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太陽王の世界 ―異世―  作者: 檀徒
◆第一章◆
11/29

第10話 日本の魔改造料理は世界に羽ばたく

「火王殿下、そのような訳で観光業をこの都市に勃興させたい次第」

 火王城へ来たのだから、事後報告だけど産業振興についての許可を得ないとと思って火王への謁見をお願いしたら、すぐに衛士が取り次いでくれた。

「ふむ! 温泉を使った観光業とは思いつきもせぬことでありましたぞ、ところで何故、マイカ内親王はミコト殿と一緒にここへ参られたので? 何か御用がありましたらこちらから馳せ参じましたのに」

「あ、それはえっと…。な、成り行きじゃ! 妾の候補者に火王領を見せようと思ってじゃな! そんな理由でこちらへ来たのであれば火王殿に顔を見せねばならぬ訳じゃ」

「あれ? そんな理由だったっすかマイカ様?」

「フォルクスは黙っておれ!」

「さっきは腰砕けになってたっすよね」

「口の減らぬ阿呆じゃのう! 少々外に出ておれ!」

「へいへい」

 フォルクスと言ったか、従者が外へと出て行こうとしてるな。じゃあ俺も一緒に出よう。俺もサヤカちゃんの従者だからな。

「ではサヤカ殿、あとは火王殿下と取り決めをされよ」

 政治の面倒なことは全部おまかせだ。俺もただの従者だし。

「えっ!? は、はい!」

「あっ、ミコト殿…」

 さて、部屋の外へ行くか。いろいろと詳細を話したりとかは、俺より言葉が通じやすいサヤカちゃんの方がいいだろうしな。

「マイカ内親王! 近頃はめっきり女らしくなられましたようで。先日五王会議で中央領に参りましたときにはお会いできませんでしたからな。元気そうで何よりです。ところで…」

 なんかマイカ姫がこっちを見ているが火王に捕まってるな。王族同士の話なんて聞いてたら、日が暮れちまうっての。それよりフォルクスさんと話をしたいんだよな。あの姫の従者だということは、相当な胆力を持っているんだろう。あんなのと毎日一緒にいるとか、絶対に俺には無理。


「やあ、フォルクス殿」

「ああ、どうもっす。ミコト殿も候補者っすよね」

 ああ、ということはフォルクスさんも騎士試験を受けるのか。この人は貴公子か? 随分とイケメンだな。なんか言葉が軽い感じがするが、親しみやすい感じだ。

「うむ、合格したらば魔獣を狩るのだ」

「へえー。やる気満々っすね」

「試験はどのようなものなのだ。我はまだ試験の話を聞いておらぬのでな」

「ああ、そうなんすか。瞑想と、組み手と、山登りと、5人の王妃との面接、それからやっと黒水晶らしいっすよ」

「なるほど、5つの試験があるのか」

「そうっす。瞑想はなんかを題材にするらしいっすが、試験になるまで題材は分からないっす。組み手は誰と組み手をするか全然分からないっすけど、候補者同士っすかねえ」

「ほうほう」

「山登りはアイラ山に登るらしいっすよ。無茶するっすよねえ」

「ほう、アイラ山とは?」

「中央領にあるでっかい山っす。標高5400メートルっすよ。その先はよく分からないっすけどね。それぞれ、何を持って合格とするかが候補者には分からないっす」

「なるほど、精神と体力ともに一定の基準を満たさねばならぬのだろう」

 相当高い精神力、体力を持ってないとだめなんだろうな。勇者の試験みたいなもんか。まあ、そこまで厳しくないと騎士にもなれないんだろう。加護切れもすぐに起こしちまう俺はどうやらたいしてMPも無いんだろうし、こりゃあ駄目かもな。

 でも今、5400メートルと言ったよな。度量衡基準は地球と同じなのか。何でメートル法なんだ? どうもおかしいな。度量衡だけは、これだけ文明が違えば絶対に相同になることは無いはずなんだが。ましてや12000年前にメートル法があるわけが無い。ただ一人、馬鹿親父を除いては信じないだろう。

