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太陽王の世界 ―異世―  作者: 檀徒
◆第一章◆
17/29

第16話 烏合の衆は全滅を招くんです

「鎧と武器を持っているのはサヤカ、フェルナ、フォルクスだけじゃな!」

「我には木刀があるが…」

「待つのじゃミコト殿。はやる気持ちは分かるがさすがに木刀では戦えぬじゃろう。妾とともにここで待機するのじゃ」

 マイカは懇願するように、走り出そうとする尊の両肩を抑える。それでも尊の目は赤龍へと向いている。距離はかなり遠いが、その特異な形態はそれでもよく見える。

(俺のロハスなスローライフを脅かすモンスターは、絶対に許しちゃいけねえだろ。それがドラゴンであっても。前みたいに追っ払っちまおう。大丈夫、危なくなったら後でみんなで逃げればオッケー!)

「脅威は潰す。逃げるのは後だ」

「ずいぶんと頼もしいことを言うな、さすがはミコト様よ」

 尊の言葉にフェルナは白い歯を見せる。ここで逃げると言っていたら太陽王の名が廃ると考えていたフェルナには、申し分ない言葉だった。

(待っていたって殺されるだけだろ? なら俺も戦わないと。補助しかできないと思うけどさ。みんなの後ろについていくだけだ)

「我は戦う。皆後ろへ従え」

「うっはあ。すげえことを言うっすね。付いていくに決まってるじゃないっすか」

「ミコさんも戦ってくれたら心強いけど、鎧も無いのに戦ったりしたら危険ですよ! あの夜みたいにうまくいく保証なんてないんですから!」

(鎧が無いと戦うのは駄目か。じゃあ鍛冶屋に行けばなんかあるんじゃねえか?)

「鍛冶屋だ。マイカ殿、行くぞ!」

「むう、頑固じゃのう。3人は先に行っておれ! 良いか、決して死ぬでないぞ」

「無理しちゃだめっすよ! しっかり準備してから来るっす!」

 サヤカたちをその場に残して、尊は鍛冶屋を目指して走り出した。毎朝の日課であるマラソン時とは違い、体全体に重力軽減の魔法をかけてから走るので、まるで風のように走ることが出来る。

(はええ! 金メダルなんか余裕で取れるぜこれ!)

 鎧を着けた市民たちが南へ向かうのを掻き分けながら、鍛冶屋へと走る。既にマイカははるか後ろだ。

(人が多すぎて邪魔くせー。よし、上だ)

 地面を走れば人にぶつかる危険がある。ならば、と建物を駆け上がり屋根づたいに飛び跳ねる。

(ハハハ、なんかこれ忍者マンガみたいな状態になってんな! 魔法があれば何でもできる気がする)

 早々に鍛冶屋に到着すると、建物の前で頭領のシディウスが待ち構えていた。


「旦那! 来ると思ってたぜ! だがさすがに建物の上から来るとは思わなかった! うちの若い衆はみんな戦いにいっちまったぜ!?」

「シディウス殿、至急、鎧と武器をくれ! 代金は後日必ず支払う!」

「死ぬほど儲けさせてもらってっから代金なんていらねえぜ。こんなこともあろうかと、旦那用に作った鎧とウチガタナがある。奥まで来なせえ!」

「すまぬ!」

 金物店と鍛冶工房は同じ一つの建物を左右に分けて展開されていた。それぞれ三十畳ほどはあろうかという広さだが、シディウスはその金物店へと入っていく。

 鉄鍋などの調理用具、(くわ)などの農具、金槌や釘などの工具が所狭しと置かれている店の奥には、鎧や剣などの武具が陳列されていた。

「どれだ?」

「ここに並べてあるやつはたいした強度はねえですぜ。炭素鋼で作ったものは特別に箱の中にしまってあるんでね。この箱ですぜ。さあ持っていってくんなせえ。紋は付けておきやしたぜ」

