婚約と古文書が導く新たな迷宮4
「さーて、わたくしが夜な夜な覗き見してしまったステラリアちゃんの怪しい動き。あれを見てしまった以上、わたくしなら黙って引き下がれはしませんわ。もちろん危険には程よく距離を置きつつ、面白いネタは一網打尽にしてざまぁしなきゃ気が済みませんからね!」
そんなことを脳内でブツブツ唱えながら、朝っぱらから公爵家の廊下を小走りしているわたくし。はい、聞こえてきますよ、「令嬢としての品位はどこへ?」なんてツッコミが。でもいいんです、わたくしは“悪役令嬢”を自認してますから。品位も大事ですが、それ以上に情報の奪取が優先事項! だって陰謀のニオイがプンプン漂っているんですもの。放っておくとかえって危険度が増しますわよ?
「おはよう、セレスティア様。今日も元気そうでなにより!」
廊下の角を曲がったところで、すっかり公爵家に馴染んでいるカイと鉢合わせ。あら、おはようございます。というか何やら談笑しているメイドたちの輪から抜けてきた感じね?
「あなた気付いてる? 使用人さん達とやたら仲良しじゃない?」
「そりゃあ日々の食堂での会話が楽しすぎてさ、気づいたら秘密のおやつまで分けてくれる良い仲になっちゃって。あ、セレスティア様には内緒にって言われてるんだけど……」
「ぜんっぜん内緒になってないですわよ、もう!」
シーッと口に人差し指を当てるカイに呆れつつも、わたくし、その“極秘おやつ”とやらを後で根こそぎ奪う気満々です。ささやかな幸せは皆で共有しないとね?
するとそこへ、「おはようございます、セレスティア様」なんて涼やかな声。その主はシャルロット! とても朝からテンション高い。「実は昨日、庭園に来客がいらしてたってウワサ、もう聞きました?」
「え? 来客? 公爵家に?」
「そうそう。夕方頃には馬車が一台、門を抜けて行ったとかで! でも正体不明だって話なのよ。『皇室の紋章っぽいマークを見た』なんて声も飛び出してるし、何やら騒ぎになりそうな予感がビシバシ……」
「ほうほう……やはり黒い馬車の件と繋がりそうな匂いがしますわね」
わたくしはお口の端をニヤリと吊り上げます。馬車、皇室紋章、そしてステラリアの深夜の謎の書類受け渡し……ここまで揃えば怪しさ満点。しかも誰もがぼんやり「何かあったらしいよ」で終わらせているなか、わたくしはすでにクロウト顔負けの興味津々モードです。
「そこへさらに衝撃情報!」
シャルロットは目を輝かせながら、またも息を呑むようなトーンで続けます。
「朝っぱらからルーファス様、書斎で何か大事な相談されてるみたい。ロータスさんが部屋に入る姿を見た人の話によると、すんごい険しい表情で扉を閉めたとか!」
「うわー、まるで大事件の前兆よね。どうする? いま扉の外に張り込んでイヤホンで盗聴します?」
「ひえっ、まさかそこまでやる気なの……?」
カイまでドン引き気味に目を丸くしてますが、わたくし本気ですよ。子猫のような好奇心は止められませんもの。だけどここで突撃してもガードの固いロータスに確実に追い払われるだけ、という未来が見え見え。あの執事、わたくしのことを“女主人”扱いしつつも意外と容赦ないんですから。だからこそ迂闊に正面から攻め込むわけにはいきません。ふふ、それなら裏から回り込めばいいのよ。
丁度そこに通りかかったのは、わたくしの友人リリア。彼女は地味に「何でもとことん追求する」性格でして、今朝は屋敷のアチコチをチェックしていた様子。
「セレスティア、こっち急いで。さっき使用人さん達が“変わった文献の写しが届いている”って話してたの。場所は地下倉庫の奥らしいわ」
「地下倉庫! まさか古文書関連の必殺アイテムが――って、まぁ落ち着きましょう。まずはステラリアの怪しさを先に確認……」
「ちょっと待って、それなら一気に二手に分かれたほうが効率良くない?」
