王国法典第百三十三条「集会形式届出義務法」
【王国法典 第133条 抜粋】
『三名以上の者が公共の場で同一議題について会話を行う場合、
事前に「集会届出」を提出し、許可を得なければならない。
無届出での会話は「非申請型集会行為」として取り締まり対象となる。
※市場・酒場・広場・路上など、国定“公共空間”すべてに適用。』
王都の裏通り──
そこには、“同じこと”を感じている者たちが集まりはじめていた。
「なあ、最近気づかないか? 法律、ちょっと変だって」
「ケンスケって奴の話、聞いたか? “法の穴”突いて生き残ってるってさ」
「……俺たちも、声を上げたほうがいいんじゃねぇか?」
瓦屋根の上。煙の向こうに、3人の男女が座っていた。
その会話は確かに小声だったが、“公共空間”における“同一議題”だった。
それは──違法だった。
数分後、彼らは拘束された。
罪状は「非申請型集会行為」。
しかもその場にいたうちの1人は、「煙方向指定違反(再犯)」の記録が残っていた。
累積違反点数:9(※10で強制労働刑)
翌朝──
その知らせは、ケンスケとハナの元にも届いた。
「……俺たちの話を、誰かが伝え聞いて、動いたってことか」
「そして捕まった。この国では“考えを共有すること”が違法になるのよ」
「声を上げた奴から潰される仕組みか……。くそっ……!」
ハナは静かに手帳を取り出した。
「でも、捕まった人の中の1人、“以前煙方向違反で逃れた人”よ」
「えっ……どこで見た?」
「公的違反記録台帳。“誰でも検索可能”ってのが売りだけど、これってつまり“他人の罪が、合法的に晒される”制度なのよ」
夜。
ふたりはこっそり拘禁区の近くへ。
「今は無理よ。面会申請も許可されない“審査前拘留”だから」
「せめて差し入れくらい……」
「“差し入れ対象者の違反数が一定以上の場合、物資支援は“同罪協力”とみなされる”。第201条」
「どこまでも……息苦しい国だな」
──そのとき、背後から声がした。
「だが“息ができないこと”は、逆に言えば“まだ生きてる”という証拠だ」
「……セイガ」
黒衣の律導官、セイガ・トキツネだった。
「君たちの存在が波紋を広げている。
だが波紋は、最初に拡がるよりも、最初に押し戻される」
「救い出せるか?」ケンスケが問う。
「“法を犯していない”ならな。
……だが“共鳴しただけ”の者に、共謀罪が適用される前例もある」
「それ、もうなんでもアリじゃねぇか……!」
「だから私は言う。“表で動くな”。
法は“記録”で裁く。だが記録されなければ“存在しない”」
セイガは一枚の紙を差し出す。
「これは、“禁法区通行補助証”の写しだ。……君たちが動くなら、“国が目を逸らす場所”を使え」
「なんでそこまで……?」
セイガは目を伏せる。
「……私もかつて、“語っただけで”友を失った」
そして彼は、闇の中へ消えた。
夜。ケンスケとハナは、小さな焚き火を囲む。
火は静かに、風のない夜空へと煙をあげていた。
「……届け出、出してないけど大丈夫か?」
「“二人きり”は例外。今のところ」
「じゃあさ──俺たちが、三人になったら?」
「そのときは、火じゃなくて、記録を囲むのよ。
燃えやすい紙に、燃えにくい想いを書いて」
「……上手いこと言ったつもりか?」
「当然」
ふたりの笑い声が、夜の空気に溶けていった。




