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僕はスキル振りを間違えた  作者: ごぼふ
地雷少年と過去
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倒錯的激励

 モズ=ハイナシオは11歳になってもギフトを持っていなかった。

 通常は6歳程度で初ギフトを取り、彼女の年には3つ目のギフトを取得するのが普通だ。

 それが叶わなかったのは、彼女の病気が原因だった。


 地下一階の保護区にいる風船魚。針でつつけば死んでしまうその魔物を倒してギフト得ることができないほど、彼女の体が衰弱していたわけではない。


 当時のモズの体は外的内的ストレスに弱く、うっかりするとすぐに風邪その他の病気を呼び込んだが、日常生活を送れないほどではなかった。

 これが将来悪化する可能性もあったが、体の成長とともに改善する見込みも同程度にあったのだ。

 

 かかりつけの医者は、彼女の父親に肉体強化(タフネス)の取得を提言した。

 それで病気を治すことはできないが、体力さえつけば大きな発作が起きても乗り越えることができる。

 つまり体の成長で得られる成果を前借り、もしくは増進する事が可能なのだ。


 しかし、父はそれを保留した。

 彼はモズを嫌っていたわけではない。

 むしろその逆だ。


 迷宮に篭もらない一般人は、生涯を5つほどのギフトで過ごす。

 将来社交界で過ごす予定のモズが、そのうちの一つを健康保険でしかない肉体強化(タフネス)で埋めてしまうのを、父は危惧したのだ。


 そのギフト一つ分があれば、体は弱いくせに気性が荒い娘にも貰い手が現れるかもしれない。

 あるいは手に職をつけて、ヒモの一つでも囲うかもしれない。

 探索で財をなした父自身、社交界に入ってから「あのギフトがあれば」と思うことが多く、娘に同じ思いをさせたくないという気持ちもあった。


 ともかく父のそんな思惑が、モズをギフト無しのまま11歳にさせたのだ。


 ーーしかし、そんな父のせいで、子供時代のモズは孤独であった。

 初等学校では肉体強化(タフネス)を1だか2だか身につけた乱暴者達が暴れ回っている。

 他のギフトを身につけた者達も、それぞれのやり方で狭い居場所を無理矢理確保している。

 そしててんで役立たずのギフトを取ってしまった者達が蔑む対象として求めるのが、ギフトすら持っていないモズだ。

 家が金持ちということもあり、彼女への風当たりは強かった。


 自分にもギフトの所持が許されれば。

 父を恨む一方で、童女モズは不安にも感じていた。

 ギフトを得たとして、自分は何を所持してどう生きれば良いのだろうか。


 自分には最初から人より遅れがある。

 それを一つのギフトで補ったとして、普通に暮らす限りはあの自分を見下してくる奴らより「ちょっと劣った存在」として生きるだけになるのではないか。


 そんな人生はごめんだ。しかし、ならばどうすればよいのか。

 答えが分からないまま、彼女は体調不良を理由に義務教育の殆どを布団を被ってやり過ごした。


 だから、そんなモズだからこそ。


 彼女が11歳の時行われたパーティー。

 そこでカムイ=メズハロードが放った蹴りを見たとき、モズの目の前は大きく開けた。

 目の前で大きな象が崩れ落ちたからではない。

 

 それを蹴って切り捨てた人物の強大さ、宙を舞う自由さに、悩んでいた事の答えが唐突に見えたのだ。


 ギフト一つで足りないのなら、もっともっと沢山のギフトを得れば良い。

 普通に暮らしてそれが叶わないのならば、この人のように生きれば良い。


 そうすれば、こんなにも自由になれるのだ。

 誰にも従わず、誰にも縛られず、自由に。

 その瞬間に、彼女の人生は決まったと言って良い。


 象の一件以来、ハイナシオ家はパーティーに参加した家々に慰謝料を払い、カムイのスポンサーを降りた。

 

