疑惑の来訪者と愛の誓い14
「なるほど、モンクシュッド男爵父娘の詐欺劇はこれで完全にゲームオーバー、というわけですわね!」
犯行を白状させた直後、真っ赤になってわめく男爵とやらの阿鼻叫喚を背中で聞きながら、わたくしは思わず勝利の笑みを浮かべました。そこには人さらい目的で攫われていた子どももいて、ロータスとディオンが見つけ出した決定的な証拠(怪しげな書類の筆跡&魔力追跡)で詰んだ詐欺師一味の断末魔の叫びが響き渡るばかり。まったく、もう少し上手に隠し通せなかったんですの? もはや開き直りすら見苦しいったらありませんわ。ま、ここまで懲りたなら、今後二度と公爵家に歯向かうほどの度胸は培えないでしょうね。ざまぁとでも言うしかありませんわ!
「公爵閣下の隠し子だの、聞いてもいない嘘八百をよくまあぺらぺら言えたものね」
シャルロットが少し呆れ顔で指摘すると、男爵の娘を名乗る彼女のほうはガクガク震えながら「ち、違うのよ! わたしだって騙されてターゲットにされただけで!」と、まるで被害者かのように叫び散らす始末。あら、そちらの事情などわたくし達には関係ございませんわ。誘拐した子を自分の身代わりに仕立てようとしていた時点で真っ黒も黒々、しまいには「金で黙れ」とでも言うつもりだったのでしょうから。お門違いにも程がある!
「ディオン、あまり無茶をしないで。さっきまであんなに顔色が悪かったのに」
リリアの声にハッとして見れば、なるほどディオンは彼なりに限界ギリギリの魔力捜査をしていた様子。焦げ臭いほどに使い込んでしまったのか、呼吸が少し荒いのがわかります。でも、誘拐犯を野放しにしなかったのはお見事でしたわ。今回の騒動、あなたのがんばりがなかったらまだ奴らは嘘八百を垂れ流していたでしょうし。
「ありがとうな。根こそぎ検証してくれたおかげで、手を汚さずに片付いた」
そう言いながら、ルーファス様は静かなる怒りを宿した視線で、モンクシュッド男爵父娘を睨みつけました。いつものにこやかオーラが吹っ飛んでいる彼の姿は、まさに雷鳴を背負う公爵そのもの。うーん、恐いっていうよりも、わたくし的には“心強すぎる”の一言に尽きます。だってこれだけの騒動をサラッとバッサリ整理するんですもの、大切なパートナーはやっぱり最強ですわ!
「さて、あちらの詐欺師どもは法に従い厳罰を受けるとして……セレスティア、そなたは大丈夫か?」
わたくしの腕を軽く取って、こちらを覗き込むルーファス様。一連の騒動で少々(いや、かなり)動揺してしまい、実はこっそり胃が痛くなっていたのも事実です。なんたって自分の婚約者に“隠し子いる疑惑”すっぱ抜かれたわけですからね。絶対ありえないと分かっていても、精神的には人間、そこそこ消耗しますわ。
「ご心配、痛み入ります。ほら、もうわたくしはいつも通り“悪役令嬢”モード復活ですわよ。あの方々の演技が下手すぎて、多少の胃痛は吹っ飛びました」
そう言って愛想笑いを浮かべた瞬間、頭の隅でふっと、今朝から抱いていた何やら切ない感覚が再燃しました。……そう、どうしてこんなに眠いのかしら? つわりだけじゃ説明つきそうにないほど、身体全体が熱っぽいと申しますか。変にドキドキして、また目眩が……ってちょっと待って、もしかしてこれって。
「セレスティア、すぐに横になれ!」
ぱたり、とその場で膝を折りそうになったわたくしを、ルーファス様が慌てて抱き留めます。ああ、やだわ、こんな大勢の前で姫抱きされるなんて、赤面必至すぎるシチュエーションじゃありませんこと? でも仕方ありません、体がだるくて立ってられないんですもの。外野が「きゃー!」と騒ぐのを余所に、ソファに移動してラクな体勢を整えていただきました。ごめんなさい、ちょっとだけ意識飛んでもよろしいかしら……?
……そして、気がつけば数時間後。わたくしは自室のベッドでぐっすり休ませてもらっていた模様。横にはルーファス様とロータス、さらにミモザたちまで集結していて、ひそひそと神妙な面持ちでこちらを見ています。なんですの、その深刻な雰囲気。
「……おめでとうございます、セレスティア様。どうやら本当に、新しい命がやどっているようです」
そう告げたのは侍医でした。――え、え? あ、あれ、これって二度目の驚愕ですわよね。前にあれほど喜んだはずの報告を、今またダメ押しされている? というか、まだ早い段階だから確定しづらいとか何とか言っていませんでしたっけ? まさかこんな時期に改めて「間違いなく赤ちゃんがいます!」と太鼓判を押されようとは。
「セレスティア、ほんとに無理させて悪かった。これからは俺、仕事なんかそっちのけで君を守るから」
まるで黄金の騎士みたいな決め台詞をさらっと口にしてくるルーファス様。やめてくださいませ、こんな時にそんなこと言われたらわたくし、嬉しすぎてさらに目眩がして……。けれど、思わず笑みがこぼれてしょうがありません。だって一度は確定かと思った妊娠がまた裏付けされたんですもの。「本格的にあなたとわたくし、家族になるんですのね」という言葉が胸をいっぱいにして止まらないのですわ。
周囲も「おめでとうございます!」の大合唱で、先ほどまでの騒動なんて嘘のような祝福ムード。お陰で詐欺師一味の残響すら、この瞬間だけは遠い闇へ葬られてしまいましたわ。まあまたすぐに王太子だの社交界だの、ややこしい輩が蠢いてくるのでしょうけど、そのたびにこうして一丸となって笑い合い、解決していけばいいのですものね。なんといっても、わたくし達は“悪役令嬢と公爵閣下”という最強タッグなのですから!
わたくしはあえて毒舌を封印し、にっこり微笑みました。ええ、いまはただ純粋に喜びたい気分です。次に面倒ごとが来た暁には、きちんとざまぁ込みで対処してさしあげるとして。王家の陰謀が迫ろうとも、防御態勢は万全。お腹の子のためにも、もう負ける気はまるでしませんわ。わたくし達の未来は、ここからが本番。そのキラッキラした輝きを、絶対に守り抜いてみせますわよ!




