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死にたがりの令嬢、最強の呪われ騎士に拾われる〜呪いを解いたら、狂愛ルートに突入したようです〜

作者: 綾瀬蒼

連載版もはじめました。

https://ncode.syosetu.com/n6861lq/

 森は、音が少なかった。

 雪は降っていないのに空気が白く、息を吐くたび胸の奥の熱だけが奪われていく。わたし――セレナ・アルフォードは、ドレスの裾を泥に沈めながら、それでも前へ進んだ。


 死ぬ場所を探している、と言えば大仰だろう。

 けれど、帰る場所も、迎える明日も、わたしにはもう残っていなかった。


 半年前。婚約者だった公爵家の嫡男は、舞踏会の真ん中で笑って言ったのだ。

「セレナ、お前とは破談だ。愛しているのは別の女だ」

 わたしが何かを言う前に、父は席を立ち、翌日には家の借金と不正の噂が広まった。誰かが仕組んだ、と分かっていても、名門は一瞬で崩れた。

 母は寝込み、父は責任を取るように姿を消し、使用人たちは散った。わたしだけが残され、世間は優しく「没落令嬢」と呼んだ。


 惨めで、滑稽で、なにより――疲れた。


「……ここなら、誰にも迷惑をかけないわ」


 足元の苔むした石に腰を落とし、背を木に預ける。

 指先はかじかみ、薄い手袋越しでも震えていた。わたしの体は弱くない。むしろ貴族の娘としては丈夫なほうだ。

 だからこそ、死ぬのは案外難しい。森で凍えるにも、崖から落ちるにも、意志がいる。


 意志。

 わたしにはもう、それがなかった。


 視界が霞んでいく。

 ――そこで、足音がした。


 重い鎧が落ち葉を踏む、硬い音。

 誰かが近づく気配に、わたしは面倒くささだけを抱いて目を開けた。


 そこにいたのは、騎士だった。


 黒に近い鉄色の鎧。傷だらけの外套。背には大剣。

 兜は外していた。露わになった髪は灰銀、目は冷たい鋼の青。整った顔立ちは彫刻のように美しいのに、その周囲だけ空気が一段暗い。


 息を呑んだ。

 ――知っている。


「……呪われ騎士、レオンハルト」


 王都の噂でしか聞いたことのない男。

 最強と称される剣の腕を持ちながら、彼の周りでは不幸が起こるという。共に行軍した部隊が飢え、護衛した馬車が事故に遭い、宿に泊まれば火事が起きる。

 だから彼は、戦場以外では誰も近づけない。

 近づいた者が不幸になるから。――彼自身が、そう信じているから。


 レオンハルトはわたしを見下ろし、短く言った。


「ここは危険だ。帰れ」


 声は低く、淡々としていた。優しさはない。ただ、命令でもない。

 わたしは笑った。乾いた笑いだった。


「危険で結構です。帰る家はありません」


「……なら尚更だ」


「追い払うのですか? 呪われ騎士さま」


 彼の眉が微かに動く。嫌悪でも怒りでもない。むしろ――困惑。


「俺のことを知っているなら、近づくな」


「近づく理由も、遠ざかる理由も、わたしにはもうありません」


 そう言って、目を閉じた。

 これ以上話すのも、説得されるのも、疲れる。どうせわたしは、ここで終わるだけ。


 しかし次の瞬間、体が浮いた。

 驚いて目を開けると、レオンハルトがわたしを抱き上げていた。


「……っ」


「軽すぎる。食べていないのか」


 怒っているようで、怒っていない。冷たいようで、冷たくない。

 わたしは抵抗する気力もなく、彼の鎧の匂い――鉄と乾いた草の匂いを吸い込んだ。


「放っておけばいいのに」


「放っておけば、お前は死ぬ」


「それが望みです」


「望みでも、許可はしない」


 その言葉が、不思議に胸に刺さった。

 誰にも許されなくても、死ぬ自由くらいはあると思っていたのに。


 レオンハルトは黙って歩き出した。

 森の奥へではなく、森を抜ける方向へ。まるで当然のように。