リリアがしれっと合理案を出してきます。確かにそうですね! こういう時、仲間が多いのはありがたい。
「じゃあ、わたくしとシャルロットはステラリア側を見張りましょう。地下倉庫はあなたとカイで担当してくださる? “変わった文献の写し”とやらが怪しいなら、そっちが皇太子絡みの資料って可能性も高いわ!」
「オッケー。最強タッグでやってみるね!」
と、リリアとカイがハイタッチ(若々しい!)して飛び出していきました。ああ、青春を感じる。やる気に満ち溢れた背中を見送ってから、わたくしはシャルロットと目を合わせてクスリと微笑み、「ではわたくし達もやりますわよ」と宣言。はい、悪役令嬢ネットワーク、いざ始動です。
◆◆◆
ステラリアはやけに清楚な表情で廊下を行き来していますが、スキあらばどこかに書面を届けようとしている気配。わたくしとシャルロットは、鉢合わせしないよう物陰からそーっと尾行します。すると途中で、彼女は誰かと目配せしてからサッと背筋を伸ばし――よく見れば先日わたくしが見かけた“怪しげな封筒”の切れ端らしきものを取り出すではありませんか。
「うわっ、あの封筒、確か皇太子の紋章が刻印されてたやつじゃない!」
「ええ、見て間違いないわ。さあ、いよいよ本番よ。というか危険度かなり上がってるような……」
シャルロットは「ちょっとビビる」なんて言いながらも、楽しそうに鼻息を荒くしています。誰でもスリルには興奮するものですものね。わたくしも例に漏れず、心臓がドキドキして仕方ありませんわ。でもここで逃げ腰になってたまるものですか。
「公爵家内で怪しい取引という時点で、放置したら婚約破棄どころか“家ごと爆破”みたいな展開になりかねません。これは止めるしかないわね」
そんなわたくし達の緊張感を砕くように、
「……何をなさっているのですか、セレスティア様?」
不意に耳に痛い声! …ロータス! しまった、執事界最強の存在に見つかった?
「あら、ロータス。いえ、ちょっと古文書の管理に興味が出てきまして、人の動きを勉強していたところですのよ。ヘンな疑いをかけないでくださいませね?」
「あえて問い詰めたりは致しません。ですが、どうか妙な悪戯は……なさりませんよう」
じとーっとした目つき。うわあ、絶対バレバレですわ。けれどあちらも言及しないということは、何か隠しごとがあるのは同じということでしょう。ここは“どっちもどっち”の微妙な関係性が成り立っていますね。ほほ、ならば結局わたくしの勝ちみたいなものですわ。
◆◆◆
しばらくして、カイとリリアから「地下倉庫にけっこうヤバいスペシャル写本が! ディオンの魔力に関する研究被写体みたいなやつ!」とのメモが届けられ、わたくし確信しましたね。公爵家に満ちているのは、ただならぬ新たな“波乱”そのもの。気を抜いたら一瞬で飲み込まれそうだけど――わたくし、飲み込まれるわけにはいきませんわ。ルーファス様だって、もしわたくしが巻き込まれて倒れたりしたら大層凹みそうな顔をなさるに違いないですし?
ええ、何より“破滅フラグ”を跳ね返すのがわたくしの取り柄! せっかくの婚約暮らし、このまま平凡に終わるはずがないことくらい、とっくに承知しています。皇太子の影だろうが魔力だろうが、怪しげな侍女の秘密でさえも、まとめて華麗に回避コースへ誘導してさしあげますわ――もちろん毒舌と笑いと、ちょっとのざまぁ感をスパイスにね!
さあ、この家に潜む謎がどこまで深く、そしてどれだけ危険な香りを放っているのか。わたくしのモットーは「先手必勝、そして最後に笑いを取る」。
次にどんな事件が転がり込んでこようと、全力で乗りこなしましょう。だってこの公爵家は既に“わたくしのホームグラウンド”なんですもの。異論は認めませんわよ! 悪役令嬢の名に懸けて、存分に暴れてやりますから、あとはお楽しみに♪