 とは言えそこまで極端な貧乏生活になったわけではない。

 父が無謀な事をしコケるまでを予測していた母が、ある程度の蓄えを隠し持っていたのだ。

 毎食のおかずは減ったが、下着は今までどおり、やたらと手触りの良い高級な物のままだった。

 下着のランクを下げるのは一番最後。

 母は信念を込めて語った。

 モズにはもちろんさっぱり理解できなかったが、ともかく彼女は与えられたそれを履き続けた。

 彼女には、そこらの男子よりも下着に拘りがなかった。


 そんなモズが肉体強化(タフネス)を取りたいと言ったとき、父はそれを止めなかった。

 もはや社交界云々と言っている場合ではない。

 気づけばここまで病弱に過ごしせいか、娘は立派なちんちくりんになってしまっていた。

 だが、口ばかりうるさいくせに引き篭もる。そんな小型犬のようだった娘が、今日は闘犬のような炎を目に宿している。


 我が家のピンチに内職でもする気になったか。

 想像し、父は彼女のお願い……というか一方的な宣言を許諾した。

 

 その三日後、勝手に迷宮に潜り大剣などという迷宮以外で使いようがないギフトを取ってきた娘に父は卒倒することになるのだが、ともかくそれからモズの探索者への道が始まった。



 ◇◆◇◆◇



 それから4年。モズはひたすら迷宮に潜った。

 今の時代、迷宮に潜りたいなどという酔狂者はそういない。

 義務教育も終わっていないように見える華奢な少女を一行に加えたがる者となると、更に少ない。

 仲間を探すのも一苦労で、集まったとしてもすぐに解散することとなった。

 モズがメンバーについていけなかったのではない。

 彼らがモズの荒行についてこられなかったのだ。


 モズにはカムイ=メズハロードというひたすら高い目標があり、自らが病気やギフトを拾得していなかった期間のせいで、他よりも遅れているのではという不安があった。

 更にはギフトさえ揃っていれば実力はそう変わらないはずなのに、他の探索者連中はモズの容姿ばかり見て侮る。

 それらの事情が組み合わさり、彼女は自身をより早く成長させる、効率なるものを信奉するようになった。


 そしてその結果、彼女から人は離れ、モズはまた孤独になる。

 だが構うものか。

 モズは思った。

 自分は人と仲良くなりたくて探索者を目指すわけではない。

 強く、誰よりも強くなって、カムイ様のようになるのだ。


 それからしばらくはずっと一人で迷宮に潜り、彼女が限界を感じ始めた頃。

 探索者時代からの馴染みであったオクタ=リカミリアが、父へ探索者育成学校を作るので娘さんもどうかという誘いを寄越してきた。

 父はその手紙を即座に捨てようとしたが、ふと毎日毎日怪我をして帰ってくる娘の姿を思い出した。

 今のままガムシャラに迷宮に赴いていれば今後モズがどうなるか分からない。

 それよりも、支援体制の整った学園に通う方がまだマシだろう。

 そう判断した彼は、「なるべくなら婿を探して欲しい」と前置きした上で娘に探索者養成学校の話をした。

 一も二もなく婿の話は聞き流しつつ、娘は父の提案に飛びついた。


 そうしてモズは、アールズ探索者養成学校へと入学を果たしたのである。


 探索者養成学校に入ったからにはとにかく稼ごうと考えた彼女。

 だが、そんな彼女の前に、あの男が現れた。

 他人との繋がりを拒否してまで手に入れたモズの効率主義。

 それをあざ笑うかのように、男は非効率極まりないはずのスキルで窮地を脱していく。

 そして彼女が切り捨てたはずの人望だの絆だのを、男は手に入れていく。


 男はまるで、毒だった。

 こんな硬い鎧を纏わずとも生きてゆけるのではないかと彼女に油断させる、甘い毒である。

 そこには、悔しくて絶対に認めたくないが……カムイに感じたのと同じ自由があった。

 

 気づけば彼女は、男に惹かれ始めていた。

 いや違う。断じて違う。惹かれていたと言ってもアレだ。

 男の生き方に、ほんの少し魅力を感じ始めていたのである。


 だというのに、この男ときたら……!



