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ヒーローの成り方  作者: 立花明日夢
第一幕
9/31

第9部 人助け

-前回のヒロ成!-

若菜と愛里の行方不明から、拓也は玲人とシズクを引き連れ彼女らの捜索を開始した。

犯人からの電話により、居場所を学校と絞ることは出来たが、学校内の具体的な位置までは自分たちで絞るしかない。

制限時間は10時。この時間までに見つけられなければ人質の安全は保障されない。

最後の探索箇所、剣道場を調べてみたが、鍵もかかっており、中に入ることは出来なかった。

約束の時間10時がやってくる。

誰も見つけてなければ拓也の負けだ。

仲間を信じようとした拓也の前で、剣道場のカギが開いた。

中から犯人と思わしき男が現れ、愉快そうな声でこう言った。

「ゲィム、オーバー♪」

 間に合わなかった……?

「卑怯者!」

 道場内から若菜の悲痛な叫びが聞こえる。

「内側から鍵をしていれば、入れぬのは当然ではないか!」

 ……そうだ。そもそも入れなければこのゲームは成り立たない。ならばこんな出来レースなんて無効のはずだ。

「全く元気がいいねー、アイドルさん。俺は言ったろ? 入れば正義の勝利、って。どうだい? 助けれそうなのに助けれないという気分は? 絶望した? 俺ら悪役はその甘ったるい正義を潰すならどんな卑怯なことでもやるってのが筋なんだよ!」

「そんな下らぬ筋があってたまるものか!」

「あー、もう五月蝿いな……」

 大柄な男が椅子に縛られ身動きの取れない若菜の元へ歩いていく。だめだ、近づいちゃだめだ!

「や、やめろ! それ以上若菜に近づくな!」

「じゃあ止めてみなよ! 威勢のいいお坊ちゃん!」

 僕の必死の威嚇は男の咆哮にかき消された。

 彼の主張はごもっともだ。あの男を止めたければ、直接止めればいい。威勢だけでどうなるものでもない。頭では理解していても僕には声を出すことしかできなかった。

 こうしている間にも、男がどんどん若菜に近づいていく。男の笑みとは対照的に、若菜の顔が青ざめていく。

「ほーら、アイドルさん。君が助けを求めた竜崎拓也君はなーんにもできずに、ただ傍観しているよ」

 男は僕を挑発しつつ、一歩、また一歩と若菜に近づいていく。

 そうだ、僕は非力だ。わかってる。

 男はとうとう若菜の元にたどり着き、彼女の唇に自分の唇を近づけた。

「さぁて、どう遊ぼうかね……」

 あと少しだけ勇気があれば……、救えるのに……。

 嫌がる若菜の唇が、少し、ほんの少しだけど動いた。あれは……何か言おうとしているようにも見える。。

 僕は彼女の口の動きから、言葉の解釈を試みた。


 ―よ・わ・む・し―

 彼女は確かにそういっていた。


 またか……、またそうやって君は僕を弱虫と罵るのか。

 あの公園掃除の頃と、今の僕を同じように弱虫と罵るのか。

 あの頃の僕ならこうやって君を助けようと努力したかも分からないのだぞ。

 それでも僕は、君を助けに来たんだ。

 僕は、僕は……。

「弱虫なんかじゃないんだ!」

 地面を力強く蹴り飛ばし、若菜に触れようとする欲望にまみれた男まで走りこむ。

「若菜に……触れるな!」

 そして、男の顔面に飛び蹴りを食らわせた。


[八]

 不意を突かれ、飛び蹴りを思いっきり食らった男は、体勢を崩して床に転がった。

「いってぇな! てめぇ、ざけんじゃねぇぞ!」

 男は立ち上がり、僕に向かってガンを飛ばす。しかし、それに恐れることはない。僕は男の暴言に耳を傾けず、若菜の瞳を見つめた。

「若菜、一つだけ教えておくよ。僕が本当に怖かったのは彼らの報復でも、悪いことをする人達でもない。僕が怖かったのはそれに関わったことから生じる、僕への周囲からの奇異の眼差しだ。『あいつはあんな奴だったのか』って視線を向けられるのが怖くて怖くて溜まらなかったんだ」

「あぁ? てめぇ、無視してんじゃねぇぞ!」

「貴様に話してるんじゃない、黙ってろ」

 今度は僕が男を睨む。僕の変貌振りに男もかなり驚いているようだ。

「でもまぁ、今は仕方ないね。君は僕のことを怖がらないでほしいな……」

「拓也……?」

 若菜には僕が何を言っているのか分からないだろう。僕はキョトンとした若菜の頭を軽くポンポンと叩いた。

「調子に乗りやがって! おい、てめぇら! このお坊ちゃんとちょっと遊んでやれ!」

 大柄の男の指令と共に、愛里に手を出そうとしていた子分二人組が僕に殴り掛かってきた。

 一人目。

 相手は僕の後ろから右ストレートを仕掛けてくる。僕は振り返りざまに相手の右腕を右手で掴み、円の動きで背中に回しこむ。そして痛みで苦しんだ相手の背中に、蹴りを一発だけ入れる。バランスを崩した男は大柄の男の足元に転がっていった。気絶するレベルで攻撃したので動く様子はない。

 二人目。

 男を蹴り飛ばした僕を、もう一人は後ろから抱きしめるように抑えてきた。僕は瞬時に両手を自分の腹の前にだし腕を張る。すると男の腕が少し広がり空間が出来るので、下にしゃがみながら振り向く。そして立ち上がるのと同時に顎に拳を叩き込んだ。相手が苦しんだところで背中に回し蹴りを加えて、この男も大柄の男の足元へと転がっていった。こちらも同様即気絶。

