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疑惑の来訪者と愛の誓い9

 あの茶番劇を終えた直後、例の男爵(仮)とやらは「近いうちに“真実の証人”を連れてきますからね!」なんて捨て台詞を吐いて、娘役も抱え込むようにしてスゴスゴと退散していきました。よほど追い詰められたのでしょうけれど、そこまで意地を張るならもう少し頭を使えばいいのに。わたくしから見れば、あのまま煙のように消えてしまったほうがまだ賢明な選択だと思うんですけどね。おまけに廊下の隅でカイに「二度と来んな」と威嚇されてたのを見逃してませんわよ? ああ、でも面白いから歓迎いたします。わたくしは、さらなる“ざまぁ”シーンにはいくらでもお茶とお菓子を用意して待っておりますから!


さて、その翌朝。ルーファス様はすっかり元気を取り戻しておられました。「熱はどう?」と聞いたら、「平熱。やはり面白おかしい見世物が一番の薬だな」とか飄々とおっしゃるんですもの。もうちょっと体をいたわってほしい気もするけれど、こうしてピンピンしている姿を見ると、わたくしもホッとするというか……それはそれで少し呆れも誘われますわね。


「ともあれ、くだらない噂が更に広まらないうちに手を打たないとね」

庭園の一角でひと息つきながら、わたくしがそう切り出すと、ロータスが無表情で「ええ、実はもう動き始めております」とこっそり報告してきました。うふふ、優秀な執事というのは頼もしいですわねぇ。リリアとシャルロットも別働隊のようになって、男爵(仮)の身辺を徹底的に洗い出しているらしいです。ならばこっちは、さらりと背景を掴んだうえで、いつ相手が“真実の証人”なるお笑い劇団を連れて来ようが対応万全。……正直、楽しみが増えて困っております。


そんな中、ちょうど嬉しい知らせが。わたくしの親しい友であるミモザが無事に出産を終えたとのこと! リリアからの緊急連絡で知り、さっそく夫婦そろってお祝いに駆けつけることに決まりました。こういうハッピーイベントは速攻で行かねば。悪趣味な騒動はともかく、わたくしはなんとしても赤ちゃんを抱っこしたい一心なのです。


「少々遠出にはなるが、平気か?」とルーファス様が心配してくださったけど、ここはむしろ気分転換になるかもしれませんわ。どのみち男爵(仮)一団が再訪するまで少し間が空くでしょうし、屋敷に張りこんでも退屈なだけ。そこでわたくしとルーファス様は、さっさと迎えの馬車を準備させて出発したのです。


ミモザの産院は王都から少し郊外に出たところ。小鳥のさえずりと草花の香りが心地よくて、まさに新しい命にぴったりののどかな環境でした。お部屋を覗けば、そこには頑張ったミモザと、ふにゃふにゃの生まれたての女の子が! もちろん、わたくしは瞬時にメロメロです。

「やだ、どうしよう! めっちゃ可愛い!」

あまりの可愛さにテンションが吹っ飛んだわたくしを見て、ミモザは弱々しく笑いながら「ちょっと……セレスティア様、落ち着いてくださいよ~」と声を張り上げる。そりゃそうです、いかんいかん。母子に迷惑をかけるわけにはいきませんもの。とはいえ、この小さな手足と、お団子のようなほっぺた……ううっ、可愛すぎて理性が崩壊しそう。ルーファス様にも「君の頬がさらに赤くなったな」と冷やかされる始末ですわ。だって、こんな小さな奇跡を目の当たりにしたら誰だって舞い上がるでしょう?


ミモザのご主人とわたくしが育児グッズの話で盛り上がっている間、ルーファス様はといえば「ほう……指がこんなに小さいのか」なんて赤ん坊を見つめながら感心しきり。ずいぶん興味津々のご様子です。普段はクールで何事にも動じないようにみえる彼が、こういう場面ではほんのり柔和な空気を纏うのがなんとも微笑ましいじゃありませんか。周囲の皆さまもその光景に頬を緩めておられました。ふふっ、実はルーファス様ってば子ども好きなのでは? と家の者が噂していたのも納得がいきます。


「公爵、ご子息はまだお考えでないのかしら?」

ミモザのお姑さんが興味本位で尋ねてきて、わたくしとルーファス様は思わず顔を見合わせてしまいました。そ、そんな話は特に具体化してませんが……確かに、こうして赤ちゃんを間近にするといろいろ想像してしまうのです。わたくしの中に小さな命が宿ったら、はたしてどんな日々が始まるんだろう、とか。ああ、なんだか胸がドキドキ。もちろんまだ予定は皆無だけど、ゼロとは言いきれない未来なのかもしれませんわね。そしたら我が子を抱いて、こうしてあやして――なんて、危険なくらい妄想が膨らみます。


その時、席を外していたリリアが息せき切って戻ってきて、ほとんど叫び声に近い調子で「大変です、セレスティア様!」とわたくしの手をつかんでくるんです。

「どうしたの、そのゴルゴ13ばりに険しい顔……まさかまた例の男爵(仮)が?」

「あの人たち、今度は“皇都からの権威ある人物”を連れてくるって触れ回ってるそうなんです! しかも『公爵が認知を拒んでいるのは、上層部にバレると困る秘密を隠しているからだ』とかなんとか……」

聞いた瞬間、あまりの荒唐無稽ぶりに吹きそうになりました。が、そもそも根も葉もない噂話こそ広まりやすいのです。どんなに馬鹿げていても、“それらしく”言いふらされれば、耳障りの良い人々が信じて騒ぎ立てるのは世の常。特に社交界なんて、面白がりの粘着質な方々がウヨウヨいる世界ですもの。


