドだよ」

「物って事は、自分以外の人は透明に出来ないって事ですか?」

 お、理解が良いね、その通りだよ」

「以外と欠点が多いですね、ところで、田辺さんのワールドは?」

「僕のワールドは、任意の人物を二人だけ僕の意識の中に呼び寄せるワールドだよ」

「二人だけですか?」

「そう、僕のワールドは戦闘向きじゃないんだ、ただ、あくまで僕の意識の中だから、僕自信があの空間に入れば好き放題出来るよ、美香の能力の真似事をしたり、渠音くんみたいに物体も生成できる。」


 田辺は倉庫の出入り口を一瞥しながらそう言った。

 隼人も釣られて出入り口を見たが、そこには誰も居ない。

 どうやらなんとなく見ただけの様だ。

 隼人が美香のほうをなんとなく見ると、美香も釣られて出入り口を見ていたようで、美香と隼人は目が合った。

 渠音はどこを見てる訳でも無く、ひたすら真っ直ぐを見ている。

 田辺は咳払いをすると、話を戻した。


「それで、本題の瀬名ちゃんだけど、彼女はワールドについて詳しいんだ。」


 田辺は最後に、僕の知る限りではね、と付け加えた。


「発動条件についても詳しいってことですかね?」

「それは勿論だよ、僕のワールド発動条件も彼女のおかげで見つけられたしね」

「詳しい、っていうのは、ワールドのどんな事に詳しいんですか?」

「んー、詳しい……いや、ごめん言葉を間違えたね。彼女はとにかく入念なんだよ」

「というと?」

「発動条件となり得る行動、条件を全て試し尽くすのさ」

「違う、アイツはただのサディストよ。」


 美香が田辺の言葉に対して否定した。


「いいサディストじゃないか」

「なによ、あなたはマゾヒストなの?」

「いいや?確かに彼女は害を与えるけど、それが全て結果に繋がるんだから文句は無いじゃないか」

「でも…」

「じゃあ、君はモルモットを実験台にして色々研究する人達を一々サディストだとでも言うのかい?」

 

 最後に田辺は文句でもあるかな?とでも言いそうな顔で美香を見据えた。

 美香はそんな田辺に対して、下唇を噛むことしか出来ていなかった。


「瀬名さんが居るところはここから遠いんですかね?」

「んー、どうかな、最近はヒラルカ信者が街中を徘徊してるかなぁ、さほど遠くは無いけど、楽な道のりでは無いね」

「美香さんがいれば…」

「いや、隼人くんには悪いけど、美香はやることがあるから行かせられないんだ」


 田辺は一瞬何かに躊躇う様な素振りを見せると、そのまま続けた。


「君のワールド覚醒は優先事項では無いからね」

 

 そりゃそうだ。隼人は田辺の言葉に納得した。


「君をこっち側に連れてきたのも、美香の時間を無駄にしないためだ、オリジナルワールドの仕事とアナザーワールドの仕事の両立は厳しいからね、君がオリジナルワールドに居ると時間が進んでしまうからこっちに連れてきたんだ。」

「そういえば、どうして僕がイレギュラーだって分かったんですかね?」

「あぁ…いやぁ…言っちゃって良いのかなぁ…」


 田辺はしばらく考える素振りを見せると、含みのある笑みを浮かべた。


□◇□◇□


 田辺の説明を一通り聞いた後、隼人と高嶋は高嶋瀬名がいる地区の、SN地区へと向かった。

 ちなみに、隼人たちが今居る地区は、DH地区だ。

 地区名は、その地区を統治する人の名字の頭文字と名前の頭文字のイニシャルで決まる。

 これは田辺が説明したことだ。

 更に、高城瀬名に会う際の注意事項というものも、隼人は田辺から説明された。


 わかりやすく箇条書きすると、以下の通りだ。


・彼女は、人殺しが嫌いなので、道中で誰も殺さないこと。彼女は鼻がいいので、血の匂いに気づく。


・いくら苦痛を与えられても文句を言わないこと。文句を言うと拗ねて二度と相手をしてくれない。


 この二つだ。

 鼻がいい、というのは彼女の体質らしく、ワールドではないらしい。

 ついでに言うと、彼女はイレギュラーでは無い。田辺は隼人にそういっていた。


 DH地区の区境線(くきょうせん)から出ると、街の雰囲気ががらりと変化した。

 アナザーワールドは、地区によって発展の差がある。

 DH地区はそこそこ栄えている様だが、その隣のAM地区は少々DH地区には発展が劣る。

 おそらく、DH地区に隣接しているせいで、AM地区の富が奪われてるのかもしれない。

 富の奪いあいは日常茶飯事と田辺が言っていた。


 ともかく、隼人と高嶋は、高城がいるSN地区へと向かった。

 街中に、三人分足音を響かせながら。

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