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つかれたら、おしてください。

作者: you
掲載日:2026/10/13


 大人になると、褒められることが少なくなる。


 朝、決まった時間に起きること。満員電車に揺られて会社へ行くこと。嫌なことがあっても笑って、頭を下げて、何事もなかったように仕事を続けること。


 子供の頃は、靴紐を結べただけでも褒められた。転ばずに自転車に乗れた日には、母が自分のことのように喜んでくれた。


 けれど、大人になればそんなことは当たり前になる。


 できて当然。できなければ叱られる。


 いつからだろう。


 誰かに「よく頑張ったね」と言ってもらいたいなんて、考えるようになったのは。


     *


 火曜日の午後十時過ぎ。


 俺はコンビニで買った弁当をぶら下げて、アパートの階段を上っていた。


 築二十八年、家賃五万二千円。階段の手すりはところどころ錆びていて、二階の廊下には誰のものとも知れない植木鉢が置かれている。


 六畳一間の部屋に帰り、電気をつけた。


「……ただいま」


 もちろん返事はない。


 ネクタイを緩め、鞄を床に放り出す。電子レンジに弁当を入れようとして、昨日のカップ麺の容器がそのままになっていることに気づいた。


 片づけなきゃな、と思った。


 思っただけだった。


 とりあえずベッドに腰を下ろし、スマホを眺める。友人の結婚報告、知らない誰かの海外旅行、同期の昇進。画面の向こうでは、みんなが随分と楽しそうに暮らしていた。


 俺はスマホを伏せた。


「疲れたなぁ……」


 口にしてみると、本当に疲れているような気がした。


 いや、実際に疲れていたのだろう。


 そのとき、机の上に見慣れないものがあることに気づいた。


 赤いボタンだった。


 手のひらに収まるほどの大きさで、黄色い台座に取りつけられている。おもちゃのような見た目だが、妙に立派なボタンだった。


「なんだ、これ」


 傍らには、小さな紙が添えられている。


『つかれたら、おしてください。』


 裏返してみたが、それ以外には何も書かれていなかった。


 誰が置いたのかも分からない。そもそも鍵をかけた部屋に、どうやって入れたのだろう。


 気味が悪かった。


 けれど、捨てるのも何となく忍びない。


「……疲れたら、ね」


 俺はボタンを押した。


 カチッ。


 思いのほか、いい音がした。


 そして。


 ぽんっ。


「うわっ!」


 部屋の隅で、何かが破裂した。


 白い煙がもくもくと立ち上り、慌ててベッドから立ち上がる。火事かと思ったが、焦げ臭さはない。むしろ、どこか懐かしい、綿菓子のような甘い匂いがした。


「けほっ、けほっ!」


「まえが、まえが見えないのです!」


 声がした。


 子供のような、甲高い声だった。


「こっちなのだ! たぶん!」


「たぶんでは困るのです!」


 煙が薄くなっていく。


 その向こうに、小さな影が二つ見えた。


 一つは赤く、もう一つは青い。


 目を凝らす。


 そこにいたのは、二匹の鬼だった。


 身長は三十センチほど。赤い方は黄色いちゃんちゃんこを着ていて、青い方は小さな風呂敷を背負っている。頭にはちょこんと角が生え、丸い顔には不釣り合いなほど大きな目がついていた。