「登頂しても合格じゃないらしいっす。基準がほんとに分かんないっすよ?」

 合格基準について気にしているということは、この男はなんらかの基準を考えているということだな。

「ある程度は仮説ができてるっすけどね」

「フォルクス殿、お主わざと馬鹿を装っているな?」

「なんだ、お見通しっすか。さすがっすね」

「何故そのようなことを?」

「あのマイカ姫は、いろいろと鬱屈してたっすよ。大いなる災いが近いからっすね。なんだか元気が無くて可哀相に思えてきたんで、気を紛らわせる意味でやり始めたっす」

 なるほど、主人思いの素晴らしい従者っていいな。彼女もきっとフォルクスさんがいるからこそああやって元気でいられるってことだ。じゃあ俺もサヤカ姫がご機嫌でいられるようにしていかなきゃなあ。なんだろう、頭を撫でるぐらいか? そもそもそれってアリなのか? まあ、俺の知ってる限りで産業振興ができれば、火王も大喜びだろうからいいや。

 それにしてもフォルクスさんも災いが来るとか信じてるんだろうか? 終末思想ってのはあとで恥ずかしい思いをするからやめたほうがいいよな。

「フォルクス殿、一つだけ言っておこう。災いは来ない」

「おお、随分と言うっすね。分かったっすよ。ミコト殿を信じるっす」

 うんうん、こうやってデマを一人一人潰していけば、そのうちデマをぶち上げるほうが恥ずかしくなって立ち消えていくはずだからな。

「ミコト殿、俺を仲間にしてもらってもいいっすか」

 今更何を言ってるんだ。同じ従者仲間じゃねえか。それにいろいろ、従者は何をすべきなのか教えて欲しいしな。頭を下げてお願いしないといけないよな。

「ああ、同じ仲間だ。いろいろと教えて欲しいことがたくさんあるのでな。よろしく頼む」

「うひょ!! ありがてえや。ミコト殿は謙虚っすね。試験ではお互い頑張りましょうや。手伝えることがあったら何でもするっすよ」

「心強いぞ」

「そりゃあ、こっちの言葉っすよ」

 俺はフォルクスさんとがっちりと握手を交わした。

 ああ、こういう男が騎士試験に合格するんだろうな。イケメンで背も高いし、親しみやすいし。それにどうやら頭もいい。いいことづくめだ。なんかあったらこの人に相談していこう。この人が騎士に合格したら、俺もその騎士団にでも入れてもらうかな。居心地良さそうだ。

「では、我はとりあえず戻る」

「あれっ、そうなんすか」

「産業開発案を練らねばならぬのでな。また試験で会おう」

「うおっ、もう王としての仕事に励んでるっすか!!」

 最後の言葉は早口でよく聞き取れなかったが、なにやら励ましてくれているような感じだった。あのうるさい姫が出てくる前におさらばだ。俺は新しい交通手段を考えなきゃいけねえんだからな。さあ、恩返し恩返し。





「何故引き止めておかぬのじゃフォルクス、この阿呆め!」

「いやだって、もう太陽王としての政務を開始してるご様子だったっすよ? お忙しい方を引き止めるわけにはいかないっす」

「なんと、すでに…!?」

「あれだけサヤカ姫のことを揶揄してたのに、自分だってぞっこんじゃないっすか」

「ええい黙れ! あのような乙女心を鷲掴みにするようなことをされれば、どんな女でも瞬間的に落ちるじゃろうが!」

「ははは、あれには驚いたっすよね。まさか王族が側室を選ぶときの求婚を、初対面でするとはね」

「本当に驚きましたね。ちょっと嫉妬しそうなぐらい真摯な目で…。あの、マイカ様、今日はこの後どうされます?」

「あっ、そういえばサヤカ! 聞きたいことがあったのじゃ!」

「えっ!? ええと何でしょう」

「あの案はすべてサヤカが考えたのか!?」

「いいえ、すべてはミコさんが」

「な、なるほど…。それからもう一つ! なぜミコさんと愛称で呼んでおるのじゃ!」

「既に、求婚されました…」

「なぬっ!? 側室か? 正妻か!?」

「いいえ、まだ、どちらとも…」

「ふうむ、そうか…。残念なことに妾は側室認定されてしもうた。額に口付けするか、手の甲か…どちらじゃろうな。それでも側室にすら選ばれないというのは、なんとか免れたのう」

「このまま行けば普通、私も側室だと思いますよね。それほど栄えた領地の娘ではありませんし…。でもマイカ様もやっぱり分かりましたか」

「うむ、あの加護流、どう見ても伝承どおりの太陽王じゃ。騎士だからこそ分かる。それに側室を求めるということは、やはりミコト殿自身も太陽王と自覚しておられるのじゃろう」

「へえ、やっぱ騎士の称号持ってらっしゃるお二人には分かるんすね」

「騎士試験なぞ、ただ黒水晶の前に行って加護が大きいかどうかが分かった者というだけじゃからのう、騎士なんぞ、サヤカのように戦闘に使わぬ限りはただの称号じゃ。随時やっておるのじゃから、厳しい太陽王試験とは雲泥の差じゃ」

