妖精の無茶と主人の奮闘
曲がり角の影に隠れながら、リスィはじっと考えていた。
主人の扱いを改善するにはどうすれば良いのか。
先ほどのポーションでは、イマイチ立場向上にはならなかったらしい。
薬を調べたり地図を描いたりしてもダメだった。
やはり戦闘で活躍しないといけないのか。
ちらりと主人を見る。
しかし彼は今度はすり鉢に入れた謎の草をすり潰しており、戦いに参加する意欲は低そうだ。
本当なら、主人は戦闘でだって彼女らに遅れを取ることは無い。
そんなリスィの考えは、今も変わってはいない。
しかし、それを無理やり彼に強いることは、やってはいけないことだとリスィは思い直していた。
主人――ヒラク様には、今それが出来ない理由があるのだ。
ならば、自分が、がんばらなくては。
具体的な方法など思いついてはいない。しかし、自分がやれる事なら何でも。
こんな――不良品の自分が出来ることなら何でもやろう。
リスィは、ひそかにそう決意していた。
◇◆◇◆◇
リスィがそんな事を考えている間に、戦闘が始まって五分ほどが経過していた。
ここまで快進撃を続けてきたモズとフランチェスカだったが、数が大きいこと、そして的が小さいことがあって苦戦している。
「ぐぬ、魔核がっ!」
オークの攻撃を受け止めたモズが、声を上げる。
見れば、最初に倒した蝙蝠型の魔物の頭部……地面に落ちた魔核が激しく明滅を始めていた。
オークの攻撃をいなしながら、モズはじりじりと魔核へと近づいていく。
「炎よ! 大地よ! 雷よ! 我に力を! 秘技! 雷火地斬撃!」
だがそこで、地を這うような軌道でフランチェスカが斧槍を振るった。
旋風が巻き起こり、それによって魔核が広間の奥へと吹き飛ばされる。
「ちょっと! 何してんのよ!」
フランチェスカの背中に自らの背中をぶつけながら、モズが抗議する。
本当は刃をつきつけてやりたい気分の彼女であったが、小粒とはいえ蝙蝠達は油断できない相手である。
「うむ、雷火地斬撃は雷の力で大地を切り、その摩擦で炎を巻き起こす三大属性技だ」
そんな彼女に対して、フランチェスカがふんと胸を張る。
甲冑を着けてなお、その甲冑ごと彼女の胸が上下した。
「そんな解説いらないわよ! おかげで魔核が飛んでったじゃない!」
その辺りの含めての苛立ちも含めてモズがフランチェスカを罵倒すると、彼女は急に目を見開いてわなわなと震えだした。
なんだ言い過ぎたか? 罪悪感は無いがここでポンコツになられても困る。
などとモズが心配……気を揉んでいると。
「なんと、風属性も内包していたか……ならばこの技はエレメント・スマッシャーと改名を……」
「だあああ!」
フランチェスカはまったく別のことで悩んでいた、
かみ合わない会話へのフラストレーションを、モズは叫びながら目の前のオークに大剣で叩きつける。
オークは魔核と同じ方向へと吹っ飛んでいき、大の字に寝転がった。
ちょうどオークの足の間に魔核が来る配置である
「あぁ、あれはダメかな」
その様子を見て、謎の薬をすりこぎでゴリゴリとすり潰しているヒラクがポツリと漏らした。
「ダメって、あの二人がですか?」
彼の言葉を受け、正面で正座をしているリスィが首を傾げる。
「いや、そうじゃないよ……そうじゃなくて、魔核のこと」
愛らしい顔で辛らつなことを言う妖精。彼女にそれもあるけどと同意しかけた自分を内心で抑えつつ、ヒラクは彼女に説明をした。
「魔核は時間が経つと、宝物庫へ繋がらなくなるんだ。だから開錠師がダンジョンに入るんだけど」
「つまり?」
「ただの箱になっちゃうって事」
開錠師にとっては口惜しい光景だ。ヒラクはちらりとアルフィナの表情をうかがった。
だが、彼女の顔はお茶を飲んだ時よりも変化が無い。
彼女は金銭に対してあまり拘りが無いのだろうか。
だとしたら何故あんなスキル振りを……。
「えぇー勿体無い!」
自らを棚に上げて考えていたヒラクの前で、リスィが体をめいいっぱい伸ばし声を上げた。
ヒラクから見ると、アルフィナより彼女のほうがよほど金品に執着があるように見える。
「まぁちょっと報酬が少なくなるだけだから」
