第三話 告白
1147.7.20.10:02
X:-14.34:24:24 Y:-24.12:56:09
グランゼ王国カルバン州ルーベン自治区 モルディン
寝坊をした。
昨夜は結局、日が登るまで寝付くことは出来なかった。
ジャケットを着込み、襟を整える。父さんから貰った剣を取り、入学時に購入したロングソードの鞘に差し込んだ。サイズはピッタリだ。
腰のベルトのカチリとくくりつける。
姿見を見るとなかなか様になっているように思った。
階下の食堂へと向かう。
窓から見える景色は昨日と同じように、快晴だった。今日はコルドさんに会いに行くのだ。
「おはよう。今日は遅かったわね」
いつもと変わらない母さんの笑顔がキッチンから覗いた。
「おはよう。今日はお客さんもういないんだね」
食堂を見渡すと食べた後の食器だけがテーブルの上に残っていた。僕はテーブルにある食器を取り、流し台に置いた。
「昨日、お仕事お休みになっちゃったから、今日は頑張るらしいわ」
なるほどね。
母さん特性のブレッドサンドをテーブルに並べ、ミルクをコップ一杯に入れイスに座る。
「今日は遊びに行くの?」
食器を洗いながら心配そうに聞いてくる。
「今日はヴァニラと約束があるから、隣町に行ってくるよ」
本当の事は言えなかった。まだ、母さんに話せるようなことが無かったのだ。
ブレッドサンドを一気に食べる。
「あんまり迷惑かけないようにね」
大丈夫だよと言いミルクを飲み干した。
****
1147.7.20.10:37
外に出ると日差しが暖かく、もうすぐ冬だとは思えないほどの心地良さだった。
この地方の気候は一年を通して冬の期間が長く、夏の期間は2月ほどで今は冬へ切り替わる境目の期間であった。
「いってらっしゃーい!」
母さんはいつも通りに見送ってくれた。
大袈裟に手を振る母さんに手を振り返した。
さてヴァニラの様子でも見に行こうとまずは、ハートウィール家へと足を向けた。
町を歩いていると昨日のあんな事があったにも関わらず、いつもと同じ風景があり何だか不思議に思えた。
橋を渡り川を見下ろす。
昔は木材の運搬にこの川を使用していたらしいが、今ではただの生活用水をまかなうだけとなっている。港までの運搬には列車を使うようになり、無用となってしまったのだ。
ハートウィール家に着き、玄関先にヴァニラの姿があった。いつもと変わらないように花に水をやっていた。その光景が日の光とあいまって綺麗に思えた。
「ヴァニラ」
ビクッと体が動き、水差しの水がおもいっきり零れ、キャッっという小さな悲鳴が漏れた。
「ちょっと!後ろからいきなり声掛けないでよ!スカート、濡れたじゃない」
手でスカートの水を払う。
僕はゴメンと軽く手を合わせる。
ヴァニラはブツブツと文句を言いながら、ふと俺の腰に下がっている剣を見ながら言った。
「今から行くの?」
「ああ。やっぱり、父さんの事知りたいから」
俺は柄を握りながら答えた。
「じゃあ、ちょっと準備してくるから待ってて」
「えっ?ちょっと待っ」
もうヴァニラは目の前から消えていた。
落ち込んでたりするかなって思っていたけど、無駄な気苦労だったな。
僕はヴァニラの準備が終わるまでに昨日の一件についてルヴェールさんに説明していなかった為、謝罪も含めて挨拶しておこうと思い門をくぐった。
「こんにちは」
誰もいない店内に声を掛ける。
カウンターの奥からルヴェールさんがひょこっと顔を出した。
「あら、マルス君。昨日はウチの人が迷惑掛けてごめんなさい」
カウンターからこちらに出て深々と頭を下げた。僕はしどろもどろになり頭を下げながらこう言った。
「いえ、自分がもう少し慎重に行動していれば、早めに気付くことが出来たんですが」
