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婚約と古文書が導く新たな迷宮6

「あのステラリア、いったい何を言い出すつもりなのかしらねぇ……」

書庫までの道すがら、わたくしは心の中でそんな疑問符をぐーるぐると回しておりました。先ほどの“奥様”呼びなんて、ちょっと前まで一度も口にしなかった気がするのに。いきなりの態度豹変は大歓迎ですけれど、下手に甘い顔を見せてはいけませんわ。何せここは、あの皇太子の影がチラつく公爵家ですもの。いつどこで背中を刺されるかわからないんですから。


書庫に着いてドアを開けると、ステラリアがすでに背筋を伸ばして待っていました。まるでお説教を待つ子犬のような、でも同時に何かを決心した鋭い瞳。

「セレスティア様——いえ、奥様。まずは…お許しを乞いたいことがあります」

「とりあえず座ってくれる? あ、立ったままでいいならそれでもいいのだけれど、わたくし目線が疲れてしまうわ」

ステラリアはおどおどしながらも椅子に腰を下ろすと、深ーい息をついて話し始めました。


「わたし、こちらの公爵家に派遣される前、皇太子殿下の……ちょっとした“お手伝い”をしていました」

おおー、やっぱり出ましたわね、その言葉。ここ最近、わたくし個人的にはステラリア怪しい度MAXでしたから、なるほど氷解の兆し。

「具体的には、どのような……?」

「古文書や研究資料を探して、こっそりと皇太子殿下たちに報告する。それがわたしの役目でした。でも……もう、そんなことしたくありません。なぜなら、セレスティア様が本当に、この家を大事にしていると知ったから。ルーファス様を大切に思う、その気持ちを見てしまったのです」


へええ、わたくしがルーファス様を大切に……? 自覚はあるけれど、まさかそれだけで寝返ったというの? 実際、わたくしは悪役令嬢として“毒舌モード”全開の女なのに、意外とステラリアのハートを射抜いちゃったみたいですわ。

「それで? ここからが肝心だけれど、皇太子側にどう報告しようとしているの?」

「報告は全部、『収穫なし。変わったこともなく平穏です』と虚偽の内容で綴ります。あの方々がどれだけ疑おうとも、わたしの言葉以外の証拠が何もなければ、しばらくは干渉を遠ざけられるかと」


一瞬、その場で爆笑しそうになりました。だって彼女の切り札が、“デタラメ報告で相手を煙に巻く”っていうまあなんともシンプルな作戦なんですもの! しかし、それが案外効くんじゃないかという予感もあります。皇太子が望む“怪しい暴走”や“古文書”のネタに対し、「そんな都合よく見つかるわけありませんわよ?」と知らんぷりしてやるのは痛快じゃありませんこと?

「なるほどね。じゃあ、わたくしからも一つお願い。もし万が一、皇太子が調査隊をババーンと送り込んできても、そのときは堂々と『ご自由に、でも何も隠していませんわよ?』と笑顔で迎え撃つの。庶務に関わる記録なんて存分に見せてあげましょう。そして、“肝心なもの”は全部、わたくしが上手に隠しておきますから」

「かしこまりました……!」

こうしてステラリアとの秘密同盟、正式に成立。ここまで簡単に手を組んでいいものか内心で少し不安もありますけれど、嘘と毒舌で攻めるのが悪役令嬢の華麗なる流儀。むしろこれくらいスリリングでちょうどいいってものですわ。


(2)


さて、書庫から出ると、待ち構えていたカイとリリアの姿が目に飛び込んできました。ドアに耳をくっつけていたのは……いや、まさか偶然よね?

