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婚約と古文書が導く新たな迷宮10

翌朝、わたくしはまずルーファス様の寝室――というか臨時の“病室”へ突撃いたしました。だって当のご本人、不安定な魔力の渦に突っ込んだ挙句、お休みになられたのが夜明け近くですもの。倒れたままピクリとも動かなかったらどうしよう、なんて恐怖が脳裏を過ぎってしまいまして。


 ところが扉を開けると、ベッドサイドに控えていたカイが呆れ顔で迎えてくれました。

「大丈夫、まだ息してる。つーかセレスティア、寝癖すごいことになってるぞ」

 「いいのです、こんな寝癖は可愛いもの。今はルーファス様の具合が最重要事項!」

 「はいはい……とりあえず落ち着けって」

 彼は苦笑しながらルーファス様の顔を指し示します。枕に深く沈み込んだその姿は、一見すやすや穏やかそうにも見えました。が、額にはうっすら汗が滲んでいて、やはり夜中の無理が祟っているご様子。こんな頑固さんだからまったく……。


 すると部屋の外から、リリアとシャルロットが控えめに顔を覗かせました。リリアは完全徹夜だったくせに目がむしろギラギラ。シャルロットは彼女から「徹夜は美容の大敵よ!」と牽制されながらも一緒に来たらしく、ふたりが小声で言い争っているのが丸聞こえです。

「もう、リリアったら寝てないでしょう? そのクマどうにかして!」

「あなたこそ巻き髪が寝不足仕様じゃないの、まったく……」

 うん、それでもわたくしよりは絶対きちんとまとまっている気がしますわ。ああもう、こういうときに限って皆そろって寝不足祭りとは。


 そこへステラリアまで合流してくるのだから大所帯です。彼女は朝イチで皇太子からの“書状”を受け取ったらしく、それを手に深刻そうに眉をひそめています。何やら嫌な予感。まさか“わたくしたちの探索禁止令”とか出てはいませんでしょうね?

「おはようございます、セレスティア様。実は……」

「その封筒、どうせロクでもないお知らせでしょう?」

「ええ、まあ。当たらずとも遠からず、といったところです」

 彼女の微妙な表情に、一同は風船がしぼむように「はあぁぁ」と嘆息。どうせ高圧的な脅し文句か、今度こそ口出ししたら容赦しません的な通達でしょうし。ザ・上から目線・オブ・王家というやつですわね? ご遠慮願いたいんですが。


 しかしステラリアの視線はそこでは終わらず、ベッドのルーファス様へと向けられました。眠っているように見える彼に、ほんの一瞬躊躇したような眼差しを浮かべています。なにか言いかけて止める言動は、彼女なりに気遣っているのでしょう。そっと封筒を隠すようにたたんだ彼女に、わたくしも言葉を選んで問いかけます。

「詳しい内容は、後で改めて聞かせてくださる? 今わたくし、あの方を起こすかどうか迷い中なの」

「はい、承知しました。周囲を巻き込みたくないなら、ひっそり作戦会議いたしましょう」

 思わず吹き出しそうなおどろおどろしい提案に、カイが「探偵ごっこでもするのかねー」と口元を引き攣らせています。いいじゃないの、どうせなら推理小説みたいにやっちゃいましょうよ。


 そうこうしていると、意外にもルーファス様がぱちりと目を開けました。相当しんどそうなのに、起き抜け第一声が「……セレスティア、大丈夫か?」ですって? もうあなた、どんだけお人よし全開なのよ! ひとまずベッド脇ににじり寄れば、弱々しくも微笑まれるものだから、わたくしは危うく涙腺が崩壊しそうです。

「大丈夫ですわたくしより、あなたこそ。いい加減無茶はやめてくださいまし。次に私の目の前で無茶したら、婚約破棄も辞さないと脅してさしあげます」

「そ、それだけは勘弁してほしい……」

 ルーファス様がぎゅっとわたくしの手を握って懇願してくるという、超胸キュン展開。おかげで後ろで見ていたカイとリリアが「はいはいお熱いことで」とげんなり顔。シャルロットには「みんな眠気飛ぶわね、こうなると」と揶揄され、ステラリアはほんのり笑って手を合わせる。しかし死角から覗いてるディオンが、「え、今の台詞……マジ?」と驚きまくっているのも見逃せません。ふふ、わたくしだってクラッシャー気質があるんですのよ。