「次が最後の太陽王試験ですね、マイカ様」

「やはり本物は、最後に現れるってことっすか。ああそれと、おいらは仲間に入れてもらったっすよ」

「ほう、フォルクスそれはどういうことじゃ?」

「ミコト殿が太陽王に認定されたら、おいらは従者にしてもらうっす。だって試験終わったら、普通おいらなんて用無しっすよ」

「まあ、そうじゃろう」

「途中で落ちても騎士試験は別で受けられるっすよね? そんで、あの方の仲間として手助けするっす」

「ほう、志しが高いではないかフォルクス。だがお主も候補者なのじゃが」

「自分の力は自分が一番弁えてるっすよ。ただし、おいらだってかなりやるっすよ」

「せいぜいアイラ登頂まではいてくれねば、中央王家の面目が立たぬ」

「へえ、その程度でいいっすか?」

「言うではないか。最後まで行けるか? 相当厳しいじゃろうがのう」

「マイカ様のご命令とあれば、行けるとこまで行くっすよ」

「あ、マイカ様? さっきの質問に…」

「あっ、そうじゃった。うーん、この後は特に予定しておらぬのじゃ。まさか火王殿に捕まるとは想定しておらんでのう」

「予定なんか立ててたっすか? 無計画すぎっすよ」

「ええい黙れフォルクス。サヤカさえよければ、サヤカの家に泊めてもらえぬか。城に帰るのは肩が凝って嫌なのじゃ」

「ええっ!? そんな、何もご用意していませんので! はっ!? 食材買い忘れた…」

「食材程度なら帰り道にあちこちの民家から少しずつ譲ってもらえば良いではないか?」

「あっ、そうでしたね」

「田舎じゃからこそ可能なんじゃのう。中央領ではそのようなことできぬぞ。妾はそういうところは羨ましく思う」

「エヘヘ、私もこの領地の人たちが大好きなんです」

「ここの市民は幸せっすねえ」





 ――なんであの姫がうちにくるんだよおおおおお! せっかく逃げてきたのに意味がねえ! うるさい女は嫌いなんだよ! くそっ、おもてなしとかしなくちゃいけねえじゃねえか、めんどくせー。でもサヤカちゃんに恥をかかせるわけにはいかねえからな。ちゃんとお客様をもてなすのが俺の役目ってわけだな。仕方ねえ。

「ミコト殿、今日はこちらにお世話になるのじゃ。父上には火王殿から連絡を入れてもらったから心配ない」

「うむ、では料理を作ってもてなそう」

「はっ!? 料理を!? そ、それはさすがに妾も気恥ずかし…」

「待っておれ、余りものでも作れるのだが、これだけ食材があれば十分」

「は、はい…」

 あー、なんか俯いちゃったな。腹減ってるのかな? あれだけ騒いでりゃあ腹も減るだろう。さて、チャーハンだけじゃあさすがに飽きるからな、何を作るか。んっ? これは…。

「サヤカ、これは香辛料か」

「あっ、はいそうです! いろんな家から少しずつ譲っていただいたので種類がバラバラですが」

「面白い、調合してみよう」

「調合!?」

「少し時間がかかるやもしれぬ。マイカ殿たちと談笑しておれ」

「畏まりました!」

 ふふーん。この香辛料の種類の多さなら、おそらくできる! 地球にあったものとほとんど同じ、ガラムマサラを作るための香辛料がほとんどだ。ウコンがあるのが決定的に良いな。これでカレーが作れるじゃねえか!

 考古学研究でも、インドでのガラムマサラの成立から何から調べ尽くされている。ここにあるのは唐辛子、ニンニク、ショウガ、コショウ、パプリカ、サフラン、シナモン、ナツメグ、クミン、コリアンダー、フェンネル、そしてウコン。こんだけありゃあ、少々素材が足りなくても十分にカレーの味と色になる。でも熟成させる時間がねえから、まあ少し粉っぽくはなるだろうけどな。

 もともとインドで成立したスパイス料理は、ここまでおいしいものじゃあなかった。日本で魔改造されて独自の料理に進化しちまったからな。今ではインドに逆輸入されて、日本料理だと思って喰っているインド人までいるらしいからな。

