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太陽王の世界 ―異世―  作者: 檀徒
◆第一章◆
13/29

第12話 酒の飲みすぎは身を滅ぼします

 どうしようと考えて悩むのは女々しい。風王家はもうこのまま残り1ヶ月半、候補者を見つけられないままで終わると考えたほうが正しい結論なんだろう。それでも、太陽王が現れなくてもオレは龍王を倒すことを諦めるつもりはない。

 大いなる災いには龍王が関わっているとオレは考える。あれは邪悪な者だが、この12000年間、動きたくても動けなかっただけで、そろそろ動けるようになるのではないか。そう考える根拠は最近顕著になってきた龍族の活性化だ。

 一つ不思議なことがあった。霧の大陸から帰ってきた後に風王領の郊外で聞いたのは、火王領に龍が一匹だけやってきたということだ。準一級魔獣がたった一匹であそこに現れるというのはありえない。おそらく、龍王の指示でやってきた斥候のようなものだろう。あそこに何かが起き、それが龍王の復活へと繋がるのだ。

 そもそも、風王家の末席に名を連ねるオレが候補者対応王女というのが悪い冗談だ。それだけは絶対に嫌だと、髪まで短くして男物の服を着続けていたのに、風王の次女が自害するような事態になってオレにお鉢が回ってくることになった。だがオレは、あれを自害とは思っていない。あれは誰かに殺された。何かを、知ってしまったんだろうとオレが思うのは、あいつが自害するような動機は一切無いからだ。

 だが謎はまだ片鱗すら見えない。いくつもの不思議な現象を追っていけば、そのうち何かに突き当たるはずだ。同時に候補者も探せれば一石二鳥というわけ。風王はオレに女らしい格好をしろと怒鳴るが、そんなものは関係ない。腰巻なんぞ、戦いには邪魔なだけだ。だが、オレもそろそろ諦めねばならないのがこの胸だ。大きすぎれば邪魔になるだけなんだが、この小ささはもうどうしようもない。オレが女らしさを諦めたのはこれも理由のひとつだ。こんなオレが女らしい格好をしたところで、火王家のサヤカより魅力の無い女ができあがるだけだ。それより魔獣を相手に戦っていた方が、オレの性に合う。

「…なんだこれは!」

 風王領で手に入れた馬で火王領に入る峠へやってきてみれば、なんだこれはとしか言いようの無い騒ぎ。ド田舎だった火王領が山を切り開いて大工事をしているじゃないか。こんな大規模土木工事をするような国ではなかったはずだが。

「アー? 騎士さんどうなさったかね?」

 む、工事夫か? ずいぶんとたくさんいるな。ということは、火王の命令でやっているのだろう。

「これは何の工事だ」

「火王様のご指示で、何やら高速鉄道というのができるらしいんだがね。騎士さんは何も知らなかったのかね」

「しばらく霧の大陸に行っていたのでな、何も聞いておらん」

「霧の!? お若いのにずいぶんと冒険なさるね! そうだ、温泉宿で疲れを癒してきたらどうかね」

「温泉宿とは何だ?」

「この峠を切り開いている先に、天然の湯が湧き出るところがあるんでさあ。そこで寝泊りもできるから是非行ってみるといい」

「そうか、では少し覗いてみるか。しばらく風呂にも入っていなかったのでな」

「ハッハッハ、そんなんじゃあ女に嫌われますぜ」

「言えてるな。じゃあ、情報ありがとう」

「気をつけてな、騎士さん」

 まあ、今のオレはナリが汚いから男にしか見えないわけだ。だがさすがに少し臭うか。虹色水晶もかなり持っているし、しばらくその温泉宿とやらで休養してみよう。


 む。あそこが温泉宿だな。湯気がもうもうと立ち上っているな。その脇にある大岩の上で瞑想をしている男がいる。だがどうやってあの大岩の上まで登ったのか? 岩登りの好きな市民なのだろうか?