 まるで、昔話の絵本から飛び出してきたような姿だった。


 赤鬼がこちらを向く。


 ぱちくり。


 その大きな目が、さらに丸くなった。


「いたーっ!」


 青鬼も俺に気づいた。


「いたのですーっ!」


 二匹は顔を輝かせ、短い足をぱたぱた動かしながら駆け寄ってきた。


「みつけたのだー!」


「みつけたのですー!」


 赤鬼は勢い余って俺のスリッパにぶつかり、ころんと尻餅をついた。


「あいたっ!」


「だいじょうぶなのです!?」


「へいきなのだ!」


 青鬼に引っ張り起こされると、二匹は俺の足元に並び、ぴしっと背筋を伸ばした。


「おつかれさまなのだ!」


「おつかれさまなのです!」


「…………」


 俺はしばらく何も言えなかった。


 疲れすぎて幻覚でも見ているのだろうか。


「……何、お前ら」


 赤鬼は胸を張った。


「ぼくは、あかなのだ!」


「ぼくは、あおなのです!」


「いや、名前じゃなくて」


「おになのだ!」


「おになのです!」


「それは見れば分かるけど……」


 二匹は顔を見合わせた。


 どうやら、俺の質問が難しかったらしい。


 青鬼が背負っていた風呂敷を下ろし、中から折りたたまれた紙を取り出した。


「ええと、ええと……」


 小さな指で紙を広げる。


「ぼくたちは、つかれた人のところに行って、いっしょにすごすおしごとをしているのです!」


「そうなのだ!」


「……そんな仕事があるのか」


「あるのだ!」


 赤鬼が嬉しそうに頷いた。


「しかも、きょうがはじめてのおしごとなのだ!」


「がんばるのです!」


 二匹は揃って小さな拳を突き上げた。


 俺は頭を抱えた。


 意味が分からなかった。


 意味が分からなかったが、少なくとも今、俺の六畳一間に二匹の小さな鬼がいることだけは確からしかった。


「……とりあえず、そこ座る?」


「いいのだ!?」


「おじゃまするのです!」


 二匹は大喜びで座布団に向かった。


 しかし、座布団の高さが二匹の膝ほどもあったため、赤鬼はなかなか上がれなかった。


「んしょ、んしょ……!」


「おしりを押すのです!」


「たのむのだ!」


 青鬼に尻を押してもらい、ようやく座布団に登った赤鬼は、達成感に満ちた顔で俺を見た。


「のぼれたのだ!」


「……よかったな」


 その日の俺は、久しぶりに声を出して笑った。


     *


 二匹の仕事は、どうやら疲れた人のそばにいることらしい。


 ただし、何をすればいいのかは、本人たちもよく分かっていなかった。


「おちゃをいれるのだ!」


「おちゃは、こころがあたたかくなるのです!」


 そう言って台所へ向かった二匹は、まず流し台に登れずに困っていた。


 仕方なく俺が持ち上げてやると、今度は蛇口が固くて回せない。


 二匹が全身を使って蛇口をひねっているのを見かねて、俺が湯を沸かした。


「できたのだ!」


「おちゃなのです!」


「ほとんど俺が作ったけどな」


 赤鬼は満足げに湯呑みを見上げた。


 青鬼は湯気に顔を近づけすぎて、びっくりして後ろへ転んだ。


 その後も、二匹は忙しそうだった。


 俺が弁当を食べている間は、向かいに正座して見守っていた。


「おいしいのだ?」


「……まあまあ」


「まあまあなのだ!」


 赤鬼はそれだけで嬉しそうだった。


 風呂から上がると、二匹がタオルを運んできた。二匹がかりで持っているのに、タオルの端は床を引きずっている。


「ふいてあげるのだ!」


「かぜをひくとたいへんなのです!」


「ありがとう。でも自分でできるよ」


「そうなのだ?」


 赤鬼は少し残念そうにした。


 俺が頭を拭き終わると、今度は青鬼が枕元にやってきた。


「おふとん、かけるのです!」


「俺、まだ寝ないぞ」


「そうなのです?」


「うん」


「では、まつのです!」


 二匹はベッドの端にちょこんと座った。


 足が床に届かないものだから、短い足をぷらぷらと揺らしている。


「……お前ら、何時までいるの?」


「ねむるまでなのだ!」


「ぐっすりねむったら、かえるのです!」


「そうなんだ」


「またつかれたら、ボタンを押すのだ!」


