王宮夜会の騒乱と公爵家の策略15
「ちょっと、ルーファス! 寝ぼけ眼でソファに倒れ込んでいる場合かしら?」
早朝、わたくしは勢いよくリビングの扉を開け放って登場。そこで目にしたのは、夜更かしがすぎて、完全にゾンビ状態の公爵閣下でした。なにやら深夜まで書斎にこもっていたそうですが、理由を聞けば「皇太子からの怪電波対策」だとか。要は、今後の新手口に備えてシミュレーションしていたというわけです。うん、乙女ゲームの味方キャラかと見まがうほど健気なんですけど、そろそろ寝不足で崩壊しそうよ、あなた。
「いや、でも……クロードが次にどう仕掛けてくるか考えだしたら止まらなくて……」
「だからといって、ぶっ倒れるほどの徹夜はやめてちょうだい。貴方がダウンしたらわたくしの『夫婦無双プラン』が崩れちゃいますもの。ほら、さっさと仮眠を取りなさいませ」
わたくしがあきれ交じりに言い放つと、ルーファスはあくび混じりに「むーりー……」と情けない声を出しました。もはや小動物並みの可愛さですが、こっちも甘やかしてばかりはいられない。わたくしは観念して、彼をベッドルームまで導くことに。
が、その途中、ドタドタと足音が響いてきて、ダリアやカトレア、ミモザたちが慌てた様子でやって来ました。
「奥様っ! た、大変です! ルーファス様、もう寝てる場合じゃありません!」
「書簡が大量に届いてまして、どれも『最近のグレンフィールド家の指輪文化について詳しく知りたい』とか、『皇太子殿下にどう対処するか教えて』みたいな文面ばかりで!」
――はいはい、始まりましたわね。わたくしたちがちょっと結束を強めた途端、まるで巣に群がるアリのごとく好奇の視線が殺到。でもご期待通り、わたくしはそんな社交界の雑音に完璧に応えてみせますわ。
「なるほど、指輪文化についてあれこれ問い合わせが来ているのね。まあ、計画通りといえば計画通りですわ。勢いがついた今だからこそ、一気に“わたくしたち流”を広めてしまいましょう!」
わたくしが指をパチンと鳴らすと、いつものごとく侍女たちが「おおっ」と目を輝かせます。噂の拡散はまさにヒートアップ、ここは悪役令嬢セレスティアの腕の見せどころ。
さて、朝食前とは思えない活気の中、ルーファスは不思議そうにわたくしを見つめています。
「セレスティア、昨夜まで俺が落ち込みそうだったのに、ずいぶんと強気だな」
「当然ですわ。あのクロード皇太子を含めて、面倒ごとは先手必勝に限るの。夫婦の仲をあれこれかき乱すつもりなら、こちらから堂々と“余裕の笑み”で迎え撃ってやりますわ」
言い終わるや否や、ミモザが持ってきた書簡の束を一瞥して、ざっくり分類を始めます。結婚指輪への感想質問や、皇太子とのやり合い方の相談メール(手紙ですが)が次から次へと。ああ、どれだけ伝書鳩を酷使しているのかしら。もしかして鳩界は今、緊急事態なのでは?
「ふふ、注目されているのは事実です。でも逆に注目されているうちが華ってやつよ。逃げ腰なんて、わたくしの性分に合いませんから」
そう言うと、ダリアがニヤリとしながら声を張り上げました。
「わあ~、さすが奥様! これで皇太子殿下も一網打尽ですね~! ざまぁ返り討ち、期待してますっ!」
「ちょっ、あなた、その“ざまぁ”発言が何かとっても生々しいんだけど……」
わたくしは口元を押さえて笑う。ええ、まあ、ここまで来たら恥も外聞もありません。華麗に蹴散らして、みんなでハッピーになればいいんですもの。
ところが、それから数時間も経たないうちに、新たな来客が公爵邸にやってきました。皇女ソレーユの侍女長を名乗る実に仰々しい令嬢です。玄関で出迎えた途端、「陛下の代理で参りました」とドヤ顔で名乗るものだから、一気に空気がぴりり。どうやらクロード皇太子とも無関係ではなさそうな雰囲気です。
「公爵閣下と奥方に、ぜひお話ししたいことがある、と皇女殿下がおっしゃっておりまして……」
まともな用件ならいいのだけれど、今までの経験上、そう上手くはいかないでしょう。ルーファスもすっかり目が冴えたらしく、背筋を伸ばして隣に並びました。
「承知しました。セレスティア、どうする?」
わたくしは唇の端をつり上げて笑みを作ります。
「決まってますわ、こんな絶好のチャンス、逃すわけがありません。ほら、せっかく噂の指輪をお披露目する場にもなるんですから。皆さま、派手にやっちゃいましょう!」
――こうして、わたくしたちは皇女陣営の侍女たちをサロンへと通すことに。そこではルーファスとわたくしが同席し、今から何やら波乱の“交渉会談”が始まる予感。もちろん徹夜気味だった公爵閣下はやや顔色が悪いけれど、わたくしに任せなさいという視線を送ってくるのが何とも愛おしい。
「そちらのご提案は喜んで拝聴いたします。ただし、当家のやり方は曲げられませんよ?」
ルーファスが静かに言い放てば、わたくしもすかさず補足。
「それにもし皇太子殿下が少しでも“わたくしの夫”を邪魔するような真似をなさるなら、悪役令嬢の出番ってわけですわ。今さら引っ込み思案なんて期待しないでちょうだい?」
すると侍女長は、一瞬言葉に詰まったような表情を見せたあと、きっと背筋を伸ばしました。
「そ、そのお覚悟、確かに承りました。では正式にお話を……」
そう、ここからが本番です。外野が求める指輪文化の行方、皇太子と皇女が裏で糸を引いていそうな企み、そしてわたくしたち夫婦が生み出す“ざまぁ返り討ち”の大活劇。さあ、先が見えない大嵐の幕開けです。だけど怖いわけじゃありませんわ。むしろワクワクして仕方ないんですのよ。
だって、わたくしの隣には相変わらずヤキモチ妄想を抱えたジェラシー公爵がいるし、侍女軍団は無敵の連携を誇るし、呼べばすぐに駆けつけてくれるカイやディオン、それにリリアやシャルロットといった仲間が揃っているんですもの。
これだけ勢ぞろいしていれば、どんな難題だって余裕で突破してみせますわ。新しい指輪のかがやきは、わたくしたち夫婦にさらなる結束力を与えてくれるはず。さあ、お手並み拝見といきましょうか、皇女殿下。わたくし、セレスティア・イヴァンローズがお相手いたしますから!
――そして今宵も“ざまぁ”の火花が散り、わたくしの胸は熱く燃え上がるのです。誰が相手でも、わたくしたち夫婦はもう揺らぎませんわよ。ページをめくってくださる皆さま、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。わたくしが約束いたします。ド派手な愛憎劇の先には、最高にスカッとするエンディングをお見せしますわ!




