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疑惑の来訪者と愛の誓い15

あれから丸一日。わたくしは静養もそこそこに、領内のあちこちから届く「おめでとうございます~!」というメッセージラッシュに押されて、急きょお披露目パーティ(という名の内輪お茶会)をすることになりました。いきなり盛大に祝われると落ち着かないものですわね。おかげで夫のサーシスが歓喜のあまり「友人全員呼びたい!」なんて言い出しそうになり、慌てて侍女衆が止めに入る始末。いえいえ、こんな身重の身で大勢を招き入れたらわたくしがストレスで寝込むのは目に見えております。とりあえず親しい顔ぶれだけでしっとり祝う感じに落ち着きましたの。……って、ほぼ暴走しかけたのは夫だけでしたけど。


「サーシス様、落ち着いてくださいませ。奥様の体調が優先ですわ」

わたくしの隣でハラハラしている侍女長が、夫をなだめるように声をかけています。ああ、この既視感。臨月を迎えるまでのほんのわずかのあいだに、何度夫は制止されるんでしょうね? もはやそれも微笑ましいイベント化してきましたわ。


そんなこんなで、「パーティ準備するぞ!」と意気込んだサーシスは、結局わたくしのお腹を優先するために今日も半分涙目。彼、ものすごく張り切っていたのに、あぶなく大掛かりな行事に発展するところを阻止されてしまいましたものね。

「でも…準備したい。準備させて!」

「ダメです。あなたが動くとスケールが爆発的に跳ね上がるんです」

「くっ…! じゃあせめてお屋敷の庭を花で埋め尽くして…」

「あのですね、マジでやめてください」

侍女たちの説得によって花畑計画も瞬殺。しょんぼり肩を落とすサーシスの姿に、わたくしもついクスリと微笑んでしまいます。

――確かに大丈夫、夫よ。あなたが気づかわなくても、わたくしは元気にやっておりますわ。ここ数日はお腹の重さに足腰を悲鳴あげられていますが、ありがたいことに侍女たち総出でサポートしてくれますし、少しばかりの寝不足程度なら、あなたの過保護ビームでカバーできるでしょう? 


そんなちょっぴり甘い空気をかき消すように、廊下の向こうからロータスが慌ただしくやってきました。おお、彼は今日は領内各所から報告書を取りまとめる役目でしたわね。この様子は何かニュースがあるのでしょうか?

「失礼いたします、奥様。旦那様」

ぺこりと頭を下げたロータスが差し出したのは、なかなかの分厚さを誇る書簡の束。なにやら父と母――義両親からの直筆らしく、封蝋がきっちり押されています。

「やたら量が多いけれど、一体何が…?」

サーシスがぱらぱらと開いてみると、途端に深刻そうな顔。まるで「きゅううう~」と音が聞こえそうなくらい眉間に皺が寄っております。

「父上、めちゃくちゃ心配してるな…『自警団整備は順調だが、戻るまでに孫が生まれてしまうなら天を恨む』とか」

ぷっと吹き出しそうになったわたくし、必死で口を噤みます。相変わらず義父様は想像以上に暑苦しい愛情を注いでくださるのね。治安面を整えるためとはいえ領地へ向かわれてしまい、出産には間に合うかどうか不明というのがよほど残念なのかしら。それとも「サーシスが頼りないから、自分がそばにいてやらねば!」という意味だったりして? いえいえ、さすがに夫もこのところはずいぶん成長した…と思いますのに。


しかし続く文面はといえば、「母上も同じように、出産時には全力で支えるから心配するな」「犬やら馬やらを馬車に積んで最短で戻れるように手配した」「万が一遅れをとるようなら、近隣の魔術師も総動員して瞬間移動する」とか、もう読みあげるたびに笑いが止まりません。え、そこまでするの? 大の大人が総出で大騒ぎしすぎではありませんこと? といっても、義両親の優しさはいつも本物。バカみたいにオーバーな手段を並べつつも「くれぐれも体調を大切に。孫と共に元気な姿で会おう」という締めくくりには、わたくしも心がほっこりしますわ。


「くっ…父上め、毎度のことながら一切の抜かりがない。まあ、ありがたいけども」

サーシスが少し恥ずかしげな顔で呟きます。そうよ、彼も暴走する系の親の遺伝子をしっかり継いでいるから、今の服装や言動を見るたびに義父様の面影を感じるのよね。たまに似すぎて苦笑するくらいですわ。