 赤鬼が両手で丸を作った。


「そしたら、またくるのです!」


 青鬼も真似をして丸を作る。


 その手があまりにも小さくて、俺は思わず笑ってしまった。


 寝る支度を整え、ベッドに横になる。


 二匹は枕元に正座した。


「おやすみなのだ!」


「おやすみなのです!」


「……おやすみ」


 電気を消すと、部屋は静かになった。


 しばらくして、布団の端がもぞもぞと動いた。


「……何してんの?」


「おふとん、ちゃんとかかってるか見てるのだ」


「さむくないのです?」


「大丈夫だよ」


「よかったのだ」


 小さな足音が遠ざかる。


 それから、二匹が何かを囁き合っているのが聞こえた。


「ちゃんとねるのだ?」


「ねるのです」


「よかったのだ」


 俺は目を閉じた。


 誰かが自分の眠りを気にかけてくれるなんて、ずいぶん久しぶりのことだった。


     *


 それから、俺の生活には小さな変化が生まれた。


 相変わらず仕事は忙しかった。


 上司には叱られるし、電車は遅れるし、雨の日には傘を忘れる。


 そんな日は、家に帰って赤いボタンを押した。


 カチッ。


 ぽんっ。


「いたー!」


「いたのですー!」


 何度呼んでも、二匹は初めて会った日のように喜んだ。


 たまに赤鬼が青鬼を置いて先に走り出し、青鬼が「まつのですー!」と必死に追いかけてくる。


 ある夜は、二匹で小さな饅頭を持ってきた。


「おみやげなのだ!」


「おやつなのです!」


「ありがと。どこで買ったの?」


「おにのまちなのだ!」


「おいしいおみせなのです!」


 饅頭は二匹の顔ほども大きかった。


 それを三つに分けようとしたら、赤鬼が「もっとおおきくしていいのだ!」と自分の分を差し出してきた。


「いや、俺はいいよ」


「えんりょはいけないのだ!」


「たくさんたべるのです!」


 結局、二匹の分を少しだけもらった。


 餡子は甘すぎず、皮はふかふかしていた。


 別の日には、青鬼が小さな手帳を持ってきた。


「きょうは、にんげんのおべんきょうをするのです」


「何を勉強するんだ?」


「どうしたら、つかれがとれるのか、なのです」


 俺は少し考えた。


「好きなもの食べたり、寝たり、風呂に入ったりかな」


 青鬼は真剣な顔で手帳に書き込んだ。


 赤鬼も隣から覗き込んでいる。


「じゃあ、いっぱいねればいいのだ!」


「そうだな」


「いっぱいたべるのだ!」


「食べすぎはよくないかな」


「むずかしいのだ……」


 赤鬼は眉を八の字にした。


 青鬼が小さな手で肩を叩く。


「にんげんは、むずかしいのです」


 それがおかしくて、俺はまた笑った。


 いつの間にか、二匹が来る夜にはコンビニの弁当を三人で囲むようになっていた。


 もちろん、二匹にとって人間の一人前は大きすぎる。だから小皿にほんの少しずつ取り分けてやる。


 赤鬼は卵焼きが好きだった。


 青鬼はブロッコリーが好きだった。


「おやさいをたべると、つよくなるのです!」


「ぼくはたまごがいいのだ!」


「おやさいもたべるのです!」


「……ひとくちだけなのだ」


 そんなやり取りを聞きながら食べる夕飯は、不思議といつもより美味しかった。


 ある晩、俺は二匹に尋ねた。


「なあ、お前らって、ボタンを押さなきゃ来ないの?」


「そうなのだ!」


 赤鬼が即答した。


「よばれたら、いくのがおしごとなのです!」


「そっか。じゃあ、俺が押さなくなったら、もう会えないのか」


 二匹は少し考えた。


「……そうなのだ?」


「たぶん、そうなのです」


「なんだよ、そこは曖昧なんだな」


 俺が笑うと、二匹もつられて笑った。


 赤鬼は俺の膝の上に登り、青鬼はその隣に腰を下ろした。


 小さな体は、湯たんぽみたいに温かかった。


     *


 ある夜のことだった。


 仕事で大きな失敗をした。


 誰かの責任にするつもりはなかったし、言い訳をするつもりもなかった。自分が悪いことくらい、自分が一番よく分かっていた。


 だから、上司に何度頭を下げても、叱られている間はずっと「すみません」と繰り返した。