 ひとしきり茶番……いえ、愛の確認作業を終えたところで、リリアが咳ばらい。ここからが本題でしょう。深呼吸した年少組(失礼、若手組?)は、それぞれに作戦会議モードへ突入です。そこへルーファス様が妙に決意のこもった声で割り込んできました。

「昨夜の件でわかった。あの扉を開くには特定の魔力が要るらしい。俺の先祖が遺した音声記録があるはずなんだ」

「音声……記録?」

「子供の頃、書庫でこっそり聴いたことがある。古い水晶盤に刻まれた声だ。封印の誓文を唱えるとか何とか、子守唄みたいな語りで……」

 なんなのそれ、めちゃくちゃ怪しさ全開じゃありません? でもこうなったら怪しいなりにチェックするしかないでしょう。カルテット(カイ・リリア・シャルロット・わたくし)で目を交わし合い、「行きますか!」と意気込みを確かめました。もっともルーファス様は静養第一で、自室待機が原則ですけれど。


 ところが、ここでステラリアがしれっと手を挙げます。

「私が音声探しをお手伝いいたします。書庫の場所は存じておりますから」

 それも a)皇太子からの書状を受け取ったばかり b)怪しい命令を隠し持っている? そんな彼女が協力してくれるというのは正直びっくり。この件に首を突っ込むのは危険すぎる気もしますが、

「何か企みがあるなら聞くだけ聞きますわよ? もし裏切ったら、“ざまぁ”の見本市にして差し上げるからそのつもりで。」

 わたくしの毒舌宣言にも、ステラリアは柔らかな笑みで応じました。どうやら本気で力を貸してくれるようです。内心でガッツポーズを決めつつ、あえて顔はクールにキメておきます。こういう駆け引きは大事。はい、悪役令嬢の嗜みですもの。


 さて、まずは書庫に突入して水晶盤とやらを探し出し、次に喉元までせり上がった皇太子の圧力をかわし、さらに掟破りな封印を解いて隠し扉を……なんだか盛りだくさんですわね。でも大丈夫、スリルとサスペンスはわたくしの得意分野。ルーファス様の笑顔を守るためなら、ジェットコースターばりの急展開だって望むところです。


 とはいえ、気合いだけで突っ込んだら半死半生の苦労が待ち構えているのは目に見えております。なにしろ今度はクロード殿下だけでなくソレーユ皇女様も合流してくるのは確実。どこかで絶対邪魔を仕掛けてくるに違いありません。いいでしょう、わたくしたち、不眠不休の勢いでとことん立ち向かいますわよ!


「じゃあ決まり。ルーファス様は大人しく寝ててくださいまし。あなたが再び倒れたら、ほんとに婚約破棄案件ですからね?」

「わかった……絶対に復活してみせるから、頼むよ」

 なんて言い合う夫婦(仮)の横で、カイは「はいはい。俺たちは適度に休むけどねー」とあくび。リリアとシャルロットもステラリアも、どこか茶化すような笑みを浮かべています。いいのよ、本人芝居がかったセリフのほうが魔除けぐらいにはなるでしょう?


 こうしてわたくしは、またしても古文書と封印の謎に挑む羽目となりました。次なる相手は皇太子と皇女、そして未知の仕掛けたち。けれど今度は気鋭の仲間たちがそろっていますからね。ショボい脅しに屈するつもりは毛頭ありませんことよ。破滅エンド? それこそ華麗に踏み潰してみせますわ。さあ、わたくしの大暴走はまだまだ止まりません! 次はどんなドラマが待ち構えているのか。自分でもちょっとワクワクしてきましたわよ。これぞ悪役令嬢の生きる道! 皆さま、ご覚悟あそばせ!

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