「でも、怪我も無くて良かったわ。あの子もこれで懲りたと思うけど」
と門の方に視線を投げた。
「それにあの子を守ってくれてありがとうね」
ルヴェールさんは僕に柔らかく微笑んだ。何だか、照れ臭くなり顔を伏せた。
「マルス、準備出来たわよ!」
後ろから声を掛けられ振り向くと昨日より軽装のヴァニラがいた。
「お母さん、マルスと出かけてくるね」
ルヴェールさんは、ヴァニラが持っているバスケットを見て、ふふっと笑った。
「分かったわ。気をつけてね。マルス君、よろしくね」
はいっと一つ答えてヴァニラと2人、外へ出た。
****
1147.7.20.11:03
X:-16.34:24:24 Y:-24.12:56:09
モールスの森
昨日とは違って今日は森の中に沢山の人の気配がし、入り口にも作業員の道具が散らばっていた。
「待ち合わせ場所とか決めて無かったけど、どこに行く気なの?」
ヴァニラが小首を傾げながら聞いてきた。もちろん、僕にも当ては無いが。
「昨日の様子から作業員の居ない所に隠れていると思うんだ。だから、多分、泉の奥に向かって歩けばあっちから見つけてくれると思う」
泉は作業員にとっては休憩場の様な所ではあるが、その奥はモードゥナに近くなり作業員は全く近寄らない。その辺りになら人に見られることも少なくコルドさんが潜むならそこだろうと考えていた。
「さすが、王立学校生だね〜」
ニヤリと笑いの脇腹を肘でついてきた。
「じゃあ、そこまで散策だね。昨日は全く楽しめなかったし」
ヴァニラは跳ねるように先行して森の奥へ進んで行った。確かに、昨日は心の余裕も無く久しぶりに訪れたモールスの森を見て回る事ができなかった為、いい機会だと思った。
子供の頃は良く母さんに付き添ってお弁当を届けに来たり、ヴァニラと切り株に座って読書に耽ったりとよく訪れたものだった。
ここに来なくなったのは、王立学校に入学してからかな。
周囲を見渡すと昨日同様、綺麗な青色に染まった世界に包まれていた。たまに遠くから響く気を切る音がいいアクセントとなり心地よかった。
「そう言えば、昨日もそのバスケット持ってなかった?」
先を歩くヴァニラに何と無く気になっていた事を尋ねてみた。
「うん。中身は後のお楽しみだからね〜」
僕の方に振り向きながら教えないっと笑ってまた先を歩き出した。
「私もひとつ気になってるんだけど、今日持ってきている剣っていつものじゃ無いわよね?買ったの?」
「買うお金なんか無いよ。
・・・これは、昨日母さんから貰ったんだ。父さんからのプレゼントらしい」
僕は掻い摘んで昨夜聞いた父さんの話をした。
「そうなんだ。何かその話を聞くとコルドって人がおじさんの仲間の1人ってこともありそうね。同じように不思議な感じだし」
ヴァニラも同じように思ったらしい。ますますコルドさんの話が気になり出していた。
「あ!そろそろ着くよ!」
ヴァニラは走りだし、その後に続いて僕も走り出した。
木々が無くなり視界が開ける。青一色であった世界から離れ泉に到着した。今はお昼時なのかちらほらと人が泉を囲みご飯を食べていた。
弁当か、全く考えて無かったな。
お腹が空いてきた。
「私たちもご飯にする?」
ヴァニラが振り向きバスケットをポンポンと叩いた。
「えっ?作ってきたの?」
「マルスが作ったのより美味しくないかもだけどね〜」
バスケットをぱかっと開けて中を僕に見せつけた。ヌークのロース肉ブレッドサンドとミートボールが2人分彩り綺麗によそわれていた。
思わずおお〜とうなり声をあげ、口の中によだれが溢れ始めた。
僕たちは泉から少し離れた所の木陰に目星をつけ、そこにシートを広げささやかな昼食会を始めた。
ヴァニラが料理するなんて初めてのような気がする。
