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七話目 サディスト

前回のあらすじ

愛理!久しぶり! by隼人

 隼人は愛理の手によって様々な拷問を、否、発動条件を発見するための実験を三日間にわたって行った。

 三日間に及ぶ実験の結果を言うと、隼人にワールドの存在は認められなかった。

 ワールドがない、とはいえ、殺すとオリジナルワールドに転生され、オリジナルワールドで死ぬとアナザーワールドにちゃんと戻ってくるのだから、隼人がイレギュラーであることは言わずもがなである。

 愛理はこの実験結果には頭を抱えていた。

 最初は自分の趣味も兼ねた楽な仕事程度にしか思っていなかったが、蓋をあけてみれば、あるはずのワールドが存在せず、本当に頭を使わないといけない事態にまでなったのだから当然だ。

 生まれながらの負けず嫌いである愛理は、真面目に考える時間が増えると同時に、飲酒の量も増えていた。


 「精神的苦痛も駄目だなんてね…。」


 愛理は右手にペンを持ち、左手に酒を瓶ごとわしづかみながら、紙に書いてあるメモにバツをつけた。

 

 「なんか、ごめん。」


 そう言ったのは隼人だ。

 謝る隼人に、愛理が鋭い眼光を放った。

 

 「謝らないでくれる!?悔しいから!」


 突然愛理がヒステリックな声をあげた。

 同時に隼人の肩がビクッとなる。

 愛理は溜め息をついてペンを投げ捨てるように机に置くと、左手の酒を一気に飲み干した。

 

 「僕にワールドが無かったって事じゃないかな?」


 隼人が愛理の様子を見ながらそう言うと、隼人の目をじっと見据えた。

 だがすぐに目線を外し、顔を足元の方へガクッと向けると、愛理は小さく首を縦に振った。


 「ありえる話でもあるわ。そもそも私はイレギュラーについて研究してるわけでもないから確かなことは分からないけど、もしかしたらあなたが異例なだけかもしれないしね。」

 「きっとそうなんだよ。うん。」


 愛理は顔を上げると、背後にあるゴミ箱目掛けて空の瓶を投げ捨てた。

 ゴミ箱からガラスの割れた音が鳴る。


 「にしても納得いかないわ。」


 何かを決心したかのような顔をすると、愛理は勢いよく立ち上がった。

 あまりの勢いに、愛理が座ってた椅子が倒れる。


 「あなたがワールドを発動するまでお供するわ!」

 「え?いやいやいやいや!高嶋くんの護衛の手間が増えるし、愛理が住んでるこの建物はどうするの!?」


 隼人の言葉に愛理が顔をしかめる。

 そして倒れた椅子を左足のかかとで蹴り飛ばす。

 

 「文句ある!?」

 「文句なら今言ったよ!」


 隼人が反論した瞬間、愛理が懐からカッターを取り出した。

 

 「ちょ、それで何するの!」

 「どうせ何回も殺してるし、イラついたから殺す。」


 どうやら田辺の、瀬名(愛理)は殺人が嫌いという情報は誤りのようだ。

 隼人の目の前に天然の殺人鬼が現れる。

 いまの隼人に、殺人鬼に抵抗する術は無い。

 痛みを覚悟し、隼人は目を閉じた。

 だがいっこうに痛みを感じない。

 高嶋の気配を隼人は背後にはっきりと感じている。故に高嶋が止めた訳でもない。

 なら何故?隼人が恐る恐る目を開けると、そこには見知った顔があった。

 愛理じゃない、見知った顔。

 その人が愛理の右手を止めていた。


 「イレギュラーはあんたみたいなサディストのストレス解消道具じゃないのよ。」

 

