第8部 誘拐
-前回のヒロ成!-
シズクに連れられて新次元ゲームを楽しんだ拓也。
気が付けば午後7時を過ぎ、辺りは真っ暗になっていた。
そろそろ帰らねば愛里たちに失礼だと感じた拓也は、その場で解散し家に向かう。
しかし帰宅しても家には誰もいなかった。
不審に思った拓也は彼女らに電話を掛けるが一切つながらない。
やっとの思いで繋がった電話からは、愛里のものと思われる悲鳴が消えてきたのだった。
[七]
暗い暗い部屋の中、斎藤若菜は少女の悲鳴に目を覚ました。
何が起こったのかは不明。今分かるのはこの暗い部屋で椅子に座らされていることだ。手足を動かしてみようと試みたが、手は後ろに回され、椅子にきつく縛られていた。足も同様、身動きが取れないようにされていた。
徐々に目が暗闇になれ、ぼんやりとしていた視界が晴れてきた。それでも光源という光源は月の光しかない。
「お、アイドル様もお目覚めの時間か?」
まるで暗闇に溶けていたかのように、すぅっと大柄な男が姿を現した。男の体が自由なところから察するに、この状況を作ったのはこの男である可能性が高い。
「今の気分は? アイドルさん?」
明らかなる挑発行為。男は身動きもとれぬ若菜の顎を二本指でつまみ、自分の顔を強引に近づけた。しかし、それでも若菜は何も言わなかった。
「け、だんまりかよ」
男は強引に近づけた顔を引き離すと、引きつった顔で指を一発鳴らした。指の音に合わせ、暗闇の奥に一か所だけ明かりが灯される。そこには明らかに悪ぶった男二人組と若菜と同じように椅子に縛り付けられた竜崎愛里の姿があった。男どもが愛里に向ける視線は、どこか凄く厭らしさを感じさせる。
「愛里に……手を出すでない」
「おっ、やっと喋ってくれたねー。ああ、安心していいよ。彼女にはまだ手を出さないから。ま・だ・ね?」
男の含みのある言い方から、今すぐに何かをしようというわけではないようだ。時間を稼げるなら今のうちに時間を稼がなくてはならない。
「私たちを捕らえた目的は何だ」
「おー、怖い怖い。そんな睨まないでくれよぉ。僕らは別にあの子なんて興味はないんだ。可愛いから一緒に捕まえちゃったけどね。本当に用があるのは君だよ、アイドルさん?」
「こちらは理由を聞いている!」
「だーから、君はまだ気づかないのー?」
この男どもが用があるのは私だけ。若菜はそのことを手掛かりに自分の記憶を遡ってみた。男、三人。しかし思い当たる節がない。いや、正確にはテレビに出て様々な発言をしている地点で色々な視聴者に沢山の感想を与えてしまっている。その中に若菜に対して不快感を受けている人など山といるはずなのだ。
「……分からぬ」
「……おいおい、マジかよ。逆恨みしてるのがバカらしく思えてくるじゃねぇか」
思い出そうとしても思い出せない。沈黙がただ続くばかりだ。
「ああ、もう! あのな、てめぇが先公にチクったせいで停学くらったのが俺らだよ! おかげさまで先公どもから眼つけられるようになって動きづれぇったらありゃしねぇ!」
「それは貴様が過ちを犯したからであろう。他人のせいにするな!」
「ああ、そうだな。俺はな、お前みたいな善人思想が大っ嫌いなんだ。そういやお前、竜崎拓也って奴に正義の特訓とかをしてるらしいな? 学校中で噂になってるよ。だからちょっとこんな計画立てたんよ」
「計画……?」
男はこの瞬間を待っていたかのように、満遍ない笑みを浮かべると、実に楽しそうに声を荒らげながら発言した。
「すっごく楽しい計画よ! これから一時間、俺らはお前らに手を一切出さない。約束しよう。その間にお前らのお仲間がこの場所を突き止めて入ってくればお前らの勝ちだ。ま、正義の気持ちが優っての勝利ってことでいいだろ? 逆に来なかった場合、それは俺らの悪意の勝利ってことで俺らは動けずにいるお前らを好き放題使って遊んじゃおうってことよ。その内容は今はお前らの想像に任せるわ」
実に下種な笑い声を上げる男。その高い笑い声は何も手出しすることのできない女の子二人に絶望を募らせるのには十分すぎるものだった。
「待て、愛里は、彼女は関係ないであろう! 彼女だけでも解放してほしい!」
「ごめんねー、アイドルさん。それは出来ないや。だってさ、言ったろ? 彼女なかなか可愛いって。あの二人が凄く気に入っちゃったみたいでさー」
男の視線の方向、そこには青ざめた顔をする愛里とそれを見てニタニタ笑う男二人がいた。状況は彼の言う通り、絶望的だった。