 ◇◆◇◆◇



「良い格好ね……って、本当にどうしたのその格好」


 ヒラクの要を扉越しに踏みつけながら、今更彼の異様に気づいたモズは目を丸くする。


「いやこれは……ここに入るため色々あって」


 モズが普段とそう変わらない様子なこと、恥ずかしい姿を見られたことなどに混乱しながら。しどろもどろにヒラクは答える。

 するとモズは、こいつの奇行など慣れっこだと自分に言い聞かせるようにため息を吐くと、再度ヒラクに問いかけた。


「アンタ、何のためにこの学園に来たのよ」


 彼女の目には、再びギラリとした光が宿る。


「その、カムイがいなくても、僕にできることを探して……」


 泡を食いながらも賢明に考え、ヒラクは彼女に答えた。

 カムイという最良のパートナーを失った自分でも、まだ人の役に立てることがあるのではないか。

 それを探しに、ヒラクはこの場所へ来たはずだ。


「懺悔がしたいなら聖職者にでもなりなさいよ!」


 だがしかし、彼の答えが気に入らなかったのか、モズはそう叫ぶと足に力を込める。


「いや、それ懺悔を聞くほうじゃ……」


「うるさい!」


 小癪なつっこみを入れたヒラク。

 それをぴしゃりと遮ると、モズは二人を隔てていたドアを蹴り飛ばした。


「ひゃぁ!」


 悲鳴を上げてヒラクの胸元へ逃げ込むリスィ。

 ヒラクが呆気に取られているその隙にモズは彼へと馬乗りになり、その胸ぐらを掴んだ。


「アンタがアタシ達におせっかい焼くのは、昔のことの罪滅ぼしなの!?」


 そして彼女はヒラクに、激しい口調で問いかける。

 その声が、ヒラクの心をくわんくわんと反響を伴いながら揺らした。


 モズは返答次第で即座にヒラクをはり倒しそうな。あるいは泣き伏してしまいそうな複雑な表情で彼の返事を待つ。


「……そうじゃないよ。そうじゃ、ない」


 自らの心に改めて問いかけてから、ヒラクは彼女に答えた。 

 確かにモズにカムイの末路を見たり、フランチェスカやアルフィナに自分の境遇を重ねはした。

だがそれは結局、動き出すための動機づけに過ぎない。


「僕がおせっかい焼きなのは、僕の性分だ。皆や、君のことを、カムイの代わりだなんて思ったことはないよ」


 ヒラクが皆の力になりたいと思ったのは、彼女達が悲しげな顔をしていたからというだけだ。

 4年前のあの時、モズを助けた時と同じような、衝動的な気持ちである。


 それが最近、カムイの時の失敗を思い出したおかげですっかり臆病になってしまっていた。

 気づかぬ内に、カムイを動き出さない言い訳に使ってしまっていたのだ。 

 憧れのカムイを逃げの理由に使われたのでは、モズが怒るのも仕方がない。


 納得したヒラクが謝罪を口にしかけたその時ーー。


「じゃぁ他の女の事なんて持ち出すんじゃないわよ!」


 モズが、先ほどより怒りを露わにしてそう叫んだ。


 ……今彼女は、憧れているはずのカムイを他の女呼ばわりしたのだろうか。

 ヒラクが目をしばたかせていると、自らの発言に今更気づいた様子でモズもまたはっとなる。

 

「……いらいらすんのよ。アンタが昔のことで臆病になったり、取り乱したりするのを見ると、無性に」


 しかし訂正する気はないようで、彼女は目を逸らしながら呟く。


「カムイ様の事は、まだ実感が湧かない。ずっと憧れだったけど、会ったのは一回だけだし……一緒に探索出来たら良いなとは思ってたけど、具体的なことはなにも考えられなかったし」


 そのまま、彼女は自らの心情を整理するように、つらつらと言葉を並べた。

 モズが自分に苛立つのはいつも通り。

 そうヒラクには思える。

 しかし彼女の言いようでは、モズの怒りは普段と違うようである。


 つまりそれはどういうことか。

 ヒラクが考えあぐねているとーー。


「つまりカムイさんよりヒラク様が大事ってことです」


 いつの間にかヒラクの胸元から抜け出していたリスィが、彼の耳元に囁いた。


「カムイ様への尊敬を、一時的にこいつへの怒りが上回ったって言ってんの!」


 だがその言葉はモズへとしっかり聞こえていたようで、彼女はリスィに唾を吹きかける勢いで抗議した。

 

