王宮夜会の騒乱と公爵家の策略14
あれからわたくしはさっさと客用棟を出て、ルーファスと再び同棟生活にカムバックしました。といっても、お互い「ぎこちないやり取り」からの再スタート。先日の拗ね拗ね期によるダメージが双方に残っているのか、妙に距離感が掴めなくなっているのが笑えます。自分で言うのもあれですけれど、夫婦なんてこんなものかもしれませんわね。
それにしても、わたくしがノア・リードと会話しているのを見て深刻な顔になるルーファスの表情ったら、先日までの「廊下徘徊公爵」姿にも勝るとも劣らない破壊力でした。あの方、わたくしに嫉妬するクセが治らないのは重々承知ですけれど、まさかここまでストレートに感情をダダ漏れさせるとは。わたくしに「他の男性と仲良くするなど絶対許さん!」オーラをプンプン放っていて、ちょっと恐いくらい。あ、でもそこがまた可愛いんですけれど。
「奥様、今朝のルーファス様はまたしょんぼり風味でしたね。食堂で『あいつ、ノア・リードと今日も会うんじゃないだろうな…』と盛大にため息ついてましたよ?」
朝食後、バタバタと荷物を運びつつダリアがこっそり報告してくれました。どうやらわたくしが少し外出するだの何だの言っていたのが気になって仕方ない模様。うんうん、あちらも相当拗らせてますね。
「仮にノア様とお茶一杯飲んだだけで卒倒されても困りますわ。あの天然ジェラシーボムを、どう上手に爆発させないよう誘導するか…今後の課題ですわね」
「爆発させないというか、もう噴火しかけてますけど。大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫にさせるの。わたくしがそう決めたらそうなるんですのよ、ダリア!」
わたくしはバチンと指を鳴らしてみせます。そう、泣こうがわめこうが、結局まとめるのはわたくしの役目。これが“悪役令嬢の本領発揮”ってやつなんでございます。
そんな話をしていると、ノア様ご本人がひょっこり公爵邸に来訪。しかもちょっとした商談か何かの用で、ルーファスと面会予定だと執事カーブルトから耳に入ります。これは明らかに火種案件。というか、ルーファスの嫉妬メーターが瞬時に臨界点を超える未来が見えるようですわ。
「お待ちください! 奥様、旦那様が今にもブツクサ言いながら執務室に立て籠もりそうです!」
案の定、慌てた様子のステラリアが走ってきました。ああ、わたくしの予想通りすぎて、もはや苦笑しか浮かびません。
「本当、わたくしがそばにいないとすぐ拗ねるんですから。仕方ありませんわね。ちょっとノア様の訪問前に、ルーファスに“落ち着き”の薬でも飲ませてきましょうか?」
執務室へ急行すると、ドア越しにまず聞こえてきたのは「どうせあいつだって、セレスティアに興味津々なんだ…!」というナナメ上の嘆き節。もう、その盛大な勘違いが可愛いやら呆れるやらで、何とも言えません。
わたくしはドアを大きく開け放ち、バーンと華麗に登場。パタパタと書類を散らしていたルーファスが驚いた顔でこっちを振り向きます。
「何を勝手にこじらせていらっしゃるのかしら。仕事に集中なさいませ。“愛しの奥様”が見てますわよ?」
「うぐっ…! い、いや、俺はその…」
しどろもどろな様子があまりにも微笑ましくて、思わず唇が緩みます。最近どんどんわたくしへの依存度が上がってませんこと、ルーファス様?