それに苦笑して、ヒラクはリスィをなだめた。
蝙蝠型は数が多くその牙もけして油断できない鋭さを持つ魔物である。
だがしかし、その小ささ故にアクセスできる宝物庫のランクは高くはない。モズ流に言うなら『マズい』魔物である。
アルフィナが解体しても、今日使った茶葉代になるかならないかだろう。
そう考えれば惜しくは……ない。
そんなヒラクの表情を見て唸っていたリスィだが、少しぐっと握りこぶしを作ると声を上げた。
「わ、私が取ってきます!」
これであの箱がダメになったりしたら、モズはまたヒラクの悪口を言うに違いない。
逆に彼のモノである自分が活躍をすれば、ヒラクの評価も上がるはずだ。
今こそ彼女が狙っていた好機である。
……あとヒラク様ってお金には意外と細かいし。
「だ、ダメだよリスィ!」
そんな事を考えていたリスィを、ヒラクが慌てて制止した。
「大丈夫ですよ! 私なら見つかりませんし!」
だが、自分は魔力感知とやらに引っかからない。ヒラクがそう言っていたことを、リスィは覚えていた。
確かに巻き添えを食うことがあるかもしれないが、それも回り込んでいけば平気なはず。
彼女はふわっと浮かび上がると、スカートを翻して一直線で戦場へと向かっていった。
「リスィ! わっ!」
ヒラクが彼女を止める声が、背後から響く。
続いて何かをひっくり返すような音。
しかし躊躇うわけにはいかない。自分がヒラクの株を上げなければいけないのだ。
先ほどした決意を、リスィはもう一度思い返した。
そしてスピードを上げる。
――普段はふわふわと飛んでいるリスィだが、本気で飛ぼうとするなら人間の全力疾走ぐらいの速度は出る。
しかし方向転換は苦手だ。なぜなら彼女には――がない。
そんな出来損ないの自分にも、今出来ることがある。
その喜びを覚悟に変え、リスィは飛ぶ。
戦場の手前まで飛んできたリスィは、手前で大きく上昇した。
さすがにあの中を突っ切る勇気は無い。
真下を空飛ぶバットが過ぎる光景は肝を冷やしたが、彼らはこちらに向かっては来ない。
やはり自分は探知されないのだ。
確信が持て、魔核の真下まで到着したリスィは、一気に高度を下げた。
魔核は、先ほど倒されたオークの足の間にある。
下降しながらリスィはオークの様子を伺ったが、顔が箱なだけあって表情などうかがい知れない。
大丈夫。怖くない。まだ死んでいないにしても、自分は見つからないはずだ。
自らに言い聞かせて、リスィは真下の箱に集中することにした。
そして――。
「やった……!」
床に落ちていた小さな箱にとりつくリスィ。
両手で抱えることになるが、この大きさなら自分でもギリギリ運ぶことが出来そうだ。
彼女は体を反転させ、来たほうを向いてから箱を抱え上げる。
その時――。
「リスィ!」
彼女の名を呼ぶ鋭い声が響く。
え、と彼女が前方を見ると、ヒラクが曲がり角からリスィの元へ駆けて来るところだった。
もう、ヒラク様ったら過保護なんだから。
急に飛び出してくるから、前線のお二人がびっくりしてるじゃないですか。
などとリスィが不満半分喜び半分で考えていると。
「リスィ後ろ!」
ヒラクが再び叫ぶ。
後ろ? 言われて振り返ると、先ほどまで倒れていたはずのオークが片膝をつき、ゆっくりと立ち上がり始めている。
「ひっ」
思わず悲鳴を漏らすリスィだが、ふるふると頭を振って自分に言い聞かせる。
大丈夫。この魔物は自分を見つけられないはずだ。
もう一度高度をあげて戻れば……。
そう考えるのだが、どうしてもオークから目を離せない。
オークが、こちらを向いているような幻想を振り払えない。
幻想? そうだ、幻想のはずだ。だって相手は自分が見えないのだから。
立ち上がったオークが、ゆっくりと棍棒を振り上げる。
下にいる何かを叩き潰そうとするかのように。
箱のような顔はやっぱり、自分のほうを向いている。
何故? そう思うと同時に、リスィの頭にヒラクの言葉が過ぎった。
視覚感知聴覚感知……。
そして、オークの頭についた、本当についているだけの豚鼻が目に入る。
それは、ばっちりと自分のほうを向いていて、ヒクヒクと動いていて……。
嗅覚感知?