「あーうん、決して盗み聞きとかそんな未成熟な真似じゃないけどさ? その、つい気になって……」

「リリアなんて完璧にメモ帳広げてた気がしますが、まあ見なかったことにしておくわ」

「わ、わたしはセレスティア様のために必要な情報を整理していただけですっ!」

はいはい、その言い訳めっちゃ怪しいですわよ。けれど、そこをつつくより今は大事な話が。


「ところで、カイのほうは例の青い鉱石の様子はどう? 相変わらずビカビカ光ってるわけ?」

「今は落ちついてるけど、たまにチカッってなるから油断ならないね。こないだ地下室に置いてたろ? あれ、ルーファス様が体調崩す前後に、妙に妙に光ったらしいし」

うわー、これ絶対、不穏イベント確定じゃありませんこと? ルーファス様の体調は日に日にどこか不安定。あんな優雅な微笑みを浮かべながら、頭痛か何かをこらえてる姿が明らかに切ないんですもの。

「ディオンの魔力暴走の話も含めて、この鉱石、魔力増幅とか何かしらの力が潜んでるかも。そうなると皇太子が執拗に古文書やらを狙う理由も頷けるわね」

「おお、セレスティア様推理モードだ。いつもながら冴えてるねぇ」

「フフン、もうちょっと褒めて頂戴。わたくし、褒められるとさらに悪ノリするタイプですの」


(3)


その時、廊下の奥からバタバタと足音が聞こえたかと思えば、ロータス執事がいつにも増して真剣な顔で駆け寄ってきました。

「奥様、ルーファス様のご様子が優れません。どうやら先程から高熱を発しておられるようで……医師を呼んでおりますが、ひとまずお部屋へ!」

え、ちょっと待って! またしても彼の体調が急降下? 一瞬、心臓がぎゅって縮み上がった気がしました。わたくしは急いでロングスカートをたくし上げ、廊下を一気に駆け抜けます。

「何やってるの、ルーファス様! 倒れるならせめてわたくしの前で倒れてよ!」

わけのわからない捨て台詞を吐きながら寝室へ滑り込むと、ルーファス様はぐったりベッドにもたれていました。額には冷やしたタオルが当てられ、苦しそうに呼吸をしている。


思わず彼の手をギュッと握りました。……こんなに火照ってるなんて、どう考えても単なる風邪じゃありませんわよ。

「さあ、セレスティア、顔が怖いよ。でも、君がいてくれると……なんとかなる気がする」

「余計なこと考えずに眠ってくださる? 大丈夫ですわ、わたくしが“悪役令嬢の地獄力”でも何でも駆使して、全部蹴散らしてさしあげますもの」

ルーファス様は微かに笑いを返すと、徐々に意識を沈めるようにまぶたを閉じていきました。ああ、この場面で命綱にされてる気分です。わたくし、不覚にも胸が苦しくなるくらい心配しています。好きとか愛してるとか、そういう乙女モードなんて照れくさいけれど、少なくとも目の前の大切な人を守りたい気持ちは本物。


(4)


そんなわたくしを見て、ロータス執事が小さく頷きました。

「奥様、医師が到着するまでは、こちらの薬湯を。古くからの公爵家秘伝の調合で体温を下げる効果があるかもしれません。当家の書物にも記載がございます」

って、それ古文書に載ってたんですか? まさか薬湯まで出てくるなんて、なんだかファンタジックな展開ですわね。だけど今はそんなこと言っていられません。迷わず受け取って、そっとルーファス様の唇に触れさせると、彼はなんとか飲み下しました。


カイ、リリア、シャルロットも部屋の外で待機していて、それぞれがバタバタと必要なものを調達してきます。まるでわたくし達、突然生まれたレスキューチームのよう。ステラリアもその一員になって、今や公爵家の使用人たちが総出でルーファス様を支えようとしている。この一体感、結構悪くないかも……って、不謹慎だけど、ちょっとワクワクしちゃう。

「——さあ、ルーファス様。早く良くなってくださいませ。わたくし、あなたと一緒にザンネンな皇太子を存分にざまぁ!したいんですもの!」


わたくしはそう心の中で強く念じるのでした。嵐はもうすぐ、目の前で渦を巻いている。ルーファス様の体調も、皇太子の陰謀も、そして青い鉱石や古文書が呼び寄せる何かも、全部まとめて乗り越えてみせましょう。悪役令嬢的には、むしろ燃えるシチュエーションですもの。


さあ次はどんな試練が来るのかしら。まったくもって騒がしい日常ですけれど、わたくしの全力ざまぁレッスンはこれからが本番! 読者の皆さまも、どうぞお楽しみに。もちろん誰に肩入れするかは自由ですが、わたくしは遠慮なく穴を掘る側です。全員まとめて落とし込んで、ニッコリと勝利の微笑みを浮かべてさしあげますわ!

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