疑惑の来訪者と愛の誓い3
ああもう、どうしてこう次から次へとトラブルが舞い込むんでしょうね! ミモザの出産でホッとひと息ついたと思ったら、今度は「公爵閣下に隠し子疑惑が浮上してますだと!?」という噂が広がってるんですって。はあ? そんな馬鹿げた話、どこから湧いてきたんですかっての! 一夜にしてお子が量産されるなら、苦労しませんわよ。
「公爵様ったら、子宝に恵まれるのが早かったのねウフフ」とか茶化されて、わたし思わず笑顔の裏にメラメラ炎を湛えそうでした。ルーファス様ご本人はというと、まだ昨日の高熱の影響が抜けきっていないらしく、ふらふらした足取りでもう笑うしかない感じ。
「あのですね、誰がそんなデマを流したんでしょうかね? 絶対にただじゃ済ませませんよ」とわたしが毒づくと、執事のロータスは「どうせ社交界のゴシップ好きが書き立ててるのでしょう。言葉は厳選しつつも証拠を押さえ、適度に‘ざまぁ’な形で返り討ちにいたします」とサラリ。うん、ぐっじょぶロータス、遠慮せずやっちゃって! 騒ぎが大きくなる前にバッサリとねー!
ところが、そんな“火の粉”をバラまく輩が王都のあちらこちらにいるらしく、先ほど届いたシャルロットの手紙には「やたらと興味深げに尋ねてくる令嬢たちが増えてるわよ」と書かれていました。何よそれ、わたしたちがいつ子作りしたっていうのか。って、赤面しながら言う台詞じゃないですね、失礼。
サーシス(わたしの友人兼、わが家騎士団のお調子者)は横でヒヒッと笑い、「わりとよくあるよな、こういうオイシイ展開。いかにも貴族社会って感じ~?」なんて無神経に言うので、思いっきり拳で背中をどついておきました。ちょっと黙ってて、今こっちは真剣に対処法を考えてるんだから!
ミモザの方は無事に出産を終え、まだ入院部屋(というか、産後部屋?)で赤ちゃんと一緒にのんびり体を休めています。先ほど赤ちゃんをちらっと見たら、ベッドの上でぐっすり。用事を聞こうにも「おぎゃ…すぴー」状態で、協力どころか瞼も開けてくれません。まあ生まれたばかりだもの、当然ですよね。
しかしミモザは違うんです。「あら、隠し子の噂ねえ? おもしろいじゃない? 徹底的に叩き潰しちゃえば?」と、分娩直後とは思えないほど強気。「産後ハイってやつですか? アドレナリン上昇中?」と問うと、「出産は壮大なクライマックスだから、今なら魔王を倒せそうだわ」なんて笑ってる。あなた、その調子で体力大丈夫?
一方で、ルーファス様は熱が引いたとはいえ、まだ顔色が青白い。「こんな噂、放っておけば自然に消えてくれないだろうか…」と弱気。でも残念ながら、一度広まったゴシップは皇太子の大宣伝よりタチが悪い。じわじわ広がって、ひそひそ囁かれ続けるというのが王道パターンです。
「公爵閣下がマイペースに寝込んでるうちに‘謎の愛人と子どもあり’なんて物語がでっち上げられたら大問題ですよ!」とわたしが詰め寄ると、ルーファス様は「ああ、わかってる。だけど…あああ、また頭がぐらついて…」とよれよれ。嗚呼、早く本調子に戻ってください! 本当に放置すると架空の母子が百組くらい生まれかねませんからね!
とはいえ、“隠し子騒動”に構ってばかりもいられません。実はディオンから、「街の方でちょっと不穏な動きがある。子どもの行方不明が続いたりしてるらしい」と、もっと深刻そうな話が飛び込んできました。こっちは笑い事じゃありません。
「魔力で捜索を手伝えないかな?」とわたしは問いましたが、ディオン本人は「正直、まだ怖いんだ」と渋い表情。彼の魔力は扱いによっては暴れるらしいので、ここぞという時まで温存したいらしいのです。うーん、でも子どもの安全がかかってるとなると一刻を争う可能性もあるかも…というモヤモヤが拭えません。
そこにカイが合流。「公爵様のボディガードを強化してたら、聞こえてきた噂だけど…どうやら‘公爵様の隠し子は拉致された子どもかもしれない’なんてとんでもない話まであるみたいだ」って、冗談のベクトルがぶっ飛びすぎ! 誘拐された子が勝手に公爵の“血縁”にされたらたまらないわ! もう、誰かツッコミ役を常設してくれませんか?
