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婚約と古文書が導く新たな迷宮8

「ねえカイ、その落書きチックな模様、どう見ても怪しい匂いがプンプンするのだけど?」

 「だよな。僕もパッと見て『コレぜってー隠し通路のマップだろ』って思ったんだよ。古文書からこんな大胆な図案が出てくるなんて、ワクワクしない?」

 「しませんわよ、まったく。けれど気になるものは気になるわ。探索とやら、さくっとやってしまいましょうか」


 そんな軽口を交わしながら、わたくしたちは古い地下庫の奥へと足を踏み入れました。どうやったらこんなところに入り口なんて作れるのか、不気味なくらい静かで暗い空間です。しかもわたくし、鼻歌気分のカイとは対照的に、真面目にちょっと怖い。蜘蛛の巣なんて大嫌いだというのに、既にお化け屋敷よろしく絡みついてくるこのホコリ攻撃を何とかしてくださいませ!


 幸いリリアとシャルロットが、明るいランタンを二つも用意してくれたおかげで、目の前の壁に奇妙なくぼみが見えてきました。そこだけ石の色が違います。どう見たって「押してください」と言わんばかりのパネル状になっていて、まさに怪しさ満点。


 「ほんとに押すのかい? 万が一トゲとかなんとか、罠が飛び出してくるかもしれないぜ?」

 「そのときは華麗に回避するまでですわ。というかカイこそ、わたくしを盾にする気じゃないでしょうね?」

 「まさか。ちゃんと護衛するって」

 「じゃ、押すわよ。せーの!」


 石をグッと押し込むと、ガタガタガタ……と壁が振動。意外にもあっさり秘密の扉が開いて、古ぼけた通路が姿を現しました。まあ想像どおりの展開ですけれど、実際に目の当たりにするとちょっと興奮しますわね。わたくしは後ろを振り向き、リリアとシャルロットに目配せ。二人とも息を呑んでいます。ステラリアはふわりと微笑んで「先へどうぞ?」なんて言うし、まったくどこまでも演出には事欠かない一行ですこと。


 「ま、入るしかありませんわね。入り口だけ確認して『怖いから帰る』なんて悪役令嬢にあるまじき行為、あり得ませんもの」

 「じゃあ僕が先頭をやろうか。セレスティアはランタン持ってくれ。……うわっ、結構狭いな」

 「膝を打たないように気をつけてくださいませ。うっかり打撲なんて洒落になりませんから」


 石段をひとつ降りるたびに床がミシミシ軋む音がして、心臓がトクトク騒ぎ出します。いや、わたくしだって意外と怖いものは怖いんですのよ! しかしここは華麗に鼻歌でも口ずさみ、動揺を見せないのが意地というもの。そんなわたくしを見たステラリアがニヤけているのが、少々ムカつく。けれど、今は我慢。悪役令嬢は沈着冷静がウリですから。


 すると突然、前方の暗闇の先に揺らめく光が見えました。わたくしのパーティー以外にも誰かいる? まさかこんなタイミングで観光客がいたら、失礼ながら一緒に悲鳴を上げますわよ?


 ……と思ったら、なんとそこには皇太子クロード殿下と皇女ソレーユ様。ああ、もう、まるで裏道マニアが集う会合を開いているみたいな状況ですよ! 狭い通路の中で鉢合わせとか、気まずさMAX。クロード殿下は苦々しい表情、そしてソレーユ様はやけに不敵な笑みを浮かべて、こちらをジッと見下ろしてきます。


