疑惑の来訪者と愛の誓い1
ルーファス様が特務から戻られたのは、何やら緊迫感ただよう深夜でした。わたくし、ド派手なパジャマ(※ただしフリルてんこ盛り)で寝落ち直前だったのですが、玄関ホールから「ただいま…げほっ」という力ない声が聞こえてギョッと飛び起きましたのよ。
あれですか、帰還早々に風邪でも召された? と慌てて駆け寄ると、ルーファス様のお顔が真っ赤というか紫がかっているではありませんか。ぜったいもう平気じゃない表情!
「ななな何ごとですの?」と叫んだわたくしに、ロータスが超クールな面持ちで「どうやら過労と発熱が同時にきた模様です」とさらり。いやそんな淡々と報告しないで! どうやっても一大事でしょう。
──というわけで、急いで寝室へお連れし、枕元に氷水やらお薬やら大行列。まるで救命ドラマの大騒ぎでした。おまけに母公爵夫人まで混乱のあまり「とりあえず甘酒!」とか微妙に噛み合わない対策を提案するものですから、もうカオス極まりない。
「すぐに落ち着くから平気」ルーファス様はそう仰るけれど、汗でビッショリ、声もしゃがれ放題。聞いてるこっちが不安倍増ですよ! このままだとマジで救急馬車(あるのか知りませんけど)を呼ばなきゃいけないレベルじゃありません?
結局わたくしが付きっきりで看病することになり、一晩中おでこに冷たいタオルを取り替え続ける羽目に。途中、ドアの隙間からシャルロットが「何か要るものある?」って覗きに来てくれたのですが、これはもう“恋人発熱あるある”の忙しさで、それどころじゃございません。
しかし妙なものですね。夜通し看病しているうち、ルーファス様の寝言をちょいちょい耳にしたのですけど、「セレスティア…なにして…あぶない…フッ」とか言ってまして。まさか夢の中でわたくしが大暴れしているんですか? そりゃちょっとショックですわよ。自覚あるけど!
そんなこんなで迎えた朝。冷や汗まみれだったルーファス様が、ケロッとしたお顔で「おはよう、心配かけたね」って…どの口で仰るのか! こっちの目の下にはクマが大行列よ!
「もう少し体をいたわってくださらないと困ります。わたくしだって眠いんですから!」とつい毒舌が漏れ出すと、「ははっ、セレスティアが寝不足のときはいつも目がランランして逆に怖いんだよね」なんて笑う。むむむ、病み上がりのわりに余裕ですね。じゃあ昨夜の地獄絵図は誰のせいだと?
ともあれ、ルーファス様の熱はほぼ下がり、少し体を動かしてみようということになりました。その矢先に「なにやらミモザが産気づきそう」という話をシャルロットから聞かされ、一気に屋敷中がバタバタモードに突入です。
「ええっ、このタイミングで出産…? 」「なんだか慌ただしくなりそうですね」
そこへ耳ざとく聞きつけたカイが、「おれが馬車出してやるから、落ち着いたら声かけろよ」と手配を買って出てくれたけれど、本人が真っ青な顔で「出産て、どうすりゃいいんだ…?」とテンパっている始末。わたくしも詳しいことは知らないですけど、男衆がオロオロするのはお約束みたいなものなんですよね。この際楽しむしかありませんわ。
しかし、わたくしの頭の片隅には「子どもかあ…」というモヤモヤがじわり。いや別に今すぐどうとかではなく、「いつかは欲しいのかしら?」って考えると、心臓がちょっとドキドキするんです。これ、恋のドキドキと同型なのか、それとも別の恐怖か…? 前世の知識? よく分からないけど、心が不思議な揺れ方をしています。
あれほど“悪役令嬢”として無敵気取りだったのに、こういう想定外のライフイベントには明らかに弱いなんて……ちょっと悔しい。
