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僕はスキル振りを間違えた  作者: ごぼふ
地雷少年ダンジョンへ潜る
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開錠士の仕事

 リスィが思考に埋没していると、頭の上にふっと影が差した。

 見上げると、例の無口な少女、アルフィナが立ち上がっている。

 そういえば先ほどから、彼女も一緒に隠れていたのだ。

 例の隠れ身(ステルス)とかいうスキルのせいか、すっかり存在を忘れていた。

 しかしアルフィナだって、戦闘中はじっとしていただけだ。

 リスィが彼女に妙なシンパシーを感じていると――。


「無口っ子!」


 アルフィナをそう呼びながら、モズが手に持っていた箱を彼女に放り投げた。

 危なげなくそれをキャッチするアルフィナ。


「あれってあの魔物の頭ですよね? 小さくなっちゃってますけど」


「そう、魔核って言って魔物の本体みたいなものだね」


 それを指差しリスィが尋ねると、アルフィナの横にいるヒラクがそう答える。


「へぇー」


 彼の解説に興味がそそられ、リスィはアルフィナの持っている黄金の箱へ、ふよふよと飛んでいった。

 魔核。それは小さなブロックが集まってできており、内部から青色の光が溢れている。


「あれ……これって」


 先ほど似たような物を見た気がし、首をひねるリスィ。

 するとそんな彼女の前に、ぬっとアルフィナの顔が近づけられた。


「もう良い?」


「あ、は、はい」


 無感情な目に捉えられ、リスィは玩具のごとくこくこくと頭を縦に振る。


 サイズ差もあって相当恐ろしいが、口ぶりから察するに彼女はリスィの観察が終わるのを律儀に待ってくれていたらしい。


「ありがとうね、アルフィナ」


「ありがとうございます」


 礼を言う主人に倣い頭を下げると、リスィはこれからアルフィナがなにをするのか、じっと見守ることにした。

 すると――。


 アルフィナが、箱の頂点を無造作に左へと回した。

 続いて半分ほどのところで箱を左右に捻る。


「わわわっ」


「大丈夫。あの箱は一種の宝箱なんだ。それを開くのが開錠のスキルであり、パズラーの役目ってわけで」


 箱の予想外の稼動に驚きの声を上げるリスィ。彼女を落ち着かせるためか、ヒラクが再度解説に回った。


「あの、どうやったら開くか全然分からないんですけど」


 その間にも、アルフィナは箱を奇想天外に動かし続けている。

 リスィにはめちゃくちゃに動かしているように見えるが、そうではないらしい。

 アルフィナの動かし方にはリズムがあり、迷いがない。


「開錠のスキルを取れば見えるようになるよ。まぁ開け方はひとつじゃないし、開錠が高レベルになると高ランクの宝物庫にアクセスできるようになるんだけど……」


 スキル自体を持っていない者には説明しづらいのか、ヒラクの説明は曖昧である。


「宝物庫って……」


「あ、開いた」


 その中で知らない単語が出たので更に尋ねようとするリスィ。

 だが、そんな時ヒラクが声を上げた。


 見れば、アルフィナが弄っていた箱の上部分が左右にスライドし、その内部があらわになっている。

 リスィが覗き込むと、箱の中では青色に輝く粘度の高い液体が渦を巻いていた。


「わぁ……あれ?」


 感嘆の声を上げるリスィ。しかし、やはりこの物体には見覚えがある気がする。

 首を捻るリスィだが、アルフィナはそれに構わず、躊躇無くその中へと手を突っ込む

 すると彼女の手に収まる大きさの箱の中に、アルフィナの腕が肘まで入った。


「ど、どうなってるんですか!?」


「さっきのポータルと一緒だよ。っていうかポータルは、魔核に永続化(パーマネント)を付与して改造したものなんだ」

 

 仰天したリスィがヒラクに尋ねると、ヒラクはさらりと解説した。


「ポータルと一緒……あぁ、だから」


 通りであの箱に見覚えがあったはずだ。今更得心するリスィ。

 その間にも、アルフィナは無言で箱の中に埋めた腕を動かしている。


「ど、どんな感触なんですか? ぬめぬめですか?」


 リスィが尋ねるも、返事は無い。


 しばしの沈黙。アルフィナはやがて小さく頷くと、腕を箱から引き抜いた。

 彼女の手には、先ほどまでは持っていなかった小ぶりの短剣が握られている。


「おぉー」


「さすがだね。この魔物から武器を引き出せるなんて」


 感嘆の声を上げるリスィ。賞賛の声を上げるヒラク。

 アルフィナは彼らに応えることなく、短剣を荷物の中から取り出したなめし皮で包むと、それと箱を地面に置いてから次の箱へと取り掛かった。

 