「拓也なら、やってくれる。拓也なら、この状況を助けてくれる」
今はただ、そう信じるしかなかった。でも、どこか本当に助けにきてくれそうな気がしていた。
「さぁて、どこかもわからない場所で助けは来るのでしょうかねー? 楽しみだなー。国民的アイドルの体が汚らわしくなったらそれはもうスキャンダルもんだもんなー! では楽しい楽しいゲームスタートだぁ!」
男はどこからか用意したタイマーのスイッチを入れた。部屋に備え付けられていた時計は午後九時を指していた。
拓也は腕時計を確認した。現在の時間は二十一時。午後九時だ。
家に帰って若菜と愛里のことに気付いた僕は、食事もせずに家を飛び出して彼女らを探していた。警察にも届出を出しているが、表立って行動してくれているようには見えなかった。雪穂も一緒に彼女らを探してくれるということなのでお願いしようとしたが、雪穂も女の子なのでこのような事件が起こっている今、彼女一人で動くのは危険すぎた。よって僕は彼女に留守番をお願いした。僕らがいない間に帰ってこられても困るからだ。
僕は玲人やシズクに電話して、一緒に探してくれるようにお願いをした。シズクも一人で歩かせるのは危険だとも思えるが、彼女の場合空手二段とか持ってた気がするから多分僕なんかより強い。
「若菜ー! 愛里ー!」
夜道を走りながら、何度も何度も彼女らの名前を叫ぶ。近隣に住まわれている方々には非常に迷惑なことだが、それでもそんなこと気にしていられない。もう探し始めて約一時間半経っているのだ。
息切れをおこし、肺が強く圧迫される。正直なことをいうと運動神経にはそれなりに自信はある。そんな僕が久々に全身に脈打ちを感じていた。心臓の鼓動が全身で激しく感じとれる。
流石に疲れが襲ってきた。少しでも休憩をしっかりとらないと、彼女らを探すことが出来なくなってしまう。僕は自分にそう言い聞かせ、近くの公園のベンチで足を休めることにした。
何も考えずに走り回ったところで、見つかる可能性などかなり低い。そんなことは分かっている。しかしそれでも動かないよりマシだった。しかし現実は厳しくただ無駄に体力を使ってばかりで何の成果もなし、だ。
「ちくしょぉ、どこにいるんだ……」
家族、仲間が消えるのが凄く怖かった。何よりもそれだった。小学校の頃のつらく、深く、暗い記憶が蘇ろうとしてくる。やめろ、やめろ、やめろやめろやめろ! 二度とあんな悪夢を見たくない!
プルルルルル……。
電話だ。僕の携帯に、相手は……愛里だ!
僕はすぐ通話ボタンを押し、携帯を耳にあてた。無事であってくれ、無事であってくれ、ただそれだけを祈って言葉を発しようとした。しかし、真っ先に相手からの声が聞こえた。
『ちゃーお。竜崎拓也君、だよね?』
誰だ貴様、どうしてその携帯を持っている、何が目的だ、愛里は無事なのか、若菜は? 言いたいことが頭に無数と浮かび上がる。しかし、それは一つも発せられることはない。発することが出来なかったのだ。
『あれー、だんまりかな? まぁいいや。僕ちょっと面白いゲームやっててねー。折角だから教えてあげる。多分君の想像通り僕らが斎藤若菜と君の妹らしい竜崎愛里ちゃんを誘拐しました。十時までに居場所を突き止め、入ってこれれば無条件で解放してあげる』
「……それが、出来なかったら?」
まるで僕の声と思えない、ずさんな声が僕の口から毀れた。今までなら何も言えなかった僕が、やっと歪な声だが出すことが出来た。
『やっと喋ってくれた。そうだね、出来なかったら……彼女らは僕らの玩具かな。じゃ、残り三十分頑張って探してね!』
「お、おい、それだけしか言わないのかよ……」
『んー? じゃあ一つだけヒントをあげようかな。彼女らは君の学校にいるよ。ヒントおしまい! じゃ、頑張ってね!』
電話はそれを最後に一方的に切られた。
時計を確認する。時計は午後九時半を示していた。彼のいうことが本当なら残り時間が三十分しかない。それでも場所を大幅に限定するヒントはくれた。
「学校……!」
私立神山学園高等学校校舎に、彼女らはいる! 嘘の可能性もあるが、それでも手がかりがこの程度しかないから信じるしかない。
僕は電話帳を漁り、シズクと玲人に学校にいる可能性が高いことを伝えた。彼らもすぐ向かうとのことだ。
「こんなとこで足踏みしていられないな……!」
この公園から校舎まで走って十五分の距離にある。今日という日だけは……十分以内について見せる!