そしてもうひとつ、母上からの別封筒が添えられていました。こちらには「奥様の食生活にはお気をつけあそばせ。塩分と甘味を控えめに、できるだけ休めるようサーシスに言い聞かせましてよ!」なんて優雅な書きぶりが並び、「嫁いびり?」と誤解されかねないきっちり度合い。だけど文章の端々からにじみ出る“あなたのことを大切に思っている”感がもう愛しすぎて、わたくし、肩が震えるほど笑ってしまいました。これも母上の優しさという名の溺愛ですわね。


笑い疲れてベッドに腰かけたところ、サーシスがそっとわたくしの背に手を当てます。いつもなら軽口ひとつ叩くのに、今は真剣な面持ち。

「セレス…ふと思ったんだけど、親父とお袋が戻ってくるまでに生まれたらどうしよう? 立ち会えなかったって泣くんじゃ…」

「それは困るわね。まさか産まれた瞬間に“父上瞬間移動!”なんて真似、されたら怖いんだけど」

「ありえるからイヤだ…」

わたくし達は顔を見合わせて苦笑い。義両親なら、本気で魔術師を雇いかねないですもの! ただでさえ出産っていう大イベントで緊張するのに、そこへいきなり“父上乱入エフェクト”なんて登場したら、絶対バタバタ大騒ぎ確定ではありませんこと? うふふ、想像するだけで妙に楽しそう…いえいえ、落ち着けわたくし。あなたは今、腹に爆弾ベイビーを抱えている身。笑い過ぎてお腹が張らないように気をつけなければ。


そんなわたくし達夫婦の姿を見て、侍女長が困ったような優しい口調で言います。

「もしその時期にお産ですと、そりゃあ義両親様はご無念だとは思います。その分わたくし達がお手伝いしますから、安心してお任せくださいませ。ね?」

すると、パッとサーシスが反応しました。

「いや、君たちを頼らなくてもオレが全力で守る! 産婆もおばあちゃん医師様もいるし、騎士団を総動員して何があっても万全を期す!」

「……ええっと、旦那様? 騎士団総動員しても分娩室がぎゅうぎゅう詰めになるだけでは」

「そ、そうか…じゃあ廊下待機だな!」

「だーかーらー!」

わたくしはもう突っ込みが追いつきません。婿殿の決意が空回りすぎて、侍女長もそろそろ頭を抱えそうな勢いですわ。


その一方で、そんな大袈裟な光景が容易に想像できるからこそ、わたくしは今心から安心できるのかもしれません。義父様も義母様も、サーシスも侍女たちも、出産を全力でサポートしてくれる。少し先の未来に、彼らの大騒ぎっぷりが目に浮かんで、それがなんだか嬉しくて笑えてくる。ここまで皆に守られていたら、難産もなにも怖いものなし――ですよね!


「さて、心強い護衛団長様と、オーバーに心配してくれる義両親様に囲まれているのですもの。わたくし、堂々と元気な赤ちゃんを産んでさしあげますわ」

わたくしは静かに笑いながら、サーシスの手をぎゅっと握りました。彼こそがわたくしにとって、何よりのオアシス。彼の寝不足な目の下にうっすらクマができていますが、それはわたくしを第一に考えてくれている証。だから、わたくしも応えなくては――と心底思うのです。


…..と、そこへ急報が。ロータスが再び血相変えて駆け込んできて、「おばあちゃん医師様が“そろそろ用心せよ”とお達しを」と告げました。ど、どういう意味でしょう? まだ予定日にはわずかに日数があるはずですが…? 思わずそわそわし始めたわたくしに、サーシスが諭すように微笑みます。

「大丈夫、セレス。俺たちの子は、きっとタイミングを選んでやってくるよ」

――ええ、そうでしょうとも。むしろ今から「父上と母上が帰る直前を狙って産まれて、“俺も目撃できなかったじゃないか!”と全員号泣パニックになる」なんて珍事もありそうで、ちょっとだけ不安とワクワクが入り混じるわ。


ともあれ、義両親が間に合うかどうかは神のみぞ知る。でも、みんなの愛は確かにここにある。それならば、わたくし達はどんな結末でも乗り越えられるに違いありませんわ。さあ、喜劇と感動が渦巻くこの家族劇、次はどんな“ざまぁ”が来ようとも負ける気がいたしません! わたくしとサーシス、そして“プチ”が生まれてくる瞬間まで、どうか全力で楽しみにお待ちあれ――そんな気分で、わたくしは穏やかな腹の痛みに小さく息をつきながらも、未来への期待に胸を高鳴らせるのでした。

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