「要するに、その失踪した子どもを勝手に‘グレンフィールド公爵の隠し子だぞ!’と名乗らせて認知を迫る悪党がいるかもってことでしょうか? 何この実に安っぽい悪役ムーブ。ほんとにやる人いるんだ…」と、わたしは頭痛をこらえつつ吐き捨てます。正直、想像以上にゲスいわ! そこまでして公爵家の名前を利用したいなら、もっとマシな方法考えなさいよ、ねえ?
すると後ろからサーシスが油を注いでくる。「いやむしろ、かなり王道の悪者パターンだろ? ‘実子’って言えば金目当ての連中が飛びつくし、それこそザ・悪役展開じゃん。セレスティアにとっては格好のざまぁ案件だな!」
「……あのね、わたし別に人を貶めたいわけじゃないの、変なフリしないで!」と一応は抗議しておきますが、内心ちょっとだけ“どんな悪党か見てやろうじゃないの”と血が騒ぐ自分がいるのも確か。
だってわたし、こう見えて“悪役令嬢”扱いされた前世を持ってるんですもの。危ない連中が本格的に仕掛けてくるなら、受けて立つのもアリかも? そのかわり徹底的に返り討ちしてあげますよ!
ともあれ、今のわたしにできることは、まずはルーファス様の体調回復を最優先。次点で噂の出所を探り、可能なら子どもたちの失踪事件に何らかの形で協力すること。
「オレがいるぜ!」と気合を入れるサーシスは、力仕事には頼もしいですが、微妙にズレたテンションが玉にキズ。一方、ロータスは淡々と「よろしければ動きが怪しい貴族家をあぶり出しておきましょう。お嬢様は煽り耐性を整えておいてください」とだけ言い残し、スタスタ退出。明らかに本気モードです。うふふ、いかにも仕掛けてくれそうですね。期待してます!
というわけで、わたしは早速、ルーファス様の寝室へ。ベッドの枕元に座り、「こんな噂、気にする必要ありませんわ。だってわたしがあなたの婚約者なんですから」と大胆に言ってみました。するとルーファス様、真っ赤な顔で「……ごめん、こんな時に何もしてあげられなくて。でも、絶対なんとかするから」と呟くんです。いやいや、あなた今は養生に専念して。敵はわたしとロータス軍団がまず成敗しときますから!
その夜、廊下を歩いていると、また赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて、そこはミモザの部屋。そこだけは別世界のように平和そうで、むしろこっちが癒されちゃう。あの天使ちゃんとご両親には、こんなしょーもない陰謀、絶対近づけさせるもんですか。
「さあ、燃えてきましたわ! 今回は否応なく荒れそうな予感がしますが、どうせやるなら派手に華麗にざまぁしてくださいませ!」なんて、わたし思わず独り言を言ってしまいました。だって実際、自分の婚約者が根も葉もない噂で貶められるなんて、相手が誰であれ胸糞じゃないですか! これは我らがグレンフィールド・ファミリー全員で迎え撃つしかありません。
さあ次はどんな騒ぎを引き起こしてくれるのかしら、モンクシュッドとかいう謎の父娘がやってくる噂まで耳に入ってきてるし、どうやら大波が押し寄せそうな悪寒がビンビンします。けれどご安心あれ。わたしセレスティア、こう見えてめちゃくちゃしぶといんですから! よそ様の陰謀計画? 大いに結構、すべて踏み台にしてやろうじゃありませんの。
なんて心に決めたところで、わたしは夕食がまだだったことを思い出し、激しくお腹が鳴りました。人生の大勝負も大事だけど、まずは腹ごしらえよね。というわけで、ロータスにお願いしてちょっと贅沢なディナーにありつくとしましょうか。戦いにはエネルギーが必要ですもの。さーて、次こそ腹いっぱい食べて、覚悟万端で挑みますわよ!
――そう、わたしたちのざまぁ上等・波乱万丈ロードは、この先さらに加速していくのですから!




