第3話 魔法使えちゃった
(この部分は現在改訂中です)
「ミコト様、これが着替えです」
ミコト様は奇妙な服で1日以上おられたので、早く風呂に入りたいと思っておられるだろうと推測して、食後に風呂場へ案内してみた。ずいぶんとお喜びのようだわ! 風呂にはいくつかの種類があるけど、浴槽に湯を張る方にご興味があるようね。
「言葉、言葉を教エテクレナイ? 後デイイカラサ」
どうやら言葉について、つきっきりでみっちりと教えて差し上げないとならないみたいね。早くこちらの言葉を覚えたいんでしょう。単語についてはやはり、かなりの量の単語をお分かりのようだけど、文章構成がどうも心もとない感じがする。それでも急に供もつれずに異世界に来て、心細いだろうにずいぶんと心の強い方ねえ。
「私の名は、サヤカと申します。覚えていただけますか?」
「サヤカ…。ソレナマエ? ヨロシクネサヤカサン。トコロデサ、着替エタインダケド…」
はっ。困った目でこちらを見られておられる。着替えるから見るなということね。うっかりしてたわ。
「後でお背中をお流しいたしますね?」
「ヘ? 背中ナガストカ、ソウイウノハオコトワリダ! マジカンベンダッテ。ハイッテコナイデクレ!」
ふう、背中という単語は通じたようね。ミコト様はどうやら、卑猥なことはお好きでない雰囲気だから慎ましくお背中を流すことにいたします。ご安心くださいね!
「ウワッ、ナンデハイッテクルンダァァァァァー!」
「お、お背中を…」
「フロハ一人デハイルモンダロ! アア、言葉ツウジネーノカ!?」
「あっ、お一人がよろしかったんですか!? 失礼いたしました!」
やってしまった。ミコト様は背中を流すな、という言葉を発したのだが誤解してしまったのね。これで怒って帰られてしまっては困ることになる。太陽王ともなれば多分、時空を飛び越えるような詠唱加護が自在に使えるのだろうから。それに、ここへやってきたのもその詠唱を使ったはず。そこまでの強力な詠唱はさすがに、こちらの世界では誰も使えないのだから、怒って帰られてしまったら追いかけることもできない。
「チョッ!? ソコニイラレルト、デレナインダケド!? 着替エトッテクレマス!?」
あぅ、もうお上がりになられるの? 私がいたら邪魔ね…。
「ミコト様、お似合いですよ」
「コレソンチョウサンノフクカ? メッチャゴウカダナ」
「? ミコトの称号、世界の王の称号を持つ者に相応しい服、いやそれでも威厳が少し足りないかと思います。うちの王家にあるのはこれぐらいしかないので、お許しください」
「イヤーアリガトネ! ムラノタメニ、イロイロテツダウヨ。少しノアイダオセワニナリマス」
少し、しか聞こえなかった。うぅ、やはり少し豪華さが足りなかったようね。火王家は貧乏なのだからこれぐらいのことしかできない。申し訳ないと思ってもどうしようもない。
ん、この音…。はっ! これは第四段階の警報! 準一級の魔獣が来たということね…。こんなときに!
「コノ音ッテナニ!? サイレン!?」
「ミコト様、こちらでお待ちになっていてください! 第四警戒の警報です! 危険ですから絶対に屋内から出ないでくださいね! 私は戦いに行きます。必ず、戻りますので!」
「ナンダナンダ、カジナノカ!? ヒナントカシナクテイイ?」
何故、安全なはずの火王の領地に準一級が…。そもそも、戦える者など誰もいないのに。下手をすると全滅する。この領地で最も加護の強い私が食い止めなければ。ミコト様とは、もしかするともう会えないかもしれない。死を覚悟しよう、この領地のために…。
――サイレンうるせーなこれ! めちゃくちゃ音でかいぞ。
どうやらかなり大きな火事みたいだな。警報システムは持ってるってことか。そういえば空から落ちて気を失った時に見た外の風景は、結構栄えてる感じだった。消防署とかもあるのかもしれねえな。
「なあ! この建物は大丈夫なのか!? 石造りだから大丈夫だとは思うけど。え、それ何? 鎧? 鎧なんて何に使うん…。えーと。剣ですかそれは。えっと、ロールプレイングゲームか何かのコスプレですかそれは?」
ハハハ…。火事なのにコスプレ始めちゃったよこの子。確かサヤカと言ったか…。痛い子なのかな? 何とかファンタジーっていうゲームの格好だぞそれは。
「おお、可愛いかも」
やべえ、メチャクチャ可愛いじゃねーか! そう言えばこの子の顔をまともに見たことはなかったけど、なんつーか凛々しい? コスプレも本気度が違うとさすがに見栄えが違ぇな! レイヤーだったとしてもまあ、若いうちはいろいろやりなさいってこった。
ゴォッ…。
わっ!? 剣が炎に包まれた! それどういう仕掛け!? 手品か?