「……どこへ」


「俺の小屋だ。近くにある」


「わたし、あなたに拾われるような価値は――」


「価値の話をしていない」


 短く切り捨てられ、言葉が途切れる。

 価値がないなら捨てられる、価値があるなら残される。ずっとそういう世界で生きてきたわたしには、価値以外の基準が存在することが、理解しづらかった。


 小屋は森の外れにあった。

 狩人の小屋を改装したような簡素な木造で、煙突から薄く煙が上がっている。

 レオンハルトはわたしを椅子に座らせ、無言で毛布をかけ、火を強めた。


「……あなた、ひとりなの?」


「他に誰がいる」


「噂通りね」


 彼の手が止まる。

 背中越しに、重い沈黙が落ちた。


「噂は、たいてい正しい。俺の周りには不幸が起こる」


「それで、ひとり?」


「巻き込みたくない」


 その言葉には、確かな痛みがあった。

 最強と呼ばれる男が、孤独に慣れた声で言う“巻き込みたくない”。


 わたしは毛布の端を握りしめ、ふと気づく。

 この小屋――妙に、空気が重い。

 暖炉の火は赤いのに、部屋の隅が暗く、影が濃く見える。目を凝らすと、影が“糸”のように揺れている。


 それは、呪いの結び目だった。


 わたしの胸の奥が、ひやりとする。

 昔から、わたしには“それ”が見えた。

 人の縁、誓約、契約、恨み、祈り――そういう目に見えないものが絡まってできる結び目。

 誰かが強く願ったとき、強く憎んだとき、強く守ろうとしたとき。世界は糸で縛られる。


 レオンハルトの背中には、黒い糸が幾重にも絡みついていた。

 肩から胸、腕、喉へ。まるで鎖だ。

 その糸は彼を締め付け、同時に周囲へ伸びている。伸びた先で、運の糸や人の縁を乱暴に引っかき回していた。

 ――だから、不幸が起こる。


「あなた……呪われてるわ」


「今さらだ」


「呪いが“あなた”の周りを壊してる。あなた自身が不幸を呼んでいるんじゃない」


「違いはない」


 レオンハルトは水を差し出し、淡々と続けた。


「俺は生まれたときからこうだ。治癒術士も神官も、呪術師も呼んだ。誰も解けなかった。——呪いは俺の一部だ」


 その声音は、諦めに似ていた。

 けれど、諦めだけではない。

 それは、自分が人を傷つける存在であることを、静かに受け入れた者の声音だった。


 わたしは、少しだけ唇を噛む。

 こんな人が、いるのだ。

 わたしは傷つけられ、捨てられ、価値を失い、それで終わろうとしていた。

 でもこの人は、傷つける側にされ、ひとりでそれを抱えて生きている。


 ふと、胸の奥に熱が灯った。

 それは同情ではない。怒りでもない。

 たぶん――悔しさだ。


「……解けるかもしれない」


 レオンハルトの目が、わたしを射抜く。

 鋼の青が、一瞬だけ揺れた。


「何を言っている」


「わたし、昔から呪いの結び目が見えるの。触れたらほどけることがある。……治癒はできないけど」


「近づくな。危険だ」


「危険なのは、もう慣れてるわ」


 わたしは立ち上がった。足はまだふらつく。それでも一歩、彼に近づく。

 黒い糸がざわりと揺れ、わたしを拒むように棘立つ。

 けれど、怖くなかった。

 どうせ死ぬなら、最後に誰かの役に立つほうがいい。


 手を伸ばす。

 指先が、彼の鎧の胸当てに触れた瞬間――


 “冷たい”のに、“熱い”。


 糸が、悲鳴のように軋んだ。

 わたしの指先から、白い光ではない、透明な“ほどき”の感覚が流れ込む。結び目の形が見える。恨み、祈り、誓い、そして――大量の「恐れ」。


「……これ、呪いじゃない。呪いに見せかけた“誓約”……?」


 結び目の中心に、血の匂いがする言葉が刻まれている。


――“愛されるな。近づくな。孤独であれ。さもなくば、すべてを失う”


 誰かが、彼の人生そのものに鎖をかけた。

 守るため? 壊すため?

