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太陽王の世界 ―異世―  作者: 檀徒
◆第一章◆
8/29

第7話 デマなんて信じない

(ハハハ、試しにやってみたらこのざまだ…。ん、これは何の花だろう)

 尊の頬は柔らかい草の中にあった。目の前にはタンポポのような形をした小さな白い花が揺れ、その花の上を黒い天道虫が這いまわる。うつ伏せになった尊は、そこから起きようとしても、もう起き上がる力が無い。

「ミコさん、加護切れですよ。今日はたくさん加護を使いましたからね…」

 あの後、トレイスは用事があるということだったので、少し開けた広場へ、トレイスにそこまでで教えてもらった詠唱をやってみようと喜び勇んでサヤカと2人で来てすぐのことだった。物体を硬化させる詠唱を唱えている最中に、尊は急に体の力が抜けて倒れ伏した。下が草地でなければ口の中を切っていたかもしれないくらい、豪快に倒れ込んでしまった。

「体に力が入らぬ。これは何が起きている」

「もしかして、加護切れを起こしたことがなかったのですか!?」

「うむ、そういえば2年前に一度あった」

「1日ほど寝れば直りますよ」

 すぐに戻るようなことを言うサヤカは尊の目の前でしゃがむのだが、そうすると着物の中から下着が丸見えである。

(なにぃ!? いかんてこれは…なんというけしからん景色だよ!? まてまてまてぇぇぃ、ちびっ子に欲情するんじゃねぇ馬鹿者ォォ! あー、なんか色っぽいんだよな。白か…って、だめだだめだ、意識しちまうから目を瞑ろう)

 自分の考えを無理矢理消し去ろうとする尊は、かつて同じように体が動かなくなった出来事を思い出した。

(あのときと同じなら、また長い時間体が動かなくなるのか? それともこれは加護切れという現象なのか? 本当に1日で戻るのか!?)

「あれ? ミコさん寝ちゃいました!?」

「いいや起きている。サヤカの着物の中が見えないようにと目を瞑っているだけだ」

「きゃぁっ!? 気づきませんでした! はしたなくて申し訳ありません!」

「とりあえず体を起こしてくれぬか」

「はっ、はい!」


 サヤカは一旦尊を仰向けにした後、上半身を抱き起こした。

「サヤカ、ありがとう。だが…」

「いっ、いえ。なんでしょう?」

「顔が近すぎる」

「はっ!? すみません!」

「それは置いておき、加護切れとは何か教えてくれ」

「はい…?」

(何で、ミコさんは加護切れを知らないのかな? あちらの世界では加護の知識がこちらほど受け継がれていないの?)

「体の中には加護流が流れているのですが、詠唱でそれを使い切ると、体を動かすために通っていた加護流まで使ってしまいますので…」

 そこまでサヤカが説明したところで、尊は納得した。

(MP切れっていうことか。体まで動かなくなるもんなのか)

「理解した」

 だがそれは、2年前に起きたことと同一とは尊には思えなかった。あのときは何も加護流を使った形跡は無かったのだ。


「少し休めば、体は重くても動くようになりますからね。ミコさんの方の世界では、加護の知識はあまり受け継がれなかったのですか?」

「そうだ。いろいろな体系に分かれていたが、使えなくなった」

「使えなくなっていたんですか!? 何故ミコさんだけは使えるんですか!?」

「こちらへ来たからだろう。だがある程度の概念はあった」

「そうだったんですか。でもあんなに無詠唱で加護を…」

「戯れに、仮想空間に身を置いていたからだ」(バーチャルリアリティー、まあゲームってやつをやってたんで)

「仮想空間…!! そのような厳しい修行を戯れとおっしゃるのですか…!」

「1年ほどの間、寝食を制限して篭っていた」(1年ほど、寝食を忘れてゲームするほどのヒキコモリだったんでね)

「1年もそのような!? 凄まじい修行です…」

 サヤカはこの世界では理論上は存在しているはずと言われている仮想空間、それについては単語しか聞いたことが無かったが、そこに1年も入っていたという尊の言葉に絶句した。