「いただきます」
ヴァニラは自信満々の様子で左の掌を返してどうぞのポーズを取り、ブレッドサンド指した。
まず、これから食べろって事か。
なんだろ。妙に緊張する。
ブレッドサンドをひとつ手にとった。ヴァニラの視線が行動一つ一つに刺さる。
一口、食べる。
モグモグモグ。
うん。美味しい。
僕の表情を見ていたヴァニラはどうだ!と手を腰に当てて胸を張った。
ミートボールはどうなんだろうと思い手を伸ばしたが、同時にヴァニラがブレッドサンドに手を伸ばした。
あぁ、これは作って無いんだな。
僕は思わず笑ってしまった。
「なによぉ」
「何でもないよ」
また少し笑って僕らはゆっくりと食事を楽しんだ。
****
1147.7.20.13:09
昼食を終え、僕らは誰にも見られないように泉を森の中から迂回し歩いていたが、今のところコルドに出会う事は無かった。当てが外れたのかと不安になりつつあったが他に方法が無かった為、散策を続けた。
「コルドさん、居ないわね」
僕たちは15分程モードゥナの方角へ歩いてみたが人影一つ見つからなかった。
「あの人なら俺たちくらい簡単に見つけてくれそうだけどな」
昨日のあの戦いを思い出す。あの人は見えない敵の位置を把握出来る方法を身につけていた。だから、歩き回ってもあっちから見つけてくれると踏んだのだが。
「もう少し歩いてもみよう」
そうねとヴァニラも仕方なくついてきた。
それから5分ほど歩いた時だった。突然に目的の人物が現れた。開口一発はよくここがわかったなだった。
「待ち合わせ場所も時間も指定していなかったからな。今日は来ないかと思っていた」
コルドさんは切り株に座り、本を読んでいたようだ。
「昨日からずっとここにいたんですか?」
ヴァニラは地面に腰を下ろしつつ聞いた。
「ああ。まぁ、ここは初めて来た場所だったから退屈はしなかったが」
コルドさんは本を袋の中に詰め込み、俺の剣をじっと見た。
「ほう。ガゼルから継いだのか」
「この剣を知っているんですか?」
「ーなるほど。本当に何も知らないんだな」
コルドさんは一つ咳払いをし、
「そのことも含めて順を追って説明しよう。お前たちにとっては信じられん事ばかりだろうが、質問は最後にしてくれ」
私も時間が惜しいのでねと付け加え話し始めた。
「まず、最初に言っておくが私はこの時代の者では無い。神代の頃から来た」
シンダイ?
ヴァニラと目を合わせる。
「神代とはお前たちにの暦が始まる以前の時代のことだ。聞いた事はないか?人神戦争の話を」
「神話の人神戦争ですか?」
「この時代にどのように伝わっているかは分からないが、その時代から来た。私だけではなく、お前の父ガゼルもだ」
「父さんが・・・」
僕とヴァニラは息を呑んだ。この人の存在感や衣服に違和感を感じた理由が理解出来た気がした。
コルドさんは腕を組み、
「お前たちは天星人という言葉は知っているか?」
「・・・神話に登場する神に仕える人々だと聞いています」
「なるほど。大まかに言えば、その通りだが・・・」
コルドは目線を遠くに移して、何か思い出す様に話し始めた。
「人神戦争が始まる前、私とガゼルとあと2人の仲間、この四人を四天星と呼び、天星人最期の生き残りだった。」
コルドさんは自分の掌を見つめながら、
「つまり、お前の父も私も天星人ということだ」
父さんが天星人?じゃあ、僕は・・・
「そう、ここでひとつ疑問が浮かぶ。マルス、君の存在だ」
コルドさんの視線が僕に刺さる。
「私がこの時代を訪れたのはある目的の為、ガゼルの力を借りにきたのだ。だが、アイツは行方不明。先に残りの2人を探そうと考えていたのだが・・・」
「お前自身、今の話を聞いて気にならないか?自分が天星人なのかを」
僕が天星人?
