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二話目 イレギュラー

前回のあらすじ

仮面男達怖い、ここどこ by隼人

 美香の案内で仲間が集うアジトに隼人は来ていた。

 外見は倉庫の様な巨大な建物だ。

 中に入ると、広々とした空間があり、その中央にこじんまりと生活スペースがある。生活スペース、といっても、たんにカーペットを敷き、ソファが三つ置いてある、人が十人程くつろげそうな小さいスペースだ。

 そのソファに何人かの人が座っている。

 その何人かは、美香と隼人の存在に気付くと、一斉に視線を隼人達二人の方に向けた。

 遠慮の無い視線を体験した事のない隼人は、視線を落とした。


「そいつが新しいイレギュラーなの?」


 不意に、ソファから身を乗り出して女性が聞いてきた。

 隼人はその声のする方に視線を向けた。


「そうよ、死ぬのをあっちで見てきたから」


 あっち、というのは自分が元々住んできた世界の事か。隼人はそう理解した。


「ふぅん…」


 隼人は女性にまじまじと見られた。

 何かおかしい所でもあるのだろうか、と隼人は一応身なりを整える。


「なんか、平和ボケしてそうな顔だね」

「まぁ、出身はあっちだから」

「ワールドは?」

「いいえ、自覚がないみたい」

「駄目じゃん」


 彼女はそういうと、興味を無くしたのか、ため息をつきながら視線を隼人から外し、ソファに座り直した。

 それと同時に、美香が歩を進めてソファの方へと近づいた。

 

「あの、ワールドってなんでしょう?」


 ソファの近くにつくなり、隼人はソファでくつろぐ人達に質問した。

 先程の女性は雑誌に夢中で、隼人を見もしない。

 完全に興味を無くしたようだ。


「ワールドねぇ…君の世界で言う特殊能力かな」

「特殊能力…ですか」


 隼人はソファに座る六人の顔を見渡した。

 特に見た目に変化があるわけではない。仮面など着けていたり、人が一万人入るんじゃなかろうかという広い空間の八割を無駄にしている以外は、異常な所はない。

 

「君、死にかけた事はあるかい?」

 

 先程ワールドの説明をしてくれた男性が聞いてきた。

  

「というか死にました」

「あっちでじゃなくて、こっちで」

「銃を向けられましたけど…美香さんに助けられましたし」

「は?」


 隼人がそういうと、男性が美香の事を睨んだ。

 その視線を受けて、美香はどこか気まずそうに目を泳がした。


「ま、いいか、何があっても美香の責任だ」

 

 男性はそう言うと、おもむろに立ち上がった。

 その瞬間、美香は焦った様に口を開いた。


「殺す気!?死にかけさせればいいのよ!?」

「なんだよ…ん…?さてはお前…」


 何か含みのあるような感じで男性は言うと、感じの悪い薄笑いを顔に張り付けた。

 気持ち悪い。一言で表すならその薄笑いはその一言に尽きる。

 男性はまた席についた。


「君がやれよ、美香」

「…え?」

「元々お前の仕事だろ、それに…ねぇ?」

「ち、違う!そんなんじゃない!」

「どーでもいいけど、ま、任せたよ」


 男性はそう言うと、指をパチンと鳴らした。

 瞬間、景色が歪む。美香が透明を解除する時の歪みかたとは違う。上下左右が分からなくなり、物という物が形をなくしていく。

 そして、気付けば隼人は、真っ白い正方形の空間に居た。

 勿論、辺りを見渡す。周りには白い壁しかない。だが目の前には、拳を握りしめ、感情を殺したような目をした美香が立っていた。

 隼人は状況を理解しようと、美香に聞こうとした。

 だが、その瞬間、隼人の視界から美香が消えた。

  