 どちらであっても、残酷だ。


「セレナ、やめろ」


 レオンハルトが、初めて強い声を出した。

 その声で、糸がさらに暴れる。黒い鎖が彼の喉を締め上げ、目の青が痛みに濁る。


「……ほどく」


 わたしは息を吸い、結び目の“端”を探す。

 糸は無数だ。でも、結び目には必ず起点がある。ほどきは、そこから始まる。


「っ……!」


 痛みが走った。

 指先に針を刺されるような感覚。呪いの棘が、わたしを拒む。

 血が滲む。けれど、その血が結び目に落ちた瞬間――糸が、ほんの少し緩んだ。


 わたしの体質は、呪いと相性がいい。

 “触れてほどく”ことができる。

 ずっと嫌だったこの力が、今だけは――誇らしい。


「……解けなさい」


 言葉ではない。祈りでもない。

 わたし自身の意志で、結び目をほどく。


 黒い糸が一本、ぷつん、と切れた。


 途端に、部屋の空気が軽くなる。

 暖炉の火が、ふっと明るく揺れた。

 レオンハルトが息を呑み、膝をつく。


「なにを……した」


「あなたを縛ってた結び目を……少しだけ」


 わたしはふらりとよろめいた。

 ほどくには代償がいる。体力でも、血でも、たぶん心でも。

 視界が白くなる。倒れる――と思った瞬間、腕が掴まれた。


 レオンハルトが、わたしを抱き寄せた。

 鎧越しに伝わる体温が、さっきよりずっと熱い。


「おい、しっかりしろ」


「平気……少し、くらくらするだけ」


 そう言いながら、胸の奥が変にざわつく。

 彼の周りの糸が――さっきまでの黒い鎖だけではなく、別の色に変わり始めていた。

 深い青。濃い赤。絡みつくような、執着の糸。


「……え?」


 それは、ほどいたことで生まれた“空白”に、別の結び目が急速に結ばれていく感覚だった。

 まるで、鎖が外れた反動で、何かが一気に流れ出すように。


 レオンハルトの目が、わたしを見た。

 鋼の青が、獣のそれに変わっている。

 息が近い。指が、わたしの頬をなぞる。

 その仕草は、怖いほど丁寧で、怖いほど優しい。


「……セレナ」


 名前を呼ばれただけで、背筋が粟立つ。

 今までの彼の声と違う。

 冷たさが消え、代わりに――湿度のある熱が宿っている。


「お前、俺の呪いに触れたのか」


「う、うん……」


「なら、お前は俺の“中”に入った」


 言葉の意味がわからない。

 けれど、危険だけは本能で理解できた。


「ねえ、落ち着いて。ほどいたのは少しだけで――」


「少しで十分だ」


 彼は笑っていないのに、口元だけが僅かに上がった。

 その表情は、祝福のようで、宣告のようだった。


「……ずっと、何も感じないようにしてきた」


 レオンハルトの指が、わたしの喉元の脈に触れる。

 優しく押さえるだけなのに、逃げ道を塞がれた気がした。


「誰かを欲しいと思うたびに、呪いが暴れた。だから、欲しがらないようにしてきた。

 けれど今――鎖が緩んだ」


 わたしは息を呑む。

 周囲の糸が、赤く濃くなっていく。

 彼の内側から、“欲望”という名の結び目が立ち上がる。


「お前がほどいた。お前が許可した」


「許可なんて……」


「いいや。お前は俺に触れた。俺を見捨てなかった。——それは、俺にとって世界より重い」


 その瞬間、わたしは初めて“呪い”の別の顔を見た。

 不幸を撒く鎖ではなく、誰かを縛りたがる結び目。

 孤独が解けた人間が、最初に掴んだものを絶対に離さないように。


「セレナ。お前はもう、俺のものだ」


 言葉が甘いのに、刃物みたいに鋭い。

 ぞくりと鳥肌が立つ。

 怖い。けれど――不思議と嫌悪は湧かなかった。


 わたしは、死にたかった。

 誰にも必要とされないなら、消えたほうが楽だと思っていた。

 でも今、目の前の男は、わたしを“必要”どころか、“絶対”として見ている。


 こんな重さ、知らない。


「……それは、困るわ」


 震える声で言うと、彼の目が細くなった。


「困る?」


「だって、わたしは死にたいの。あなたのものになったら、勝手に死ねないじゃない」


 言った途端、空気が凍った。

 暖炉の火が揺らぎ、影が濃くなる。

 レオンハルトの指が、わたしの顎を持ち上げた。


「死にたい?」


 低い声。

 怒りではない。

 ――殺意に近い、拒絶。


「それだけは、許さない」