「はぁ、もう。どこまでもしつこい連中ね。確かに権威ある人物ってだけで『もしかして本当?』って歪んだ興味を持つ人が出そうだわ」

わたくしは呆れ笑いを浮かべながら、さっそく頭の中で対策を練り始めます。もっとも、反論も証拠も山ほど揃っているから、最終的にはファンファーレ付きで粉砕できるはず。でもその前に、あっちこっちで変な風評が飛び交うのはうんざりですわね。ここは僅かに面倒な全体制圧が必要かもしれません。


わたくしがブツブツ考え込んでいると、後ろからルーファス様が落ち着いた声でささやいてきました。

「“皇都”という言葉をあちらが絡めてくるということは、もしかすると王家筋の誰かが一枚噛んでいるかもしれん。少なくともそう装えば仰々しく見えるだろうからな」

確かに、それが演技でも、王家や宮廷の名前を騙る輩など社交界にゴロゴロしております。しかも、つい先日の特務関係でルーファス様は公爵家として目立つ働きをした経緯もあるとか。わたくしも『皇太子派閥はなにか画策している』なんて噂を耳にしたことがありましたし。そっち方面と絡んでくるのであれば、また別の面倒が発生する可能性大です。あの男爵(仮)がそこまで深く考えているかは微妙ですが、勢い任せに噂を盛るのは得意技っぽいですものね。


「なるほどねぇ、となると、ただの詐欺師では終わらないかも?」

「いや、基本的には単なる詐欺だろう。だが、いつの間にか変な奴らが後ろ盾に回る可能性は否定できない」

わたくしはルーファス様の言葉に深く同意しつつ、ふとミモザの赤ちゃんへ視線を戻しました。こんな純粋無垢な命を食い物にする奴らがいると思うと、気分が悪くて仕方ありません。たとえ公爵家をdisりたい雑魚がいたとしても、子どもの運命を弄ぶなど論外。絶対に許せない行為ですわ。次回の登場でいよいよ“皇都からの証人”か何かを引っ張り出すなら、こっちも容赦なんてしません。正々堂々と完膚なきまで叩きのめしてやりましょう。


「長居してしまってすみませんね。落ち着いたらまた改めてお祝いに参りますわ」

わたくしはミモザにそう言って、赤ちゃんのぷにぷにほっぺを名残惜しくなでました。今度は愛らしい寝顔でスースー寝息を立てていて、本当に天使みたい。こんな平和な家族の風景がある一方、わたくしの屋敷では陰謀とも冗談ともつかない言いがかりの嵐が吹き荒れようとしている……何そのギャップ、ドラマみたいだけど実際ドラマなんです。何があっても乗り越えないと、わたくしの未来も家族も護れませんもの。


帰り道の馬車の中、ルーファス様もどこか物思いに耽っているようで、しばらく無言でした。慎重な性格だけあって、今後の対処法を考えているのだろうな、と横目で眺めていたら、ほどなくしてポツリとつぶやかれます。

「私たちの将来についても、考えないとな」

「……そ、それはつまり?」

「密かに色々と……まあ、今はそれより目先だな。君に余計な負担はかけたくないが、力を貸してほしい」

わたくしはドキリとしながら、思わず「もちろんよ!」と返事をしていました。彼がちらりとこちらを見て微笑むと、何とも言えず心が温かくなるのを感じます。この人となら、どんな厄介事だって乗り越えられる――本気でそう思えるから不思議ですわ。


とはいえ、現実の問題は山積み。早急に男爵(仮)の次なる手口を封じ込めなければ、下手すれば“皇都”なんてとんでもない方向に火種が飛んで行きかねません。なるべく早く、連中の化けの皮を剥いでしまいましょう。彼らが戻ってくるのを待つ必要すらなければ最高なんですが、どうやら“真実を知る人物”なる希代のジョーカーを引っ張り出す気満々みたいですし――いいでしょう、その勝負、買って差し上げます。最後はお望みどおり大々的な舞台での“ざまぁフィナーレ”を飾ってあげるという寸法よ。


わたくしの胸は、なんだか変な昂ぶりで熱くなってきました。馬車の窓から見える王都の遠景は、いつもとは違って少し霞んで見えます。あれは夕日が沈むせいか、それともこれから始まる波乱の予感によるものなのか。まあ、どっちにしても望むところ。絶対に負けるつもりはありません。ルーファス様とわたくしの手で、嘘だらけの“隠し子騒動”なんて木っ端微塵にしてみせますわよ!


……とはいえ、馬車を降りる頃には肩がこっていることに気づきました。緊張と興奮で少し疲労が顔を覗かせているみたい。こんな状況ではありますが、いざ戦う時に倒れてしまっては元も子もありません。屋敷に戻ったら、まずは暖かいお茶で一服して、鋭気を養いましょう。しっかり休んで体力をキープしてこそ、最高の舞台で思い切り輝けるというものですからね!


それにしても、ミモザの赤ちゃんの寝顔……天使だったなぁ。あのフワフワの頬と、ちょこんと丸まる小さな指。あれを思い出すだけで、なんとか嫌な気分を遥か彼方に吹き飛ばせそうです。わたくしもいつか――――、うふふ。いえ、今は胸の奥でそっと温めておくことにいたします。夢を見るのは自由ですもんね。もし本当に叶う日が来たなら、その時はルーファス様にも盛大にグーでラブパンチして差し上げる予定。……ええ、もちろん愛情ですよ、愛情!


そんなわけで、馬車は夕闇の中を揺られながら公爵邸の門へと近づいていきます。次なる騒動の予感と、甘くふんわりとした未来への期待を乗せて。ページをめくる手を止める暇などありませんわ。この物語、まだまだ続くのですから──!

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