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仮初めの婚礼と本当の想い11

「いやもう何なんですの、その“奥様の旦那様は本当はムキムキだった疑惑”ってタイトルつきの噂話は!」


朝イチでシャルロットが飛び込んできて、そう叫んだ瞬間、わたくしは思わず紅茶を吹きかけました。庭先のテーブルは半ば惨事。何やら耳慣れないワードだらけなのですが……まさかその“ムキムキ”って、わたくしの旦那様(予定)のルーファス様のことでしょうか?

彼なら今まさに領地視察中で、まだ戻ってきてもいないはず。わたくしが咳き込みつつ問いただすと、シャルロットが早口でまくしたてます。


「だって川に転落した貴族の子息を、ザバーッと迷いなく救出したらしいのよ! しかも普通の人ならためらうような流れの急な川を、馬ごと突っ込んで引き上げたんですって! なにそれ、バトルものの主人公かしら?」

「嘘でしょう? あの“病弱公爵”と言われていたルーファス様が、そんな豪快な真似を……」

「だからみんな大混乱よ! 『えっ、でも公爵様は虚弱キャラじゃないの?』って。しかも現場では皇太子殿下の側近がバッチリ目撃したそうだし、速攻で王宮中に広められそうな流れってわけ」

「はあ~。確かにこれはエキサイティングな火種になりそうですわね」


わたくしが息を吐くと、そこへちょうどクイナが部屋の隅で平伏しかけの勢いで走り寄ってきました。彼女はまだ慣れない侍女もどき姿で、両目を輝かせながら声を弾ませます。


「セレスティア様、大変です! ルーファス様がご無事にお戻りになられています! それで……すごくご立派なお姿でした!」

「ふふ、目撃隊がここにもいたわね」

「だって、帰り際に馬から飛び降りる姿が……こう、まるで英雄譚の挿絵かと思うくらいカッコイイと言いますか!」

「はいはい、わたくしの旦那様を褒めちぎっていただけるのは大歓迎ですわ」


でも内心はちょっと複雑。わたくしがまだ知らない、彼の凄まじい力……? 彼自身があえて伏せていたものが炙り出されて、今まさに王宮で面倒な噂へと変換中だなんて──スリル満点じゃありませんこと。思わずわくわくしながら扉のほうに視線を向けていると、当のルーファス様が姿を見せました。衣服は少々濡れているものの、息ひとつ乱さず余裕の微笑みを浮かべています。


「ただいま、セレスティア。ちょっとしたハプニングだったが、怪我人は出なくて何よりだったよ」

「……わ、わたくしの耳には、ハプニングどころかすっかり“豪快救出”の武勇伝として届いておりますわよ?」

「はは、あれはもう少し静かに対処できればよかったんだけど……瞬間的に飛び込んでしまったからね」

「仕方ありませんわ。人命救助はタイミングが命ですもの」

「ありがとう、そう言ってもらえると救われる」


記念撮影したいくらい爽やかな笑顔。うっかり女子中学生のように「キャー素敵!」と叫ぶところでしたわ。ですが今は一旦落ち着いて状況把握に専念。そう言えば、皇太子殿下サイドの動向がどう絡むのかが気がかりです。ルーファス様も重々承知のようで、少し表情を引き締めて語りました。


「実は救助しているところを、運悪く側近に見られてしまった。すぐに皇太子殿下へ報告が行くと思う。噂が広まれば当然“病弱だったはずなのに矛盾している”と突っ込まれそうだよ」

「ええ、まあ、もう既にわたくしの耳にも秘密じゃない感じですけど?」

「だろうね。ごめん、せっかくの落ち着いた時期に余計な火種を連れて帰ってきた」

「謝る必要はありませんわ。むしろ面白そう! 再びあちらさんに挑発されるのが目に見えますけれど、わたくしはこういうバチバチ展開、大好きですの」


そう言うやいなや、「その言葉待ってました!」と入ってきたのはリリア。彼女はいつの間にか情報収集を終えて、手にメモを持ったままにやりと笑っております。


「セレスティア、今回の件、皇太子派は確実に取り上げてくるでしょうね。『あの公爵は何か隠している』とか騒ぐはず。ま、こちらも対策を練らないと」

「もちろん、そのつもりよ。具体的にはどんな攻め手が予想されるの?」

「例えば“虚弱のふりをして、王家を欺いている罪”とかね。噂が先走っているだけなのに言いがかりで突っつく筋書きが見えるわ。下手すると『では診断書を出せ』なんて迫ってくるかもしれない」

「あー、医者もグルだとか好き勝手言うんでしょうね、きっと。じゃあこっちも一枚噛みましょうか? “無駄に動揺する皇太子殿下こそ怪しい”なんて真顔でぶち上げたりして」