その不安そうな様子を察知したのか、リリアが「セレスティア、余計なこと考えて眉間にシワ寄せると老け込むわよ?」と容赦ないツッコミをくれました。ありがたいけど痛い! 本人いわく、「その分、わたし達が賢くサポートするから安心して」とニヤリ。まあリリアは頭脳派なだけあって頼もしいですわね。
シャルロットも「焦らないで大丈夫。いつかの必殺お嬢ムーブで世界を引っ繰り返しちゃえばいいじゃない」とさらり。あなた、わたくしを完全に“何でもぶち壊す役”扱いしてますわね? ……まあ否定できませんが。
そして翌朝。ルーファス様がほぼ復調されたということで、庭園に出て少し体を慣らす運動をなさることに。わたくしも付き添いがてら、「大丈夫ですの?」なんて口を出しまくりです。
「まだちょっとだけフラつくけど、君が側にいてくれるから大丈夫」
この人、本当に病み上がりかしら? さらっと甘い台詞が出てくるあたり、逆に病んでる疑惑まで浮上する勢い。思わず「調子いいですね?」と訊けば、「ええ、セレスティアの看病が完璧だったからね。おかげで一日分をとりもどしたいくらいだ」などとさらっと返され、こちとら動悸が止まりませんよ。きゅんではなく“吐血もの”な意味で。
そんなイチャイチャ(?)に「ふたりとも背後をお忘れなく」と声をかけるのがロータス。知らぬ間にすぐ近くに立ってました。さすが執事、忍者スキルに磨きがかかってます。
「これからお子様の話題も増えましょうし、屋敷の治安や整備も強化しておきます。ご安心を」
「いや、だからまだ子どもの話は…」
わたくしが慌てる横で、ルーファス様が意地悪い笑みを浮かべてちらり。「ああ、いつかは欲しいよな?」とか言うもんだから、なんかもう勝手に盛り上がってないでくださいませ! わたくしの鼓動がまた忙しくなります。ほんと、今は考えるだけで手一杯なんですのよ。
そのとき、ちょうど門番が駆け込んできて「ミモザ様から連絡がありました! そろそろ…!」と上ずった声をあげました。ついにきましたわね、出産カウントダウン。
「では、わたくしたちも急ぎましょう!」
気がつけばわたくしもルーファス様もカイもリリアも、乗り合い馬車へ突撃スタンバイ。一気に大行軍のような勢いです。わたくし、正直まだ寝不足でフラフラなのに、スリル満点な予感がしてちょっと血が騒いじゃうんですよね。
「セレスティア、顔が半分眠そうなんだけど半分笑ってるよ」
「……嗚呼、これがジェットコースター人生というやつですかしら」
そんなわけで、今もわたくしの胸の中では「子どもってどんな存在なの?」というモヤモヤとワクワクがないまぜになっております。一方で、ルーファス様はすっかり復活されて絶好調、そしてミモザ出産によりまさに人生のデカい転機を迎える予景。
でもまあ、結論から言えば、どんなに生活が揺れようが、わたくしはこの“悪役令嬢ライフ”を楽しみ尽くすだけ。悩むこともあるでしょうけど、最終的には「ほーら、全部ひっくり返してやったわ!」とざまぁ笑うのがモットーですもの。
さあ、これからが本腰ですね。お腹を抱えながら力みそうなミモザと、その周囲でドタバタする面々。そしてわたくしの“未来への思い”がどう揺れ動くか、まだまだ先は長そう!
でも、マジメな話、ルーファス様には無茶をしないでいただきたい。次にいきなり倒れでもしたら、わたくし絶対にショックで叫んでしまいますわよ? そうなったらまた夜通し看病で、さらに目の下クマが増設される――って、それはご勘弁願いたいですからね!
……というわけで、皆さまもしっかりシートベルトをお締めあそばせ。これから先、わたくしたちの周りは更なる急上昇と急降下、めまぐるしい人間模様が大展開する気がひしひしといたします。誰がどこで爆弾を投下してくるやら、目が離せませんわよ? “悪役令嬢の底力”、思う存分見せつけて差し上げますから!