「ノア様はあなたへの提案書を持参なさっただけ。わたくしに会いに来たわけじゃなくてよ。だから大人しく面談を済ませてくださいませ。さもないと、ノア様にまで“ルーファス公爵はお子様か”と噂されちゃいますわよ?」
「そ、それだけは絶対嫌だ…! くっ、仕方ない、俺だって公爵の威厳を見せねば」
渋々と言いながらも、ルーファスはわたくしをじっと見つめています。その視線に「離れたくない」「嫉妬なんてもうやめたい」と書いてあるのが手に取るように分かるのが、なんだか胸に染みるんですの。仕方のないお人ですわね、まったく。
ノア様との面会は案外スムーズに進みました。というか、外から見ている限り、あちらの明朗快活な調子にルーファスがたじたじ。もともとノア様、愛想のいい美男子ですしね。要らぬ接触さえなければわたくしも嫌いじゃありません。ところが彼、さり気なく話題の指輪文化に触れ、「セレスティア様ならどんなデザインが好みでしょう?」なんて余計なことを口走るものだから、ルーファスの目の端がピクッと。
(また燃え上がりそう…!)
わたくしはすかさず間に割って入り、「わたくしなら煌びやかよりシンプル重視ですわ。けれど製作はルーファスが全部取りまとめますから、そちらに相談してくだされば大丈夫ですの」と強引に話をそらしました。ここで火に油を注がれてはたまりませんから。
面会後、ルーファスは「下手にあいつを刺激しなくてよかった…」とぎこちなく呟き、ほっとした顔でソファに沈み込みます。口は素直じゃありませんが、どこか安堵の表情。どれだけノア様を警戒してるんでしょう、この人。
わたくしは小さく溜息をつきながらも、そっと横に腰掛けて彼の手を取ります。
「ねえ、もう少し自分を信じてちょうだいな。わたくしはあなた以外に興味ありませんのよ?」
「ああ…分かってる。分かってはいるけど、あなたが誰かと並んで楽しそうにしていると、どうにも…胸がムカムカする」
「自覚してるなら、わたくしを煩わせるほど荒れないこと。夫婦なんですもの、ちゃんと心をさらけ出してくれなきゃ困りますわ」
わたくしが笑みを含んだ声で言えば、ルーファスはほんの少しだけ肩の力を抜き、握り返してくれる。それがたまらなく愛しくて、胸がじんわり温かくなります。
その日の夕方、廊下でミモザとステラリアがニヤニヤ顔で待ち構えていました。わたくしとルーファスが一緒に歩いているのを見て「なんだか朝より一段と距離が縮まってますね~」なんて茶化してきます。
「ちょっとあなたたち、そんなに面白がらないの。わたくしはいつだって真剣に悩んで…」
「はいはい、奥様の愛の手腕に感服でございます~」
「ルーファス様、さっきよりずっと優しげな顔じゃないですか~」
妙に嬉しそうな侍女陣の声に、ルーファスが苦笑混じりにつぶやきました。
「もういいじゃないか、見られるのはやっぱり恥ずかしい…」
と、ほっぺをほんのりピンク色に染めながら。これですもの、わたくしのニヤニヤが止まらないのも仕方ないでしょう。
それでも平穏というのは儚いもので、夜になると早速「皇太子殿下がまた何やら動いているらしい」なんて噂が飛び交い始めました。加えてディオンの魔力の件もまだくすぶり続けています。わたくしが「また荒れそう?」と尋ねると、シャルロットは軽くウインクしながら「そろそろ新しいバタバタが始まりそうですね」と青い顔で言うではありませんか。
ええ、望むところですわ。わたくしに備えがあるうちに、こっちから先手を打って“ざまぁ返り討ち”にしてあげましょう。ルーファスと再びがっちり手を組んだこのタイミング、誰も邪魔させるものですか。
愛を拗らせるジェラシー公爵と悪役令嬢のわたくしが揃えば、社交界の陰謀劇だろうが指輪騒動だろうが、全部まとめて美味しくいただきます! さあ次はどんな騒ぎがやってくるの? わたくしの心は既に準備万端ですわよ。ルーファス、あなたも覚悟なさいませ。わたくしたち二人の“ざまぁ無双ロード”がまだまだ続くのですから。