「何ウジウジしてんのよ。進むか留まるかなんて天秤にかけるようなことじゃないでしょ」


 そしてそのまま、ヒラクへと視線を戻し彼の襟元を強く掴む。


 モズは口惜しかった。

 一瞬でも自分に生き方を省みさせた男が、何故過去に縛られて動けずにいるのか。

 いつもヘラヘラヘラヘラ笑っているくせに、カムイの話になると何故急に意固地になるのか。


「アタシ達は探索者なんだから、例え死んだ人間を踏みつけにすることになっても進むしかないのよ。自分の欲しい物を手に入れるまで」


 半ば自らに言い聞かすように、モズはヒラクへと語った。

 今、自分の生き方が揺らぎ始めているモズだが、これだけは自信を持って言える。

 普通の生き方では手に入れられない物を求めるのが、探索者だ。

 ならば、自分から足を止める選択肢などない。


 不意の出来事に立ち止まるのも、後ろを省みるのも、全ては前に進むためであるべきだ。


「アンタの居場所も望む答えも、引きこもってるだけじゃ手には入らないわ。それが分かってるから、アンタはこの場所に来たんでしょ」


 彼女にしては柔らかな口調で、モズは語りかける。

 長い黒髪が枝垂れ、暗幕のようにヒラクを覆った。


「そう……だね」


 その言葉に、ヒラクもゆっくりと頷く。


 ヒラクの心は、既に前へ進み出したいと願っていた。

 それがカムイとの思い出を歪ませてしまうとしても、大きなおせっかいだとしても。

 自らの存在価値を探索するため、ヒラクはここにいるのだ。


「ありがとう。モズ」


 自らも辛いだろうに、それを気づかせてくれたモズにヒラクは礼を言った。


「ア、アンタの為じゃ……」


 それに「アンタの為じゃないんだからねっ!」と口にしかけたモズだが、途中で気づいてヒラクの胸を鷲掴んだ。


「ひゃっ、な、何!?」


「よくもアタシに古典的ワード言わせようとしたわね! ていうか何が『ひゃっ』よ! 気分だしてんじゃないわよ!」


 何か怨念のような物を滲ませて、モズはヒラクの双球を押しつぶす。


「いやパット越しでもこそばゆいんだって! ていうか何古典的ワードって!?」


 その勢いにおののきながら、ヒラクは彼女に抗弁した。

 むしろ彼女が何を言っているかさっぱり分からない。


「あのー、それで……」


 そこ(女装した男の胸を肌着一枚の女が押しつぶすという異様な光景の中)へ、すっかり置いてきぼりを食らったリスィが声をかけた。

 

