一話目 仮面男
前回のあらすじ
美香と仲良くなったら殺された by隼人
隼人には今の状況が理解できなかった
気付けば隼人は、人通りの少ない路地裏に立っていた。
まるで立ちながら眠っていて、夢から覚めて、それで今の状況に居る。そんな感覚に陥っていた。
だが、隼人はさっきの出来事が夢で無いことは理解している。
故に、今の状況が理解できなかった。
「な……。」
隼人は、何だ、と言おうとして、それが意味の無い言葉だと気付き、途中で口を閉じた。
ここにいても状況を理解できないと思った隼人は、この路地裏から脱出することにした。
幸いにも、すぐに大通りに出た。
人が居て、車は普通に走っていて、普通だ。
そういえば。と、そこまで現状を理解したところで、ひかれるときに美香が言っていた事を思い出した。
確か、探してと言っていたはずだ。
美香の指示通り、隼人は近くを探すことにした。
探しだして五分も経っていないが、美香はすぐに見つかった。
向かいの歩道に、携帯をいじっている美香を発見した。
隼人が横断歩道をわたろうと小走りになったとき、すぐさまその足を止めた。
男二人が、自分に近づいてくるのだ。
その雰囲気は異様だ。
真っ白の凹凸が無い仮面を着け、上に紺色のパーカーを着ていた。
隼人は理解するのではなく、本能で自分は狙われているのだと分かった。
そして気付けば、隼人は地面を蹴って、走り出していた。
それに合わせて仮面男達も走り出す。
やはり狙いは僕か。ここで隼人は仮面男の狙いを頭で理解した。
ふと、向かい側の歩道を見ると美香は隼人に気付き、少々慌てた様子で今しがたいじっていた携帯をしまい、走り出した。
隼人は自分が目を覚ました路地裏へと逃げ込んだ。
だが、隼人はランニングなどは高校生以来やっていない。
太りにくい体質で痩せているため、周りからは運動系と勘違いされるが、隼人は決して体力は無いのだ。
当然、隼人の心臓と肺はすぐに限界に達した。
そして、脚が縺れ、その場に倒れた。
仮面男二人も、肩を軽く上下させつつ、隼人に近づいてきた。
だが隼人は恐怖を感じていなかった。
むしろ、仮面男二人は味方かもしれない、という目で見ていた。
追われてる理由までは理解していないからだ。
だがそんな余裕も、すぐに恐怖へと塗り替えられた。
仮面男の一人が、隼人の頭に銃を突きつけてきたのだ。
幸い、まだ仮面男は引き金に指をかけていない。
助かる見込みはある。
サッカーを小さい頃から高校までやっていた隼人は、状況判断に長けていた。
仮面男はまるで隼人を品定めでもするかのような振る舞いで、銃を押し付けてきた。
そして、隼人が一瞬銃口から目を離した時、金属が噛み合う音がした。
再び銃口に視線を向けると、仮面男の指が引き金にかけられていた。
万事休すだ。
そう思ったと同時の事だった。
急に男の手が力を抜いた。そして銃が地面に落とされる。
何が起きたか。
そう思った瞬間、今まで銃を突き付けてきた仮面男が首から凄まじい勢いで血を吹き出しながら地面に倒れた。
さすがの隼人でも、こればっかりは状況を判断出来ない。
唖然としている隼人をよそに、もう片方の仮面男も首から血を噴射した。
男は首を抑える。だが、無駄だ。抑える手の隙間から赤黒い血が溢れ続ける。
仮面男が悶え苦しみながら息絶えた時、隼人の目の前の景色がグニャリと歪んだ。
その歪んだ景色は段々と形を成していった。
そしてそこには、血まみれのサバイバルナイフを持った見知った女性が居た。
それは、返り血を浴びて全身血塗れになった美香だった。
□◇□◇□
美香が死体を片付け、隼人が返り血を拭いた後、近くのカフェで珈琲を飲んでいた。
因みに美香も返り血を拭いたのでついていない。
もちろん、二人共着替えてある。
「さっきの…なに?」
隼人は美香が透明になっていた事について聞いていた。
美香は隼人の言葉に反応し、珈琲を飲みつつ隼人を一瞥した。
「ワールド。」
「ワールド?」
「この世界で使える特殊能力の事。」
「僕には無いぞ?」
「いえ、あるわよ。ここに来て間もないから自覚が無いだけ。」
「そう……そうだよ、ここって何処なの?」
「皆がパラレルワールドって呼ぶ場所。」
「なら僕がこの世界にもう一人いるのか?」
「いいえ、私たちは例外だから居ないわ。」
「僕は一人って事?」
「ええ、私たちにとってここはあくまでアナザーワールド。」
「今いる世界以外パラレルワールドに僕たちは居ないのか。」
「ええ、隼人くん、意外と落ち着いてるわね。」
「一回死んでるからね。」
「それは…悪かったわ…。」
そういう美香は本当に申し訳なさそうだ。
生に関して執着の無い隼人は、案外どうでもよかったのだが。
もっとも、生きてる楽しみが、目の前で珈琲を飲んでいるのだが。
「僕、意味なく殺されたわけじゃないんだよね?」
「ええ、あなたの意思を無視したのは反省してるけど…。急いでて…。」
「そうか…ところで、あの仮面男達は?」
「あいつらは…宗教の狂信者どもよ。」
「宗教の?」
「私達みたいな存在は神の冒涜だのって言って、見つけ次第殺しにかかってくるの。」
「よくわからないね。」
隼人がそういうと美香は珈琲を飲み干し、椅子から立ち上がった。
それにつられて隼人も立ち上がる。
「さて、仲間のところにいって詳しく説明するわ。」
隼人はその言葉に頷いた。
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