 この間十秒。

「さて、君のお仲間は足元に転がってるけど、君はどうする? まだ若菜や愛里に手出しする?」

 流石に相手も焦りが生じているらしい。奴の額に汗が浮かび上がっている。

「こ、こんなところで逃げれるわけがねぇだろぉ!」

「さいで」

 男は近くの竹刀ケースに収められていた竹刀を取り出し、適当に振り回しはじめた。動きに規則性があるわけでもなく、ただがむしゃらにだ。

 僕が男との間に少し距離を取ると、男もその距離を詰めんとばかりに近づいてくる。それを繰り返すうちに道場の隅へと追い詰められた。

「へへへ、さっきの威勢はどこいったのかなぁ! ここでくたばりやがれ!」

 男は高く竹刀を振り上げ、一気に振り下ろした。その剣先は僕に当たる前に、壁にぶち当たった。その隙に僕は男の腕の下を潜り抜け、背中に蹴りを入れる。バランスを崩した男は先ほど僕がいた隅に押し入れられ、竹刀を落した。僕は落とした竹刀を拾い、彼がこちらを振り向いた瞬間、剣先を彼の首元に押しあてた。

「チェックメイト」

「あ、はははは……はははは……は……」

 神高の中庭で、毎日当然のように金を巻き上げていた男たちだ。喧嘩に負けることなんてなかったのだろう。そんな彼があっさりと僕に負けた。

 男はショックのあまりか、失神した。


 僕は愛里の縛られていた紐をほどき、彼女を自由にした。

「……ありがとうございます」

「うん」

 流石に愛里は一緒に暮らしているだけあって、驚く気配はない。いつも通りだ。

 次に若菜の紐を解いた。彼女は僕の変貌ぶりにやはり驚いていた。

「拓也、まずは助けてくれたことには例を言う」

「うん」

「聞きたいことは色々あるが……、まずはこの一つだけ聞かせてくれ」

 間を置いて、息を飲み込む若菜。どんな質問でも、可能な限り答えるつもりだ。

「これが、お主の信じる正義なのか……?」

 彼女が指差すところには、気絶、失神した男達がいた。今晩彼らはここで過ごすことになるだろう。

「君たちを助けるためだ。仕方がない」

 僕は若菜に諭すように説明した。しかしどうやら僕の返答は、彼女の期待していた返答ではなかったようだ。

「……ではない……」

 若菜がボソボソと何やら言っている。僕にはそれが聞き取れなかったので、聞き返した。

「え?」

「暴力の上に成り立つ正義など、本当の正義ではないのだ!」

 俯いたまま、声を張り上げる若菜。彼女はこちらに目を合わせることもなく、剣道場から走り去ってしまった。

「……僕は何か間違えたのかな」

 そばにいてくれた愛里に質問してみる。しかし愛里は答えることなく、僕の顔をじーっと見つめていた。

「……自分で分からなきゃダメなの?」

 愛里はコクリと頷いた。


「拓也ー! 若菜さん達は見つかったかー!?」

「おぉ、拓也こんなところにいたデスか!」

 しばらくして玲人やシズクもやってきた。

「うぉお、なんデスかこれ、人相の悪いやつらがあちこちでお休みしてるデスよ!」

「なんかすごくシュールな光景だな……」

 どこからか取り出した木の棒で下っ端を突っつく玲人。まるで汚物をいじるみたいに突っつくのやめろ。

「お、愛里ちゃんがいるということは私たちの勝利ってことデスね!」

「そうだね、そういうことだ」

「とは言うがなんとなく浮かない顔してるなぁ、拓也。そういや若菜さんはどこだ?」

 玲人は何気なく的を射ぬいてくる。こいつ人の心でも読めるのではないか。。

「若菜は……」

 言いかけたところでやめた。愛里が何か言いたそうに僕の腕を引っ張ったからだ。

「ん、どうしたの? 愛里」

「……私、今日は疲れたので帰りたいです」

 そうだ、助けたことの安心感に浸っていたが、彼女らは被害者だ。精神的な疲労がかなり溜まっていることだろう。

「あぁ、ごめん。玲人、シズク。この話は今度するよ」

「分かったデス。愛里ちゃん、お大事にデスよ!」

「……ありがとうございます」

 愛里はペコリとお辞儀をすると、僕と一緒に剣道場を歩いて出た。


 家につくと、雪穂が目を真っ赤にして出迎えてくれた。

「うぇーん、愛里ちゃん、無事でよがっだよぉ!」

 どうやら心配で心配で仕方なかったらしい。僕と違って探しに行きたくても探しにいけなかったのだから、一層心配したのだろう。

「だっぐんもだよぉ! がえってぐるのおぞずぎぃ!」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔の雪穂に取り敢えずティッシュを一枚渡す。彼女はチーンと鼻をむとみ、少しは落ち着いたようだった。

「若菜は?」

 雪穂は僕の質問に答えるように若菜の部屋がある二階を見つめた。

「若菜ちゃんは真っ先に帰ってきたよ。どこか思いつめてるようだった……」

 暴力の上に成り立つ正義など、本当の正義ではない。

 どこかで聞いたことのある言葉だった。一体誰が言ったのか、僕の記憶には曖昧にしか刻み込まれておらず、思い出すことが出来なかった。


-Epsiode.1 fin-

 あとがきの時間!(よいこは態々あとがきから読まないでね!

Hey! 皆さまお疲れ様です!

ヒーローの成り方、第一話が終了しました!

何とも含みのある終わり方ですね、って言われそうです。

事実言われてるんだろうなぁー。

まぁいいよ!


次週からは第2話に当たる部分が更新開始です!

次週もお楽しみに!

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