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九話目 平穏

前回のあらすじ

瞬間移動やでぇ(ドヤァ by隼人

 しんとしている倉庫の中、隼人は何もすることが無く、自分の右手人差し指を弄っていた。メンバーはいつも通り、美香と田辺と隼人、そして最早隼人の付き人と化した高嶋に、その隣に愛理がソファに座っていた。

 ソファは倉庫の出入り口方面以外の三方面に設置されており、その中心に小さいテーブルが設置されている。

 愛理が、人差し指を弄る隼人に対して、怪訝な目を向けていた。隼人はその目に気がつき、顔を上げた。


 「なに?」

 「なんでそんなに暇そうなのよ。」

 「さぁ……やることが無いから?」

 「探しなさいよ。」


 愛理だって、と言いかけて愛理の手に雑誌が握られてるのに気付き、口を閉じた。

 だが、やることを探せと言われてすぐ見付かるなら、人差し指など弄っていない。

 それを見かねてか、気遣ってか、高嶋が右手から本を出し、隼人に差し出した。

 

 「俺の、愛読書。」

 「お、レリック・ジェナーズの著書かい?高嶋くん、君に読書の趣味があったとはね。」


 新聞を読んでいた田辺が、新聞紙の陰から顔を出し、真っ黒の表紙に金色の字で書かれたタイトルと著者の名前を見ると、やや興奮気に言った。


 「その、レリック……シェーン?」

 「ジェナーズだよ。」

 「あぁ、レリック・ジェナーズって言うのは有名なんですか?」

 「オリジナルワールドでいうウィリアム・シェイクスピアだよ。」

 「かなり有名じゃないですか。」

 「うん、読書好きで知らない人は居ないね。」

 「へぇ……。」

 「でも、高嶋くんが君にすすめた作品はレリックが書いた本の中でも結構最近の作品だよ。」

 「生きてるんですか?」

 「現役だよ。知名度がウィリアム・シェイクスピア並みってだけだよ。」

 「へぇ。」

 

 隼人は田辺の話にあいづちをうちながら、高嶋の差し出している本を受け取った。

 革の様な質感の真っ黒な表紙には、金色の字で、著者の名前以外に、revolt、と書かれていた。

 小規模な反乱を表す単語だ。ということはアクションだろうか。

 隼人は、革とそれ覆われた厚紙の重量を感じる表紙を捲り、最初の一行を読み始めた。


□◇□◇□


 隼人はrevoltを半分ほど読んだ後、しおりを挟み、程よい疲労感の余韻に浸かっていた。

 そんな隼人を見て、何もすることが無くなった田辺は、話し掛けるタイミングを見ていた。

 そんな田辺に気付き、隼人は田辺に話し掛ける。

 

 「面白かったですよ。」

 「お、そうかい?」


 それを聞いた田辺の表情は満足そうだ。


 「はい、ハンジとミラルが研究所から脱出する章はハラハラしましたね。」

 「普通なら脱出して終わりなんだけどね。レリックのすごいところはその後日談(ごじつだん)を蛇足にさせないところだね。」

 「あ、僕まだ読んでないですね、後日談。」

 「あぁ、ハンジとミラルの恋愛話が始まるのに!」

 「恋愛ですか?あ、そういえば、研究所から逃げるときに囮になったナザレはどうなるんですかね?」

 「え?あぁ、それがね……後日談で出てくる新勢力の敵役で出てくるよ。」

 「へぇ、結局どうなるんですかね?」

 「いいの?」

 「気になっちゃいまして……。」

 「ハンジが死んでおしまいだよ。」

 「え、バッドエンドじゃないですか。」

 「うん、ミラルを庇って死ぬんだよ。」

 「へぇ、なんていうか……あ、ありがとうございます。」

 