 シディウスが指をさした所には、縦横とも70センチはありそうな大きな鉄の箱があった。尊がその蓋を開けると、キイイという小気味良い音がして銀色の甲冑が姿を現わした。


 箱から取り出すと、甲冑の胴部分の背には大きな五芒星があり、中央には太陽のシンボルが刻み込まれている。五芒星の各頂点には、それぞれ地水火風をイメージしたと思われるシンボルが刻まれているが、首のすぐ後ろ、五芒星の最も高い頂点には円が描かれているだけだ。

「イデア、か」

 つまりこの図が惑星ヴェガルでの魔法体系を現しているのだと思われた。円のシンボルはおそらくイデアだ。

「旦那、イデアを知ってるんか!」

「知っているとは言っても概念だけだ」

 目を丸くして驚くシディウスを横目に鎧を着込む。だが初めてのことなのでうまく装着することができない。

「やっと着いた…。ミコト殿、速すぎじゃぞ…。妾はもうくたびれてしもうたわ」

「おう、中央の姫さんよく来た、久しぶりだな! そんなひらひらした服来て走ってきたのかい!? 旦那の鎧を装着させてやってくれ。おれぁ、武器を取ってくる」

「はぁ、はぁ。うむ分かった。ミコト殿、一回座るのじゃ。むっ!? この紋様は王家の…!? 腹側はこれまたずいぶんと大きな太陽の紋が刻みこまれているのじゃな。ミコト殿、作らせていたのか」

「すまぬがマイカ殿、装着ができぬ。頼むぞ」

「こんな事態でなければのう…。晴れ晴れとした初陣のはずが、こんなにせわしない着付けになるとは」

「なるほど、そこがはずれるのか」

「頭から着ようと思っても駄目じゃ。鎧はこの脇にある留め具をはずせば2つに割れるから、これを体に嵌めてからもう一度留めるのじゃ。ほれ、できたぞ」

「おおっ、意外と軽いな」

「腕と足もつけるのじゃ。兜はこれじゃな」

 西洋鎧のような構造をした総鋼製の甲冑を全身に纏うと、そこには中世の騎士が一人佇んでいるように見えた。ただし、その胴の腹側には大きな太陽のシンボルが描かれ、そのシンボルは真っ赤に塗られていた。

「立派じゃぞ、ミコト殿」

「旦那! 待たせたな! これが旦那専用のウチガタナだ。名づけは旦那がやってくれ」

 シディウスは重厚な装飾が施された鞘に包まれた、一本の刀を両手に持って尊へと差し出した。その鞘にも鎧と同じように、太陽のシンボルが刻み込まれている。

「名づけ? おおっ、刀は予想以上に重いな」

「鞘の重さもあるんでな。旦那、ちょっと鞘から抜いてみてくれ」

「ふむ」

 スラリと静かな音を立てて、白銀の刃が鞘から姿を見せる。濡れたような刀身が、その武器の威力を想像させた。だが(しのぎ)を見ると通常の刀ではないことが分かる。刀身には点々と、オパールが埋め込まれているのだ。

「虹色水晶を埋め込んだ特別製ですぜ。つまりこの刀は意思を持つ刀。名づけてやればその力は倍増しやすぜ。ちなみに王家に献上したものより上等なもんでさあ。たまたま巧くいった、斬れ味抜群のウチガタナでさあ」

「なるほど、少々聞きたいことはあるが、理解した。しかしなんと名づけるか…」

「武器を持つものにとって、剣は友じゃろう? なあ、シディウス殿」

「そうですぜ」

「友か。では我にとって最高の意味を持つ名、正宗としよう。最高の刀には相応しい」

「マサムネか。意味はなんじゃ?」

「チキュウの、希代の刀工の名だ。頼んだぞ、正宗!」

 尊が呼びかける声に、正宗が光をもって応える。刀身が淡い光に包まれた後、それはすぐに消えた。

「これで名づけは完了ですぜ。あとは戦うときにその名を呼べば、強度や切れ味は倍増しやす」

「よし、行くぞマイカ殿」

「妾はもう走れぬわ」

「ならば仕方が無い」

「何を、ひゃぁっ!?」

「おうおう、お熱いね旦那。気ぃつけて行ってきなせえ!」

 尊は正宗を鞘に収めると腰に差し、マイカを抱き寄せた。体を倒させると左手で上半身を、右手で太股を支えて抱え上げる。つまり、お姫様だっこだ。マイカは驚いて尊の首に両腕を回す。