「あの、ぱーま何とかは分からないですけど、要するにあの箱が別の場所に繋がってて、アルフィナさんはそこからお宝を取り出したってことですか?」


 それを眺めてから、再びリスィがヒラクに尋ねる。

 床に置かれた箱からは、既に光が消えうせていた。


「それで合ってる。宝物庫は魔物が自分で使う武器や探索者が落とした持ち物を保管する場所で、付与された魔力の強さでランク分けされてるんだ」


「なるほど、それで例のぱずらーが高いとその分凄いものがもらえるって訳ですね」


「そういう事。えらいえらい」


「えへへ」


 自力で正解を導き出したリスィの頭を、ヒラクは人差し指と中指を使って撫でた。

 くすぐったそうに首をすくめるリスィ。


「いい教師と生徒だな」


 すると、いつの間にかこちらへと戻ってきていたフランチェスカが、眩しそうな顔をしてヒラク達を褒めた。

 口調からすると、ヒラクが開錠の説明に夢中になっていた所為で気づかなかっただけで、彼らのやり取りをずっと眺めていたようだ。

 自らの饒舌さと先ほどのリスィとのやり取りを思い出し、ひそかに赤面するヒラク。


「はい! ヒラクさまは私に色んなことを教えてくれるんですよ!」


 しかしそれとは対称的に、リスィ幼児のような無邪気な笑顔で応える。

 それに対して頷いてから、フランチェスカはふっと遠くを見た。


「うむ。私も前世では大魔道師グレイキャシールに世界の真理を含めた様々な事を教わったものだ……」


「へぇ~」


 目を輝かせるリスィ。彼女の手前、ヒラクはギフトの無い時代の大魔道師と言う職業に対して追求を避けた。


「……終わった」


 そうこうしている間に、アルフィナが箱の解体作業を終えたようだ。

 彼女の声にヒラクが床を見ると、そこにはナイフがもう二本。

 それに途中で折れた剣が三本転がっている。


 いずれも魔法の武具などではないが、あのランクの魔物から出たにしては破格の成果だとヒラクは判断した。


「荷物の管理、どうする?」


「アンタたちで持っときなさい。私は完璧な重量管理だから崩したくないわ」


 ヒラクが尋ねると、最後に合流したモズがふぁさと髪をかき上げる。

 どうやら彼女が拘っているのは、効率的な敵の倒し方だけではないらしい。


 荷物持ちに任命されたアルフィナだが、モズの言葉に頷くとせっせと荷物をしまい始める。

 彼女がモズを効率厨呼ばわりしたことを胸にしまっておくことにして、ヒラクは折れた剣を預かると申し出た。

 鉄資源であるからにはいくらかの金にはなるだろう。詳しく鑑定すれば少しはエンチャントも残っているかもしれない。


「じゃ、ライトは一旦消すよ」


 それから、荷物を鞄にしまい終えると、ヒラクはそう切り出した。


「え、消しちゃうんですか?」


 対して、リスィは驚きの声を上げる。

 あの暗さにはやはり慣れない。先ほど覚悟を決めたにしても、だ。


「この階層ならば、視覚探知の魔物はいないはずだが」


 不安げなリスィを気遣ったのか、フランチェスカがヒラクに問う。


 それに対し、ヒラクはうぅんと唸ってから重たげな口調で答えた。


「それも例外が無いわけじゃないから。それに……」


「……この学校は信用できない」


「そこまでは心配してないよ」


 遅れて荷物をしまい終えたアルフィナが、ヒラク以上に重く呟く。

 そんな彼女に、ヒラクは苦笑しつつそう答えた。


 彼女の言い方では、まるで学校側が陰謀を張り巡らせて生徒達を全滅させようとしているようだ。

 とはいえ、初日からダンジョンへ潜らせるような学校だ。

 授業の一環として、そういった魔物をこの階層に「放つ」ことがあるかもしれない。

 ヒラクがしたのは、あくまでも自らを引き締めるための用心であった。


「な、なるほど。そんな深遠なお考えがあるのなら、私も覚悟を決めます!」


 ぐっと握りこぶしを作り、再び覚悟のポーズを決めるリスィ。


「だから……いや、ありがとうね」


 そんなんじゃない。

 言いそうになったが、彼女の決意を無碍にするのも悪い気がし、ヒラクは代わりに礼を言った。

 彼女が何やら気負っているのは気づいている。

 だが、その正体がはっきりと分からず止めてよいものか迷っていた。


「いつまで話してんのよ。消すなら早くしなさい」


 そんなヒラクの逡巡を、モズの声が断ち切った。

 彼女は焦れた様子で足を踏み鳴らしている。


「ったく、戦闘でも役立たずのくせに時間まで取るんだから」


 愚痴りながら、彼女は先にずんずんと進んでいってしまう。


「むぅ……」


 その姿に、リスィはむぅと唸った。

 確かに自分もご主人様が戦わないことに不満を覚えたが、他人に役立たずだなんて言われると無性に腹が立ってくる。


「どうしたの? リスィ」


「なんでも、ないです」


 尋ねてくるヒラクに、リスィは首を振った。

 うちのご主人様はもっと凄いのに。彼女はそれを知らないだけなのに。

 リスィの中に、いまだかつて無い感情の炎がくすぶり始めていた。


「ヒラク様! 次の戦闘ではバァンと活躍しちゃいましょう!」


 そしてそれは、思いのほか早めに爆発した。

 生まれてから日が浅いという事情もあったが、彼女は感情を溜め込むという事が苦手であった。


「活躍って言ってもなぁ……」


 対してヒラクは、あまり気乗りではない様子で首をひねる。


「まぁ、善処はしてみるよ」


 リスィにそう答えて、ヒラクはライトを消した。

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