「知識については問題ありません。私たち火王家には古代からの正確な知識はありませんが、試験に合格すれば中央王家から知識を与えられますから心配しないでくださいね!」

「ほう。中央王家しか持っていないのか」

「重要な知識ですので…。でもそのほとんどは、12000年の間に民間では失われてしまったんです。中央王家だとしても、実用化できる知識ではなくなっています」

「なるほど。我はそれを必ず手に入れる。ある程度知識が手に入れば、かなりの部分は補完できるであろう。ところで我は騎士団には入れないのか。登録したいのだが」

「ええと…騎士団は試験に合格しないと…」

「試験はいつだ」

「今年は、2ヶ月後です」

「毎年やっているのか」

「50年前から、2年に一度です。今年で最後です」

 そこまで答えて、サヤカは目を伏せて悲しそうな顔をした。

「最後とはどういうことか?」

「この惑星、ヴェガルはあと2年で滅ぶのです」

「マジカヨオオォォォォ!?」

 尊は、あまりの話の飛躍に、思わず日本語で絶叫してしまった。その大声に、周辺にいた人々は畑仕事を止めて何が起きたのかと注目し始めたが、昨夜の龍騒動の立役者だと知るといぶかしんでいた。





 ――俺は命拾いしたようだった。空から落ちたが、何故か助かった。元の世界でも就職に不安がある中、こちらでは働き口が見つかりそうになっていた。だがあと2年で終了だと!? 命拾いのはずが、いきなり滅亡とは話が飛躍しすぎだ。

 惑星ヴェガルと言ってたよな。どこかで聞いたような名前だけど思い出せない。どこで聞いたんだろう。こういうもんは、そのうち思い出すってもんだ。

「大いなる災いがやってくると予言されているのです…」

「災いとは?」

「誰にも、どんな災いなのか分かりません」

 なんだそれは、なんだか胡散臭くなってきたぞ。誰だ、誰がそんな戯言を?

「予言は誰がしたのだ」

「神官主です。太陽神殿の」

 太陽神殿と言ったか。ということはこの民族はどうやら、太陽神信仰なんだろう。星が滅ぶってのはそれにしても、なんだか胡散臭いな。だいたいいつも、日本でだって滅ぶ滅ぶと言われて、ノストラダムスがなんたらとか、2000年問題で核戦争とか、よく分からない予言を言いふらすやつらがいたんだ。そういうのはデマのたぐいだ。終末思想ってやつだな。

「それは誤りである」

「なっ!? どういうことです!?」

 滅亡なんて起きないよ。デマだし。

「滅亡はさせぬ」

「何故そのようなことが言いきれるのです!? 何故そんなに、自信が!?」

 そんなデマ、俺が止めてやるよ。安心しなよ。

「我が止めてみせよう。安堵せい」

「ミコさん!!」

「「「「オオオオオオ!!」」」」

 なんだ、なんだこの歓声は? ちょ、なんでこんなに人が集まってるんだよ? うわっ、なんで胴上げすんだよぉ!? あー。早く騎士の試験とやらを受けちまいてーな。2ヶ月は長ぇよ…。まあ、サヤカちゃんには世話になっちまったからな、その間に恩返ししておくかな?





 ――私たちの望みを叶えてくださるのか…。この方は、なんと心強いことをおっしゃってくださるのか! ここまではっきりと災いを止めるなどと、他の候補者の誰が口にできるかしら? 誰にもできないわよね!