「感謝するぞシディウス殿! 吉報を待たれよ!」

 尊はマイカを抱えながら金物店を飛び出していった。


「マイカ殿は火王城で待っていてくれ」

「う、うむ! 分かった。しかしこれは恥ずかしい。このまま街を走るつもりか…」

「すぐに終わる」

 尊が知っているゲームの中には、一度行ったことのある場所には簡単に移動できる魔法があった。あれはどういう仕組みなのかよく分からないが、試しにやってみようとした尊は体をオーラで包み込んだ。

「加護流で体を包み込むとは? 何をするつもりじゃミコト殿」

「飛ぶぞ」

「え!? きゃぁぁっ!」

 マイカは突然の加速度に悲鳴をあげる。落ちてしまわないよう、必死に尊にしがみつく。

「着いたぞ、城だ。見晴らし場だぞ」

 火王城の見晴らし場にいた一般人や近衛兵は、突然飛んできた尊の姿に、そしてその鎧の紋様に驚き、言葉も無かった。

「えっ? もう着いたのか!? 何をしたのじゃ!」

「移動マホウだ」

「そんな詠唱、聞いたことも無いぞ! ああ、できればもう少しこうして…」

「龍がこちらへ飛んできたら逃げるのだぞ。む、ここから見える限りではまだ戦闘には入っていないようだな」

「あぁ、ミコト殿…妾は…」

 すぐに下ろされてしまったマイカが、再び飛び立とうとする尊へ白い腕を伸ばす。だが尊は見晴らし場の手すりに乗り、仁王立ちになっていた。

(今の原理を使えば、空を飛べるんじゃねえかこれ! 大丈夫、飛び降り自殺するわけじゃないから安心してくれよ)

「安心せよ。我は死なぬ」

 そう一言だけ言ってマイカに微笑を投げかけたあと、尊は再び体をオーラで包み込み、龍へ向かって飛び立った。

「気をつけていくのじゃ…」

 マイカは胸を押さえてその場に座り込んでしまう。死地に赴く男を見送ることしかできないでいる自分の弱さを理解していたマイカは、再び尊と手を取り合う瞬間が、勝利の瞬間がやってくることを懸命に祈った。

「マイカ姫ではございませんか? あれはミコト様ですか!?」

「そうじゃ。ミコト、ああ…ミコト殿…」

 近衛兵の一人が顔を赤らめているマイカに声をかける。マイカは魔法によって飛行する尊を見守りながら、溜息交じりに返答した。

「ミコト様がつけていたあの鎧は、太陽の紋! あれは伝承にある太陽王の鎧ではありませんか!?」

「そう、そうじゃ。どうやら鍛冶屋に作らせていたようじゃ。試験なぞ関係なく、ミコト殿は既に太陽王として行動されておる。皆の者、四代目太陽王の初陣をしかと見ておくのじゃ!」

「やはり! ミコト様が太陽王だったのですね! しかしあの詠唱、いったいどういう仕組みで…。もしや、勝つ見込みがあるのですか!?」

「妾にも分からぬわ。だがミコト殿の加護量は、計ってみたところ240もあったのじゃ。ミコト殿の力は妾どもの想像を超える、凄まじいものじゃ。勝てはせずとも死ぬことはないじゃろう?」

 その場に居た観光客たちはマイカがぼそりと言った加護量にどよめく。やがてそのどよめきは、余すことなく城内に伝わっていった。





 ――惑星ヴェガルにある11の大陸のうち、1つだけは絶対に人間が足を踏み入れてはならないものがある。それがベハメウト大陸、俗称「龍の大陸」だ。その大陸には龍族がひしめき、彼らは滅多にそこから動かない。こちらから干渉しない限りは何もしないはずなのだ。ただし、200年前の水王領で政争が起きていたように、何らかの人心の乱れがあるところには龍族が現れる。

 それらは全て龍王の指示によるものだと考えられる。一級魔獣に認定された7匹の龍と、特級魔獣の龍王、合計8匹は高い知能を持つ。オレは、その龍王を倒そうと考えている。風王家の傍流に生まれたからこそ、そのような危険な橋を渡ったところで誰も咎める者はいない。

 だから一級魔獣のうちの1匹、赤龍がやってきたのはちょうどいい腕試しだ。このために3年ほど腕を磨いてきたのだから。1匹ずつ倒し、やがて龍王へと辿り着くのだ。

 それにしてもおかしい。何故火王領に、二度も立て続けに龍族がやってきたのか? 人心の乱れがこの領地に隠れていたのか? それとも、邪悪な意思を持つ者がこの領内にいるのを龍王が感じ取り、ここへ向かわせたのか?

