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太陽王の世界 ―異世―  作者: 檀徒
◆第一章◆
3/29

第2話 風土病を防ぐため蚊を退治しましょう

 ――いやー、それにしてもこの人たちは良い人たちだなー。見ず知らずの俺に豪華な食事まで用意してくれるとは。こりゃー、少し村の仕事の手伝いもしてから帰路につかないといけねえな。

 俺が親父のゼミに、例外的に1年の頃から詰めさせてもらってたおかげでいろいろと民俗学についても分かるからな。この人たちが着ている服は着物型だから、ここが環太平洋のどこかということが分かってくる。親父は考古学会でも馬鹿にされていたが、きちんと基本も抑えていたから学生にとっては楽しい教授だった。あー。なんかいろいろわめいてる人がいるなー。でも口調が早すぎると聞き取れねーな。


「ミコトノカミ、コハワエガムラアヌサガノラマ」

「おお、サンキュサンキュ。ありがとうございます。めっちゃうまそう!」

 そしてこの大和言葉から派生したであろう言葉を話すというのが決定的だ。この女の子はゆっくり話してくれるから分かりやすい。多分、わが村の特産ですとかいう意味だろう。

 それにしてもいい笑顔だな。背がちっちゃいから14歳ぐらいかな?

 第二次世界大戦で日本兵たちがジャングルに隠れている間にこの村に行き着き、おそらくここの村民に日本語を教えたのだ。60年以上経過した今、そこで覚えた言葉が民族の言葉と融合してこんな言葉になっちまったんだろう。

 でもところどころ聞き取れねえ。日本語と同じ、主語のあとにすぐ述語が来るのはアルタイ諸語の特徴。いくら単語が日本語と混じったって、文章の形式だけは変わらないから、これが日本と同じということは、ここが日本の南方だということだ。この人たちは黄色人種のようだから、おそらく、パプアニューギニアかその周辺の未開地なんだろうな。


 なんでこのニューギニアに俺がいるのか、よく考えれば一つの結論が導き出されてくる。おそらく、遺跡の発掘はうまく終わって、その後にまっすぐ帰るんじゃなく馬鹿親父がスカイダイビングをしたいとかごねた。それで俺も一緒にセスナとかで向かったが、着地点が風で流されてこの村に落ちたんだろう。

 うまくパラシュートが開かなかったのかもしれない。それで焦っていたが、おそらくパラシュートがうまく開いたから俺は生きているってことだ。で、そのときあまりにも焦ったので記憶が飛んでしまっている。きっとそんな感じだろう。

 セスナでどのへんまで飛んだのかの記憶が戻れば、帰る方向も分かるはずだな。だけど日本大使館とかあったっけ? きっと記憶が飛んでいるってのは、外国まで来て、馬鹿親父に強行軍で観光させられたか何かして、疲れてるってのもあるんだろう。ニューギニアまで飛んだ記憶はぜんぜんねえな。


 この村の上下関係とか、なんとなく分かってきた。俺を介抱してくれた女の子の父親は、どうやら村長さんの弟みたいだな。で、俺を客人扱いしてくれているってことだ。おそらく俺が日本語を使うから、この人たちも嬉しくなっちゃったんだろう。昔ここへ来た日本兵が、この村に貢献したんだ。よく、そういう話がネットに載っていたのを目にした。俺が降りた村がたまたまそういう村だったのは幸運だな。この村の人たちはかなり日本好きなのかもしれない。

 もしかしたら、ここへ来たのは敗残兵かもしれない。日本はまだ戦っていると思って、終戦後も居残ってしまったパターンだ。そうして平和な時代になってから何年、何十年かして、やっと発見された元日本兵というニュースも、昔はあったというから驚きだ。この村もそういうパターンなのだ。未開の村が多いニューギニアのあたりだとそういうことが起きやすいというのもある。それでも、今ではそういう村にもテレビがあったりなど、文明の利器が持ち込まれているケースも増えていたはずだ。


「さて、よろしいでしょうか。えと、みなさん。わざわざすいません。何の言葉も分からずお返しもまだできてませんが。とりあえずいただきます」

 親父から教わった、考古学の調査時に行うべき現地人との対応方法を実践する。言葉ってのは伝わらなかったとしても、とにかく口に出して言うことが重要だ。それで気持ちが伝わるんだと親父は言っていた。ほら、あっちの人はにっこりしてる。気持ちは伝わったんだこれ。

 それにしてもうるせーなあ。早口で何かわめきあっている。食事のときにわめくように、喧嘩するようにしゃべりながら食べるのがこの村の文化のようだな。それでも食事にはどんどん手をつけているから、この人たちは仲がいいんだろう。喧嘩するほど仲がいいって言うしねえ。

 本当は俺もその会話に入ってやらなきゃいけねえんだろうが、言葉が分からないからまず無理だ。黙って飯を食おう。いやあ、これうめーな。魚料理みたいだけど臭みもねえし、よく煮てあるから寄生虫とかも心配ねえな。それにこれ、うるち米だな。ニューギニアって米作だったっけ? まあいい。うまいものはうまい。やっぱり米はいいねえ。

 む? 蚊がいるな。まあ熱帯なんだろうから仕方ない。俺は蚊を捕まえるのは得意じゃねえからな。空中を飛んでるやつを叩ける人間とか信じられねー。俺はせいぜい、机とか壁とか、時には自分の腕とかに止まったやつをぶっ叩くだけだ。それでも逃がしちまうんだから吸われ損だ。だから蚊は敵だ! ほんと腹が立つ!