「アー! ダメダワカンネー!」

 …何かを諦めたようだな、体を大の字にして寝転んでしまった。しかし聞きなれない言葉を話すとは? 北エイドス大陸の奥地にあると言われている、閉ざされた村の元住民か? ならば是非話を聞いてみなければ。運が良ければ候補者として推挙できるかもしれん。

「そこの者!」

「何か」

「少々教えて欲しいことがあるのだが!」

「うむ、よかろう」

 なんだこの男は、ずいぶんと態度でかい。あまり舐めた態度を取るようなら風王家の紋を見せて跪かせてやろう。ん!? 飛び降りただと!? 足は大丈夫なのか、15メートルはあるというのに…。

「何用か」

「むっ…。お主、さきほど聞き慣れぬ言葉を口にしていなかったか」

「うむ」

「どこから来た?」

「ここではないどこかだ」

「オレは謎かけをしに来ているのではない」

「ふむ。ジャパンからだ」

「…なんだそれは?」

 怪しい、見るからに怪しい。ジャパンなんて地名は聞いたことが無い。ふざけているのか?

「チキュウ最高の改造技術を持った国だ」

 チキュウって何だ。待て、出自が怪しい。それに何かこの男、堂々としている。候補者になれるのではないか? これはいい拾い物をしたかもしれんな。

「オレはフェルナ。お主、名は?」

「ダイムーカノミ家のミコトだ」

「ダイムーの!? ミコト!? お主…まさかアマテラスから来たのか!?」

「アマテラスオオミカミ? 太陽の神だな」

「こっ、これは…。お主、オレと一緒に戦わないか?」

「ほう。そなたは騎士か」

「そうだ、オレは騎士だ!」

「よかろう」

「よ、ヨシッ! お主、住んでいるところはあるのか?」

「うむ、だが今日はここで瞑想を続けねばならぬ」

「そうか。オレは霧の大陸での魔獣狩りから戻ってきたばかりで少し体を休めねばならん。そこの温泉宿に宿泊しようと思うのだが」

「ほう、魔獣狩りとな! それは是非話を聞きたいものだ」

 おおっ、興味があるようだ。食いついてきたぞ!?

「では後ほどここへ参る。馬も休ませねばなるまい。馬上から失礼した」

「良い。騎士とは馬上にこそ、その存在を輝かせるべきだ」

「言うではないか、お主とは気が合いそうだな! ではまた後で会おう!」

「うむ! 同感だ!」





 ――ラッキィィィ! ちょっと可愛らしい顔をしてる騎士のお兄さんと知り合いになれたぞ! 魔獣狩りをしてたってことは俺の目標としてるスローライフ満喫者だ! そうそう、こうやってぶらりと魔獣狩りから帰ってきて温泉に浸かるってのは最高だよね。疲れた体を何種類もの泉質の温泉で癒しながら、酒をかっ喰らって地元の人に旅の話を提供する。まさに俺の目指すところだ。

 そうだ、ちょっと今日は遅くなるかもってサヤカちゃんたちに伝えておかないとな。きっと話が盛り上がるだろう。もし俺が騎士に合格したら、このお兄さんにしばらく他の大陸での魔獣狩りのコツを教えてもらいながら生活しよう。そもそも、俺には他の大陸への移動手段すら分かってないんだからな。


「というわけだ。すぐまた戻らねばならぬ」

「どういうわけじゃ?」

「瞑想はできるようになったんすか?」

「それはまだコツが分からぬ。その騎士に聞いてみようと思う」

「まあ、ここのところずっと修行するか工事の監督だったっすからね。ちょっと休んでくるといいっすよ」

「また明日から修行じゃぞ」

「うむ。サヤカ殿は?」

「火王城行ってるっすよ。新しい政策が多すぎて人手が足りないらしいっす。ミコト殿が矢継ぎ早に出したもんだから」

「うむ、そうか…。ではよろしく伝えてくれ」

「へいへい」

 さて、これで心置きなく騎士のお兄さん、フェルナさんと話ができるな。一旦家に戻ってる間にフェルナさんが風呂から上がってたら申し訳ない、急いで行くか。


「フェルナ殿、すまぬ。少し席をはずしていたらもうそなたが来ていたとは」

「いやいやミコト殿。オレも少し早く上がってきてしまったのでな」

 ちょっと遅れたか、でもこの人もかなり早く出てきたんだな。でもなんかこのお兄さん、やけに色っぽくないか? 俺が温泉宿に必須だろうと置かせた浴衣がめちゃくちゃ似合ってる。いやあ、この人モテるんだろうな。でも体のラインがなんか…。いやいや、俺にそういう趣味は無ぇ! 開眼しちゃいけねえよ。