 そうだ、これでカレーができたら、温泉旅館で特産料理に入れてしまおう。日本のカレーライスは世界で絶賛される美味さだから、こっちでも絶対流行するはずだからな! いやまて、各地で流行させてしまっては食べに来る人がいなくなる。日本刀の件も含めて、希少性だけは失ってはだめだ。作り方は秘伝ということにしよう。小麦も大麦もあるからうどんが作れる。なら、カレーうどんだって作れるな。

 鍛冶屋にはよく切れる包丁を作らせ、旅館で売り出すか。基本的に、作ることができるのは火王領内だけ、という状態を作り出さなきゃ観光も糞もねえ。ランドマーク的な何かも作らねえとな。そうだ、火王城見学ツアーみたいなのをやったらどうか。千葉県にあるテーマパークみたいなのと同じコンセプトだ。庶民は城に入れないのが当たり前だろうから、人はいっぱい来るだろう。だけど見学コースはしっかりと作っておけば警備上の心配も無い。アメリカ大統領だってホワイトハウス見学会をやってるんだからな。

 あとは交通手段。できれば交通手段自体がお金を取れるものじゃないと、従事する人がいなくなっちまう。馬車とか論外。運べる数が少ないし客が払う金が高すぎてしまうだろうから、金持ちしかこれなくなる。そうだな、電車みたいなのが作れればいいんだよな。

 トンネルは山に加護でぶちぬけばすぐにできるんだろどうせ。川があるから川沿いに作ってもいいが、線形だけはまっすぐにしないと高速運行ができねえ。

 まあ、加護があればなんでもありみてえだからな、線路とかいくらでも作れるだろうが、やっぱ機関車をどうするかだな。蒸気機関車でも作るか。エコだしな。火力は加護でなんとかなるんだろう。よし、蒸気機関車の設計をして、鍛冶屋の頭領に見てもらおう。

 まあ大体の構想はできたな。おっ、考え事をしているうちにカレーもいい感じでできてるな。スパイスからというのは初めて作ったけど、まあなんとか形になってるな。味は…・。まあまあか。改良の余地ありだな。

「ミコさん! すっごく良い匂いが!」

 ハハハ、匂いに釣られてサヤカ姫様が来ちゃったな。あっぱれ美少女ホイホイ。

「カレーだ」

「すごい! ここまで食欲をそそる匂いの料理なんて、初めてですよ!?」

「なんじゃ、なんなのじゃこの匂いは!」

 うげっ、あんたは席に座って茶でも飲んでろ。

「すげえっすね。俺も食っていいっすか?」

「良いであろう」

「悪いっすね。本当はサヤカ姫とマイカ様のために作った求婚料理を」

「ふむ? 何料理と?」

「いや、俺が食っていいのかなって」

「客人は精一杯もてなすが我の信条」

「さすがというか、もう言葉も無いっすよ」


 そんなこと言っている間にできちまった。煮込みは足りないが、まあとろみはかなり出てきてるからいいだろう。

「秘伝の料理である。さあ」

「マイカ様」

「なんじゃフォルクス」

「完全にマイカ様を口説き落とすつもりっすよこの方は」

「手料理攻めとはさすがに驚きはしたがのう。これはどのような味なのか…。なんじゃこれは! 美味すぎる! こんな料理は初めて食べたのじゃ!」

 うげっ。食べるときぐらい大人しく喰ってくれよ。なんかみんな興奮して早口になってるし、聞き取れねえ。

「ミコさん、おいしいです…」

 ありゃっ。サヤカちゃん泣いてるよ…。泣くほどうまかったのかな。でも食べ慣れてる俺にはそこまでじゃないんだけどなあ。

「いやあ、すごいっすねこの味。毎日食えそうっすよ」

「まだ味が足りぬ。もっと改良せねばならぬ」

「謙虚っすね…」

 この反応なら旅館に置けば大ヒット間違いなしだな! 二度と地球に、日本に、家に帰ることが叶わないなら、せめてこの世界で生きていこう。騎士試験に落ちても旅館で働くっていう選択肢もあるしな。まあ、なんとかなるさぁ。

勘違いしたままハーレムが形成されていきます(゜∀゜)

フォルクス君は意外とやるんです。かなりやるんです。


今週はお気に入りいただいた方、ご評価いただいた方がとても多く

感謝感謝です! おかげさまで作者のやる気がすごいです!


勘違い系って双方の事情を別々に汲まないといけないので

書くのに時間がかかるんですけど(当社比約3倍もかかる!!)

応援が多くて良いアイデアが湧き出してきたのもあって、

想定を遥かに超えたスピードで書いてます。頑張りまっす。

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