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仮初めの婚礼と本当の想い12

「もー、何だか世界が突然パレードみたいにカラフルになりましたわね」


朝、庭で軽くストレッチ(という名の優雅なお散歩)をしていたら、シャルロットが小走りに近寄って、笑いをこらえながらおどけた調子で言うのです。

「公爵家じゅう、みーんな浮かれてるって噂よ。救助劇のヒーローであるルーファス様が戻ってきたんだから当然かしら」

わたくしは「ま、でしょうね」とゆったり応じつつ、内心ではちょっとソワソワしております。以前より一層注目されるルーファス様と、わたくし自身も否応なく表舞台に引きずり出されるんじゃないかって予感。なんだかんだ言いつつ、こういう“舞台”は嫌いじゃありません。でもわくわく半分、ドキドキ半分、といったところでしょうか。


そんな落ち着かない気持ちを紛らわせるように、わたくしはクイナと一緒に学園入学の準備を着々と進めることにしました。彼女は「こんなに立派な学園に通うなんて畏れ多いです!」と謙虚に震えているけれど、実際のところ彼女の目はきらっきら。「お勉強サイコー!」という勢いで課題に取り組む姿が微笑ましいのなんの。ディオンがちょくちょく顔を出しては「ここはこう慣れると呪文の扱いが楽だよ」などと助言しているんですから、これはもう数か月後には天才っぷりを発揮してしまうのではと期待度MAXです。


が、そうしてほのぼのしている中にも、やはり皇太子殿下サイドからの“探り”が本格化し始めたようで。ランチを終えて応接間で一息ついているとき、リリアが報告してくれました。

「セレスティア、どうやら皇太子殿下がわざとらしく“公爵様の体調を労わりたい”とか言い出して、王宮で何か開くつもりみたいよ」

「ほほう。相変わらず回りくどいですね。わたくしの予想通り、何かしらの公式行事っぽい場を設けて『この際、公爵様のご入院を検討しては?』みたいな話をぶち上げる気がしますわ」

「うん。たぶん“ルーファス皇室診断計画”が進行してる。まあ名目は『健康を祈念するパーティー』だろうけど、要は狙い撃ちだよね」

「はあ、もう可愛らしいとしか言えませんわ。“ご健康なはずがないでしょう”と騒ぐなら、証拠を押し付けてやるだけですわね」


するとそこへ、ちょうどルーファス様が入ってきました。先ほどまで執事ロランと何か書類を確認していたらしく、少しだけ眉間を寄せております。

「やれやれ、どうやら真偽を確かめたい連中がうずうずしてるらしい。『ひとまず診察を受けてはどうか』なんて書状が届いたよ。しれっと命令形じゃないだけ、まだ礼儀はわきまえてくれているようだ」

「診察ねぇ。表向きは“善意の提案”なんでしょうけど、裏では『怪しい何かがあるに違いない!』って騒ぐはずですわよ。面倒くさいことこの上なしですわね」

「面倒だけど、放置すればこっちが逆に疑われるからな。逃げずに受けてやるか……いや、でも!」

「でも、何か?」

「こういうときこそ、セレスティアの“ざまぁ力”を借りたいんだ」

「はぁ……“ざまぁ力”とは我ながら妙な呼び名ですけれど、仕方ありませんわね。我が夫(予定)の危機ですもの」


わたくしが涼しい顔でそう告げたら、ルーファス様は「助かる」とぼそり。やだ、ちょっと嬉しそうじゃありません? ……もう、何なのその期待値。隣でリリアが「観客としては最高の展開」とニヤニヤしてるのをチラリと睨みつつ、わたくしは作戦を脳内シミュレーションです。


まずは診察を受けるなら受けるで、一気に真実を突きつけるのが最善でしょう。巷で「虚弱じゃないのに虚弱を偽ってる!」と叫ばれても面倒ですが、「本当は病弱なのに強がってさらにナニカを隠してる!」と騒がれるのもまた厄介。だったら、潔く結果をバンと見せて「どこも悪くない方が問題でも?」くらいの態度を取れば、ぐうの音も出なくなるはず。ああ、想像しただけで「はい、論破!」って高笑いしたくなりますわ。