「許さないって……」


「お前が死ぬなら、俺も死ぬ。……いや、違う。お前が死ぬ世界を、俺が許さない」


 淡々と言われたのが、いちばん怖かった。

 彼の言葉は冗談ではなく、決意なのだ。

 世界のほうを壊す、と本気で言える人間。


「……狂ってる」


「狂っているのは、最初からだ。呪いのせいで、ずっとな」


 レオンハルトは、わたしの額に自分の額を当てた。

 距離がゼロになる。息が混じる。

 その近さに、わたしの体は固まった。


「セレナ。もう一度言う。お前は俺のものだ」


「……わたしの意思は?」


「尊重する」


 言いながら、手はわたしの腰を逃がさない。

 矛盾が、恐ろしく自然だった。


「ただし、“死にたい”以外の意思をな」


 わたしは笑ってしまった。

 こんな状況で笑うなんて、馬鹿みたいだ。

 でも――笑いながら、胸の奥がじわりと温かくなる。


「……あなた、怖い人ね」


「そうだ。だから近づくなと言った」


「でも拾ったのはあなたよ」


「拾った。……捨てる気はない」


 その言葉が、胸に落ちる。

 “捨てる気はない”。

 それは、わたしがずっと欲しかったものだ。

 優しい言い方ではなくても、温かな言葉でなくても。

 「ここにいていい」と言われること。


 わたしは、そっと息を整えた。


「……ねえ、レオンハルト」


「なんだ」


「呪いを全部ほどくには、時間がかかる。わたしの体力も持たないかもしれない。

 それでも、やる?」


 彼は即答した。


「やる。お前が死なない範囲で、俺が守りながら」


「守る?」


「誰にも触れさせない。……俺が、触れる」


 最後の言い方が妙に生々しくて、頬が熱くなる。

 わたしは咳払いして誤魔化した。


「条件があるわ」


「言え」


「わたしは“あなたのもの”にならない。……少なくとも、今は」


 レオンハルトの目が細くなる。

 空気がまた重くなりかけて、わたしは急いで続けた。


「代わりに、“あなたのそばにいる”。

 逃げない。見捨てない。

 呪いをほどく。あなたがひとりにならないようにする。

 だから――わたしが生きる理由を、あなたが壊さないで」


 自分で言っておいて、胸が苦しくなった。

 生きる理由なんて、まだ分からない。

 でも、探すくらいはしてもいいのかもしれない。


 レオンハルトはしばらく黙っていた。

 その沈黙が長くて、わたしは視線を逸らしたくなる。

 けれど彼は、突然、わたしの手のひらを取り、甲に口づけた。


「……分かった」


 低い声。

 それだけで、胸が跳ねる。


「お前が生きる理由を見つけるまで、俺は壊さない。

 ただし――」


 彼の指が、わたしの指と絡む。

 絡みつくのに、痛くない。

 それが逆に怖い。


「見つけたら、奪う。俺のものにする」


「……脅し?」


「約束だ」


 目を逸らせなかった。

 鋼の青が、まっすぐ過ぎて。

 わたしは小さく息を吐き、観念したように笑う。


「あなた、ほんとに狂愛ルートね」


「ルート?」


「……なんでもない」


 暖炉がぱちりと弾け、火の粉が小さく舞った。

 その火の粉が、暗い糸の影を照らし出す。

 レオンハルトの背から伸びる鎖は、まだたくさんある。

 けれど、さっきより少しだけ緩んでいる。


 わたしは、彼の胸当てにもう一度指先を触れた。

 黒い糸がざわめく。

 でも今度は、恐怖よりも――奇妙な責任感が勝った。


「ほどくわ。少しずつ。あなたの呪いも、あなたの孤独も」


 レオンハルトの腕が、わたしの背中を抱き締める。

 強く、逃げられないほどに。

 それなのに、どこか慎重で、壊さないようにしている。


「……俺の孤独までほどくな」


「どうして?」


「ほどいたら、俺はもう、お前を離せない」


「もう離さないって言ったじゃない」


 わたしが言うと、彼は一瞬だけ、困ったように目を伏せた。

 そして、耳元で囁く。


「……そうだな。なら最初から、終わりまで付き合え」


 終わりまで。

 それは、死の終わりではなく、生の終わりのほうだろう。

 その言葉が、胸の奥で静かに響く。


 わたしはまだ死にたい。

 でも――この男に拾われてしまった以上、勝手に終われない。


 それが不自由で、少しだけ温かい。


 窓の外で風が鳴った。