ようやくリスィの頭の中に、それらしき単語が浮かび上がる。
だが、それを思いついたときには、既にオークは棍棒を振り下ろしており――。
「オイル!」
リスィが死というものを初めて意識したその瞬間、ヒラクが叫んだ。
同時にオークの足元へ、紫色の光が収束していく。
次の瞬間、べちゃり。そんな音が響き、オークが踏み出した足の下に黒い液体が出現した。
「ふごっ」
ずるり。それを踏んだ途端、オークが足を滑らせる。
豚鼻から盛大な息を吐きながら。
オークはそのまま前方へとつんのめり、リスィへと落ちてくる。
ドスゥンという重い音。
「あ、あわわわ」
自分でも潰されるかと思ったリスィであったが、オークが足を広げた姿勢で倒れてくれた為、その足の間に入り難を逃れた。
だが、危険なのは彼女だけではない。
「ちょ、ちょっとアンタ!」
モズを押しのけ戦場のど真ん中につっこんできたヒラクに、蝙蝠たちが殺到する。
「ヒラク様!」
そんなリスィの叫びが聞こえたかは定かでないが、ヒラクが腰に後ろに手をやる。
そうして彼が取り出したのは、束になった縄であった。
その端を持って、ヒラクが手首を振りかぶる。
するとそれは一本の長い鞭となり、ぴしゃんと高い音を迷宮内に響かせた。
「迷宮に潜みし汚濁よ、我が前に顕れよ……!」
詠唱をしながら、そしてもう一振り。
地面をこすり手を掲げるようにして振るわれた鞭が、リスィとヒラクの間にいた数匹の蝙蝠をなぎ払った末に天井にぶつかり高い音を立てる。
しかし、それを避けたもう数匹の蝙蝠が、そのままヒラクへと迫った。
「オイル!」
だがそれに構わず、彼はもう一度叫んだ。
紫の光が、ヒラクの振った鞭の軌道上、リスィのすぐ横までまっすぐに現れる。
次の瞬間、それは黒色粘性の液体へと変化し、ダンジョンの床をぬらりと濡らした。
そしてその根元は、ヒラクの足元である。
都合――。
つるり。
ヒラクは自らの魔法でこけた。
「なっ!?」
その様を見て、モズがあんぐりと口を開ける。
「バインド!」
だが、背中から泥へとつっこむかと思われたヒラクが叫ぶ。
刹那、彼の体がグンと前へと滑った。
「えぇ!?」
驚きの声を上げるリスィ。
彼女が見れば、ヒラクが握る鞭がピンと張り、彼はそれを支えに不安定な姿勢のままリスィへと滑っていた。
そして鞭の先端は、いつの間にか結ぶところなど無いはずの天井へと固定されている。
どういう事かと混乱するリスィを余所に、ヒラクはそのまま、まるで草すべりをしているかのように自らの体を滑らせた。
そして唖然とする妖精の体を、低い姿勢のまま少々乱暴に掴み上げる。
「うきゃっ!」
悲鳴を上げるリスィ。
景色が混ざり合い、彼女の目にきちんと映るのは、自身を掴むヒラクのみとなった。
見上げたヒラクの顔は、普段より凛々しく、神々しく、引き締まり、リスィの小さな胸をトクンとはねさせる。
「ヒラク様。星の王子さまみたいです」
「……どうなの、その例え?」
思わず読み聞かされた童話の主人公とヒラクを重ねるリスィ。
それに対して、いつもの疲れた顔に戻ったヒラクが微笑んだ。
「戻るよ!」
そして彼はそう言うと、目の前に迫っていた広間の壁を蹴る。
ヒラクの顔に見惚れていたリスィが、慌てて彼の指を掴む。
ぐいんと、鞭を支点にしたまま、振り子の要領で来た方向へとヒラクの体が飛んだ。
やっぱりカッコいい。などとうっとりしているリスィを他所に、そのまま元にいた場所に戻る。
かと思われたヒラクの体が、突然がくんと揺れた。
何事かとリスィが見ると、ヒラクの足を、先ほど転ばせたオークが掴んでいた。
