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第7話「残された者たちの絶望会議」

 ロミオが追放された翌日。


 私はロレンス神父の教会を訪ねた。石床のヒビはまだ修復されていない。


「神父様」


「おお、ジュリエット嬢。……いや、モンタギュー夫人殿、とお呼びすべきか」


「ジュリエットで結構です。夫人は気が早すぎます」


「昨日結婚して、夫が今日追放されるのは、さすがに気が早いとは思うがね」


 神父は苦笑しながら——胃を押さえた。テーブルの上に胃薬の瓶がある。大きめの瓶。昨日は小瓶だったのに、もうサイズアップしている。


「相談があって来ました。……神父様、実は私、不思議な夢を見るんです。これから起きることが、夢で分かるんです」


「予言……?」


 神父が眉をひそめた。怪しむかと思ったが——この世界では神の啓示も奇跡も信じられている。聖職者なら、なおさらだ。


 私は椅子に座り、状況を整理した。「夢」という体で、原作の知識を伝えるのだ。


「夢の中では——ロミオが追放された後、誰かが私に仮死の薬を飲ませます。それでロミオを呼び戻そうとして——結果、すれ違いで二人とも死にました」


「……なんと恐ろしい啓示だ」


「でしょう? だから仮死の薬は絶対に使いたくないんです」


 神父が少し考え込んだ。


「仮死の薬なら、確かに私が調合できる。正確に42時間、仮死状態になる薬だ。ジュリエット嬢、君が死んだフリをすれば——」


「ダメです」


「聞くだけ聞いてくれ。42時間後に目覚める計算で、その間にロミオに手紙を——」


「無理です。あの人に42時間のタイマー管理なんかできると思います?」


「…………」


「手紙が届く前にヴェローナにカチコミしかけてますよ」


 神父が黙った。


「あの人に『仮死の薬で死んだフリ』なんて繊細な計略を伝えたら、どうなります?」


「…………」


「まず薬を『毒かもしれぬ!』と言って自分で一気飲みしますよね」


「…………それは、そう」


「仮に一気飲みしなかったとしても、私が墓で眠っていたら、たぶん墓ごと叩き壊して起こしに来ますよね」


「…………」


「そもそもこの人に手紙で計画を伝えても、手紙を読む前にヴェローナにカチコミしかけてますよね」


「…………すべて想像がつく」


 二人で深いため息をついた。


---


「つまり」私は指を一本立てた。「小細工は一切通じない、ということです」


「では、どうするのかね」


「逆なんです、神父様」


 私は立ち上がった。


「考えてみたんです。ロミオの行動を。滅茶苦茶に見えるけど——結果だけ見ると、夢で見た悲劇の条件が全部潰れてるんですよ」


 神父が首を傾げた。


「ティボルトは生きています。夢の中では死んでいました」


「それは確かに」


「マキューシオも生きています。夢の中では殺されていました」


「うむ」


「私とロミオの結婚も、秘密じゃないから情報のすれ違いが起きない」


「……言われてみれば」


「全部、ロミオが『正面突破』したおかげなんです。秘密工作が失敗して悲劇が起きるなら、秘密工作をする能力がゼロの人間は——逆説的に、最も悲劇から遠い」


 神父が目を見開いた。


「まさか……あの蛮行に理があると?」


「理があるとは言ってません。結果論です」


 でも——結果が全てだ。


「だから、方針を変えます。ロミオを止めるんじゃなくて、ロミオの暴走の方向をコントロールする。夢で見た悲劇の原因に向けて暴走させれば、ロミオが勝手に潰してくれる」


「それは……制御できるのかね」


「できるか分かりません。でも、止めるよりはマシです。止まらないんだから、あの人」


 神父は胃薬をもう一錠飲んだ。


---


「ただ、一つ問題があります」


「なんだね」


「ロミオが帰ってくるのが、いつになるか分からない」


「追放されたばかりだからな。数ヶ月——いや、数年は」


「三日で帰ってきますよ」


「は?」


「『武者修行は三日で十分にごわす』って言ってたので」


「追放を三日で終える人間がいるのか。いるのだな、あれは」


「います。いるんです」


 神父が三錠目の胃薬に手を伸ばした。


---


「もう一つ、先手を打っておきたいことがあります」


「聞こう」


「パリス伯爵です」


「ああ、キャピュレット卿が縁談を進めている——」


「はい。夢の中では、ロミオ不在の間に父がパリス伯爵との結婚を強引に進めていました。それがさらなる混乱の引き金になるんです」


「それも防ぐと?」


「自分で処理します。パリス伯爵には、事実を伝えれば済むはずです。もう結婚してるんですから」


「……ジュリエット嬢」


 神父が、しみじみと私を見た。


「君は、なかなかに有能だな。……そして、その夢の力。君には神の加護があるのかもしれぬ」


「加護っていうか……まぁ、そういうことにしておいてください」


---


 教会を出る頃には、日が傾き始めていた。


 神父と私。ツッコミ仲間にして作戦参謀。


 ——ロミオが帰ってくるまでに、できることをやる。パリス伯爵の件を処理し、キャピュレット家の状況を安定させる。


 問題は、ロミオがいつ帰ってくるか。


 三日。


 たぶん本当に三日で帰ってくる。あの人にとって追放令は、ただの旅行計画だ。


> 心中バッドエンドまで:あと2日(ルート大幅逸脱中)

> パリス伯爵フラグ:対応予定

> ロミオ帰還予想:あと2日(本人談)

> ロレンス神父の胃薬消費:2瓶目突入


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