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仮初めの婚礼と本当の想い4

翌朝、目が覚めてもまぶたが重たいのは、昨晩から延々と問われた「仲睦まじい夫婦演技特訓」のせいでしょうか。しれっと義父母様は「演技じゃなくて本心を見せなさい」と仰っていましたが、そこはそれ、当人同士がまだイチャイチャ初心者(?)なのだから仕方ありませんわ。もっとも、ルーファスと試しに“腕を組む練習”をしてみた瞬間、「うおっ、近い!」と耳まで真っ赤にされて、こちらもズキュンと心臓打ち抜かれるかと思いましたけれど。


 しかし、そんな微妙に跳ねる胸の高鳴りなどおくびにも出せないのがわたくしの矜持。“悪役令嬢”はポーカーフェイスが必須ですもの。とか言いつつ、今朝ダイニングへ向かう廊下でルーファスと並んだだけでも、ミモザとダリアが「わああっ、きゃーッ!」と大騒ぎ。どうやら“仮初め夫婦がついに本気モードか?!”と勝手に盛り上がっているようです。まったく、朝からハイテンションすぎてこちらが恥ずかしくなるではありませんの。


「おいセレスティア、歩調合わせろ。そんな勢いよく突っ走るんじゃない」

「んまあ、あなたがちんたら歩いてるだけですわ。園遊会の準備でスケジュールぎゅう詰めなんですから、少しでも早く食事を済ませないと」

 わざとらしく肩をすくめてみせると、ルーファスは「ああはいはい」とローテンションで返事。くっ、それでも顎の角度が微妙に照れてるように見えるのはズルいですわね。もっとツンツンしていなさいな、変にドキドキさせるのは禁じ手ですわよ?


 ダイニングの扉を開けると、既に義父母様が食事を始めていらっしゃいました。凛々しい義母様に、「おはようございます」と素直に頭を下げるわたくしとルーファス。すると義父様が朝から機関銃トークを発動なさいました。

「おお、今日も連れ立って登場とは。昨夜の“夫婦練習”はどうだったかな? 我々は二人の動向が気になって眠れなかったぞ?」

「嘘でしょう? あなた、いびきかいて寝てたじゃないの」

「まあまあ、実際どうだったか二人の口から聞きたいじゃないか。特にルーファス、恥ずかしがってセレスティアに拒絶されたりしてないか?」

「そ、そんなわけあるかい!」

 ルーファスがぶんぶん首を振ると、義母様がクスクスと笑い、「まだまだ本番まで時間があるものね。今日もたっぷり練習するといいわ」と愉快そうにおっしゃる。わたくしはもう、心の中で叫び声をあげております。いくら義父母様が応援団(?)とはいえ、この突っつき加減はまるでハリセンボン。こちらのライフはとっくにゼロ寸前ですわ!


 ところが食事中に、さらなる追い打ちが。侍女の一人がバタバタ駆け込み、「クロード皇太子が園遊会の日程を知られたらしく、そちらに顔を出されるかもしれません!」と報告ですって? ルーファスはあからさまに顔をしかめ、「何しにくるんだ、あのお方は」と渋面。それへ義父様が呑気に「そりゃあ、新婚さん(仮)を祝福しにくるんじゃないか?」などと茶化しておられる。祝福? あの皇太子が? その言葉だけで、背中を冷たい汗が滑り落ちるのが分かりますわ。どう考えても“祝福”ではなく“監視”または“揚げ足取り”ですもの。


「……いいわ、受けて立ちましょうじゃありませんか。皇太子殿下にジロジロ見られようが、アゲアシとられようが、逆に“ざまぁ見ろ”って思わせて差し上げますとも」

 わたくしがソッと拳を握りしめると、ルーファスが小声で耳打ちしてきます。

「変に挑発して火に油を注ぐなよ? ただでさえ、あっちは俺をマークしてんだ」

「まあ、そこで大人しくしていては悪役令嬢の名が廃りますわ。やるからには派手に演出。あなたも協力なさるでしょう?」

 にたりと笑うと、ルーファスは「はぁ~」と諦め混じりのため息。けれど、その視線にわずかな覚悟が宿っているのをわたくしは見逃しませんでした。いいわ、あなたももう完全にこっちサイド。二人して皇太子に“ちょっとクビを突っ込むと火傷するぞ”と言わんばかりのシーンをみせてやりましょう。


 食事を終えるころ、カイがガラリと扉を開けて登場。いつもながら軽薄そうな笑顔で、「やあ、朝からラブラブしてるって? まさか園遊会でお姫様だっこ披露するんだろうな、悪役令嬢さん?」と冷やかします。

「ええ、あなたが見物料をちゃんと納めてくださるなら、どんな演目でもご覧にいれますわ。金貨一枚から受け付けますけど?」

「取り立て強烈すぎだろ。あはは、でもまあその強かさがらしいよな。ざまぁ用意してるお前は、見てて飽きないよ」

 ふふ、買いかぶりありがとう。そうやって煽っておきながら、いざとなったらさっと手を貸してくれるのがカイのいいところ。なんだかんだで幼馴染の連携はバッチリなのです。もちろん、優先すべきは夫(?)であるルーファスとのタッグですがね。


 と、そこへディオンがよろよろ現れて、「ここ、にぎやかだな……俺も園遊会見ていいのか?」とぼそり。相変わらず吸い込まれそうな瞳で、息苦しそうに胸を押さえているのが気になるけれど、それでも歩み寄ろうとしてくれていることが伝わります。

「もちろん、あなたも来てちょうだい。遠巻きにおとなしく見てるだけでもいいから」

 すぐそばにいたミモザが、「大丈夫ですか? 調子が悪くなったら私たちを呼んでくださいね」と優しく声をかけると、ディオンは小さくうなずいてからルーファスを盗み見るようにちらり。どうやら“ルーファスの嫁”と呼ばれるわたくしを、どこか不思議そうに観察している模様。……まあいいでしょう。園遊会がいっそう盛り上がるなら、わたくしは楽しい方を選ぶだけ。


 そんなこんなで、いよいよ準備は加速。使用人たちが花を飾り、料理人が試作メニューを次々に提案し、そしてわたくしとルーファスは“仮初め夫婦”にしては必要以上にコソコソとスキンシップ練習をする――という、どこを切り取ってもカオスな状態。だが同時に、腹の底からわくわくしている自分に気づくのです。クロード皇太子がいようがいまいが、この小さな園遊会こそ、わたくしたち夫婦(猛特訓中)がお披露目デビューする絶好のチャンス。さあ、悪役令嬢の鼻っ柱と、公爵家の威光と、新米夫婦のパワーを見せつける時が来たわ!


 次なる嵐の予感に胸を弾ませ、わたくしはルーファスにひそかに宣言します。「どんなに突拍子もない展開が来ようと、最終的には全部まとめて“ざまぁ”して差し上げましょうね」。その言葉に、ルーファスの唇がかすかに引き上がった気がしました。いいじゃない、チームワーク点、合格ですわよ。


 こうして園遊会前のドタバタはまだ始まったばかり。わたくしの悪役令嬢血が、その道中でどんなドラマを巻き起こすか――読みたくなってきましたでしょう? お任せなさい、次回はさらに感情のジェットコースター大回転。あなたの知らないざまぁの頂点、たっぷりお見せいたしますわ!

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