勢いで鞭を手放してしまうヒラク。
「ぶべっ」
そして彼は、そのままオイルの海へと無様に顔からつっこんだ。
「ひ、ヒラク様!」
寸前で持ち上げられた為、オイルまみれにはならずに済んだリスィが悲鳴を上げる。
自らの魔法で真っ黒になったヒラクが顔を上げると、彼の足を持ったオークは寝そべったままの姿勢で棍棒を振り上げている。
放つ呪文も無いまま、ヒラクが手をオークへと向けようとしたその時――。
ビュン! と空気を裂く音がして、それがヒラクの耳元を掠めた。
彼方から飛来した物体がオークの箱頭に直撃し、その衝撃でオークの手が離れる。
床に落ちたのはリスィが抱えている物と同じ、蝙蝠の小さな魔核。
そしてそれが飛んできた場所では、モズが大剣を振りぬいたポーズを取っている。
「リスィ!」
それを確認するかしないか。
そんなタイミングでヒラクが何度目になるか分からない呼びかけをし、手に持っていたリスィを離す。
そして、浮かび上がった彼女と共に、這いずるようにしてヒラクはモズ達の元へと走った。
途中、一旦はヒラクを逃した蝙蝠が襲い掛かる。
「中々見事だったぞ!」
が、それをフランチェスカが雷を飛ばして追い払った。
「何やってんのよアンタ達は!」
そして蝙蝠を掻い潜りながら辿り着いた途端、モズからはもっともな罵声が飛ぶ。
「ご、ごめん」
「あの、私が……」
「あぁー! 良いから下がってなさい!」
反射的に謝るヒラク。
そしておずおずと口を開くリスィ。
彼らに対して苛立ちの叫びを発すると、モズは一歩前に出た。
そうして、口を開くなあっちへいけ。というオーラを全開にして大剣を振るい始める。
何も言えなくなったリスィを、ヒラクが促した。
通路に戻る道中で、リスィは自らの弾んだ気持ちが急激に震えへと戻るのを感じていた。
先ほど味わった死への恐怖もある。だが、それ以上にヒラクに迷惑をかけてしまったこと。
彼を危険な目に合わせてしまったという実感が今更沸き、彼女の体を震わせた。
「ごめん、怖い思い、させちゃった、ね」
そんなリスィの様子をどう取ったか、ヒラクがそう呼びかける。
「違うんです! 私……」
そうではない。そんなことよりもと言おうとしたリスィだったが、途中でヒラクの声が妙に途切れがちな事に気づく。
リスィは慌ててヒラクの表情を見たが、彼の顔は例のオイルにまみれ、ライトも逆光になっており、その表情は窺いしれない。
そして、リスィが戸惑っている間に、ヒラクは元いた曲がり角へと辿り着いていた。
するとそこでは、アルフィナが珍しく身を乗り出してヒラク達を待っている。
「貸して」
リスィに、アルフィナが手を向ける。
何やら迫力の篭った様子のアルフィナ。
彼女に恐る恐るリスィが箱を渡すと、アルフィナは猛然とその小さな箱を動かし始めた。
同時に、ヒラクが四つんばいになって倒れこむ。
「ひ、ヒラク様!?」
そのまま、荒い呼吸を繰り返すヒラク。彼の顔を、リスィは慌てて覗き込んだ。
「……魔法変形と詠唱省略は、スキルレベルが低いとひどく消耗する」
そんな彼女に、アルフィナが箱を変形させながら呟いた。
リスィにはよく理解できない単語だ。
だが、自分のせいでヒラクが無茶をしたのだという事は、彼女にも分かった。
黒い泥にまみれた彼の顔は表情が読みにくいが、眉間にははっきりと縦筋が刻まれている。
どうするべきかと慌てているリスィをよそに、アルフィナは受け取った箱を分解する事に成功したようだ。
彼女はその箱を半分に割ると、腰につけたポーチから細い棒を取り出し、それを穴の中へとつっこんだ。