 おおっ! 絶好のポイントに来た! 床だ! 床に止まった。ようしそのまま待ってやがれ。

 バン。

 おっしゃあ! ゲットしたぜ! ん? なんでみんな立ち上がってんの? ああ、ちゃんと蚊を捕まえたかどうか確認したいのか? さすがに熱帯だとマラリアとか気になるだろうからな。

「あのさ大丈夫、ちゃんとトドメは刺したからさ?」

 右手を差し出して蚊を見せたら、なんだか村長さん以外は全員で平伏しちまった。どうやらこの村にとっては、マラリアは死の病なんだろう。蚊を殺すことはいいことだ、ってことだな。それをちゃんと俺がやったから、客人にやらせて申し訳ないってことかもしれないな。

「あー。気にしないでくださいね。当然のことをしたまでですよ」

 蚊を殺した程度で、そんなことを言うって恥ずかしいぜこれは! まあそれでも何か言葉を出さないと、この人たちは恐縮しちゃってるっぽいしなあ。むしろ俺の方が申し訳ないんだけどな。

 あれ? 村長さんまだご飯食べきってないのに出て行っちゃったな。でも出て行くときに俺の顔を見て少し笑ったから、きっと蚊が発生しているのが気になって見回りに行くのかもしれない。村長ともなると大変なんだろうなあ。まあ、この時代は殺虫剤ってもんがあるから、この未開の村っぽいところでもなんとかなるんだろう。

 いやあ、それにしてもメシがうめえー! この酒もうめえ!!! 日本酒と同じ、米から作られたものなんだろうが、とにかく甘い! これ結構アルコール度数高いぞ? はあ、なんか和食を食うと、早く家に帰りたくなるなあ。





 ――叔父上、火王様は私の言うことを、妄想だと言う。いくら異世界からの旅人だったとしても、何も持たずに来るわけがないということ。それから何故、私たちの言葉が少しなりとも分かるのかということ。

「ミコト様、こちらは河で獲れました魚です」

「オオ、幸あれ、幸あれ。ありがとうこれはマス。目が利くのであろう」


「ほらよく見てみなさい。何の取り柄もないような男ではないか。言葉が分かるというなら、これも聞こえてるのであろう? ところどころ聞こえる単語も、どうせこの男が知っているからだろう? 意味が通らない言葉が多いぞ」

「でも! この服装は明らかに我らの文明とは違うものです!」

「サヤカ、物事にはいくつかの局面から見ることが大事なこともあるのだ。この男が虚言癖を持っている可能性も視野に入れて、ちゃんと見極めてから候補者に据えるべきだと思うのだがな」

「ミコトと名乗ったのに?」

「もし異世界でミコト、異世界側の王だったのなら、何故、共を連れてこないのだ? 単に他の大陸から来ただけの旅行者かもしれないぞ? それにこの服装が王のものだと言うのか? 庶民の服ではないのか」

「ううっ…。それでも私は信じます。私はこの方が、加護を使う瞬間を見たのです」

「人間というものはな、そうなってほしいと願い続けると、つい妄想を見やすくなってしまうということも忘れてはならないぞ、サヤカ」

「…そのうち、この方がそれも証明してくださいます」

「だとしても、ぜんぜん加護を使わないではないか。本当は使えないのでは」

 そうやって叔父上に丸め込まれそうになったその時、ミコト様は私へ助け舟を出してくださった!


「さて、それは違うな。控えろ皆の者。私はたしかに疎いが、何も言葉が分からないと考えるのは早計だろう。さっさと食事に向かえ」


「兄上! 兄上の言葉はミコト様に届いていたぞ! 失礼なことをしてしまった!」

「ま、待てマーズ! まだ太陽王候補者に名を連ねることを私が認めたわけではないぞ!」

「とにかくミコト様は食事をするならしろとおっしゃっている。論争は後だ」

「む…仕方あるまい。この場は食事に向かおう。どちらにしろ客人だ」

「叔父上、それでいつ候補者と認めてくださるのですか?」

「さあ、いつのことになるやらな!」

「叔父上、それはあんまりです!」


 バン!


 はっ! ミコト様が床を叩いて怒りを露にされたではないか!

「ミコト様、申し訳ありません!」

 そう、ミコト様はうまくこちらの言語をしゃべれないだけで、こちらの言葉は筒抜けだったのだ。

 さすがに、もし太陽王候補で無かったとしても、客人に対してあまりに失礼な態度ではなかったか?

 食事を取っている場合ではない。ミコト様に申し訳が立たない。


「あまり騒ぐな。この虫のようになりたくはないだろう?」


「くっ…。失礼いたしました…」

 平伏するしかなかった。ミコト様を怒らせてしまっては、我が火王家の再興も成らないのだ。


「ああ、心配などするな。王になれば文句はないだろう」


「ふっ、ミコトと名乗る者よ。いいだろう、候補者選定試験を特別に用意しよう」

「叔父上、もう行かれるので!?」

「ああ、この男が大物だということが分かっただけでも収穫ではないか。選定試験の日程は追って知らせる」

「叔父上、ありがとうございます!」


 火王が席を立つというのに、ミコト様は食事に勤しんでいる。火王なんぞと比べるな、太陽王とは格が違うということか…。間違いない、この方こそ本物なのだ。

 力は、必要な時だけ出せば良いという考えをお持ちなのかもしれない。いずれ強大な力を見せてくれるはず。その時、私が妃に相応しい女になっていなければならない。もう私も18歳。今回が駄目なら、規定のせいで以後、妃になる機会は無いのだから…。


 今夜は、ミコト様のために私のすべてを捧げよう。

(改訂保留中です;;)

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