 ……ヒラク気づけば、モズを励ますつもりが真逆の状態に陥っている。

 いやヒラクには押し倒すつもりなど無かったのだから、真逆というと語弊があるが。


「え、ええと、じゃぁモズは明日から学園に来るのかな?」


「当然迷宮探索するに決まってるでしょ。神器も逃したんだから、その分張り切っていくわよ」


 とにかく、彼女のほうは大丈夫なのか。

 それを確認するためヒラクが尋ねると、モズはようやく胸から手を離してフンと息を吐く。

 ついでに上から退いてくれないか。

 そう言いたいヒラクだが、ヘタなことを言うと今度はパッドの下にある胸を直に揉まれてしまいそうなので切り出せない。


「あ、そうだ。その神器なんだけど」


 その代わり、重要なことを告げ忘れていたと気づいたヒラクはそれをモズへと伝えることをした。

 ヒラクに言い忘れを教える役目を仰せつかっていたリスィも、慌てて腕を上下する。


「知ってるわよ。ミラウのなんでしょ」


 しかしそんな彼らを呆れたように見下ろすと、モズは息を吐いた。


「……なんで知ってるんですか?」


 きょとんと、目を丸くするヒラクとリスィ。


 ……この男、何故こんなところは抜けているのか。

 というかフランチェスカの奴は一度彼女に会っているではないか。

 頭痛を堪えながら、モズは答えた。


「ミラウが私のルームメイトだからよ」


 とはいえ自分も、まさかこの男がミラウにまで粉をかけていたとは昨日まで知らなかったのだが。


「うそっ!?」


 ヒラクにとってもそれは衝撃の事実だったようで、彼は目を剥いて驚きの表情を浮かべる。

 目元が窪んだようなメイクが施されているので、かなりホラーな光景である。


 そう、昨日。モズは遅れて部屋に帰ってきたミラウ、そしてその神器であるネブリカと出会っていた。

 互いを紹介された一人と一匹は、相手の顔を見たとき「あー!」と指さしあい、ミラウを混乱の渦へと陥れたが、それはともかく。


「アンタがミラウを誑し込んでるって話もきっちり聞いたわ」


「いや、相談に乗っただけで誑し込んだなんてそんな……」


 モズはミラウがネブリカを手に入れた経緯、そしてそれをヒラクに相談したことも既に聞き及んでいた。

 ついでにそれより以前にヒラクが彼女の悩みを聞いていた事も、芋蔓式に発覚している。


 ヒラクは誑し込むという言葉を否定するが、この男に見せてやりたい。

 ミラウがお前のことを語るとき、一体どんな表情をするのかを。


 それを思い返しまた不機嫌になってきたモズへ、リスィがおずおずと口を開く。


「ま、まぁその辺りはヒラク様の才能みたいなものなので……」


「リスィ!?」


 彼女はフォローのつもりなのだろうが、それはまるでヒラクの期待した言葉ではない。

 そもそも自分はそんな才能もギフトも所持した覚えがないので、とんだ濡れ衣である。 

 

 どちらに抗議しようかとヒラクが惑っていると、不意に慌ただしい足音が階下から響いた。

 フランチェスカ達に何か問題が起きたのだろうか。

 そう思ったヒラクが視線を向けると、階段から現れたのは意外な人物だった。


「ミラウさん!?」


 リスィが文字通り飛び上がり、その名を呼ぶ。


「え……?」


 そう。なんと話題になっていたミラウが、この場に突然現れたのだ。


「モズちゃん! と、ヒラクくん……?」


 彼女は肌着一枚で馬乗りになっているモズと、その下で女子制服を着ているヒラクを見て動きを止める。


 つい昨日、似たような事があったなと思い返してから、はっと我に返ったヒラクは必死で弁明した。


「えーと、いやこれは誤解で……」


「そ、そうよ誤解なの!」


 それに追随して、モズがドンドンとヒラクの上で跳ねる。

 通常なら何が誤解かと一蹴されてもおかしくない状況である。

 

 しかし、ミラウは陸に打ち上げられた金魚の如く口をパクパクと動かし、何も言えないでいる。


「お、落ち着いてくださいミラウさん。ね、ネブネブはどうしたんですか?」


 この中で比較的冷静であろうリスィが、ミラウの元へ飛んでいき彼女を宥める。

 自分一人では状況を納めきれないと判断した彼女は周囲を見回すが、ミラウの相棒となったはずのネブリカの姿は見あたらない。


 リスィの言葉に、失語症となっていたミラウが立ち返り叫んだ。


「大変なの! ネブネブが……いないの!」


 その言葉に、ヒラクとモズは唖然と彼女の顔を見る。

 どうやら一件落着となるには、まだ少し早いようだった。


モズの両親

 父は元迷宮探索者。腕は大したことがなかったが、引退直前に倒した魔物から偶然高額な宝物がドロップ。

 それを元手に事業を始めたところ軌道に乗り、一躍社交界の仲間入りを果たす。 が、礼儀作法を知らず、社交界用のギフトも用意していなかったため、バカにされることやライバルに遅れを取ることが多くあったという。

 そのコンプレックスが彼を見栄っ張りにし、娘の肉体強化(タフネス)取得を躊躇わせた。

 一方母は没落貴族。給士として働いていたところで父にちょっかいを出され、身につけていた高級下着から経歴が発覚。

 貴族の礼儀を求めていた父が秘書として採用し、どうのこうのあって結婚した。

 貧乏暮らしにも夫の足下お留守にも慣れており、今の生活も割と幸せ。

 ただし没落後、夫のお小遣いは真っ先にカットした。

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