「あ、あの、私……」
「余計なことは、しないほうが良い」
三度目。自分でも何を言って良いか分からぬまま紡ぎかけたリスィの言葉を、アルフィナが遮った。
そんな彼女の顔はいつもの無表情ではなく、かと言ってリスィを責める訳ではなく、なんだか悲しい色を宿している。
「すみません……」
それしか言えなくなって、リスィは頭を下げた。
「これ」
そんなリスィの前に、アルフィナが手に持ったものを差し出した。
それは、銀に輝く小さな指輪である。
どうやら、それは彼女が魔核から取り出した物であるらしい。
「あの、これ……」
「貴方の報酬。後で、分配するけど」
「は、はい……」
アルフィナの口調は静かだが、有無を言わせぬ気配がある。
リスィはそれをおずおずと受け取ると、それをしばし眺めた。
それからぎゅっと指輪を両手で抱きしめると、しばらく目を閉じ俯いていた。
◇◆◇◆◇
程なくして、戦闘が終わった。
「アンタねぇ……!」
激昂した様子のモズが、ヒラクの胸倉をつかむ。
ヒラクの呼吸は先ほどより落ち着いており、顔の汚れもリスィが服の裾で拭いた為にマシにはなっている。
とは言え、その制服はオイルにまみれたままである。
当然、モズの手も汚れるが、彼女は気にした様子も無い。
「クズスキルしか持ってないくせに何前線になんか出てんのよ!?」
「ク、クズなんてひどいです! ヒラク様は私を……」
「ペットのしでかしたことは飼い主の責任!」
ヒラクを守ろうとするリスィを怒鳴りつけ、モズはすぐにヒラクを睨みなおした。
間近で大声を浴びせられ、リスィの体がビリビリと震える。
「えーと……とりあえずリスィはペットじゃないかなぁ。みたいな」
ヒラクを睨む彼女の目は、憎悪に近い色で塗りつぶされていた。
そういえば自分はこの娘のこんな瞳を、前にも見た覚えがある。
ヒラクはそう思い返していた。
確かアレは、自分が最初にスキル構成を話した時で……。
「もう帰還する時間だ」
回想するヒラクと彼を睨みつけるモズの間に、フランチェスカが割って入った。
そして彼女がモズの手を掴むと、モズは舌打ちをし、フランチェスカを振り払うようにしてヒラクから手を離した。
「ヒラク=ロッテンブリング。ポータルを頼む」
彼女はそう言うと、ヒラクを視線で促す。
「あ、うん」
呼びかけられたヒラクは、乱れた胸元をこするようにして正すと、いまだに体をぴんと伸ばしているリスィの肩を人差し指で軽く叩いた。
「リスィ、掴まって」
呼びかけられたリスィが、彼の肩にとまると両手両足を使ってギュッとしがみつく。
そこまでしなくても良いんだけれど。と思いつつも、ヒラクは口の中で呪文を唱えた。
「万能なる神よ、我らが魂を清らかなる地上へと還したまえ」
そして――。
「ポータル」
ヒラクが一際大きく呟くと、リスィ達の体が緑色の光に包まれる。
そして彼らは、『帰還』した。
魔法変形
正しくはスペルシェイプシフト。
発動する魔法の形状を好きなように改変する。
詠唱の際に術者が任意に設定。設定したとおりに魔法が改変されるかはスキルレベルではなく魔法の強大さと術者の想像力に依存する。
効果範囲を本来より広げることは出来ず、どんな形状にしようと一律でスキルレベルに応じ、魔力消費量が上がる。
レベル1で通常の五倍の魔力消費量。
レベル10で通常と同じ魔力消費量。
詠唱破棄
詠唱を破棄し、呪文名を唱えることで即時に魔法を唱えることができるようになるスキル。
ただし魔力消費量が上がる。
レベル1で通常の五倍の魔力消費量。
レベル10で通常と同じ魔力消費量になる。