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王国法典第六条「王国の風紀を乱す服装・姿勢に関する規定」

【王国法典 第6条 抜粋】 『王国民、及び滞在者は、公共の場において国の風紀を損なう服装・振る舞いを避けること。 肌の露出が著しい衣類、過度に挑発的なポーズ・発言、 不健全な印象を与える行為は、治安維持の観点から風紀違反と認定されることがある。』

「…………マジかよ」


ケンスケは、まじまじと自分の服を見下ろした。


襟元は半分裂け、肩のあたりは戦闘で焼け焦げて穴が開いている。

右太ももに至っては、スピンホーンの突進でズボンごと裂けていた。


「いや、これは……戦闘の結果だぞ!? 服が破れただけで、なんで俺が“風紀違反”になるんだよ!!」


「第六条よ」

ヌケミ・ハナは、すでに冷静に巻物を読みながら答えていた。


「条文によれば、“肌の露出が第三者に心理的不快感を与える程度”は、理由を問わず違反対象」


「不快に思ったやつがいたら俺がアウトって……

 そいつの主観で、俺の生き方決まるのかよ!?」


「ええ。これが“風紀法”の怖いところよ。罪の構成があいまいだから、取り締まり側のさじ加減でいくらでも変わる」


「じゃあ、裸で踊ってる魔物とかどうなるんだよ!」


「人間じゃないから対象外。あと野生動物には“風紀の概念がない”から免除」


「おかしいだろ!!!」


「というわけで、臨時召喚されました」

不機嫌そうに現れたのは、ギルド支部の風紀担当官。

見た目は若い女性だが、胸元に見える紋章が“法務下位官”であることを示している。


「はい。ホウジ・ケンスケさんですね? 第六条・第一項“肌の過度な露出”に基づき、確認と聴取を行います」


「服が破れただけなんですってば!」


「“だけ”かどうかは、風紀の感じ方次第です。

 ちなみに私、そういう肩の見せ方、ちょっと……品がないと思うんですよね。」


「俺の肩に品を求めるな!!」


「着替えをお持ちでないなら、“応急風紀衣”をご着用ください」


差し出されたのは、地味な灰色のローブ。

王国風紀局が提供する、“過度露出補填用緊急衣類”──通称「ふうきずきん」。


「……いやこれ、布袋だろ。頭からかぶって腰まであるやつじゃん……」


「冒険者用の“風紀回復テンプレート”です」


「俺、テンプレで回復されたくない!!!」


「ハナ、なんとかならねえのか……!」


「あるわ。“姿勢的風紀違反”に限定して、服装起因を否定する余地がある」


「どゆこと!?」


「第六条の解釈の中に、“自己破損による結果的露出において、本人に“羞恥心”がある場合は減免対象”って注釈があるの」


「俺……すっげぇ恥ずかしいです」


「はい、その顔、撮ります」

→《羞恥心証明用 魔写晶石・作動》

パシャッ


「これで、“羞恥の意思あり”を記録できたわ。露出は不本意、つまり“非挑発的”と判断される可能性が高い」


風紀官は難しい顔で魔写晶石を見つめた。


「……確かに羞恥の感情は確認できますが、記録としてやや弱いです」


「では、“風紀的無自覚性の主張”を追加で提出します」


ハナが差し出したのは、手書きの一枚の紙。


『風紀的無自覚状態下における服装損傷および露出に関する弁明書』


「私は当該露出に対し羞恥の感情を抱いており、かつそれが他者への不快感を目的としたものでないことを、ここに証します」


「これ……様式、どこから?」


「自作よ。けど、様式が整ってれば受理は可能。この国の役人、“見たことあるっぽい紙”に弱いから」


風紀官は一瞬ためらい、そして小さく頷いた。


「……今回は“故意性なし”として、戒告のみで処理します。再発時は即、拘留です」


「……助かった……」


その後、テントの中でぐったりしていたケンスケに、ハナが微笑む。


「どう? 法律って怖いけど、知っていれば“逃げ場”にもなるのよ」


「お前、なんでそんなに……法の抜け道知ってんだよ……」


「好きで覚えたんじゃない。生きるのに必要だっただけよ」


ふと、ハナの顔から笑みが消える。


「“自由に生きたいなら、法律を勉強しろ”って。

 私にそう言った人がいたの。昔……捕まる前にね」


「……そいつ、今どこに?」


「──王国刑務院第六区、収監中。風紀違反常習でね」


「えっ……そんな理由で!?」


だが今、ハナはその言葉通り、法律で仲間を守っている。まるで、法の中を泳ぐ魚のように。


「お前がいる限り、この国の法、ちょっとは戦える気がしてきたわ……」


「あら、私の前ではちゃんと服は着てなさいよ」


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