「ミコトノカミ、ワレカヌアレズアヌシマムル、カゴアレ」
「おー、かっこいい。しかも可愛い」
え? なんか、マジ? なんすかそれ? 目に悲壮感が…。この子なんだか、死ぬ気みたいな目をしてる。心にぐっとくる演技だ…。あっ、出て行っちゃった。置いていかれるとちょっと悲しい。じゃあ俺もついてくか。あれ? なんだ外はもう暗いな。
「うおっ!?」
わあ、人がいっぱいいるぞ。…おいおい、全員コスプレしてるじゃねえか。コスプレ祭りとか? …いや違うな、考えを改めよう。これはどうやらマジだ。鎧を着ているということは、部族同士の戦闘の可能性がある。50、いや100人ぐらい出てきてるか? やべえ、こんな大規模な戦闘とは思わなかった。下手すると俺も死ぬかも。
だああ、だとすると俺はあの子にちゃんと送り出しの言葉をかけてなかったじゃねえか。クソ、馬鹿だな俺。この村は年端も行かない女の子を戦闘に狩り出すのかよ! 狂ってやがる。
ドォォォン…。
爆発音が聞こえるということは、やはり戦闘だ。音は近いからここは危険だという事だ。異常事態。異常事態。異常事態。3つほど異常事態が重なればそこは夢だと考えるべきだ。なんだあれは、ドラゴンじゃねええかああああああ! 火ぃ吹いてるぞオイ。
おまけに夜空に月が3つもあるじゃねえか! これは夢か? いや現実感はハンパ無い! 真面目に考えよう。どうしてもその結論だけは考えたくねええ! でも結論を出すなら、ここは…。
「地球じゃねえ。…ハハハ! 言葉に出したところで真実味はねえな!」
そして4つ目の異常事態。村人が手から何か出している。もはやゲームの中の世界に来たとしか考えられないようなことが起きている。あれは魔法のようだ。いや、魔法だ。
よく思い出そう。俺がこの世界に来たきっかけは何だった? 親父が魔法の源だと言っていたオパールに触れたのが最後の記憶なら、それが本当に最後なら…原因はそれじゃねえかぁぁ! オパールに魔力かなんかが残っちゃってたんだ。それで俺はこっちへ飛んじゃったんだ。俺一人で。
「グアァァア!」
あっ! 村人たちがドラゴンにやられてる!? どう見てもレベル60ぐらい無いと戦えなさそうな、ボス級だぞあれは。羽生えてるし、火ぃ吹くし。あれは戦うべき相手じゃねえ。逃げるべきだろ。何で戦ってんだよ!? あの子まで魔法を放ってるじゃねえか。ああでもダメだな。あの魔法じゃあレベルが足りてないから、ドラゴンにゃあ通じてねえよ。
「サヤカ! 逃げるんだ!」
戦ってダメなら潔く逃げるのが本筋だろ。なんで戦うんだ。そんなことで死ぬなんて。
「ミコトノカミ! コハクヌデナシ!!」
「だー! 何言ってるか分かんねーよ! 逃げろって! は…。マイガッ。終了の予感…」
「ミコトノカミ!!!」
ほら、早く逃げないからドラゴンさんがこっち来ちゃいましたよーっと。でかい。かなりでかい! 頑丈な後ろ足に、俺の胴体よりも太い前足。その両方に鋭い爪がギラリと光っているが、それよりも恐ろしいのは牙。この顎に噛まれたら即死だろう。苦しむことすらないかもしれない。
空から落ちたときもヤバかったが、確実にこれは、俺の死が思い描ける…。オイオイ、そんな絶望的な目で俺を見るなサヤカ。
思えば短い人生だったが、それなりに楽しかったと思う。できれば親父の研究がどうやらいくつか真実だってことが分かったんだから、もう少しこの世界を調査してみたかったが。だが死ぬことに、あまり怖さはない。一度、空から落ちたことで死に対する覚悟ってもんができちまってるらしい。まあどうせ死ぬなら俺も遊んでから死ぬさ。なんてったって、魔法が使える世界だからな!