 その人は、紛れもなく美香だった。


□◇□◇□


 「んーっ!んーっ!」


 口元に貼られたガムテープの向こうから、何かを叫んでいる。 

 その声の持ち主は愛理だ。

 あの後愛理は、なすすべ無く美香にカッターを奪われ、気絶させられ、そして拘束されてガムテープを口元に貼られた。

 正直、そこまでする必要があったのかは不明だが、隼人は敢えて何も言わずに美香の好きなようにやらせた。

 因みに、愛理は縄で拘束されているのだが、何故か亀甲縛りだ。

 美香曰(いわ)く、多少の侮辱(ぶつじょく)がこのサディストには必要、だそうだ。

 高嶋は拘束というジャンルに興味があるのか、涙目になって亀甲縛りをされている愛理をまじまじと見詰めていた。

 それを見て、高嶋くんはムッツリだな、と思う隼人であった。

 それはさておき、愛理は美香と隼人、主に隼人に向けて怒りの眼光を飛ばしていた。

 そのまま物理攻撃になりかねない程に鋭い眼光だ。


 「んんっんー!んんー!?」


 愛理が必死に何かを訴えている。

 隼人達はそんな愛理を無視することにした。


 「美香さん、なんでここに居るの?」

 「つけてたのよ、こんなサディストと隼人くんをあわせるのが心配でね。」

 「建物の中にはどうやって?」

 「透明になって隠れ場所探して、それでずっと隠れてたのよ。見つかりそうな時だけ透明になってね。」


 美香が愛理を見る。

 隼人も愛理を見た。

 高嶋は元から見ている。

 三人の目の前に屈辱(くつじょく)的な姿を晒している愛理は、三人の目線が自分に向けられている事に気付くなり、いっそう目をうるわせ、更に頬を赤めた。

 あぁ、駄目だ、それじゃ高嶋くんの餌食だ。隼人はちらりと高嶋を見る。

 感情を表に出さない高嶋が、明らかに興奮しているのが伺える。 

 外見的な意味で無く、雰囲気的な意味でだ。

 美香は、流石に愛理が可愛そうに思えてきたのか、愛理に近付くと、口元のガムテープを剥がした。


 「ちょっと!どういうつもりよ!あと、なんでそんなに私をジロジロ見るのよ!高嶋くんは!」


 瞬間、高嶋はハッとした表情を浮かべると、美香と隼人を交互に見た。

 その後、高嶋はバツ悪そうに愛理から目を離し、壁に寄りかかった。


 「あんたがやってきた事に比べたらまだましでしょう?」

 「べ、別に私は頼まれてやっただけよ!?」

 「あら?イラついたから殺そうとしたのも、頼まれての事なのかしら?」


 ぐぬぬ。愛理はまさにそう言ってそうな顔をした。

 美香は何も言えなくなった愛理を見ると、ナイフを取り出した。

 この行動には流石の隼人でも焦る。


 「美香さん?愛理はイレギュラーじゃないからね?」

 「わかってるわよ。」


 美香は愛理にナイフを突き立て、縛っている縄を切った。

 亀甲縛りと、高嶋の目から解放され、愛理はその場で楽な体勢をして座った。


 「悪かったわよ…。」

 「どうせ、あなたのことだから、最初はまともぶってたんでしょ?」

 「う…否定はしないわ。」

 「やっぱりね。」


 美香はナイフをしまった。

 そして、隼人の方に向きを変える。


 「さて、ここに居ても仕方無いし、倉庫に帰りましょうか。」 

 「そうですね。あ、美香さん、愛理がついてくるって言ってたんだけど。」

 「別に、彼女はイレギュラーじゃないから、大丈夫よ。ヒラルカ信者達に危害は加えられないわ。」


 隼人は、あっ、となった。

 自分がヒラルカ信者に狙われて、ヒラルカ信者が人を傷つける人達と認識していたが、奴等はイレギュラーしか狙わないのだった。

 隼人は自分のドジに軽く笑いながら、そうですね、と言った。

 結果、隼人、美香、高嶋、愛理の四人でDH地区へ戻ることとなった。

 高嶋を先頭に、その他三人が高嶋に着いていく形でSN地区の中を歩く。

 SN地区は、AM地区程栄えてない訳では無いが、DH地区程栄えてる訳でも無い。

 愛理の話によれば、隣のSY地区はDH地区程栄えているらしいが、それはSN地区の人達がSY地区へと出稼ぎに行ってるからだという。

 この説明をしてる時の愛理は終始ドヤ顔だ。

 まるで、私だってまともなんですよ。ただのサディストじゃないんですよ。とでも言うかの様に、ドヤ顔を見せ付けてくる。

 それに対して隼人は愛想笑いしか出来なかったが、愛理が満足気な顔をしてるので、よしとした。


 「あ、ちょっと喉乾かない?」


 ちょうど自販機の前を通った時、隼人が皆に聞いた。

 愛理以外の二人が頷く。

 愛理は外に出る前、酒を大量に飲んだのだから、当然だ。

 隼人はオリジナルワールド在住時の癖で、ポケットから財布を取り出した。

 だがここで気付く。

 オリジナルワールドの通貨がアナザーワールドの通貨と違うことを。

 仕方なく、三人の所へ戻ると、美香が笑顔を浮かべながらアナザーワールドの通貨を隼人に渡した。

 隼人は、美香に笑い返しながら礼を言うと、再度自販機の前へと向かった。

 今度は人数分の飲み物を買い、三人の元へと戻る。

 美香がミルクティー、高嶋が炭酸飲料、隼人がブラックコーヒーを買った。

 隼人を含めた三人共々が、それを歩きながら飲んでいく。

 オリジナルワールドの珈琲と比べると、アナザーワールドの珈琲は少々味が落ちていたが、隼人は気にせずに飲み干し、道中のゴミ箱へと空き缶を投げ入れた。


 「ちょっと、僕トイレ行きたい…。」


 飲み終えた直後、隼人が申し訳なさそうに言った。

 高嶋は無表情で、美香は気にしない顔で、行ってきなよ、とジェスチャーで表し、愛理は少し顔をしかめた。

 隼人は謝ってから近くの路地裏へ行った。


 「ふーっ。」


 目的を果たし、戻ろうと思った時、進路方向にヒラルカ信者が居た。

 助けを呼ぼうとしたが、隼人は寸前で中断する。

 美香達の存在がばれてしまうからだ。

 だが、だからと言って隼人に戦闘する力があるわけでもない。

 やはり呼ぶべきか。

 呼ぶか呼ばないかの二択で迷っていると、ヒラルカ信者が隼人に気付き、走り出した。

 隼人は無意味と分かっていても、拳を握りしめた。

 そして、ヒラルカ信者が近づいてくるのにあわせて、右手に力を込め、パンチを繰り出す。

 隼人がそうしようとした時、腹部から長く、分厚い刃が突き出た。鉈だ。

 その瞬間、走ってきていたヒラルカ信者の進行が止まる。

 

 「グフゥ…。」


 隼人の口から大量の血が吐き出される。

 そして、鉈が引き抜かれ、よろめく隼人に再び鉈が突き刺さる。

 今度は右胸に。

 ヒラルカ信者は隼人を死にはしない程度で、かつ、常人では耐え難い痛みを与えてくる。

 そして、鉈がもう一度右胸を突き出た時、隼人の意識は闇の中へと落ちた。

 同時に、ヒラルカ信者の視界から隼人の姿が消え去った。

 直後、背後から隼人のすすり泣く声が、ヒラルカ信者の耳に届いた。

 隼人の様子は、異様だった。

無ノ篇 終了 「無力の篇」


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