僕が神高の校門についたころにはすでにシズクも玲人もいた、
「よぅ、拓也。遅かったじゃねぇか」
「遅かったデスね!」
とはいいつつ、玲人もシズクもかなり息を切らしている。彼らも今ついたころなのだろう。
九時四十分。予定通り早く着くことが出来た。
「さぁ、探そう! 玲人は四階兼三階、シズクは二階兼一階を探して! 手分けしたほうが効率的だ! 僕は一階と体育館、剣道場、弓道場をあたる!」
「了解!」
「やるデスよー!」
二人は返事と共に校舎へ駆け出した。僕も彼らに続いて校舎に忍び込む。
昇降口は開いていた。不用心だとは思うが職員室が明るくなっていたところからまだ先生が残業をしているのだろう。
一番可能性があるのはやはり教室だろう。しかし見回りをしている警備員がいるところから、教室などすぐに人の気配、声などでばれる可能性が高い。それでも奴らは未だにばれることなく愛里を、若菜を監禁しているわけだ。
どんな可能性にも掛けてみるしかない。僕は校舎に響く足音などお構いなしに全力で走って教室の鍵をチェックして回った。開いている教室があれば中に入り、人の気配がないことを確認してから次の教室へ回る。鍵がかかっている部屋は中を覗いて確認する。一つの教室を確認するのに時間はさほどかからないが、それでも多量の教室を漁るのはそれなりの時間がかかっていた。
時計を再度確認するともう四十七分。残り十三分の猶予しかない。
体育館を訪れた。正面の鍵は厳重にかかっていたが、窓が一か所開けっ放しになっていたので、そこから侵入することができた。窓の鍵がたった一つだけ開いていたなんて、故意である可能性が大きい。しかし、いくら体育館内を探しても誰を発見することも出来なかった。体育館倉庫、放送室、全てだ。つまりこれは単純に閉め忘れていただけか、または。
「フェイントをかけられた……!!」
現在の時間は五十五分。まだ行っていないのは弓道場と剣道場。距離的にはどちらも同じ距離なのでさほど変わらない。弓道場なら道場が吹き抜けとなっているのですぐに内部が見られる。そのため隠れているなら発見しやすい。弓道場を先にしよう。
弓道場についた。外からも的場へ侵入することが可能であり、吹き抜けとなっている道場は誰でも侵入が容易だ。隅々まで探してみたが、ここにも人の気配がない。
五十八分。正解が剣道場なのであれば、ここから全力で走っても間に合う。僕はすぐさま剣道場へ向かった。
剣道場の周囲を一周してみたが、窓が開けられている形跡はない。入口の扉を開けようとしてみたが、ここにも鍵がかかっていた。時間は二十二時丁度。これで誰も発見できていなければ僕らの負けだ。
僕は呼吸を整え、玲人に電話を掛けることにした。彼の電話番号を選択し、連絡する……。まて、今女の子の声が聞こえなかったか? 耳をよく澄ませるのだ。
「拓也! そこにいるのか! 拓也!」
今度ははっきりと聞こえた。若菜だ。この剣道場に若菜がいる。
僕がそれに気づいた瞬間、剣道場に明かりが灯った。入口の鍵が開錠された音も聞こえる。
頭の中に男の声がフラッシュバックされた。電話で僕に挑戦状をたたきつけてきた、黒幕の声だ。
彼は言っていた。時間以内に居場所を突き止め”入ってくれば”無条件解放すると。つまり……。
開いた扉から大柄な男が姿を見せた。剣道場の明かりのせいで逆光になっているため、彼の顔をまともに見ることも叶わない。
しかし、彼は確かに心から楽しそうにこういった。
「ゲィム、オーバー♪」
シリアス学園ストーリー。になってきました。!
えー、この話が乗る頃にはポケモンが発売しているのかな?
読者の方は買います? ポケモン?
僕はねー、揺らいでるのですよー。
ジオリジン見てたら無性にやりたくなっちゃって。
買うならやはりXかなー。
Xのがメガシンカかっこいいんだよなー。
悩みどころ!
今週のヒロ成は先述したとおり学園シリアスな感じがしますね!
どんどんクライマックスに近づいていきます!
もしかしたら次週が1話の最終部……?
可能性はありますよ!
ここまでご応援ありがとうございます!
次週もご期待頂けたら幸いです!
あと感想も貰えたらな……!
ではでは、ポケモンをやってお会いしましょう!