「どうせ、魔法とか使える世界に来たんだから! 俺だってなんか魔法とか使ってみるさー! とりあえず適当にファイヤー! なんちって」
ゴォッ…。
「おおっ、出た出た!? じゃあブリザードストーム的なのとかどうだ!? こちとらゲームなら徹夜でやってんでい! んー…。ブリザードォォ!」
ハハハ、手から火は出るし氷まで出るじゃないか。いやこれは氷じゃねえな、なぜか水だな。火ならまだしも、水なんかぜんぜん効かねーじゃんか。でも、魔法の世界に来たから使えるんだな。ドラゴンってさすがに強えーな。鱗だ。この鱗ではじかれてるんだ。じゃあ重力魔法とかもやってみる?
「グラビトン!! なんてのは出ないかな? あっ。出た。何でもありだなこの世界は」
右手から黒い塊が飛び出すと、それは戸惑うドラゴンに触れる。次の瞬間ドラゴンは地面に押し付けられ、身動きが取れなくなる。だが適当に放った俺の魔法はすぐに効果が切れ、ドラゴンは元通りに立ち上がる。
それでもグラビトンがちょっとでも効いたことでドラゴンに恐怖感が生まれたのか、翼を広げると空へ羽ばたいて逃亡していく。
「とりあえず撃退した、ってわけか…。どんな魔法使ってもまともに殺せる気がしねーな」
「ミコトノカミ!」
「カミ!」
「わあ!? なんだあんたたち、泣くなって!? ほら、ドラゴン行っちゃったからさ。もう大丈夫でしょ?」
みんな、なんだか顔がぐっしゃぐしゃだぞ。まあ命拾いしたから嬉しいんだろうさ。それにしてもこの人たち、魔法レベル低いんだろうなあ。ちゃんと修行とかしてねーんじゃ? まあそれはいい。俺はとんでもない世界に来ちまった。もしかしたらもう帰れないかもしれない。トオル、江里にはもう会えないかもしれない…。モンスターでも狩りながら細々と生きていくしかないのかなあ…。
――ミコト様が加護を使っておられる! 間違いない、火の加護だ。やはりミコト様は必要なときにしか加護をお使いになられないのね! はっ!? 水!? 火の加護のすぐ後に水の加護を使った! ありえない!
「サヤカ! あの方はミコトを名乗っていた方か!? 火属性だけじゃないのか、水も使えるのか!?」
「トレイスさん!? 何故ミコト様は2種類も加護が使えるの!?」
「いや、ありえないだろ!? 加護は1種類だけしか使えないはずだ! 水が出たのは見間違いかもしれない?」
「待って、また何か…。うそ、何!? あれは何!?」
「黒い加護!? そんなもの、見たことが無いぞ! うおお、すごい! 龍が伏せたぞ! なんだあれは、重力属性か!?」
「伝説の…。トレイスさん、私たちは本物の太陽王の力を、まだ何も知らないのかもしれない…」
「ああ。加護が強いのが太陽王、そう思っていただけだった…」
この力なら、この世界が予言どおりに滅亡するのを、本当に止められるかも知れない…。滅亡まであと2年。世界は、この方にすべてを託すことになる…。
見たことも無い黒い加護に怯えた龍は、さすがにこのまま戦い続けるのは危険だと判断したのか逃げ去っていった。まさかの、死者なしでの準一級魔獣撃退に街は震えている。そして地水火風の4属性以外の加護属性を発現させたこの方は、既に賢者の称号を得るのに相応しい。中央王家に認められ、太陽王として即位する日は、きっと近いわ…。
なんで突然魔法が使えちゃったのか!?
その謎は今後分かってきます(´・ω・`)
しばらくかるーいノリで行きます。
ムフフなのはお預けで。(゜∀゜)
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