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疑惑の来訪者と愛の誓い8

やれやれ、あちらさんはなまじ度胸が据わっているのか、無計画なのか。あれだけボロ綻びが出てもなお居座るつもりのようですわね。応接室を追い出して客間を奪取するという、どこの勇者か知らない大暴挙までかましてくださって。こちらが「少しは反省して泣きべそをかくかしら?」と期待していたのに、想像以上に開き直られると逆に笑いが止まりませんわ。ロータスが任意同行をすすめても「断固拒否!」と居直るものだから、見ているわたくしの腹筋がもう限界ギリギリです。


「グレンフィールド公爵閣下が《わたくしどもの小さな御子》を認知なさらないのなら、こちらにも考えがありますからねっ!」

父親役を気取っている男爵(仮)が、そろそろ決め台詞を吐いてくる頃合い。さも『大奥の黒幕』か何かみたいに唇を尖らせておりますけど、おやおや、傍らの“娘”さんは顔を蒼白にして汗だくですよ? どうやらカーテンの隙間から、わたくしの友人シャルロットがじっと監視しているのに気付いたらしくて。あらあら、生ぬるい視線に耐えかねているのかしら。こういうときのシャルロット、笑みは優雅だけど目つきが鋭くてちょい恐ろしいのよね。


一方、ルーファス様はといえば、前夜に熱を出して寝込んでいたとは思えないほど冷静。むしろこの客間の隅っこで、お茶を飲みながらすっかり傍観モード。「詐欺の手口をじっくり研究しておくのも悪くない」なんて飄々と呟いてるんですもの。まったく、冷酷というかマイペースというか。ともかくダマされている感ゼロの、圧倒的余裕っぷりがまぶしい限りですわ。


「公爵、ご体調は大丈夫なの?」

わざとらしく聞いてみると、「うむ。君こそ顔が赤いが」としれっと逆ツッコミ。いえ、それは笑いを堪えているせいなんですが。そんなふうに何気ない会話をしている間にも、男爵(仮)はかまわず一人芝居を続行しておられます。


「お嬢さん、早くしなさい。この家には弁明の余地すらない高慢ちきな連中しかいないんだから!」

わたくし、その台詞に釣られてつい吹き出しそうになりましたわ。今まさに“演者”を侮蔑しながら、いや誰を高慢ちきと呼んでいるのやら。こうも堂々と言える無神経さ、もはやファンタジーを超越しています。娘役のほうは完全にオロオロ。ぎゅっと抱き締めている赤ん坊が本気の泣きソングを大合唱しているんですけど、お母さんとやらはなーんにも宥めないんですね。世の母子を舐めたらいけませんわよ。


その時です。部屋の外から急ぎ足のロータスが戻ってきて、「オホン」と大きく咳払い。手には何やら厚めの封書を携えております。開封済みで、どうやらさっき届いたばかりの公文書らしい。

「失礼。このほど、王都筆頭公証人から各地の貴族身分の証明書類が届きましたので、皆さまにもご確認いただければと」

ロータスがサラリと読み上げると、男爵(仮)はパッと顔を背け、娘は「あ、あたしたちには関係ない話ですわ!」と声を荒らげる。やっぱりね。こういうときの挙動って、むしろ自分から「私たちは真っ黒です!」って言ってるようなもの。


「なっ、何を見せるつもりだ!」

「何も見せてませんよ? ただ、こんな書類があるんだと皆さまにお知らせしようかと」

ロータスは微笑みつつ、ちらっとわたくしのほうを見る。──どうやら奴らの身元確認をもう進めてしまったらしいです。しかも手分けして、リリアとシャルロットが入手した“怪文書の筆跡サンプル”とやらも手札にあるんですって。おまけにカイは屋敷周辺を固め、いつでも逃げられないようにしているそうで。手は万全、あとは詰め将棋の最終段階ね。


「ほ、本当に公爵の子なのよ……見るからに銀色っぽい髪が証拠なんだから……」

娘がありったけの声でアピールしていますけれど、赤ん坊は鼻水が垂れ流しだし、若干あれ、根本が黒髪じゃない? 染めかけた名残がバレバレですわ。しかも消しきれてない染料の臭いが存分に充満していて、わたくし思わず息を止める羽目に。「それ以前に顔立ちさえ似てないじゃないの」と、シャルロットが小声で突っ込んでくるから、こっちは笑いを堪えるので精一杯。


