王国法典第二百十四条「野営時の火器使用報告義務」
【王国法典 第214条 抜粋】
『王国領土内において、野営目的での火器使用を行う場合、所轄ギルド支部または王国火防局への事前報告が必要である。無届けの発火行為は、火災防止の観点から処罰対象とする。』
夜の草原は静かだった。
風が吹けば、冷気が肌を刺す。
ケンスケとハナは、森の入口近くでテントを張り、
小さな焚き火を囲んでいた。
その火は控えめで、まるで「おれは悪くない」と言いたげな炎だった。
「……これ、バレたら罰金なの?」
「残念。罰金どころか、最悪で“3日拘留”。
“無届け発火”は、王都火防局が特に厳しいの」
「じゃあ、どうして火をつけてんだよ俺たち……!」
ハナは小さく笑った。
「安心して。これは“火”じゃないわよ」
「え?」
「魔法の発熱式光球。正式名称は《温光珠》。
“火”として認定されるには、明確な“燃焼源”が必要なの。
これは“燃焼”ではなく“励起反応”だから、火器使用には該当しないわ」
「……ズルいってレベルじゃないぞ、それ」
「法律っていうのは、“書かれていない部分”こそが命取りなのよ」
ハナは自信たっぷりに、温光珠を指で弾いた。
「でもなあ……あったかいし、見た目は焚き火だし……
絶対、“勘違い”されると思うんだが」
「そうなった時のために、私は“確認書”も作ってあるわ」
彼女が取り出したのは、書類数枚。
「“温光珠を野営目的で使用するにあたっての、非火器認定確認文書”。
第三項に“本体は無燃焼構造であり、発熱源は魔力由来である”って明記されてる」
「どこの役所がそんなもん作ってんだよ……」
「作ったのは私よ。」
「お前が……!?」
「役所は“文書が整ってれば一応確認はする”。
“既存制度にない形式の申請”ってのは、大抵誰も精査しないのよ。
つまり、合法な“隙間”に自分で枠を作れば、それが認められることもある」
「……ハナ、マジでこの国で一番法律に詳しい魔法使いなんじゃないか?」
「皮肉でも嬉しいわね」
ケンスケは焚き火(仮)に手をかざしながら呟いた。
「法のせいで焚き火もできねえ国なんて、なんなんだよ……」
「だからこそ“抜け道”は希望なのよ。
王国は完璧じゃない。むしろ穴だらけ。
でも“知ってる者だけが、自由に生きられる”。」
その言葉には、どこか重たい響きがあった。
その頃、遠く離れた王都の一室。
律導官・セイガ・トキツネは、巻物の記録を静かに確認していた。
《対象:ホウジ・ケンスケ・ヌケミ・ハナ》
《焚き火行為:確認できず》
《発熱源:未登録式魔法装置。登録外だが、火器法規適用除外対象の可能性あり》
「……やるな」
一瞬、口元が僅かに笑ったようにも見えた。
「その知恵、次に向けて記録しておこう。
だが──記録は残る。抜けたからといって、忘れたわけではない」
夜は更ける。
温光珠のやわらかな光が、ふたりの影を地面に長く落としていた。
ケンスケは寝袋に入りながら、ぼそりと呟いた。
「なあ、ハナ。お前、いつからそんなに法に詳しいんだ?」
「……前に、法のせいで“大事な人”を失ったのよ。
そのとき誓ったの。“もう二度と、何も知らずに縛られるのは嫌だ”って」
ケンスケは黙っていた。
ハナの声がかすかに揺れていることに気づきながら。
「だから私は知るの。法の穴を。隙間を。
そのすべてを、あんたを守るために使うわよ」
その言葉は、焚き火よりずっとあたたかく、
そして剣よりずっと鋭く──
この夜、ケンスケはようやく知った。
彼女は“戦う魔導士”ではない。“守る法律家”なのだと。




