仮初めの婚礼と本当の想い14
帰りの馬車の中、わたくしは興奮冷めやらぬまま、ルーファス様とひそひそ悪巧み会議を始めましたの。「いやあ、良いざまぁ劇でしたわねえ。あの皇太子殿下の眉間のシワ、見事でしたこと!」と盛大に笑い飛ばせば、ルーファス様も「あれは僕が夢見がちな病弱公爵だと信じて疑わない方々への最高のお薬になったんじゃないかな」と微笑を返してくださる。いやもう、二人とも揃いも揃って性格が悪い? でも仕方ないじゃありません、向こうがケンカを売ってきたんですもの。こちらも遠慮はしませんわ!
馬車を降りて屋敷に戻ると、執事のロランがやけに浮かれ顔で出迎えてくれるではありませんか。いったい何があったのかと尋ねたら「本日はこちらでささやかな祝賀会が催される予定でございます。公爵夫妻がお帰り次第スタートという段取りに、と」とのこと。あらあら、わたくしたちが勝手にお祝いムードで盛り上がっているように見えて、実は屋敷でも同じ匂いが立ちこめていたなんて。さすがグレンフィールド家、阿吽の呼吸でお祭りをセットしてくれるんですね。
早速メインホールへ案内されると、既に待ち構えていたグレンフィールド公爵夫妻が「お帰りなさーい」と手を振りまくり。ほら、気品ある公爵夫妻なんですから、もう少ししとやかに――と突っ込みたいところですが、今日ばかりは笑って見逃すことに。わたくしも思わず笑顔になってしまうほど、素敵なサプライズではございませんこと?
テーブルにはシャンパン(らしき高級飲料)がずらり。大皿には色鮮やかなオードブルが並び、奥では使用人たちが「おめでとうございます」と拍手までしてくれる。どうやら“名実ともに”夫婦になった記念のお膳立てを、皆さんが密かに計画してくださったようですわ。何というチームワーク! その瞬間、ルーファス様がわたくしに耳打ちする。「さあ、僕らも思い切り楽しもう。どうせ皇太子殿下に邪魔されたとしても、あとでまとめてざまぁ返しすればいいだけだろう?」――って、もうほんと最低最強の発言。わたくし、そういうとこ大好き!
そのうちクイナが恥ずかしそうに小走りでやって来て、「セレスティア様、わたしもお手伝いに加わりたいんですけど、何かできることはありますか?」と。可愛いじゃありませんの。余計な遠慮は要りませんわ、何なら一緒に踊ってくださってもいいのよと言えば、クイナちゃんたら無意識に背中を丸めて「ええっ、そ、そんな大役…!」と真っ赤に。でもその様子を遠目で見ていた母公爵夫人が「途中で踊り子(?)が一人増えたくらいのほうが賑やかでいいじゃない?」と大笑いしていて、クイナをも巻き込むパーティーがますます煌びやかになりそうです。
しかし、いいこと尽くめってわけにもいかないのが世の常。ほんの少しだけ、わたくしの胸の中にチクリとした不安があるのです。それというのも、ディオンの魔力のこと。先日まで落ち着いているかに思われた体調が、どうにもまた不穏な兆しを見せているという噂を耳にしました。先ほどまでの皇太子殿下とのバトルで「勝ったぜイエーイ!」とハイになっていた自分を戒めるように、わたくしは頭を冷やす努力を始めます。……とはいえ、一度上がり切ったテンションは急には下がりませんわね。こんなときこそ、切り替えが大事。祝宴が終わったらゆっくりディオンとお話しして、何か力になれることを探してみましょう。
それから、雄叫びを上げるほどに盛り上がってる(主に母公爵夫人とか)のを横目で見つつ、ルーファス様の腕をポンポンと叩いて耳打ち。「ところで、あの救出劇の話が広まったら、皇太子殿下はさらにうさんくさがりそうですわね。下手すりゃ“病弱どころか化け物並みに強い”なんて噂が追加されるかも?」と囁けば、ルーファス様は頬をかすかに引きつらせ、肩をすくめる。「ま、それならそれで僕の株が上がればいいけど。変に持ち上げられると逆にやりにくいんだけどね」――そんな大人なコメントを返してくださる辺り、本当に余裕がおありになるのね。正直、わたくしはあちこちで面倒事が起きるほど燃えるタイプなので、ちょっと物足りないかも?
それでも「夫婦そろって陰謀に立ち向かうなんざ最高じゃありませんか」と超ポジティブに突き進むわたくしに、ルーファス様は呆れ顔ながら「仕方ない。僕も乗るとするか」と乗っかってきてくださる。この絶妙な温度差こそ、我がグレンフィールド夫婦の真骨頂。ああもう、なんて楽しいんでしょう。
するとタイミングを計ったかのように、父公爵が乾杯の音頭をとってくださいました。グラスを掲げ「では、みなさん、我が息子とセレスティアの輝かしき未来と――ついでにあの皇太子殿下の悔しがる顔に乾杯!」と叫ぶ。使用人たちは一瞬「えっ」と硬直しましたが、一拍置いてから爆笑の渦。そりゃそうです、王家にケンカ売る発言をこんなに楽しげにぶちかますなんて、普通じゃあり得ませんもの。でもこれがグレンフィールド流なのですわ。わたくしも声を上げて笑いながらグラスを合わせました。
こうして取りあえず盛大に盛り上がる祝宴。その最中、母公爵夫人が「あなたたちの本当の結婚式、まだ途中でしょう?」とちょっと意地悪そうに目を細めて聞いてきます。わたくしはルーファス様のほうをチラリと見て「もちろん、これからもっと派手にやるつもりです。ええ、誰もが嫉妬で暴れ出すくらいゴージャスに。殿下がむしろ落ち込んでしまうレベルの大騒ぎを」と宣言してみせました。するとルーファス様まで「そのときはぜひ殿下にも最前列でご覧いただきたいね。今度は“虚弱アピール”じゃなく“愛の筋肉誇示ショー”あたりを盛り込むとしようか」と返してくれて、周り中が「わはははは!」の大合唱。いやはや、休まる隙もありません。
そんなこんなで夜も更けていく頃、クイナが「あの、セレスティア様、いっぱい幸せを分けてくださってありがとうございます」と上気した顔で言いに来てくれました。わたくしは目を丸くしつつ微笑んで「こちらこそ、クイナがいてくれると屋敷がいっそう賑やかになるし、お礼を言うのはわたくしの方よ?」と返すと、クイナは勢い余ってぺこりと深く頭を下げてから小走りでキッチンへ。あの子のまっすぐさも、これから先の大きな支えになってくれそうな予感がして、わたくしは胸がちょっと熱くなりました。
そう、わたくしたちはまだ物語の途中。皇太子殿下と皇女ソレーユの動きだって、ここで終わるはずがない。ディオンの件も放ってはおけませんし、学友たちも何か手伝ってくれるはず。大丈夫、次の陰謀がどんな形で襲ってくるにせよ、わたくしたち夫婦はよほどのことでなければ折れたりしない。むしろ燃え上がるだけですもの!
「さあ、皆さん、まだまだ夜は長いわよ! “病弱じゃない”公爵と“悪役令嬢”が高らかに謳い踊る祝宴、全力で楽しみなさいまし!」
この一声に賛同するかのように、ドッと湧き上がる拍手と歓声。さあ、ここからが本当の“ジェットコースター”の始まりですわ。めくるめく陰謀も大好物。すべて、わたくしの“ざまぁ”と愛でねじ伏せてみせますから!