すぐに返事をする事は出来ず、某然としていた。
それを横目で見ていたヴァニラがひとつコルドに疑問を投げかけた。
「あの、ひとつ聞いても言いですか?」
コルドさんは僕から視線を外しヴァニラへと向けた。
「何だ?」
「ガゼルさんは何でこの時代に居たんですか?」
ふむ、と頷くと少し考え
「ガゼルだけでは無いのだが、私たち四天星は人神戦争のおり戦線を脱出する事となりそれぞれ別の時代に飛ばされたのだ。」
「ガゼルさんはこの時代に飛ばされてきたって事ですね。でも、ガゼルさんは何故この時代に留まったんでしょう?」
「ガゼルには・・・というより私以外には時を超える力は無いのだ。だから、この時代で一生を過ごすつもりだったのだろう」
ヴァニラは納得し、また何事かを考えるように顔を伏せた。
「マルス、君が自分の事を知りたいと思うのであれば、私が力を貸す。どうする?」
僕は・・・
「ーお願いします」
僕は頭を下げた。父さんの事が色々と分かってしまうとは思っていたが、自分の事でさえ知らないことがあるとは思ってもみなかった。
これは自分の事を知るチャンスだ。
「分かった。一応言っておくが天星人も人間も生物学的には全くの同一種だ。今後の生き方に影響は無い」
そう言うと、立ち上がり僕の前に歩み寄った。
「今からお前の体内に私の『リン』を送り込む。人が魔法を習得する時に使う方法だが、少し痛みを伴う。覚悟しろ。」
「『リン?』」
「魔学について学んだことは無いのか?」
僕は首を横に振った。
「リンとは魔法を発現させるための燃料のようなモノだ。魔法を使用しようとする場合、人はまずリンを体内に送り込む必要がある。」
「一度リンを体内に取り込むと、対象の生まれながらに持つ属性に付随したリンが大気中から自動的に補充される様になるのだがー」
一息付き、僕を見据えた。
「もし、君が本当に天星人であるならば、これを行うことで人とは違う結果が現れるはずだ。」
「違う結果?」
「ああ」
沈黙が流れる。
「さて、先程も言ったとおりこの方法は多少の痛みを伴う。しかし、死ぬことは無いのでその点は安心してくれ。覚悟はいいか?」
僕が頷いた事を確認して、コルドは手を僕の頭にかざした。横目でヴァニラが心配そうに僕を見つめているのが見える。
コルドのかざしている手からマルスの体に光の粒が落ちて行く。マルスの体に徐々に光がまとわりつき色が赤に偏光していく。
「火の元素か」
そう呟くと、かざしている手を引いた。ここまでくると後は自然にリンが集まり出す。ここから痛みを伴う。
ううぅぐぅうう
身体の中、背骨、腕に痛みが走る。まるで体の中にナイフが入りそれが血流に乗って移動している様だ。
悲痛な声が青い森に響き渡る。ヴァニラは祈るよう手を顔の前で組み目をつぶっていた。
「くるぞ」
コルドがそう呟くと、マルスの身体にまるで地面から湧き上がるように紅い炎が沸き立ってきた。
「マルス!!」
ヴァニラが立ち上がり助けようとするが、コルドの手が伸び制される。
「もうすぐ消える。元々体内にリンが無いのだ。私が与えたリンが枯渇すれば自然と効力が無くなる。」
私はコルドさんの言っていることが理解出来なかった。マルスに起きていること目の当たりにしていると落ち着いてなどいられなかった。助けなきゃと心が叫んでいる。しかし、コルドさんの左腕が私を守っていた。近づいたらただでは済まないのだろう。
「それよりも、マルスの左手を見ろ」
マルスの苦悶の表情を浮かべている下にある力強く握られた左拳に煌煌と不思議な紋が浮かんでいた。
「あれは・・・?」
「天星の紋。私たち天星人が魔法を使用すると浮かび上がる紋章だか・・・」
コルドはマルスに近づき、その場にひざまずきじっくりと観察をはじめた。マルスを覆っていた炎は消えかかり始めていた。
