表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

王国法典第百四十二条「個人所有武器の命名義務」

【王国法典 第142条 抜粋】

『個人所有の武器には、王国認定の固有名を付与し、

登録簿に記載された上で使用すること。

命名税は文字数・語感・神格比に応じて加算される。』

「……で、その剣の名前、決まったの?」ヌケミ・ハナが書類の束をめくりながら、ちらりとケンスケを見た。


「いや……考えてるんだけどさ、“剣に名前をつける理由”ってなんなんだよ!」


「登録のためよ。あと、名前がないと『登録無効武器使用罪』になる」


「その罪名のほうが物騒だろ!」


ケンスケが腰から取り出したのは、冒険者登録と同時に自分で鍛えた──無骨な鉄の長剣。

まだ誰の血も吸っていないが、彼にとっては相棒だった。


「これに、無理やり名前つけて、税金まで取るって……!」


「文句なら“名剣課”に言いなさい。ちなみに、二文字までなら免税、三文字以上で課税対象。

 あと“伝説風”“神格風”“中二風”は重課税よ」


「……“タケシ”じゃだめか?」


「ふざけてんの?」


「二文字だぞ?」


「逆に税務署が来るわ。『安易な命名による虚偽申告の可能性あり』って」


「どうしろってんだよ!!」


二人は再び、ギルド支部の地下にある「登録武器検査室」に案内された。


「いらっしゃいませ。ご使用武器の“命名申請”ですね?」


無表情な中年男が出迎える。役職は「登録名剣査定官」。


机の上には辞書の山と、“命名評価表”。


[例]

フレイムブリンガー:神格比 +3/語呂 +2/文字数 8 → 税率42%

鬼切:神格比 0/語呂 -1/文字数 2 → 税率0%(セーフ)


「ちなみに“名前をつけずに使う”っていう選択肢は?」


「無登録使用=第142条違反となり、処罰対象です。

 初犯でも過料50銀貨+剣の一時押収となります」


「押収!? 相棒を!? 書類一枚で!?」


「書類は全てに優先されます」


「法、こええ……」


「なお、使用後に名前を変更する際は“改名申請”が必要です。

 手数料は30銀貨、変更理由の作文も添えてください。800文字以上で」


「で、結局どんな名前にするのよ?」


「うーん……“黒炎の断罪者”とか、“絶剣アークレイヴ”とか……」


「税率どれくらいか分かってる?」


「せめてカッコよくしたいじゃん……」


「じゃあ“文武照応ぶんぶしょうおう”ってどう?

 “法に抗う刃”って意味で皮肉も込めて」


「なんでお前、いちいち皮肉が知的なんだよ……」


最終的に、ケンスケはその剣に名をつけた。


『文武照応』──ぶんぶしょうおう。

評価は微妙だった。税率は15%、だが査定官は小さくうなずいた。


「……ふむ。これは、法と戦う者にふさわしい名かもしれませんね」


その言葉に、ケンスケはハッとする。


思えば、何度も頭を抱えながら、書類を書き、申請し、手続きに文句を言ってきた。

だが今、自分の剣に名がついたとき──


“戦う相手”が、ただの魔物じゃないと、はっきり自覚した。


「俺たちは……法と戦ってるんだな」

そしてそのころ。

王都・法務塔の上空では、一人の男が巻物を開いていた。


「第142条、登録完了……か。

 次は、第301条。……保護指定種への違法攻撃が予想されるな」


冷ややかな声でそうつぶやく男の瞳には、

ホウジ・ケンスケの名が、すでに“記録済”として刻まれていた。


律導官・セイガ・トキツネ。


“法の番人”が、ついに動き出す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