 「これはまた、お邪魔虫のご来訪かしら? グレンフィールド公爵家の皆さま、随分と探究心がおありのようね」

 「お邪魔虫はどちらかしら。わたくしには皇太子殿下のお姿のほうがよほど意外に映りますけれど?」

 「ふん、黙れ。こちらにはこちらで調べものがあるのだ。下がれ」


 いきなり命令形とは失礼ですわね。わたくしは笑顔を貼り付けたまま、ぐさっと毒を一滴垂らすことにいたしましょうか。


 「まぁ恐縮。ですが、ここはわたくしの婚約者が治める公爵家の敷地ですもの。無断で土足侵入なさった殿下こそ、何を調べていらっしゃるのか気になりますわ」

 「きみは黙って引き下がるといい。そちらのルーファスは体調不良だそうだが、あまり彼をこんな事件に巻き込むまい――ソレーユ、行くぞ」


 クロード殿下はソレーユ様を連れて、わたしたちを突き飛ばすように脇を通り抜けます。ソレーユ様は去り際に「ふふ、なるほど、これが噂の古文書ね……」なんて呟いており、何やら薄ら寒いものを感じました。下手に追いかければ剣呑なやり合いになりそうで、リリアやシャルロットも顔色を失っています。この通路の先に何が隠されているのか、興味は尽きませんが、あちら側の視線も相当なものらしいですわね。


 「まるで『絶対に探るな』と言わんばかりに足早に消えたけど、こっちとしては余計に気になっちゃうんですけど?」

 「でしょ? 僕もあの態度は気になる。……ただ、無理に追って正面衝突するのはまずいよな。この通路、崩れちゃうかもしれないし」

 「そうですわね。無茶をするにしても、もう少し安全策を整えてからにしましょう。ステラリア、あなたの読みはどうですの?」

 「いずれ彼らがもう一度仕掛けてくるでしょう。わたしは奥様の方針に合わせますわ。だってわたし、こちらに“臨時雇用”されてる身ですもの」


 なんとも曖昧な返答ですが、味方宣言と受け取ってもいいのかしら。ひとまずその場は引き上げ、公爵邸の居住エリアへ戻ったわたくしたち。すると、ちょうどルーファス様がブランケットを引きずりながら現れました。まだ本調子じゃないくせに、少しくらい安静にしていてほしいものですわ。


 「セレスティア、どうやら見つけたらしいな、あの通路を」

 「まぁ、一瞬でクロード殿下に妨害されましたけれど。そちらこそ、少しはお休みになってもらえませんか? まさか倒れた状態で通路を探検するおつもりじゃないでしょうね」

 「君がそこまで心配してくれるなら、休もうかな。ただ、皇太子たちの動向も気になるし、ディオンの魔力のこともある。なにより……君が危ない目に遭うのは嫌だ」


 ――むむ、この状況でさらっと甘い台詞を放り込んでくるのは卑怯ですわ。微妙に胸がキュンとしたじゃありませんこと。悪役令嬢のわたくしでも、こういうところは抗いがたいです。まったく。彼の体調と魔力の問題も含め、次の一手は慎重に考える必要がありますわね。


 でも、だからといって敵を野放しにできるほど、おめでたい性格でもございませんの。とびきりのざまぁ展開を用意して差し上げるためにも、あの古文書と通路の真相を徹底的に暴かなくては。


 「いいですわ。皇太子兄妹がどう出るか存じませんけれど、わたくしは破滅フラグなどすべてまとめて踏み潰してみせます。ルーファス様のためにも、ここは気合いを入れませんとね。睡眠時間を削る覚悟、よろしくて?」

 「それだけは勘弁してくれ。君まで倒れたら、僕が泣く」

 「ふふ、泣くところを見てみたい気もしますが……今回は遠慮しておきますわ」


 こうしてわたくしたちは無事に(?)隠し通路の存在を確認し、皇太子兄妹という厄介な相手が背後をうろついている事実も再度刻み込まれました。ディオンの魔力暴走問題が鎮静化しているあいだに、一刻も早く対策を打たねば。準備万端、手は抜かない――悪役令嬢ってそういう生き物ですのよ。


 次にまたあの通路へ潜るときは、もっと凄絶な展開が待っている予感。身体を張ってでも暴いてやりますわ。もう少しばかり刺激が欲しいところですし。このまま暗躍されっぱなしじゃ、面白くありませんもの。覚悟なさい、クロード殿下! ソレーユ皇女! わたくしの毒舌ざまぁコースはここからが本番ですわよ!


 さて、読者の皆さまは次回もどうかご用心を。今度こそ爆笑方面に加えて、大洗礼のざまぁ感をお見舞いする可能性大。よろしければ最後まで目撃者としてよろしくて? きっと性悪ヒロイン(?)がいい仕事をしますわ。お楽しみに!

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