「え…?」


 思わず隼人の口から阿呆な声が漏れる。

 状況が理解しきれない。だが、理解しようと働かした思考は強制的に断たれる。

 気付けば、隼人の身体は飛んでいた。

 痛みを感じるより前に、痛みの伝達すらも断たれる。

 腹部が熱い。熱い?…違う。腹部から赤黒い液体が漏れ出しているのか。隼人はようやく理解した。

 そして、隼人はそれが、脳を働かすのに、生命を維持するのに必要な血液だと気づくのに、さして時間はかからなかった。

 景色が歪み、隼人の目の前に美香の顔が現れた。


「そんなもん?」


 美香は隼人にそう言った。ものすごく冷めた目で。

 隼人は意味が分からない。

 頭に血が回ってないからだ。

 隼人の意識が霞んでいく。

 

「あー…」


 隼人は何かを言おうとする。だが自分が何を言おうとしてるのかすら分からない。

 隼人の視界が外側から暗くなっていく。

 そして、隼人の視界が完全に暗くなる寸前、美香が焦った顔で何かを叫んでいた。

 そのまま、隼人は意識を失った。


□◇□◇□


 目が覚めると、そこは見覚えのある景色だった。

 隼人の耳には人々の叫び声が聞こえていた。

 電車が隼人の目の前を猛スピードで通過していた。

 それが、自分の命を奪っていった電車であることは、すぐに分かった。

 隼人が後ろを見ると、美香がいなかった。

 隼人は何故かその状況を自然と受け入れる事が出来た。

 隼人が隣を見ると、通過する電車と自分を交互に見て、口をあんぐりとさせた老婆が居た。

 服には血がついている。美香の血だ。

 隼人はそんな老婆を横目に、急いで駅を後にした。

 

 家に戻り、隼人はくつろげる格好に着替えた。

 冷蔵庫からビールを取り出し、プルタブを持ち上げると、カシュッという音が隼人の耳を心地よく刺激する。

 音の余韻に浸ったあと、隼人は一口飲んだ。

 

「ふぅ…」


 自分で発したその溜め息が、隼人自身を更に安心させた。

 白昼夢でも見ていたのだろうか。思わずそんな考えが隼人の頭に浮かぶ。

 だが、それはないか、と直ぐ様隼人の頭によって否定された。

 ビールを二口目飲もうとしたとき、家のインターホンが鳴った。

 隼人はそれに反応し、二口目を中断する。

 覗き穴を覗くと、息が上がり、肩が激しく上下する美香が隼人の目に映った。


「あっ…」


 隼人は急いでドアを開け、美香を家に招いた。

 これで二回目だ。と、隼人は思いつつ、美香に新しいビールを差し出した。

 美香はそれを受け取り、プルタブをもちあげる。

 そして息を整えつつ、美香は500mlのビールを一気に飲み干した。

 隼人は美香の飲みっぷりに驚く。

 空になったアルミ缶をやや乱暴にテーブルに置くと、美香は咳払いをして口を開いた。


「今すぐあっちに戻って」

「え、あっちって…もう少しゆっくりしたいんだけど…」

「はやく!田辺たちが急かしてるの!」

「わ、わかったよ…これ飲み干させて」

「急いでね」


 隼人は美香の言葉を耳で聞きつつ、ビールを飲み干した。

 そして、美香に準備が出来た合図をする。

 刹那、隼人の視界には申し訳なさそうな美香の顔と、その表情とは裏腹のナイフが視界に映った。


□◇□◇□


 意識が戻ると、隼人はカーペットの上で寝ていた。

 横を見ると、美香の顔があった。

 そしてやや時間差で、美香は起き上がった。


「あっちの時間は止まってた?」


 そう言ったのは、先程指を鳴らした男性だ。

 隼人は男性の()いに頷くと、少々満足気な顔で2回頷いた。

  

「さて、君のワールドは少々覚醒させるのに時間がかかるから、僕達イレギュラーについて説明をしよう」


 男性はそう言うと、隼人に対して歓迎の笑みをうかべた。


「僕は田辺幸彦(たなべゆきひこ)だよろしくね」

「僕は山崎隼人(やまさきはやと)です」


 田辺は再び笑い、ソファに座った。

小説の更新は、毎週土曜日に更新します。

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