 あぁ、それとね。と、田辺は続ける。


 「主人公のハンジは最後の最後まで人を殺さないんだ。それなのに、鬼気迫るものを感じる。鳥肌がたつよね。」


 田辺はそれを自慢気に話すが、対照的に隼人は自嘲気に笑った。

 田辺は舞い上がった笑顔からいつも通りの薄笑いに戻ると、隼人を見詰めた。


 「僕、この前の戦闘で、ワールドを初めて使って人を殺しました。」

 「うん。美香から聞いたよ。」

 「僕、初めての人殺しだったのに、罪悪感とか恐怖感とかを全く感じなかったんです。」

 「……。」

 「人格と決めつけて瞬矢なんて名前つけましたけど、あれって本当は自分の意思だったんじゃないかって思うんですよ。」

 「まぁ、それでも正当防衛じゃないか。法律でも、イレギュラーとヒラルカ信者の殺し合いは罪に問われないしね。」

 「法律では、ですよね。」

 「……まぁね。」

 「やっぱり、初めての人殺しで罪悪感もなにもわかないのは、人間としては間違えてるんでしょうね。」


 隼人がそう言うと、田辺は少し考えるような素振りをして、しばらく紅茶が注がれてるコップを見詰めると、やがて口を開いた。


 「僕は罪悪感を感じたよ。」

 「そうなんですか。なんでその人を殺したんですか?」

 「分からない、覚えてないんだ。でも、凄く辛くて、何度も何度も謝りながらその人を殺したのは覚えてるよ。でもさ、」

 

 でも。田辺はそこで言葉を区切ると、コップから隼人へと視線を移した。


 「君は間違ってないよ。」


 そう言う田辺の顔は、いつもの薄笑いは無く、まさに真剣そのものだった。

 隼人は、再び自嘲気に笑うと、小さな声で、ありがとうございます。とだけ言って残りの紅茶を飲み干した。

 

 「重っ苦しいわね、あなたは美香と高嶋くんを守った。それでいいでしょ。」

 「でも……」

 「それに、あなただって紛れもない人なの、田辺の殺しは不本意の殺しだったかもしれないけど、あなたの殺しはあなた自身及び、私達を助けた殺しなのよ。罪悪感を感じることは無いわ。」


 愛理は隼人を励まそうとしてそう言った。

 そしてその後、自分の言ったことが相当恥ずかしい事だとでも思ったのか、顔を赤くして、つまりそういうことなのよ!と言うと、読んでる雑誌で顔を隠してしまった。

 全く恥ずかしい言葉では無いのだが。むしろ、隼人は愛理の言葉で、少し気が楽になった。

 隼人は、雑誌の向こうで顔を赤くする愛理に礼を言うと、美香と高嶋の事を見た。

 高嶋はいつも通りの無表情だが、美香は仄かに笑みを浮かべ、頷いてた。

 隼人は、そんな美香に微笑みを返した。

 

□◇□◇□


 午後の六時頃、倉庫にフルメンバーが集まっていた。夕食だからだ。

 愛理を入れた総勢九人が集まったのを確認すると、田辺はパン!と手を叩いた。

 

 「さぁ皆、知ってると思うけど……」

 「しらなーい。」

 「真奈美ちゃん……僕まだ何も言ってないよ?えっと、彼は隼人くんだよ!」

 「あ、平和ボケ男じゃん。」

 「コラコラ真奈美ちゃん。あのね、皆隼人くん、皆のこと何も分からないだろうしと思って自己紹介しようと思うんだけど。」

 「自己紹介ですか?」

 「うん、皆だって隼人くんの事、名前以外知らないでしょ?」

 「まぁ……。」

 「じゃあ自己紹介やろうか!」


 田辺が一際大きな声でそう言うと、美香と高嶋と隼人と愛理を除いた四人がブーイングした。

 だが田辺はそれを気にせずに、進行を続ける。


 「じゃあ隼人くんから。」


 田辺が隼人を指名する。

 隼人がみんなの顔を覗くと、ブーイングしていたにも関わらず、黙って隼人の目を見詰めていた。

 隼人は皆の目線が自分に集まってるのを確認すると、深呼吸をした。


 「……え、と、じゃあ……」


 そして、隼人は躊躇いつつも、口を開いた。

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