「通常は紋が浮かび上がる場所は額になる。手に現れるなど聞いた事が無い。それに、魔法の発現が終わると紋は自然と消えるのだが、マルスは未だに消えていない」
炎はもう完全に消えていた。しかし、確かにマルスの左手には火傷をした後の様に紋が刻まれていた。
「この後、マルスが起きるまで時間が掛かるだろう。身体が失ったと思っているマナを急激に吸収しようとしている」
ヴァニラは近寄ってマルスの左手を取り、その場に座り込んだ。
「ーマルス」
****
1147.7.20.15:42
僕が目を覚ましたのはあれから1時間程立った後だった。
ヴァニラが心配してくれていたのか目に涙を溜め、良かったと手を強く握ってきた。その時、左手に痛みが走り手の甲をみると不思議なアザができていることに気付いた。
「コレは?」
先ほど座っていた場所に戻り、初めに見た時と同じ様に本を読んでいるコルドが話し始めた。
「天星の紋だ。君は不完全な天星人という事だろう」
ー不完全
「これは私の予想なのだが、天星人と人の子である君には天星の力が中途半端に受け継がれたのだろう。その証拠に紋が額ではなく左手に、さらに消えずに焼き付いてしまっていることからもそう考える事が妥当だろう」
「しかし、魔法はしかっり受け継がれているようだな。」
「ヴァニラ、君は治癒術の手解きを受けているならマルスが人には習得不可能な魔法を使ったと分かるな」
ヴァニラはコクリと頷いた。
「リンには四つの種類がある。地水火風、これを四大元素と呼ぶ。人にはこれを直接利用し魔法として発現する事はできない。人が扱えるリンは隣り合う元素を複合した爆、氷、森、土などの複合元素と呼ばれるものだけなのだ。」
「君が先ほど発現させたのは破壊の力、火だ。少し訓練すれば自在に扱える様になるだろう」
コルドは本を閉じ、立ち上がってマルスの前に歩み寄った。
「これで私が確認したいことは終わりだ。これから話す事は私から君へのお願いだ」
コルドは頭を下げてこう言った。
「私に力を貸してくれ」
「私は先ほども言った通り仲間たちを探している。ガゼルはこの時代にいると思うが他の仲間も他の時代に行って探さなければならない。ガゼルの捜索に時間をかけるわけにはいかないのだ」
「父さんの捜索を俺に任せたいという事ですか?」
「そうだ。私の力を使ってガゼルがいた痕跡がある場所に飛ばす。その周辺から捜索を開始してもらう」
コルドは羽織っているローブをめくり、腰に差している大剣を抜き、地面に刺した。
「これは、クリッシュと呼ばれる剣だ。時間と空間を司る神クロノス様の神具。
この剣は使用者が望む場所、人の近くに時空間を超えて届ける力がある。これを使用して君を飛ばす」
「しかし、この剣は万能では無く、現在地から1番近くにある痕跡までしか飛べない。さらに、この剣に補充されているリンは間も無く枯渇してしまい使えなくなってしまうのだ。」
「そういう理由からあまり時間を無駄にはしたく無い。マルス、手伝って貰えるか?」
「ー明日まで時間をもらってもいいですか?」
僕は地面に目を落としそう答えた。今すぐに返事は出せない。まだ頭の中は混乱したままだ。
「分かった、明日またここに来てくれ。返事はその時に聞こう」
僕は立ち上がり、ここを跡にした。
****
1147.7.20.16:17
コルドと別れたあとヴァニラと2人、森を歩いていた。
「行くんでしょ?」
ヴァニラが平然とした顔でそう言った。
その通りだった。コルドから話を聞いた時点で心は決まっていた。しかし、その場で返事は出来ない。
「マルスまでいなくなったら、叔母さん悲しいと思う」
ヴァニラが下を向いて独り言のように呟く。
ー母さんに話さないとな
僕は無言で森を歩き続けた。