「サヤカ様、この方が候補者でしょう!? 分かりましたよすぐに! いや候補者なんてもんじゃない、俺たちの待ち望んでいた方だ!」

「そうよ、この方こそ…」

 そして一瞬にして市民の心を掴んでしまった。この方は本当に、王になるべくしてここへ来たのね。民が望むとき、新しい王が現れる。それも予言の通り…。


 今日一日で私の確信はさらに深くなった。普通は、試験が終わるまで契りを交わすものじゃないはずだけど、トレイスさんも既にミコさんが太陽王だと信じて疑っていないし、私もそう。

 でもミコさんが私に手を出さないのはおそらく、律儀だから。試験を終えて太陽王に即位するまでは、ということなのよ。

「いつまでもここにいては申し訳が無い。新しい家が必要だ」

 なんとか動くようになった体を引きずって父上の家に戻ると、ミコさんは急に新しい家を欲しがり出した。試験までの2ヶ月の間、この家に居候するのではなく、自立した家が欲しいのだろう。ミコさんと新居で2人っきりで生活できるというのは夢のようだわ…。

「ミコさん、まだ夕方ですから、ちょっと街の人に頼んできます。家は加護ですぐに建てられますけど、家具だけは加護ではどうしようもないです。でもそれもなんとかしますね!」

「何から何まで、すまぬ」

「いえ…。このくらいはいくらでも…」


 体をまだ動かせないミコさんを置いて外に飛び出し、市民の方たちに新居作りをお願いすると、仮住まいのはずなのにあっという間に父上の家より大きなものが出来上がってしまった。みんな、はりきりすぎじゃない?

「サヤカ。仮住まいの新居を建てたのか?」

 火王城から政務を終えて帰ってきた父上が通りすがり、馬上からそれを見て驚かれている。昨日までここには何も無かったから驚くよね。

「はい父上! ミコさんがご所望でしたので」

「1日でか? 何人がかりで建てたのだ!?」

「地の加護を持つ方々が20人ほど手伝ってくださいましたよ!」

「そんなにか!? ミコト様には人を動かす才がおありなのだろうな。ここへ来てすぐに、市民が自発的に行動するとは。家具はどうするのだ?」

「取り急ぎ、うちから今運び込んでもらっています。あっ、ミコさんまで一緒に運ばれてきてますね」

「ハッハッハ、椅子に腰掛けたまま運ばれているな。まさに王そのものの姿だ。ミコト様、ご機嫌はいかがでしょう!」

 ミコさんに話しかけながらも、失礼にならないように父上は馬から下りていた。市民が抱えた椅子は、その父上の前で止まる。

「む? マーズ殿。お主に世話になりすぎてはいかんが、さらに世話になってしまった」

「いえ、この程度はなんなりと。皆喜んでいますよ」

「むう。恩返しをせねばならんな」

「恩返しとな!? とんでもございません…。もしや恩の流れが見えておられるので?」

「恩。これは多大な恩だ。我には大きすぎるので返さねば」

「やはり見えておられるのか…。不思議な力よ…」

 そしてそのままミコさんは新居に運び込まれていく。少し困り気味な顔をしたミコさんの姿がなんだか滑稽で、父上と2人で噴き出してしまった。

「アッハハ、ミコさんて面白い方ね。ところで父上、さきほど言っていた恩の流れとは何のことでしょう?」

「うむ。その真理は中央王家が持っている文献にしかないもの。我々にはどう頑張っても見えないものだ。我々が普通に考えている恩とは、言葉は同じだがどうも違うもののようだ」

「それがミコさんには見えておられるの?」

「どうやらそのようだな」

「難しすぎて、よく分からないわよ父上?」

「ハハハ、私にも分からないさ。さて、急に引越しとなると少し物悲しいが、門出は祝うぞ」

「はい、ありがとうございます。父上…」

「早く子を作れ。この様子なら試験を待たずとも良いであろう。既成事実を作ってしまえば、試験終了後には他の王女を差し置いて正妻となるだろう。楽しみにしているぞ。」

「は、あぅ、まぁ…」

 ただし、ミコさんがそれを望めばだけど…。だからちょっぴり不安。でも、「我を支えて欲しい」って言った! 言ったもん! あれは確実に求婚以外の何者でもないもんね! エヘヘ。


あっちでもこっちでも勘違い乱発中(゜∀゜)

ちゃんと情報は受け取っているのになんで勘違いするんでしょう?

お馬鹿なことって、日常でもそうやって起きているわけですねえ。


応援ありがとうございます! ご感想いただけて嬉しいです。

実は予定よりかなり早く更新しています。想定外です(´Д`;)

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