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仮初めの婚礼と本当の想い5

朝っぱらから屋敷中がざわついていて、いやがおうにも胸がざわざわしますわ。いえ、わたくしが別段何かやらかしたわけではありませんのに(少なくとも今朝はまだ!)。誰もが噂する「ルーファス様って本当に病弱なの?」の真偽について、使用人からご近所友達に至るまで大騒ぎでしてよ。こそこそ遠巻きにこちらを眺めては「あの公爵様、意外と筋肉あるんじゃ……?」なーんてひそひそ。皆さま、何がそこまで気になるのかしらね?


 しかもこの噂、どうやら王都の上流階級にも広がり始めた模様。つい先ほどシャルロットから手紙が届き、「セレスティア、あんたの旦那様が妖精のごとく華奢って話と、実は野獣並みにたくましい説が同時に出回ってるのよ! どっちが本当なの!?」と興奮気味に書かれておりまして。そもそもその両極端なイメージは誰が流しているんですの? もしかして、わたくしの知らないところでファンクラブでも発足したのかしら。見当違いもいいところでしょうけれど。


 そんなわいわい大混乱のさなか、グレンフィールド公爵夫妻は貴賓室であれこれ問い合わせに対応中とか。表向きには「うちの息子は病弱(笑)ですけど何か?」と笑い飛ばしているらしいものの、お二人の眉間に深~いシワが寄っているとの噂。ほらまた噂かぶせですが、使用人が裏話をこっそり漏らすところによると、「どうやら皇太子殿下かその取り巻きが裏で何か画策しているんじゃ?」という意見が強いそうです。なるほど、クロード皇太子が動いているとすれば、ただの好奇心じゃないのは確か。じわじわと公爵家を“試し”てきている気配がいたしますわね。


 わたくしもこのまま指をくわえて眺めているわけにはいきません。ルーファス本人は「まあ放っておけ」と肩をすくめてクールぶっておりますが、そんな態度が余計に火種を呼ぶのですわよ! だからといって彼を無理やり“力自慢”ショーに引きずり出すわけにもいかないですし。かといって病弱な姿を公開した瞬間、「ほら本当だった」と調子に乗られるのは腹立たしい。ああもう、どう転んでも面倒くさいですわね! でも面倒くさい陰謀こそ、悪役令嬢が華麗にざまぁしてこそ輝くもの。これは腕の見せどころというわけですわ。


 とはいえまずは身近なところから対策を固めようと、わたくしは朝のうちにリリアを屋敷へ呼びましたの。彼女は平民から成り上がっただけあって情報収集力が素晴らしい。今や「頼れる参謀リリアちゃんの出番!」という感じで、現れた彼女は早速「ごきげんようセレスティア、なんだかまた面白いことになってるみたいね?」と笑う。ですよね、あなたはいつもどこからそんな嗅覚を発揮してくるのやら。


「ところで、その病弱疑惑だけじゃなく、不仲説まで飛び交っているって聞いたんだけど? 本当?」

 ……は? わたくしとルーファスが不仲? いえいえ、確かに仮初め夫婦ではあれど、ここしばらくはあれやこれやでくっついたりドギマギしたり、お世辞にも“不仲”とは呼べない状況でしたわよね? なんなら毎晩の“特訓”で気まずいほど密着しているというのに(恥ずかしいから声を大にしては言わないけれど)。

「そんなの全然あり得ませんわ……っていうか、どこの誰がそんなデマを流したんでしょう?」

 わたくしが膨れっ面になった途端、リリアは不敵な笑みを浮かべるのです。

「やっぱり真偽不明なのね。だったら、私が調べてあげる。最近、宮廷に出入りする噂好きの輩がおるらしくてね。そういう連中は一度捉まえて話を聞くに限るわ」

 さすがリリア、一言も二言も気合が違います。頼もしい限りですわ。こうなったら、根も葉もない噂を広める輩に逆襲して、わたくしらが“最強バカップル(仮)”であることを見せつけてやりませんと!


 さらにバタバタしていると、お昼前にクイナとロラン執事がやって来て、なにやら書類の山を抱えつつ「学園関連の準備を進めたく……」と恐縮そう。いいんですよ、こちらはむしろ大歓迎。でもその山の如き書類は一体何? と覗いてみたら、孤児支援の拡大に伴う手続きと要請書の束。どれも誰かの善意と希望が詰め込まれた尊いもので、読んでいるだけでほんわか幸せな気持ちになりますわ。……なのに、クイナちゃんが遠慮がちに言うのです。

「あの、最近変な人が出入り口を探るみたいで……『公爵家の闇』があるんじゃないかってヒソヒソ噂されていて……」

 公爵家の闇、ですって? ふはは、わたくしが知る限り、ここには甘い新婚(仮)バカ騒ぎと奥様もどきの悪役令嬢くらいしかいませんのに。とにかく、これもまたクロード皇太子サイドの不穏な動きと関係があるのかも。なればますます油断できませんわ。


