何時かの光景
初めて執筆した作品です。
読みづらい部分も多数あるかと思いますが、
楽しんでいただければ幸いです。
遠く下界に海が見える。
雲の隙間からではあったが、青く澄んでいて空を見ているように錯覚してしまうほどであった。
「泳いでみたいなぁ」
そんな独り言をポツリとこぼし、踵を返す。
先ほどの仲間との稽古で屈辱を拝した事を思い出し双剣を強く握る。これでアイツとの戦績は負け越してしまった。稽古は本日で最後だと師匠連中には釘を刺されてしまったのでなおのことだった。
白い欠けた壁の前に仁王立ちになる。
適当に間合いを取り双剣を抜く。
下界ではかなり貴重な鉱物を元に作り出した壁は頑丈で攻城砲でも破壊は難しいものだ。さらに、修復する技師も少なくなってしまった事もあり損壊すると結構な罪に問われてしまう。
―だが、今の私にとってはどうでもいいコトだ。
一閃
目の前の白い壁は大層な音を立て粉々に崩れていった。
それを見つめている事で私の中にあるこの言いようの無い苛立ちを少しは消すことができたようだ。
ちょっとは気が紛れたかな。
私は誰にも見つかれないようにそそくさとその場を後にした。
「第3管区神室に集合かぁ」
私はため息混じりにそう呟き、頭の中ではアイツをボコボコにしている情景を想像しながら集合場所へとニヤケ顔でむかって行った。
****
私はあらゆる知識が欲しかった。
魔学、工学、数機学、天文学、文化人類学、政治学、経済学・・・
だが、無駄だと感じている。
私たちは神であり人である。しかし、その両方から拒否されてしまう。これは学んだとしても埋められない溝だ。いずれ下界に帰る事が叶ったとしてもまた争いを生むだけだろう。
天界にいる者たちは人が卑しい存在であるがように振舞っているが歴史書を見る限り天界にも同様に争いがあったこと解る。
―結局どちらも変わらないのだ。
私は読んでいた魔法書を閉じた。
「短縮術式に組み込めば使えるか」
空に術式を書き込む。
基本的に魔法はそれ単体である効果を、現象を発動させるが私はそれを構成する術式を改変、合成することで新たな魔法を作り上げていた。
師事するあの方が持つ魔法を使えれば良いのだが、私たちは扱う事はできない。
「二重に陣を展開して、€£=δを連立させれば・・・」
術式が固定化される。
成功だ。
立ち上がり、書物庫を後にする。
ここにも勿論出入り口はない。四方を壁に囲まれた封鎖された場所だ。日の光や風が入らない為、書物は存外に損壊もなく綺麗だ。誰の目にも触れない事だけはふびんだが、それも仕方のないことだった。
「明日には私もどうなるか分からんが、ここを訪れることはもうないだろう」
私は友人達に別れを告げ、壁の中に消えて行った。
集合場所は我が師の神室か。
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俺は他人から見れば欠陥品なのだろう。実際、自分にはアイツらとは違って魔の素養が全く無かった。師匠も初めのうちは冗談だろうと笑っていたが、俺が真顔のままだった為、導師を連れて俺をその場で調べ始めた。結果は、俺の体内にリンは一粒として存在しなかった。
まさに「人」そのもの。
導師は震えながら言った、この者は「人」ではないかと。ただ、それはあり得ない事だと分かりきっていた。
「人」はここには居れない。
それに俺の額には紛れもなく「紋」が表れている。
師匠は笑いながら言った、面白いやつだなっと。
「貴様はワシが預かろう。最高の剣士にしてくれよう」
それからは剣術の稽古に明け暮れた。
魔を持たぬものが魔を持つもの以上の力を使えること教えてやると師匠は口癖のように言った。多分、自分が欠陥品であるという意識を払拭する為に、自信を付けさせる為に言っていたのだろうと思う。
「ガサツな癖に気ぃ回しすぎなんだよな」
参道を歩きながら毒を吐いた。
両側に立つ衛士が俺を訝しげに見つめていた。
まぁ、俺がここにいるのはおかしいだろうがそんなに睨まなくてもいいだろうに。
第3管区の門に着いた。構えは大きく、どんな巨人がこの奥にいるのかと考えてしまう程だが、実際にこの門が開かれる事はそうそうに無いのだろうと思う。
「クロノ様からお招き預かりました、第12管区守護剣士ジンです」
門番に対し敬礼しつつ、述べる。
門番は何かを確認すると、ご苦労様です。と敬礼し左にある勝手口を開けた。
これからどんな事が申し付けられるのかは分からないが、自分にとってはこれはチャンスに思えた。
欠陥品である自分に巡ってきたチャンスだと。
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天界の端、管外のさらに奥地に僕はたどり着いた。
打ち捨てられた古代の建造物が並び此処でどのような生活があったのか想像する。
天使い達は、自分達こそ世界の守護者である様に振る舞いその文明を謳歌していたのであろう。
今では建造不可能となった技術が此処には溢れていた。
そんな時代に生まれなくて良かったと思う。自分自身は神と人との子など云われたが、そんなことは一切なく人と変わらない。生物学的には人と同じだとある医者が教えてくれた。
だから僕はやっぱり「人」なのだろう。
そんな同じ人が人の上に立ち管理するなど僕には出来ない。
僕は下界にこそ生きていたい。
「そこに誰かおるのか?」
後ろから老天使いが声をかけた。
「ガゼルか。また散歩か?」
「いえ。おじいさんこそ、こんな所でどうしたんです?」
「なに、昔が恋しくなっての。・・・ちょっと散歩じゃ。」
そういえば、昔この辺りに住んでいたって話を聞いた事があったっけ。
戦闘が始まって第12管区に移ったって。
おじいさんはある一つの建物を見つめていた。
「やっぱり、建物自体は頑丈だの。といっても床に穴が空いては住めんが。」
祈るようにその場に跪き黙祷を捧げた。
「ガゼル。今でも下界への興味は変わらんか?」
小さなアイオラの花を門前に捧げながら呟いた。
「―はい。」
立ち上がり、礼を行う。
そうか。とおじいさんは言い踵を返してふと思い立ったようにポツリと一言。
「そういえば、お主。今日は大事な日ではなかったか?」