 森の闇は深い。けれど小屋の中には火があり、わたしの手を握る強い手がある。


「……ねえ、レオンハルト」


「なんだ」


「もしわたしが、逃げたくなったら?」


 彼は即答した。


「追う」


「……やっぱり」


「安心しろ。足は折らない」


「そこ、安心要素じゃないわ」


 わたしが呆れると、彼は小さく笑った。

 初めて見た、柔らかい笑みだった。


「じゃあ、扉に鍵をつけるだけにしておく」


「それも十分こわい」


 そう言いながら、わたしは少しだけ笑ってしまった。

 笑える自分が、まだ残っていたことが驚きだった。


 レオンハルトは、わたしの額に軽く口づけた。

 それは所有の印ではなく、確かめるような、祈りのような触れ方だった。


「セレナ。生きろ」


 命令。

 でも、嫌ではなかった。


「……努力はする」


「努力では足りない。生きると決めろ」


 決める。

 意志がないと言ったわたしに、意志を求める。

 あまりに乱暴で、あまりに真っ直ぐだ。


 わたしは目を閉じて、息を吸った。

 胸の奥に残った冷えた空洞に、火が灯る気配がする。

 それはまだ小さく、揺れやすい。

 けれど確かに、存在している。


「……決めたら、あなたはどうするの?」


「祝う」


「どうやって?」


「世界が壊れるほど、大事にする」


 冗談になっていない。

 だからこそ、わたしは言い返す。


「じゃあ世界は壊さないで。壊したら、わたしが困る」


 レオンハルトは、少し考える顔をした。

 そして、真面目に頷く。


「分かった。……壊すのは、俺の理性だけにしておく」


「それがいちばん困るかも」


 わたしが言うと、彼はまた笑った。

 笑って、抱き締める腕に少しだけ力を込める。


 呪いの糸が、まだ暗く揺れている。

 でも、その糸の間に――赤い糸が絡み始めている。


 それは愛だ。

 優しいだけの愛じゃない。

 重くて、逃げ道を塞ぐような、危険な愛。


 それでも。


 わたしは、今日だけは死なない。

 明日も、その次も。

 呪いをほどくたび、この人の愛が狂っていくとしても――わたしが生きる理由を探す時間くらいは、もらってもいい。


 暖炉の火が、静かに揺れた。

 その火の音だけが、わたしの新しい始まりを、こっそり祝っているように聞こえた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

『死にたがりの令嬢、最強の呪われ騎士に拾われる〜呪いを解いたら、狂愛ルートに突入したようです〜』、短編としては「出会い→保護→解呪→関係性のスイッチが入る瞬間」までを、できるだけ一気に駆け抜ける構成にしました。


今回書きたかったのは大きく二つです。

ひとつは、“死にたい”側のセレナが、誰かに必要とされることで「生きる選択肢」を押し戻される感覚。

もうひとつは、呪いという鎖が外れた瞬間に、レオンハルトの感情が「優しさ」だけでは収まらず、守護と独占の境界を曖昧にしてしまう危うさです。救済の物語のはずが、気づけば狂愛ルートに転げ落ちていく――その手触りを楽しんでいただけていたら嬉しいです。


短編ゆえに、呪いの正体や“誓約”を刻んだ存在、レオンハルトの過去はあえて輪郭だけに留めました。もし連載にするなら、

・呪い(誓約)を誰が、何のために刻んだのか

・ほどけばほどくほど執着が増す「反動」の理由

・セレナが「生きる」と決める決定打(自分で選ぶ瞬間)

このあたりを軸に、甘さと怖さを両立させつつ、じわじわ深掘りできるかなと思っています。


感想・誤字報告など、いただけるととても励みになります。

次に書くなら「呪いの結び目をもう一本ほどいた夜(理性がさらに薄くなる)」か、「王都から追手が来て“守護”が加速する回」あたりを予定しています。

またお会いできたら嬉しいです。


最後までお読みいただきありがとうございます。


『おもしろい』『続きが見たい』と思いましたら…


下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価をお願いします。


面白かったら星5つ、正直な感想で構いません。


ブックマークもしていただけると嬉しいです。


よろしくお願いします!

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