 帰り道、駅のホームで電車を待ちながら、何度も同じ場面を思い返した。


 あのとき、確認していれば。


 もう少し早く気づいていれば。


 そんなことを考えても、過ぎた時間は戻らない。


 アパートに着いたのは、午後十一時を回った頃だった。


 鍵を開け、電気をつける。


 いつもと変わらない六畳一間だった。


 俺は鞄を下ろし、机の上に置かれた赤いボタンを見た。


 押せば、二匹が来る。


 きっと、いつもと同じように大喜びで駆け寄ってくる。


 そう思うと、少しだけ気が楽になった。


 でも、その日はどうしても指が動かなかった。


「……何やってんだろ、俺」


 自分でも驚くほど、小さな声だった。


 あの二匹は、俺が呼べばいつだって来てくれる。


 仕事で失敗した日も、何もできなかった日も、面白い話なんて一つもない日も。


 いつも笑って、隣にいてくれる。


 でも、あいつらにだって仕事がある。


 俺以外にも、疲れている人はたくさんいるはずだ。


 毎晩のように呼びつけて、何をしてもらうわけでもなく、ただそばにいてもらう。


 それが、急に申し訳なくなった。


「……今日は、いいや」


 赤いボタンを机の奥へ押しやった。


 コンビニに寄る気力もなかったから、夕飯は食べなかった。風呂にも入らず、着替えもせず、ベッドに腰を下ろした。


 部屋の時計が、こちこちと音を立てている。


 冷蔵庫のモーターが鳴った。


 隣の部屋から、テレビの笑い声が聞こえてきた。


 こんな夜でも、世界はいつもどおり動いている。


 俺は膝に肘をつき、両手で顔を覆った。


 しばらく、そうしていた。


 すると。


 ぽんっ。


 どこかで、聞き慣れた音がした。


 顔を上げる。


 部屋の隅に、白い煙が立ち込めていた。


「けほっ、けほっ!」


「また、けむりがいっぱいなのです!」


「こっちなのだ!」


「まってなのです!」


 その声を聞いた瞬間、胸の奥が小さく跳ねた。


 煙の向こうから赤い影が飛び出してくる。


 続いて、青い影。


 二匹は部屋をきょろきょろ見回した。


 そして、俺を見つけた。


「いたーっ!」


「いたのですーっ!」


 いつもと同じ声だった。


 赤鬼が両手を広げ、短い足で一生懸命に走ってくる。


 青鬼も風呂敷を揺らしながら、その後ろを追いかけた。


「みつけたのだー!」


「みつけたのですー!」


「……お前ら」


 赤鬼が俺の足に抱きついた。


 青鬼も反対側の足にしがみつく。


「いたのだ!」


「いたのです!」


「……俺、ボタン押してないぞ」


 二匹は俺を見上げた。


「うん!」


「しってるのです!」


「じゃあ、なんで来たんだよ」


 赤鬼は不思議そうに首をかしげた。


「きょうは、ボタンがならなかったのだ」


「うん」


「ずっと、まってたのだ」


 青鬼が続ける。


「もしかして、おつかれじゃないのかなって、思ったのです」


「……そうか」


「でも、あかが、あいたいって言ったのです」


「だって、あいたかったのだ!」


 赤鬼はそう言って、俺のズボンをぎゅっと握った。


「だから、きちゃったのだ!」


「おしごとじゃないけど、きちゃったのです」


 二匹は少し照れくさそうに笑った。


 俺は何も言えなかった。


 ただ、足元にいる二匹を見つめていた。


 赤鬼が俺の膝によじ登ろうとする。


 いつものように、なかなか登れない。


「んしょ、んしょ……!」


 青鬼がお尻を押す。


「がんばるのです!」


「もうちょっとなのだ!」


 その姿を見て、俺は思わず手を伸ばした。


 二匹を抱き上げ、膝の上に乗せてやる。


「ありがとな」


「どういたしましてなのだ!」


「なのです!」


 二匹は嬉しそうに笑った。


 俺はその小さな頭を撫でた。


 角の根元は少し柔らかくて、二匹とも撫でられると気持ちよさそうに目を細めた。


「……なあ」


「なんなのだ?」


「きょう、失敗したんだよ」


 二匹は黙って俺を見上げた。


「結構、大きな失敗でさ。みんなに迷惑かけて、怒られて。ちゃんとやってるつもりだったんだけどな」


 赤鬼は俺の指を握った。