「宿の部屋は取れたか?」

「部屋は取った。荷物はそこに置いてきたのだが」

「どうだ、部屋で一献」

「おお、良いな」

「最近この街で開発した酒と料理があるのだが」

「ほお! それは楽しみだ」


 急造りの質素な部屋だが、火王殿下の指示で街の人たちが駆りだされてしっかりと作りこんであるから、耐震性能はばっちり。そのうち儲かってきたら調度品とかもちゃんとしたものを仕入れていけばいいよね。現段階で宿としての機能は満たしてるから文句を言う人もいないだろうけど。まあ、安い旅館みたいな状態だ。

「ミコト殿、この酒はうまいな。それにこの料理。こんな美味いものは、オレは食べたことがなかったぞ」

「火王領の新しい特産米酒と焼きそばである」

「ほお、焼きそばか! これは病み付きになるな。ところでミコト殿、単刀直入に聞くが、お主は王になりたくはないか?」

「話しの繋がりが見えぬが。王などと大それた者になるよりは、恩を返しながらゆったりと過ごすのがあるべき姿」

「…達観してるな」

「魔獣を狩り、虹色水晶を集めるのだ。今はそのための修行に明け暮れている」

「なかなか良い考えを持っているな!」

「どうやらフェルナ殿とはかなり気が合いそうである」

「ハハハ、本当だな。そうだ、ミコト殿の生まれ故郷の話を聞かせてくれないか」

「よかろう。フェルナ殿から狩りの話も聞きたかったのだが、まずこちらから」

「火王領に来てこのような楽しい飲みが出来るとは思わなかったぞ。それにしてもこの酒、少々強いな」

「我もだ、このような楽しい出会いがあるとはな」

 やべえ、楽しすぎる。夜が更けるまで語り合っているうちにベロベロに酔っ払った俺たちは、そのまま床で寝てしまった。


 うーん。いい匂いがする。なんか柔らかいものが顔に当たってる。いつの間にかあったかいものを抱きしめてるけど、これなんだっけ。うーん。思い出せない。ん? 女の子の匂いかこれ? あれ? これはフェルナさん? あっ、そうか。酔いつぶれちゃったんだな。こんなところに寝てたら風邪ひくわ。あー。頭痛え、二日酔いだな。

 ベッドで寝ないとだめだろ、よいしょっと。軽っ!? 柔らかい!? あれ!? 今俺の目の前にあるのはどう見ても…。

「いや待て!」

「む…? 朝かミコト殿?」

「これはどういう…」

「ああ、すまん。オレは男じゃないのだが、気にせずとも良いぞ」

「気にするであろう!」

 大丈夫、俺は何もしてない! 何も見てない! 多分!


「それで、ミコさんは朝までお酒を飲んでいたの? フェルナさんと?」

「すまぬ、正直男だと思っていた。だがやましいことは何もしてはおらぬ」

「まあオレはいつもそう見られているからな。別に気にしていない。問題は候補者が二重になってしまったことだな」

「フェルナさん、ミコさんはこっちの候補者ですよ!」

「いやあ、でもオレとは意気投合したんだよ。な、ミコト殿」

「魔獣の話は面白かったぞ」

「ハハハ、そうだろ」

「それでもだめったらだめー!」

 なんでそんなに怒るんだよサヤカちゃん…。


「これって修羅場っすか、マイカ様」

「くだらんわ。妾はもう一度寝るぞ」

「はあ。ミコト殿は手を出しすぎっすね。しかも全員狙ったように立会い王女」

「呪われておるんじゃあるまいか?」

「言えてるっす」

 明け方の喧騒は二日酔いの頭にはずいぶんと堪えた。まあ、女だと気づかなかった俺が悪いんだけどな。

姫ゲットじゃなくて逆にゲットされちゃった感じに。



お酒はほどほどにせんとあかんです。((((;゜Д゜)))

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