とそこへ、唐突にシャルロットが飛び込んできました。どうやら門前に皇太子殿下の使者が来ているとのこと。早い! あちらも余程のやる気ですね。シャルロット曰く「皇太子殿下から『どうか公爵様のお加減を直接拝見したい』という熱い言葉が」、との伝言だとか。だから何ですか、それ。

「結婚直前のご夫婦を無理やり王宮に引きずり出そうって腹積もりが見え見えね。えげつないわ、あちらさん」

シャルロットが鼻を鳴らすのも無理はなし。


しかし、わたくしは。「それなら逆に好都合ですわ」と大きくうなずいたのです。

「殿下がそうお望みなら、きっちり応じましょう。わたくしとルーファス様で正式にお出ましして、ばっさり説明して差し上げればいいんですもの。むしろ格好の舞台提供ありがとうございます、ですわ」

「強気だな、セレスティア」

「もちろんですわ! 下手に隠れて追われるより、堂々と待ち構えて叩き返すほうがスカッとするじゃありませんの。ほら、ディオンも最近調子が良くなってきたし、クイナの入学準備も順調。こんなに味方が充実してるいま、ビクビクしてるなんて勿体ないのですわ」

「確かにそうだね。おまけに父母も『息子が病弱扱いされてるなんて笑止』とやる気満々だ」

「あら、公爵夫妻がご参戦なさるなら百人力ですわね。やけに頼もしいご両親だわ」


ルーファス様が苦笑するその横で、リリアとシャルロットは「待ってましたー!」と盛り上がってます。わたくしが口にする“ざまぁ”って言葉に妙な胸躍らせ方するの、どうにかならないのかしら。いやまあ、わたくしも大好物なので人のことは言えませんが。


こうして急遽、わたくしたちは“お望みどおり王宮へGO大作戦”に踏み切ることに。昼下がりには準備を進め、夜には簡単な打ち合わせ。そして翌朝──見事な快晴の下、早速王宮へ向かう馬車がスタンバイしておりました。

玄関先で「行ってらっしゃいませ、奥様!」とクイナが手を振ってくれるのが嬉しいじゃありませんか。ディオンも「王宮で何かあっても僕に連絡くださいね」とさりげなくフォロー宣言。公爵夫妻は「本来なら私たちも一緒に行きたいところだけど、パーティーの招待が正式に来てから乗り込みましょう」とタイミングをうかがっている模様。うふふ、ならば最初の花火くらいはわたくしとルーファス様が華麗に散らしてみせましょう。


きっとあちらさんは待ち構えていますわ、わたくしの刺激的な“ざまぁ返し”を。嫌味たっぷりに「公爵様の容態が心配ですので♪」なんて迫ってくるなら言ってやりましょう。「その心配が笑い話になる準備はよろしいですか?」って。想像するだけで胸熱どころか、もはや滾ってきます! さあ、王宮という名のコロシアム……いざ、開幕ですわ。


ルーファス様を車内からちらりと覗くと、少し緊張した面持ち。でもその瞳の奥には「僕も負ける気はない」という決意が覗いていました。いいですね、そういう負けず魂。わたくしだってバッチリ腹をくくっております。


──次なるステージは王宮。そこに渦巻く陰謀やら、皇太子殿下の仕掛けやら、どんと来いですわ。一瞬たりとも油断ならないし、気をつけないと足元を掬われるかもしれない。それでもわたくしはこのスリルを、心の底から楽しむと決めたのです。悪役令嬢たる者、華麗に逆転してこそ真骨頂。それを今こそ証明してみせましょう!


どんな愛憎劇が待っていようが、わたくしたちを打ちのめすなんて不可能ですわよ、皇太子殿下? むしろどう料理なさるか見せてもらいましょう。大灼熱のざまぁ劇、派手にお見舞いして差し上げますからね!


──さあ、馬車の揺れですら心地よいBGM。次回、王宮の扉をくぐった瞬間から始まる新章にご一緒くださいませ。わたくしとルーファス様が手ぐすね引いてお待ちしておりますわ。さて、最初に悲鳴を上げるのはどなたになるのかしら? ワクワクのループはまだまだ終わりそうにありませんわよ!

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