 その謎はあの赤龍と戦っているうちに解けるかもしれない。だがとにかくまずは龍族への1勝が必要だ。ミコト様がやってくるまでに、良い状況を作りだしておかねば。む? あの男は誰だ? 突っ込んでいくじゃないか。危険だ!

「馬鹿者! 飛び込むでないぞ! 陣形を組め!」

「うおぉぉ!」

 ただでさえこちらの位置関係が山の下側だというのに、この男はわざわざ不利な真下から突っ込んでいくとはなんという馬鹿な男か!? それは勇気とは言わない。愚挙だ。

「ありゃあ、死んだっすね」

「そこの男、一旦下がれ!」

「ぐあああ!」

 幸いなことに赤龍はその尻尾で男を弾いただけで、爪や牙を立てなかった。男は山道を転がり落ちていくが、もう意識は無いようだ。それでもあの様子なら死んではいまい。

「風王家のフェルナだ! お主ら、ああなりたくなければ陣形を組め!」

「お、おう!」

 うむ、これなら良い。きちんと防御隊形を組んでおかねば、炎の息吹が来たときに障壁を張ってもそこから漏れてしまう者が出る。

「半数ごとにわけ、左右から攻めるぞ! さきほどの男は誰か回復してやれ!」

「了解した!」

「合点だ!」

「いや待て口から…!」

「うおぉ、火だ! 誰か障壁を頼む!」

「…炎を防ぐ障壁を構築し給え!」

 間に合ったか! ふう、この街の者たちはあまり魔獣と戦うのは慣れていないようだな。後ろからはガチャリ、ガチャリと鎧同士がぶつかる音がする。なんだ、統制も取れていないのか。これでは烏合の衆でしかないから、隙を付かれれば危険なことになる。

 赤龍、こいつこちらを完全に舐めている。こちらが一箇所に固まると同時に炎を吹いてきおった。だがこちらは人数が多い。全員分集めれば、赤龍の加護量、推定200を超えるのは確実。持久戦に持ち込めれば勝てる…はずなんだが。ずっと吹き続けられるとは聞いていないぞ!

「フェルナ姫、これじゃ動けないっす! やばいっす!」

「それが狙いか!」

 これではこちらの障壁詠唱がもたない。何度も張り替えなおさねば…。攻めるどころか守るだけで精一杯じゃないか!

「まずいよ、近づいてきたよー!」

「落ち着けサヤカ! 後方の者から少しずつ後ろへ下がれ! 後ろの者は赤龍の反対側へ回り込むんだ!」

「無理っす! 炎がずっと後ろまで届いてるっす! 炎を弾き返せないっすか!?」

「そんなことは、オレはしたことがないぞ!」

 たしかにまずい。こちらは動けないのにあちらは動ける。これでは赤龍の物理攻撃が届くのも時間の問題。そして全滅も…。これは危険だ。うまく撤退する方法を考え出さなければ! くそっ、龍1匹でこの始末か!


「キャスト・サイレント!」

「何だ!?」

 えっ!? 炎が、止まっただと…。これは赤龍が自ら止めたわけではない。アレはまだ息吹を吐こうとしている。吐こうとして、苦しんでいる!? いったい、誰が何をした!?

鍛冶屋のおっさん、こっそりととんでもないことをやってくれましたなww

「こんなこともあろうかと!」

それが言えるのは技術分野では勲章みたいなものです


おっさんにはもう少しいろいろやってもらいます(´∀`*)


ご評価、なろうシステムのお気に入り登録ありがとうございます!

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