 ディオンも今日になってまた体調がすぐれないとかで、ルーファスに相談しようと執務室を訪れたそうですが、タイミング悪くすれ違ったらしく、ちょっと不満げに廊下をうろうろ。「どうせ公爵は僕を真剣に心配してるわけじゃない」とか拗ねています。いやいや、彼は決してそんな冷たい男ではないのよ。ほんの少し不器用なだけで。“不器用なのに優しい”って、最強のギャップじゃありませんの? そのギャップをカイやシャルロットが見聞きしたら、きっと「不仲疑惑どころかラブラブじゃない?」と笑い転げるに違いありませんわ。


 そんなこんなで、わたくしは手持ちの仕事を片づけつつ、脳内では“いかにして噂の出所を突き止め、さらに華麗に覆してざまぁするか”をシミュレーション。まずはリリアに裏取りを依頼。並行して、わたくしも園遊会の後処理が落ち着いたシャルロットと連絡を取り、宮廷周辺の動向をキャッチ。あの怖~い皇太子殿下が何をたくらんでいるのか、根こそぎ暴いてやりますの。そうして最終的にはでっかい“ざまぁ花火”を打ち上げ、「嘘を流してた奴、どこのドイツ~?」と大合唱させて差し上げましょう。わくわくしてきましたわ! ……あらいやだ、これこそ悪役令嬢のさが。自覚してるからこそ変えられませんの。


 日も暮れかけたころ、ようやくルーファスと顔を合わせたわたくしは、取り急ぎ噂の件を報告。すると彼は、露骨に眉をひそめつつも「ああ、好きにやればいい」とあっさり容認。真顔で「好きにやればいい」ですって。もうちょっとこう、夫婦間で連携しようという意欲的な態度はないものかしら。いえ、勝手に動いてもいいと言われた方が都合がいいといえばいいんですが——

「でも、クイナちゃんやディオンみたいに、この家にお世話になってる人たちは神経尖らせてるのよ。もうちょっと場を落ち着かせるパフォーマンス、必要じゃありません?」

 そうわたくしが肩をすくめると、ルーファスは珍しくわずかに反論らしきものを見せました。

「……庭園改装が終わったら、何かしようと思ってた。音楽会か晩餐会か、皆が集まれて気分転換できるようなものを。俺にも俺なりの考えはある」

「へえ、意外と気が利くじゃありませんの?」

 わたくしが挑発気味に笑ってみせると、「あんまりからかうなよ」と彼はさらにぶっきらぼうに。はい、そういうところ、わたくし嫌いではありませんの。むしろその“素直じゃない”発言、ぜひ次の大舞台で見返してちょうだいませ。そう、次なる音楽会か何かで、あなたがどんな言葉を吐くのか今から楽しみにしておりますわよ?


 そんな胸キュン(もどき)なやり取りを終えた直後、カイがどこからともなく登場し、「おお、いい雰囲気じゃん。じゃあ今すぐ公開イチャイチャ行事やってください」とニヤニヤ。ほんとにあなたという人は空気より軽やかにひょいと出てきて、遠慮という概念はないのかしら。

「午前中に宣伝しちゃったんだよねー。『今夜あたり、イヴァンローズ夫妻がラブラブパフォーマンス披露するかもよ』って」

「ちょ、誰に勝手なこと言ってるんですのよ!」

 思わず大声をあげれば、カイは笑い転げるばかり。まったく、もう。こうなったら、わたくしの悪役根性であなたの耳を引っ張ってギャフンと言わせてやりたいですわ! でもこんなドタバタ劇ですら、先の“ざまぁ花火”を彩るフラグになり得ると思うと、なんだか止める気になれないのが困りもの。わたくしのこの結婚生活、つくづくジェットコースターですわね。


 さあ、噂と疑惑はどこまで膨れ上がっていくのか。それともわたくしの暗躍が先に成功して根回し完了となるのか。うふふ、分かりませんわ。それに皇太子殿下がどう舵取りを仕掛けてくるのかも未知数。ディオンの具合はますます不安定だけれど、だからこそわたくしが守ってみせるしかありませんもの。


 次回はいよいよわたくしの“裏工作網”が動き出し、誰かさんに痛快ざまぁをお見舞いできるかもしれません。ルーファスとわたくしの仮初め夫婦テク(?)もさらなるアップデートを狙って参りますわ。お楽しみはこれから——皆さま、絶対に見逃すんじゃありませんことよ! いざ開幕、スキャンダルとざまぁのど真ん中へダイブいたしましょう。

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