わたくしが悪役令嬢バリの笑みを浮かべると、ルーファス様が苦笑しつつ首を振りました。


「さすがにそこまでやると王宮全体が荒れ果てそうだ。まあ落としどころを見極めないと、どちらの首が飛ぶかわからないよ」

「ええ、もちろん了解しておりますわ。ほどほどにね、ほどほどに……」


そうほくそ笑んでいるところへ、次にひょこっと現れたのがディオン。最近は体調が悪そうだったけれど、今日は少し血色が良いみたい。おまけにクイナを連れてなにやらホクホクの顔をしています。


「セレスティア様、クイナを学園に入れる手続きって言ってましたよね。ぼくも協力させてください。魔力を扱う科目なら多少は助言できると思う」

「あら、それは頼もしい! でも身体は大丈夫なの?」

「まだ万全じゃないけど……正直、誰かの役に立てるのが嬉しいんです。最近ずっと引きこもり気味だったから」


わたくしは心からディオンの成長に拍手を送りたい気分。そんな彼がクイナの頭をぽんぽんと叩くと、クイナも照れたように笑っています。これは微笑ましいコンビが誕生しそうな予感。公爵家、やたら人材豊富じゃありません?


「そういうわけで、わたくしはクイナの入学準備に精を出しますわ。で、ルーファス様は今後の擬似騒動対策、よろしくお願いします」

「了解。早めに手を打たないと、また皇太子や皇女殿下の嫌がらせが激化するだろうし」


ルーファス様がそう言うのももっとも。彼らからしたら、“病弱で名ばかりの公爵”がゴリゴリ体力ありそうだとなったら面白くないでしょうから。わたくしとしては大歓迎ですけど? お互い牽制し合うルーファス様と皇太子殿下……うふふ、眺めるだけで胸が高鳴りますわ。“どっちに転んでも面白い”という究極の娯楽、最高すぎません?


その後、さっそく王宮から「そのような一大事ならば、どこかで改めて経緯をお聞かせ願いたい」と催促が届いたそうです。わたくし、一瞬で察しましたもの。「さあさあ罠にかかれ」と言わんばかりの裏レター。実に香ばしい香りがプンプンしますわ。こんな時こそシャルロットやリリアに協力してもらって、派手な逆転劇を繰り広げるべきでしょうね。どんな爆弾を落としてやろうかと想像するだけで、小娘のようにわくわくが止まりません。


そんなわたくしの物騒なテンションを察したのか、公爵夫妻もご登場。ルーファス様のご両親は事態をざっと聞いたうえで、わりと落ち着いております。


「やはりというか、王家は早速動いてきたようね。まあでも、わが息子が立派に人助けをしたのだもの、胸を張ればいいわ。セレスティアさんも、あまり過激になりすぎないよう注意してちょうだいね」

「もちろんです、公爵夫人。わたくしもほどほどにざまぁさせていただきますわ」

「ふふ、ほどほどにね」


……とりあえず容認してくださるあたりが素敵すぎます。さすがに長年公爵家を切り盛りした方々は肝が据わっているというか、適度なスリルをちゃんと楽しむ余裕があるんでしょう。これで安心して“王宮バトル”に臨めますわ!


こうして公爵家の温かな空気と、“ざまぁ”へのファイティングスピリットが絶妙に混ざり合ったまま、一日が過ぎました。ルーファス様はことさら慎重な顔つきになっておられたけれど、わたくしにはわかります。彼の瞳の奥で静かに燃える闘志を。だって、“本気で誰かを守りたい”と思ったときのルーファス様は、まるで勇者じみたオーラを放つんですもの。


ここから先、皇太子殿下とその妹君がどんな嫌がらせを仕掛けてこようと、わたくしたちは絶対に負けませんわ。むしろ喜んでネタをいただく所存。さらに今回の救助劇によって、ルーファス様が“仮初め公爵”なんかじゃないって、王宮中が唱えるようになるのも時間の問題でしょう。ならばどうする、皇太子殿下? ご自慢の詭計で再度わたくしたちを追い詰めるおつもり? どうぞ遠慮なく、返り討ちにして差し上げますから。


──こうして、“病弱公爵の正体バレ?”事件は予想どおり爆弾へと変貌し、わたくしとルーファス様のもとに着弾しようとしています。でもこちとら痛くも痒くもないどころか、むしろ大歓迎。ディオンが弱るどころか少しずつ前を向きはじめ、クイナの新しい可能性が開け、わたくしたち夫婦(仮)は連携バッチリ。この勢い、止まるわけありませんわね。


次はどんなドラマチックな陰謀が飛んでくるのかしら? 裏をかいて皇太子殿下か、あるいは皇女殿下のほうか──どちらにせよ、心地よい戦慄を与えてくださると嬉しい限り。悪役令嬢としての見せ場を逃す手はございませんもの!

それでは皆さま、ご一緒にもう一度ワクワクテーブルにシートベルト着用なさいませ。準備万端、わたくしはいつでも上等にざまぁ返しを披露できますから。次回はさらなる火花が散りそうな予感ですわよ。どうぞ楽しみにしていてくださいませ!

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