「そんな話はどこで仕入れたんです? 私の家系が銀髪だなんて、とんだ誤解だな」

ルーファス様の言葉に、男爵(仮)が「あ、あれ? そ、そうだったか……?」と絶句。なんとまあ、雑な下調べもいいところですわね。せめて。せめてルーファス様を落とし込みたいなら、公爵家伝来の瞳や髪の特徴くらい暗記してきなさいっての。ああ、突っ込みたいポイントが多すぎて逆に疲れます。


「では早速、これらの書類と、そちらのお嬢さんの身元証明を照合させていただきます。もちろん、『本当に母親なのか』という点も調べさせていただきますよ。ね、公爵様?」

「……ああ、頼む。それが明らかになれば、いかなる結論も自ずと出てくるだろう」

にこりとも笑わないルーファス様が言い放つと、男爵(仮)は水を浴びた猫のようにすくみあがり、娘は「ちょっ、ちょっと待って!」と悲鳴混じりに後退。さらに赤ん坊が絶叫級の大泣きでハモリを入れ、客間がもう地獄絵図状態です。ほんとお気の毒に――でもご安心あそばせ、これからもっとカオスになる予定ですから!


「さあ、早いとこ幕引きにしましょうか。どう転ぼうと、『公爵の隠し子』などというお粗末な噂は瞬く間に消え去りますもの」

わたくしが如才なく微笑むと、娘は「う、嘘よ……こんなの、脅しだわ……」と震える声。男爵(仮)が焦りに焦って「や、やめろ、そっちは権力を振りかざそうって魂胆だろう!」とわめき声を上げますけれど、こちらとしては「ええ、権力というのはこういう場面で華麗に使うものですよ?」と答えて差し上げたい。黙ってても、あなた方のボロなんて際限なく溢れてくるんですもの。


「他に言い訳があるなら全部吐き出してくださいね、どの道こちらで調べるんですけど」

シャルロットがあっさり言い切ると、男爵(仮)は娘と視線を交わしながら顔を歪める。あらま、そのままギブアップしてくれればいいのに、まだ何かゴニョゴニョと言い訳を考えている様子。しかしもう詰んでいますわよ。奥の手がどんなにくだらなくとも、暴けばいいだけのことですし。


「さて。ここまで騒がせておいて、まさか『はした金狙いでしたゴメンなさい』じゃ済まされませんよね?」

わたくしは内心、ニヤリとしながらそう告げました。男爵(仮)と娘が観念の色を漂わせる瞬間、なんともいえない高揚感が胸に広がります。この瞬間のために張り切ってきたといっても過言じゃありません。だって、彼らが陥る“ざまぁ”こそ、最高級の娯楽ですもの。さあ、求められるのはあなた方がじたばたともがく最後の悪あがきよ。見せ場をつくってちょうだいな。


無情にも子どもの泣き声が最高潮に達したところで、ルーファス様がふと歩み寄る。そして、あらがう男爵(仮)をひとにらみして、

「大丈夫だ、その子はすぐに保護する。……それが本来の正しいやり方だろう?」

と静かに告げると、相手は石化したように動きを止めました。わたくしも横目で見て、心臓がドキリ。穏やかな声の裏に冷酷な決意が透けて見えるんですもの。このまま騎士隊でも呼び出して、一網打尽にすればいいんじゃないかしら。なんなら、わたくしが先回りして舞台を整えますよ。大喝采での悪者退場劇、お世話するのは大好物なんですから。


こんな滑稽すぎる茶番はもう終わり。次はいよいよ、わたくしたちが用意した“お仕置きシナリオ”の幕が上がります。誘拐説が公に出た今、この二人の行く末は暗黒まっしぐらなのでしょう。無実の子どもを巻き込むなんて、許されるわけがありませんもの。


──さあ、男爵(仮)さんと偽の“母”さん、震える準備はいいかしら? こちらは満点のざまぁを忘れずにお届けしてあげます。もう逃げ道などないこと、存分に味わってくださいませ。わたくしもルーファス様も、まさにこの瞬間を待っていたのですから!

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