 青鬼は膝の上で、じっと耳を傾けている。


「俺、毎日何してんだろうな。朝起きて、仕事行って、帰って寝て。また次の日も同じことしてさ」


 言葉にすると、思っていた以上に苦しかった。


「昔は、もうちょっと上手くやれると思ってたんだけどなぁ……」


 俺は笑った。


 笑ったつもりだった。


 けれど、赤鬼が不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。


「どうしたのだ?」


「……何でもないよ」


「おめめ、ぬれてるのだ」


 言われて初めて、自分が泣いていることに気づいた。


 慌てて目元を拭う。


「……ごめんな。変なところ見せて」


「どうしてあやまるのだ?」


「え?」


「ないちゃったら、あやまるのだ?」


 赤鬼が首をかしげる。


 俺は答えられなかった。


 青鬼は少し考えてから、風呂敷の中をごそごそと探り始めた。


 取り出したのは、小さな白いハンカチだった。


「これ、つかうのです」


「……ありがとう」


 受け取ろうとすると、青鬼は首を横に振った。


「ぼくが、ふくのです」


 小さな手が伸びてきた。


 頬に触れるか触れないかくらいの力で、青鬼は涙を拭ってくれた。


 反対側から赤鬼も手を伸ばす。


「ぼくもふくのだ!」


「ちょっと、くすぐったいって」


「きれいにするのだ!」


「きれいにするのです!」


 二匹は一生懸命だった。


 あまりにも一生懸命で、俺は泣きながら笑ってしまった。


 すると赤鬼も笑った。


 青鬼も笑った。


 何がおかしいのか、きっと二匹には分かっていない。


 それでも、俺が笑ったことが嬉しいらしかった。


 しばらくして、赤鬼が俺の胸にぴたりとくっついた。


 青鬼も真似をする。


 二匹の小さな体から、じんわりと温もりが伝わってきた。


「……お前ら、あったかいな」


「おになのだ!」


「おには、あったかいのです!」


「そうなんだ」


「そうなのだ!」


 俺は二匹を抱きしめた。


 壊してしまわないように、そっと。


 思えば、最後に誰かを抱きしめたのはいつだっただろう。


 いつから俺は、寂しいと言うことさえ恥ずかしくなってしまったのだろう。


 大人だから。


 もう子供じゃないから。


 そんな理由で、随分たくさんのことを我慢してきた気がする。


 疲れたと言っても、明日は来る。


 失敗したことは消えないし、会社に行けばまた仕事が待っている。今日より上手くいく保証なんて、どこにもない。


 それでも。


 今夜、この小さな二匹が俺に会いに来てくれた。


 呼んでもいないのに。


 ただ、会いたかったからと。


「……ありがとな」


 もう一度、そう言った。


 赤鬼は俺の胸元から顔を上げた。


 青鬼も隣で、小さな角を揺らした。


 二匹は顔を見合わせた。


 それから、いつものようにくりくりした目を細めて、笑った。


 赤鬼が小さな手で俺の頬を包む。


 青鬼も、反対側の頬に手を添える。


 その手は、驚くほど温かかった。


「がんばったね」


「おかえり」

皆さん、毎日お疲れ様です。


学校や仕事、家事に育児。毎日を過ごしていると、誰かに褒めてもらえることなんて、なかなかありませんよね。


そんな皆さんのもとにも、小さな二匹の鬼がやってきてくれたらいいなと思いながら、この物語を書きました。


私には、皆さんがどんな一日を過ごし、どんな思いを抱えているのか、すべてを知ることはできません。


皆さんの悩みを解決することも、疲れを取り除くこともできません。


それでも、この作品を通して、一つだけ伝えたい言葉があります。


「がんばったね、おかえり」


今日も一日、本当にお疲れ様でした。


どうか、今夜はゆっくり休めますように。

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― 新着の感想 ―
はじめまして  面白かったです。 小さな鬼、可愛いですね。 最後、どう終わらせるかなと思いましたが、こういう感じも ホッコリして良いですね
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